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同族会社株式の相続税対策!評価額を賢く下げる5つの方法

2025-02-10
目次

会社のオーナー経営者様にとって、同族会社の株式(非上場株式)の相続は、とても大きな悩みの一つですよね。「会社を継ぐ子どもに、多額の相続税負担をかけたくない…」「でも、どうやって対策すればいいの?」そんなお悩みを抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。同族会社の株式は、上場株式と違って市場で売買されるものではないため、いざ相続となるとその評価額の高さに驚かれることが少なくありません。しかし、ご安心ください。事前の対策をしっかりと行うことで、株式の評価額を下げ、相続税の負担を軽くすることが可能です。この記事では、同族会社株式の評価額を下げるための具体的な方法を、分かりやすく解説していきます。

なぜ同族会社の株式は相続税が高くなるの?

相続税対策の話を進める前に、まずは「なぜ同族会社の株式評価額は高くなりやすいのか」という根本的な理由から見ていきましょう。この仕組みを理解することが、効果的な対策を立てる第一歩になります。

取引相場のない株式の評価方法

同族会社の株式のように、証券取引所に上場していない株式を「取引相場のない株式」と呼びます。市場価格がないため、相続税を計算する際には、国税庁が定めた「財産評価基本通達」というルールに基づいて評価額を算出します。
この評価方法には、大きく分けて「原則的評価方式」と「特例的評価方式(配当還元方式)」の2つがあります。会社の経営に大きな影響力を持つオーナー一族(同族株主)が株式を相続する場合は、原則として「原則的評価方式」が用いられます。この方式は会社の価値を直接的に反映するため、評価額が高くなりやすい傾向があるのです。

会社規模で変わる「原則的評価方式」

「原則的評価方式」は、さらに会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって、評価の仕方が変わります。会社の規模は、総資産価額や従業員数、年間の取引金額などによって判定されます。

会社規模 主な評価方法
大会社 類似業種比準価額方式
中会社 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用
小会社 純資産価額方式(類似業種比準価額方式との併用も選択可)

類似業種比準価額方式とは、事業内容が似ている上場企業の株価を基に、自社の「配当」「利益」「純資産」を比較して評価する方法です。一方、純資産価額方式は、会社の総資産を相続税評価額で評価し直し、そこから負債を差し引いた純資産額を基に評価する方法です。会社の内部留保が多かったり、含み益のある不動産を所有していたりすると、純資産価額方式では評価額が非常に高くなることがあります。

「純資産価額方式」が高評価になりやすい理由

特に中小企業で多い「小会社」の場合、原則として純資産価額方式で評価されます。この方式は、いわば「今、会社が解散したらいくらになるか」という清算価値に着目した評価方法です。
例えば、何十年も前に取得した土地や建物を会社が所有している場合、帳簿上の価格(簿価)は低くても、現在の時価(相続税評価額)はかなり高額になっているケースがよくあります。この「含み益」がそのまま株価の評価額に反映されてしまうため、「会社の業績はそれほどでもないのに、株価だけが異常に高い」という事態が起こり得るのです。

株価評価額を下げる具体的な方法①:会社の利益を減らす

ここからは、株価評価額を下げるための具体的な方法をご紹介します。まずは、会社の「利益」をコントロールする方法です。これは特に、類似業種比準価額方式の評価割合が高い会社にとって有効な対策となります。

役員への退職金の支給

最も効果的な方法の一つが、役員退職金の支給です。社長が代表取締役を退任し、会長や相談役などになるときに退職金を支給します。この退職金は会社の経費(損金)として計上できるため、支給した事業年度の利益を大幅に圧縮することができます。
利益が減少すれば、類似業種比準価額方式における評価要素の一つである「利益金額」が下がり、株価の引き下げにつながります。相続のタイミングに合わせて計画的に退職金を支給することで、株価が下がったタイミングで株式を後継者に移転させることが可能になります。

役員報酬の増額

毎月の役員報酬を引き上げることでも、継続的に会社の利益を減らすことができます。ただし、役員報酬を増やすと、その分社長個人の所得税や住民税、社会保険料の負担が増えてしまいます。会社の法人税負担と個人の所得税負担のバランスを見ながら、適切な金額を設定することが重要です。不相当に高額な役員報酬は税務上、経費として認められない可能性もあるため注意しましょう。

生命保険の活用

会社を契約者として、役員や従業員を被保険者とする生命保険に加入する方法です。保険の種類によっては、支払う保険料の全部または一部を経費として計上できるため、利益を繰り延べる効果があります。ただし、2019年の税制改正により、以前のような高い節税効果は期待しにくくなりました。
一方で、保険を解約した際の返戻金は資産として計上されますが、加入初期は解約返戻金が支払保険料を大きく下回る商品もあります。この差額が「含み損」となり、純資産価額方式での評価額を下げる効果が期待できる場合もあります。

株価評価額を下げる具体的な方法②:会社の純資産を減らす

次に、会社の「純資産」をコントロールする方法です。こちらは、純資産価額方式の評価割合が高い会社、特に土地などの含み益が大きい会社に有効です。

含み損のある資産の売却

もし会社が、購入時よりも価値が下がっている不動産や有価証券(ゴルフ会員権など)を所有している場合、これを売却して損失を確定させましょう。売却損を計上することで、利益と純資産の両方を減少させることができます。塩漬けになっている資産がないか、一度チェックしてみることをお勧めします。

設備投資や不動産投資

会社の現預金を、事業用の設備投資や不動産購入に充てる方法です。現預金は時価100%で評価されますが、例えば不動産は時価よりも低い相続税評価額(路線価など)で評価されます。賃貸不動産であれば、さらに評価額が下がります。
つまり、評価額100%の資産を、評価額が60%~80%程度の資産に組み替えることで、純資産額を圧縮できるのです。また、購入資金を金融機関から借り入れることで、負債が増え、その分だけ純資産を直接的に減らす効果もあります。

株価評価額を下げる具体的な方法③:その他のテクニック

利益や純資産のコントロール以外にも、株価評価額に影響を与える要素はあります。少し専門的になりますが、知っておくと役立つ方法をご紹介します。

会社規模の変更

会社の評価方法は、大会社・中会社・小会社という区分によって決まることをお伝えしました。もし、純資産価額が非常に高く、類似業種比準価額が低い会社であれば、あえて会社規模を大きくして「中会社」や「大会社」を目指すという戦略も考えられます。
例えば、売上を増やしたり、従業員を増やしたりすることで会社の規模が大きくなれば、純資産価額方式よりも評価額が低くなりやすい類似業種比準価額方式の比率が高まり、結果として株価が下がることがあります。

株式数を増やす(第三者割当増資)

1株あたりの株価は、「会社の評価額 ÷ 発行済株式数」で計算されます。つまり、発行済株式数を増やせば、1株あたりの評価額は下がります
例えば、従業員持株会を設立したり、後継者以外の親族に第三者割当増資を行ったりすることで、オーナーが所有する株式の割合を減らしつつ、1株あたりの単価を引き下げることが可能です。ただし、会社の支配権に影響が出る可能性もあるため、慎重な計画が必要です。

特例制度を活用した相続税対策

これまでは株価評価額そのものを下げる方法を見てきましたが、税金の特例制度をうまく活用することで、相続税の負担を大幅に軽減することも可能です。

事業承継税制(特例措置)の活用

事業承継税制は、後継者が相続や贈与によって非上場株式を取得した場合に、一定の要件を満たすことで、その相続税や贈与税の納税が猶予され、最終的には免除されるという非常に強力な制度です。2027年12月31日までに贈与・相続される株式が対象となる特例措置が設けられており、以前よりも利用しやすくなっています。
ただし、適用を受けるためには、都道府県への計画提出や、その後の継続的な報告など、複雑な手続きと厳しい要件があります。この制度の活用を検討する場合は、必ず事業承継に詳しい税理士などの専門家にご相談ください。

小規模宅地等の特例

会社の事業のために使われている土地を相続した場合、その土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。これは、社長個人が所有する土地を自身の会社に貸し付けている場合に適用できる可能性があります(特定同族会社事業用宅地等)。
例えば、評価額が1億円の土地であれば、2,000万円として相続税を計算できるため、絶大な節税効果があります。適用できる面積には上限(400㎡)がありますが、会社の事務所や工場の敷地などが対象となる場合は、忘れずに検討したい特例です。

まとめ

今回は、同族会社株式の相続税対策として、株価の評価額を下げるための様々な方法をご紹介しました。改めてポイントをまとめます。

  • 利益を下げる対策:役員退職金の支給、役員報酬の増額など
  • 純資産を下げる対策:含み損のある資産の売却、不動産購入や設備投資など
  • その他の対策:会社規模の変更、株式数を増やすなど
  • 特例制度の活用:事業承継税制、小規模宅地等の特例など

どの対策が最も効果的かは、会社の規模、業績、資産状況などによって大きく異なります。また、対策によっては実行してから効果が出るまでに時間がかかるものもあります。
大切なのは、できるだけ早い段階から計画的に対策を始めることです。ご自身の会社の株価が今いくらなのかを把握し、会社の未来を見据えながら、最適な相続対策を立てていきましょう。ご自身での判断が難しい場合は、ぜひ一度、相続に詳しい税理士に相談してみてくださいね。

参考文献

国税庁 No.4638 取引相場のない株式の評価

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

同族会社株式の相続税対策に関するよくある質問まとめ

Q.そもそもなぜ同族会社の株式は相続税が高くなるのですか?

A.非上場株式は市場価格がないため、会社の純資産や収益力などから国税庁の定めた方法で評価されます。優良企業ほど評価額が高くなり、結果として相続税も高額になる傾向があります。

Q.自社株の評価額を下げる具体的な方法はありますか?

A.はい、いくつか方法があります。代表的なものとして、役員退職金の支給、不動産や設備投資による純資産の圧縮、配当金の支払いによる利益の減少などが挙げられます。

Q.役員退職金を支給すると、なぜ株価が下がるのですか?

A.役員退職金を支払うと、会社の利益と純資産の両方が減少します。会社の株価は利益や純資産を基に計算されるため、これらの減少に伴い株価評価額も下がります。

Q.不動産を購入することも相続税対策になりますか?

A.はい、なります。現金で不動産を購入すると、相続税評価上、その不動産の評価額は時価よりも低くなることが一般的です。これにより会社の純資産が圧縮され、株価を引き下げる効果が期待できます。

Q.株価対策はいつから始めるべきですか?

A.株価対策は計画的に行う必要があり、効果が出るまでに時間がかかるものも多いため、できるだけ早く始めることをお勧めします。特に、相続開始直前の対策は税務署に否認されるリスクもあるため注意が必要です。

Q.評価額を下げる対策で注意すべき点は何ですか?

A.過度な対策は会社の経営を圧迫する可能性があります。また、税務上のリスクを伴う方法もあるため、専門家と相談しながら、会社の状況に合った最適な方法を選択することが重要です。

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