「海外に不動産や預金があるけど、相続税の計算はどうなるの?」「国外財産の評価方法がわからなくて不安…」そんなお悩みはありませんか?グローバル化が進み、国外に財産を持つことは珍しくなくなりました。しかし、いざ相続となると、その評価方法に戸惑う方も多いようです。この記事では、国外財産の評価の基本から、財産の種類ごとの具体的な評価方法、そして注意点まで、わかりやすく解説します。
国外財産評価の基本ルール
相続税を計算するとき、国外にある財産も日本の財産と同じように評価して申告する必要があります。これは日本の法律で決められている大切なルールです。でも、海外の財産を日本の基準で評価するのは難しいことも多いですよね。そこで、国税庁は「財産評価基本通達」というルールブックで、国外財産の評価方法の指針を示しています。まずは、その基本的な考え方から見ていきましょう。
原則は日本の「財産評価基本通達」に従う
国外財産の評価の大原則は、日本国内の財産と同じように「財産評価基本通達」に基づいて評価することです。例えば、株式であれば国内の上場株式と同じ方法で評価します。しかし、海外の不動産には日本の「路線価」のようなものがありません。このように、日本のルールをそのまま当てはめるのが難しい場合がほとんどです。
日本のルールで評価できない場合の代替方法
日本のルールで評価できない場合はどうすればよいのでしょうか。その場合は、評価方法に準じた方法や、現地の売買実例価額、不動産鑑定士など専門家の意見価格(精通者意見価格)などを参考にして評価します。要は、その財産の客観的な価値を合理的に示すことができれば良い、ということです。
取得価額や譲渡価額を基にする方法も
特別な事情がなければ、その財産を買ったときの価格(取得価額)や、相続後に売却した価格(譲渡価額)を基に評価することも認められています。ただし、その国の物価変動などを考慮して、相続開始時点の価値に直す「時点修正」という作業が必要です。例えば、親族からとても安い価格で譲り受けた場合など、取得価額が適正な時価と認められないケースでは使えないので注意しましょう。
外貨建て資産を日本円に換算する方法
国外財産はドルやユーロなど、外貨で表示されていることがほとんどですよね。相続税は日本円で計算して納めるので、これらの外貨建て資産を日本円に換算する必要があります。この換算に使う為替レートにも、ちゃんとルールがあるんですよ。
使う為替レートは「TTB」
日本円への換算には、相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)の「対顧客直物電信買相場(TTB)」を使います。これは、金融機関がお客様から外貨を買い取るときのレートのことです。間違えやすいのですが、私たちが海外旅行で両替するときに使う現金用のレート(Cash Buying Rate)ではないので気をつけましょう。
どの金融機関のレートを使えばいい?
TTBは金融機関によって少しずつ異なります。原則として、納税義務者(相続人)が普段取引している銀行や証券会社などが公表しているレートを使います。もし取引している金融機関が複数ある場合は、相続人が有利なレートを選択することができます。相続人が複数いて、それぞれが違う金融機関のレートを使った場合、同じ財産でも評価額が異なることもあり得ます。
為替レートの種類 | 説 明 |
TTB(対顧客直物電信買相場) | 国外財産の評価で使うレート。金融機関が外貨を買い取るときのレート。 |
TTS(対顧客直物電信売相場) | 金融機関が外貨を販売するときのレート。 |
Cash Buying/Selling Rate | 現金両替で使われるレート。国外財産の評価では使いません。 |
【財産別】国外財産の具体的な評価方法
それでは、具体的な財産の種類ごとに、どのように評価していくのかを見ていきましょう。不動産や株式、預金など、代表的な財産の評価方法をまとめました。
不動産(土地・建物)
海外の不動産には、日本のような路線価や固定資産税評価額がありません。そのため、評価が少し複雑になります。一般的には、現地の不動産鑑定士に鑑定評価を依頼したり、近隣の売買実例を参考にしたりします。また、その国の公的な評価額(例えば、固定資産税の基準となる価格など)が時価に近いと判断できれば、それを使うことも可能です。鑑定費用はかかりますが、客観的な証拠として最も信頼性が高い方法と言えるでしょう。
上場株式・投資信託
海外の証券取引所に上場している株式や投資信託は、国内の株式と同じように評価します。以下の4つの価格のうち、最も低い価格を選んで評価することができます。
- 相続開始日の最終価格
- 相続開始月の毎日の最終価格の平均額
- 相続開始月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 相続開始月の前々月の毎日の最終価格の平均額
この外貨建ての株価を、相続開始日のTTBで日本円に換算します。
非上場株式
非上場株式の評価は非常に専門的です。日本の非上場株式評価で使われる「類似業種比準方式」は、日本の会社を基準にしているため、外国法人には使えません。そのため、原則として会社の純資産を基に評価する「純資産価額方式」に準じて評価することになります。評価対象会社の資産や負債を時価評価し、1株あたりの価値を算出します。こちらも現地の会計士や税理士などの専門家に評価を依頼するのが一般的です。
預金・現金
海外の銀行にある預金や、手元にある外貨現金は、評価が比較的シンプルです。預金の場合は、相続開始日の預金残高を、その日のTTBで日本円に換算します。外貨現金も同様に、保有している現金の額をその日のTTBで換算します。
国外財産調書制度とは?
国外財産の評価とは直接関係ありませんが、海外に財産を持っている方が知っておくべき大切な制度に「国外財産調書制度」があります。これは、国際的な脱税を防ぐために設けられた制度です。
提出が必要な人
日本の居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日時点において、国外財産の合計額が5,000万円を超える人は、「国外財産調書」を翌年の3月15日までに税務署に提出する義務があります。相続で国外財産を取得した結果、この基準を超えることになるケースも多いので、忘れずに確認しましょう。
提出しなかった場合のペナルティ
正当な理由なく国外財産調書を期限内に提出しなかったり、嘘の記載をしたりすると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、調書に記載すべき財産について相続税の申告漏れがあった場合、通常よりも重い加算税が課されることもあるため、注意が必要です。
国外の相続税と日本の相続税の二重課税
財産がある国によっては、その国でも相続税(遺産税)が課されることがあります。そうすると、日本とその国の両方で税金を払う「二重課税」の状態になってしまいます。でも、ご安心ください。この負担を調整するための仕組みがあります。
外国税額控除で調整
二重課税を避けるため、日本で相続税を申告する際に「外国税額控除」という制度を利用できます。これは、海外で支払った相続税額を、日本の相続税額から一定の範囲で差し引くことができる制度です。これにより、国際的な二重課税が調整されます。手続きには、海外で納税したことを証明する書類などが必要になるので、しっかり準備しておきましょう。
まとめ
国外財産の評価は、日本の財産と比べて情報収集や手続きが複雑になりがちです。特に不動産や非上場株式の評価は専門的な知識が不可欠です。基本は「日本の財産評価基本通達に準じること」、そして外貨建ての資産は「相続開始日のTTBで円換算すること」がポイントです。評価方法を間違えると、税金を払いすぎてしまったり、逆に申告漏れを指摘されて追徴課税を受けたりするリスクがあります。少しでも不安な点があれば、国際相続に詳しい税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
参考文献
財産評価基本通達 第1章 総則 5-2(国外財産の評価)|国税庁
国外財産の評価方法に関するよくある質問まとめ
Q.国外財産はどのように評価するのが基本ですか?
A.原則として、財産の種類に応じて日本の相続税法や所得税法の財産評価ルールに従い、課税時期(相続日や年末など)の「時価」で評価します。現地の評価額をそのまま使うわけではない点に注意が必要です。
Q.国外財産の評価で使う為替レートはいつのものですか?
A.財産を評価する日の金融機関が公表する最終の対顧客直物電信買相場(TTB)を使用します。相続税の場合は被相続人が亡くなった日、国外財産調書の場合はその年の12月31日のレートで日本円に換算します。
Q.海外の不動産(土地・建物)の評価方法を教えてください。
A.国外の不動産には日本の路線価や固定資産税評価額のようなものがないため、現地の不動産鑑定士による鑑定評価額や、売買実例価額、専門家の意見価格などを参考にして時価を算定します。
Q.海外の銀行預金はどのように評価しますか?
A.課税時期の預入残高と、その日までに発生した既経過利息(源泉税相当額を差し引いた金額)の合計額で評価します。外貨建ての場合は、課税時期の為替レート(TTB)で日本円に換算します。
Q.海外の上場株式の評価はどうすればよいですか?
A.日本の株式と同様に、課税時期の最終価格、課税時期の月の毎日の最終価格の月平均額など、4つの価格のうち最も低い価格を選択して評価します。これも日本円への換算が必要です。
Q.国外財産調書に記載する価額はどのように決めますか?
A.その年の12月31日時点の「時価」または「見積価額」を記載します。時価の算定が難しい場合は、その財産の取得価額や専門家の意見などを参考に合理的に見積もった価額を記載します。