会社の税務を考える上で、「同族会社」に該当するかどうかは非常に重要なポイントです。特に、従業員の福利厚生や経営参加意識の向上のために「従業員持株会」を導入している会社では、「持株会の株式は、同族会社の判定でどう扱えばいいの?」と悩まれるケースが少なくありません。もし判定を間違えてしまうと、予期せぬ税負担が発生する可能性もあります。この記事では、同族会社の判定における従業員持株会の正しい考え方について、基本からわかりやすく解説していきます。
そもそも同族会社とは?
まずは、基本となる「同族会社」の定義から確認しておきましょう。同族会社とは、かんたんに言うと、少数の特定の株主グループによって経営が支配されている会社のことを指します。法人税法では、この判定について具体的な基準が定められています。
同族会社の判定基準
法人税法上、同族会社とは、会社の株主のうち、上位3グループの株主(その株主と特殊の関係にある個人や法人を含みます)が、その会社の発行済株式総数または出資総額の50%超を保有している会社を指します。ポイントは、個人一人ひとりではなく、「グループ」で考えるという点です。
「特殊の関係のある個人や法人」とは?
判定の基準となる「グループ」には、株主本人だけでなく、その株主と「特殊の関係」にある人も含まれます。具体的には、以下のような関係者が該当します。
関係性 | 具体例 |
親族 | 配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族 |
事実上の婚姻関係にある者 | 内縁関係のパートナーなど |
使用人 | 株主個人の使用人など |
生計を同一にする者 | 株主からの金銭等で生計を立てている人 |
支配関係にある他の会社 | 株主とそのグループが50%超の株式を保有する他の会社 |
例えば、社長とその配偶者、子供がそれぞれ株式を保有している場合、これらは1つのグループとして合計して判定されます。
なぜ同族会社かどうかを判定する必要があるの?
なぜここまで厳密に同族会社かどうかを判定するのでしょうか。それは、同族会社が株主と経営者が一体化しやすく、利益操作などによって不当に税負担を免れることを防ぐためです。そのため、同族会社には以下のような特別な税務上のルールが適用されることがあります。
- 行為計算の否認:税負担を不当に減少させると認められる行為や計算を、税務署が否認できる制度。
- みなし役員:役員登記されていなくても、実質的に経営に従事していると判断されると役員とみなされ、給与や賞与の扱いに制限がかかる制度。
- 特定同族会社の留保金課税:一定以上の利益を配当せずに会社内部に留保した場合に、追加で課税される制度。
これらのルールが適用されるかどうかを判断する最初のステップが、同族会社の判定なのです。
従業員持株会は同族判定でどう考える?
それでは、本題の従業員持株会の扱いです。株主名簿上は「〇〇従業員持株会 理事長△△」のように一つの名義で記載されていることが多いため、「持株会全体で1人の株主」と考えてしまいがちですが、税務上の判定は異なります。
結論から言うと、従業員持株会は、持株会全体を1人の株主としてではなく、会員である従業員それぞれを個別の株主として判定します。たとえ従業員持株会が会社の株式の30%を保有していても、これを1つのグループとして30%とカウントするわけではないのです。
従業員持株会を「1人の株主」と見なさない理由
なぜ、持株会を個々の会員の集合体として考えるのでしょうか。それは、法律上、株式に関する権利が実質的に各会員に帰属しているからです。
民法や会社法の考え方では、従業員持株会が保有する株式は、会員である従業員全員の「準共有」の状態にあると解釈されます。これは、一本の傘を複数人で共有しているイメージに近いです。傘の所有権は共有者全員にありますが、使う権利はそれぞれが持っていますよね。
同様に、株式から生じる配当を受け取る権利や、株主総会での議決権を行使する権利は、持株会という組織にではなく、最終的には出資している従業員一人ひとりにあると考えられています。そのため、税務上の同族判定においても、実態に合わせて個々の会員を株主として扱うのが合理的とされているのです。
具体的な判定の考え方
同族会社の判定を行う際は、株主名簿に「〇〇従業員持株会」と記載されていても、その内訳を確認し、会員である従業員一人ひとりの持株数(または持分)を把握する必要があります。そして、他の株主と同様に、それぞれの従業員が特殊の関係のあるグループに属していないかを確認しながら、判定を進めていくことになります。
従業員持株会と特殊の関係
従業員持株会は会員それぞれを株主として見ることがわかりましたが、もう一つ注意点があります。それは、会員である従業員と、会社のオーナー一族など特定の株主との「特殊の関係」です。
従業員は「特殊の関係」に含まれる?
先ほど説明した「特殊の関係のある個人」の中に、「株主等の使用人」という項目がありました。会社の従業員は、まさに「使用人」に該当します。では、従業員持株会の会員は全員、社長(株主)の特殊関係者グループに含まれるのでしょうか?
ここでの「使用人」とは、あくまで株主個人に雇われている人を指すのが基本です。会社の従業員であるというだけで、自動的に株主である社長の「特殊の関係者」グループに加えられるわけではありません。
しかし、もし従業員が社長の親族(例:社長の甥が従業員として持株会に加入している)である場合などは、その従業員は「親族」として社長の株主グループに含めて計算する必要があります。
判定で注意すべきポイント
従業員持株会がある場合の同族判定では、以下の点に注意が必要です。
- 持株会を1人の株主としてカウントしない。
- 会員である従業員一人ひとりを株主としてリストアップする。
- 各従業員が、他の株主(特にオーナー一族)と親族関係などの「特殊の関係」にないかを個別に確認する。
この確認を怠ると、同族会社かどうかの判定結果が全く変わってしまう可能性があります。
同族会社に該当するとどうなる?
従業員持株会の会員を正しくカウントした結果、自社が同族会社に該当した場合、どのような影響があるのでしょうか。特に従業員に関連する「みなし役員」のリスクについて見ていきましょう。
みなし役員のリスク
みなし役員とは、法人税法上の制度で、役員として登記されていなくても、実質的に経営に従事していると認められる従業員を税務上「役員」として扱う制度です。
同族会社の場合、以下の要件をすべて満たす従業員は、経営に従事していると「みなし役員」と判定される可能性があります。
要 件 | 内 容 |
株主グループの要件 | その従業員が、同族判定の基礎となった上位3位までの株主グループのいずれかに属していること。 |
グループの所有割合 | その従業員が属する株主グループの持株割合が10%を超えていること。 |
本人の所有割合 | その従業員本人(配偶者等を含む)の持株割合が5%を超えていること。 |
みなし役員と判定されると、その従業員に支払われる賞与が損金(経費)として認められなくなったり、給与が不相当に高額と判断された場合に一部が損金不算入となったりするデメリットがあります。従業員持株会を通じて相当数の株式を保有する親族従業員などがいる場合は特に注意が必要です。
特定同族会社と留保金課税
さらに、同族会社の中でも特に支配が強い会社は「特定同族会社」と呼ばれます。これは、上位1つの株主グループだけで株式の50%超を保有している会社のことです(一定の例外あり)。
特定同族会社に該当し、資本金が1億円を超える場合、会社に貯まった利益(内部留保)が一定額を超えると、通常の法人税に加えて「留保金課税」という特別な税金が課せられます。従業員持株会があることで同族会社には該当しても、特定同族会社にはならない、というケースも考えられるため、正確な判定が重要になります。
具体例で見る判定プロセス
少し複雑になってきたので、具体的なケースで同族会社の判定をシミュレーションしてみましょう。
ケーススタディ
【株式会社サンプル】
- 発行済株式総数:20,000株
- 社長A(代表取締役):6,000株
- 社長の妻B:2,000株
- 従業員持株会:8,000株(会員100名が均等に保有。1人あたり80株)
- 外部の株主C:4,000株
【誤った判定:持株会を1人と考える】
- 第1位グループ:社長グループ(A+B)→ 8,000株 (40%)
- 第2位グループ:従業員持株会 → 8,000株 (40%)
- 第3位グループ:株主C → 4,000株 (20%)
この場合、上位3グループの合計持株割合は 40% + 40% + 20% = 100% となり、50%を超えるため同族会社です。
【正しい判定:持株会の会員をそれぞれ個別に考える】
- 第1位グループ:社長グループ(A+B)→ 8,000株 (40%)社長Aと妻Bは親族なので、1つのグループとして合計します。
- 第2位グループ:株主C → 4,000株 (20%)株主Cは誰とも特殊の関係にありません。
- 第3位グループ:従業員Dさん(持株会会員) → 80株 (0.4%)持株会の会員100名は、それぞれが独立した株主です。誰も社長グループや株主Cと特殊の関係にないと仮定します。
この正しい方法で上位3グループの持株割合を合計すると、
40% (社長グループ) + 20% (株主C) + 0.4% (従業員Dさん) = 60.4%
となり、50%を超えます。したがって、このケースでは、正しい方法で判定しても同族会社に該当するという結論になります。しかし、株主の構成によっては、判定方法の違いで結論が覆ることも十分にあり得ます。
まとめ
今回は、同族会社の判定における従業員持株会の考え方について解説しました。最後に重要なポイントをまとめておきましょう。
- 同族会社の判定では、従業員持株会は「1人の株主」ではなく「会員である従業員それぞれの集まり」として考えます。
- これは、株式に関する配当や議決権などの権利が、実質的に各従業員に帰属するためです。
- 判定の際は、持株会の内訳を把握し、会員である従業員がオーナー一族などと個別に特殊の関係にないかを確認することが不可欠です。
- 同族会社に該当すると、みなし役員や留保金課税といった税務上の特別なルールが適用される可能性があるため、正確な判定が求められます。
同族会社の判定は、会社の税務戦略の根幹に関わる重要な手続きです。もし自社のケースで判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
同族会社判定と従業員持株会に関するよくある質問
Q.そもそも従業員持株会は同族会社の判定に影響しますか?
A.はい、影響します。従業員持株会が保有する株式も、同族会社の判定における議決権の計算に含まれます。ただし、一定の要件を満たす場合は判定の基礎となる株主グループから除外できる場合があります。
Q.従業員持株会は、同族会社の判定で「1つの株主グループ」として扱われますか?
A.原則として、民法上の組合である従業員持株会は、その組合員である従業員がそれぞれ株式を保有しているものとして判定します。ただし、持株会の代表者など特定の者が支配している場合は、その代表者の親族等と合わせて1つのグループと見なされることがあります。
Q.同族会社の判定から従業員持株会を除外できる条件はありますか?
A.はい、あります。その従業員持株会が「特定の株主グループ」に支配されていないと認められる場合に除外できます。具体的には、特定の役員とその親族などが議決権の過半数を有していないことなどが要件となります。
Q.同族会社の判定から除外されるための従業員持株会の具体的な要件は何ですか?
A.主な要件として、①持株会の規約で役員等の加入が制限されていないこと、②特定の役員とその親族が持株会の議決権の過半数を占めていないこと、③会員である従業員が退職時に出資持分を時価で譲渡できること、などが挙げられます。
Q.従業員持株会を同族会社の判定から除外するメリットは何ですか?
A.最大のメリットは、同族会社に課される可能性がある「留保金課税」を回避できることです。会社の利益を内部留保しやすくなり、事業投資や財務基盤の強化につながります。
Q.従業員持株会を設立・運営する際の税務上の注意点は何ですか?
A.同族会社の判定基準だけでなく、従業員への配当や株式の譲渡価額の算定など、税務上の論点は多岐にわたります。設立時や規約作成時に、専門家へ相談することをおすすめします。