「親から相続した土地が、どうやら道路拡張の計画地になっているらしい…」なんて話を聞いたことはありませんか?このように、道路やダム、学校といった公共事業のために、国や地方公共団体が個人の土地を取得することを「土地収用」といいます。これは誰にでも起こりうることではありませんが、もしご自身の土地が対象になったら、相続税の計算はどうなるのか、どんな税金の特例が使えるのか、気になりますよね。この記事では、土地収用法の基本的な知識から、土地の相続税評価額への影響、そして知っておきたい税金の特例まで、わかりやすく丁寧にご説明していきます。
土地収用法ってどんな法律?
まずは、「土地収用法」という法律がどのようなものか、基本から見ていきましょう。少し難しい言葉が出てきますが、できるだけ身近な例を交えて解説しますね。
土地収用の目的は「公共の利益」のため
土地収用法は、一言でいうと「公共の利益となる事業に必要な土地を、国や地方公共団体が取得できるようにするための法律」です。例えば、新しい道路ができれば交通渋滞が緩和されたり、新しい学校ができれば子どもたちの教育環境がよくなったりと、社会全体の利益につながりますよね。個人の大切な財産である土地の所有権は尊重されるべきですが、社会全体の利益のためには、一定のルールのもとで土地を提供してもらう必要がある、という考え方に基づいています。
土地収用の流れ
「強制的に土地が取り上げられるの?」と不安に思うかもしれませんが、実際はほとんどの場合、話し合いによって進められます。これを「任意取得」といいます。一般的な流れは以下の通りです。
1. 事業計画の説明会:どのような事業のために土地が必要なのか、地域住民への説明会が開かれます。
2. 測量・調査:事業に必要な土地の範囲を確定するため、立ち会いのもと測量や物件の調査が行われます。
3. 補償額の算定・提示:土地の価格や建物などの移転にかかる費用を算定し、所有者に補償額が提示されます。
4. 契約:提示された補償額や条件に合意できれば、売買契約を締結します。ここまでが任意取得の段階です。
5. 収用裁決(合意できない場合):どうしても話し合いで合意に至らない場合は、第三者機関である「収用委員会」が間に入り、最終的な判断(裁決)を下します。この段階で初めて、強制的な取得となります。
補償金にはどんな種類があるの?
土地収用で支払われるのは、土地そのものの代金だけではありません。所有者が今の生活を再建するために必要な費用が、総合的に補償されます。主な補償の種類は以下の通りです。
| 土地価格補償 | 近隣の正常な取引価格を参考にした、適正な時価で補償されます。 |
| 建物等移転補償 | 土地の上にある建物を移転するために必要な費用が補償されます。 |
| 営業補償 | 店舗や工場などで事業を営んでいた場合、休業期間中の損失などが補償されます。 |
| 移転雑費補償 | 引っ越し費用や、新しい住まいを探すための費用などが補償されます。 |
土地収用と相続税評価額の関係
さて、ここからが本題です。もし相続した土地が土地収用の対象となった場合、相続税評価額にどのような影響があるのでしょうか。実は、通常の土地よりも評価額が低くなる可能性があるんです。
なぜ評価額が下がるの?「利用制限」があるから
土地収用の対象となる土地は、多くの場合「都市計画道路予定地」のように、将来の公共事業のためにあらかじめ指定されています。このような土地には、事業が始まるまでの間、建物の建築に制限がかけられることがあります。例えば、「3階建て以上の建物は建てられない」「木造以外の建物は許可が必要」といった利用制限です。自由に土地活用ができない分、その土地の価値は下がると考えられます。そのため、相続税を計算する際の評価額も、その制限を考慮して減額される仕組みになっているのです。
都市計画道路予定地の評価方法
都市計画道路予定地にかかっている土地の相続税評価額は、その土地が予定地でなかった場合の評価額(自用地評価額)に、一定の「補正率」を掛けて計算します。この補E率は、土地の利用区分や利用制限の度合いによって変わります。
評価額 = 自用地としての価額 × 補正率
補正率は、その土地の「地区区分」「容積率」「地積割合」という3つの要素によって、国税庁の財産評価基準書で定められています。例えば、利用価値の高い商業地域で、土地の大部分が道路予定地にかかっているほど、利用制限の影響が大きいため補正率が低くなり、評価額も下がります。
具体的な計算例
少し具体的に計算してみましょう。
【例】
・路線価:200,000円/㎡
・土地の面積:150㎡
・地区区分:普通商業・併用住宅地区
・容積率:400%
・地積割合(土地全体のうち道路予定地にかかる割合):40%
1. 自用地としての評価額を計算
200,000円/㎡ × 150㎡ = 30,000,000円
2. 補正率を確認
国税庁の補正率表から、上記の条件に合う補正率は「0.94」となります。
3. 補正率を掛けて最終的な評価額を計算
30,000,000円 × 0.94 = 28,200,000円
このケースでは、利用制限を考慮することで、相続税評価額が180万円も下がることになります。これは相続税額にも大きく影響しますので、とても重要なポイントですね。
要チェック!土地収用で受けられる税金の特例
土地収用によって土地を譲渡(売却)すると、補償金という形で対価を受け取ります。これには「譲渡所得税」がかかりますが、公共事業への協力という側面から、税金の負担が軽くなる特別な制度が用意されています。これは相続した土地を譲渡した場合も同じです。
5,000万円の特別控除
最も代表的な特例が、「収用等に伴い資産を譲渡した場合の5,000万円の特別控除」です。これは、公共事業のために土地などを売った場合、その譲渡所得から最高5,000万円を控除できるという、非常に大きな特例です。この特例を受けるためには、いくつかの要件があります。
| 主な要件 | 内容 |
| 固定資産であること | 不動産業者が販売目的で所有している土地(棚卸資産)は対象外です。 |
| 買取り申出からの期間 | 原則として、公共事業の施行者から最初に買取りの申し出があった日から6か月以内に売っている必要があります。 |
| 申出を受けた人 | 最初に申し出を受けた本人(またはその相続人)が譲渡している必要があります。 |
| 他の特例との選択 | 次に説明する「代替資産を取得した場合の課税の特例」を受けていないことが条件です。 |
代替資産を取得した場合の課税の特例
もう一つの特例として、「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例」があります。これは、収用で得た補償金で代わりとなる土地や建物(代替資産)を購入した場合に、一定の条件のもと、譲渡がなかったものとみなされる制度です。売った金額より買い換えた金額が同額か多ければ、その年の譲渡所得税はかかりません。税金の支払いを将来に繰り延べることができる特例といえます。
どちらの特例を選ぶべき?
「5,000万円の特別控除」と「代替資産の特例」は、残念ながらどちらか一方しか選ぶことができません。どちらがお得かは、その方の状況によって異なります。
・譲渡益が5,000万円以下の場合:5,000万円の特別控除を使えば譲渡所得税がかからなくなるため、こちらを選ぶのが一般的です。
・譲渡益が5,000万円を超える場合:すぐに代わりの不動産を購入する予定があるなら、代替資産の特例を検討する価値があります。
どちらを選択すべきか迷った場合は、税理士などの専門家に相談してシミュレーションしてもらうことをお勧めします。
相続した土地が収用された場合の手続き
相続が発生した後に、その土地が収用対象になった場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。スムーズに進めるためのポイントを見ていきましょう。
まずは相続登記を完了させる
土地収用の手続きを進める大前提として、その土地の所有者が誰であるかをはっきりさせる必要があります。遺産分割協議で誰がその土地を相続するのかを決め、法務局で相続登記を行い、名義変更を完了させておきましょう。これがすべてのスタートラインになります。
確定申告を忘れずに
5,000万円の特別控除などの税金の特例は、自動的に適用されるわけではありません。土地を譲渡した翌年に、必ず確定申告を行う必要があります。申告の際には、公共事業の施行者から交付される「収用等の証明書」などの書類が必要になりますので、大切に保管しておきましょう。
土地収用に関するその他の注意点
最後に、土地収用に関連して知っておきたい税金のポイントをいくつかご紹介します。
補償金は相続財産になる?
タイミングによって扱いが変わります。被相続人が生前に収用契約を済ませ、補償金を受け取る前に亡くなった場合、その「補償金を受け取る権利」が相続財産となります。一方、契約前に亡くなった場合は、土地そのものが相続財産として評価されます。
代替資産を取得したときの不動産取得税は?
通常、不動産を取得すると不動産取得税がかかります。しかし、収用の代替資産として不動産を取得した場合は、収用された不動産の価格を上限として、不動産取得税が控除される軽減措置が設けられています。
まとめ
今回は、土地収用法と相続税評価額への影響について詳しく解説しました。少し複雑に感じたかもしれませんが、大切なポイントを最後におさらいしましょう。
・土地収用法は、道路建設などの公共事業のために、国や自治体が土地を取得するための法律です。
・収用対象となる土地は、建築制限などがあるため、相続税評価額が低くなる可能性があります。
・土地を譲渡した場合、5,000万円の特別控除か、代替資産の課税繰り延べ特例のどちらか有利な方を選択できます。
・これらの特例を受けるためには、相続登記を済ませ、必ず確定申告を行う必要があります。
・ご自身の土地が収用対象になった場合は、一人で悩まず、まずは公共事業の担当者や税理士などの専門家に相談することが、最善の道を見つけるための近道です。
参考文献
No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例|国税庁
土地収用法と相続税評価額のよくある質問まとめ
Q.土地収用法とは、簡単に言うとどんな法律ですか?
A.公共の利益となる事業(道路やダム建設など)のために、国や地方公共団体などが個人の土地を強制的に取得できることを定めた法律です。正当な補償が支払われることが前提となります。
Q.親から相続した土地が収用される予定です。相続税評価額はどうなりますか?
A.収用予定の土地(事業認定の告示があった土地)は、通常の評価額から一定の割合(最大50%)を控除して相続税評価額を計算できる特例があります。これを「収用等予定地の評価の特例」といいます。
Q.土地収用の「事業認定」とは何ですか?相続税評価にどう関係しますか?
A.「事業認定」とは、国や都道府県がその事業を公共の利益に資するものだと認める手続きです。この事業認定の告示があると、その土地は収用対象地となり、相続税評価額の減額特例を適用できる可能性があります。
Q.土地収用の補償金で別の土地(代替資産)を買った場合、相続税に影響はありますか?
A.収用された土地の補償金で代替資産を取得した場合、一定の要件を満たせば、その代替資産の評価額を収用された土地の評価額まで引き下げて評価できる特例があります。これにより、将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。
Q.収用予定地の相続税評価額の減額特例を受けるには、何か手続きが必要ですか?
A.はい、相続税の申告時に、収用等予定地であることの証明書や特例の適用を受ける旨を記載した申告書などを税務署に提出する必要があります。詳しくは税理士などの専門家にご相談ください。
Q.土地が収用される前に相続が発生した場合と、収用後に相続が発生した場合で、相続税はどう変わりますか?
A.収用前に相続が発生した場合は、土地そのものが相続財産となり、評価額の減額特例を受けられる可能性があります。収用後に相続が発生した場合は、受け取った補償金(現金)が相続財産となるため、通常は特例の対象外となり、相続税が高くなる傾向があります。