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地主が自分の会社で建物を建てるのはなぜ?節税と相続対策の仕組み

2025-10-24
目次

地主さんがご自身の土地に、わざわざ自分で設立した会社名義で建物を建て、その会社に土地を貸す…一見すると少し複雑に見えますよね。「どうしてそんな手間をかけるんだろう?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。実はこの方法、所得税や相続税の対策として、とても賢い選択肢になることがあるんです。今回は、その仕組みとメリット・デメリットを分かりやすく解説していきます。

「土地は個人、建物は会社」にする最大の理由とは?

地主さんが個人で土地を持ち続け、その上に自分の会社名義で建物を建てる。このスキームの最大の目的は、「所得の分散」と「相続財産の評価額引き下げ」にあります。個人で全ての不動産収入を得ると、所得税の税率が高くなってしまいますが、法人を間に挟むことで、税負担をコントロールしやすくなるんです。

所得税・住民税の負担を軽くする「所得分散」

個人で不動産経営を行う場合、家賃収入はすべて地主個人の「不動産所得」になります。日本の所得税は累進課税なので、所得が増えるほど税率も高くなります。例えば、課税所得が1,800万円を超えると、所得税と住民税を合わせて最大55%もの税金がかかることもあります。
そこで、自分の会社(資産管理会社)を設立し、建物を会社所有にします。すると、家賃収入は会社の売上になりますよね。地主個人は、会社から「役員報酬」として給与を受け取る形にできます。さらに、ご家族を会社の役員にして役員報酬を支払えば、所得を複数人に分散できます。一人で2,000万円の所得がある場合と、4人で500万円ずつ所得がある場合とでは、後者の方が世帯全体で支払う税金はぐっと少なくなるんです。

所得の形 税金の仕組み
個人事業主 家賃収入がすべて個人の不動産所得となり、累進課税で高い税率が適用されやすい。
法人を活用 家賃収入は法人のものに。役員報酬として個人に給与を支払い、所得を家族に分散させることで、低い税率を適用できる。

相続税対策のキホン!財産評価額を下げる効果

相続税を計算するとき、土地や建物は「相続財産」として評価されます。現金や預金は額面通り1億円なら1億円と評価されますが、不動産は評価額を下げられる可能性があります。
特に、土地を誰かに貸している場合(貸宅地)、その土地の評価額は更地(自分で自由使える土地)の状態よりも低くなります。自分の会社に土地を貸すことで、この「貸宅地」としての評価減が受けられるのです。具体的には、更地の評価額から借地権割合(地域によって異なりますが、60%~70%程度)を引いた金額で評価されるため、相続税の対象となる財産を大きく圧縮できる可能性があります。

経費にできる範囲が広がる

法人化すると、個人事業主のときよりも経費として認められる範囲が広がります。例えば、役員への退職金の支払いです。個人事業主には退職金という概念はありませんが、法人であれば役員退職金を準備し、将来的に経費として計上できます。これは大きな節税メリットです。
また、生命保険料の一部を経費にしたり、社宅制度を設けて家賃の一部を経費にしたりと、個人では認められない経費計上が可能になるため、法人の利益を圧縮し、結果的に法人税を抑えることにも繋がります。

なぜ土地は売却せず、建物だけを会社所有にするの?

「それなら土地も建物も全部、会社のものにしちゃえばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、多くの地主さんは土地を個人所有のままにします。これには、税金に関する重要な理由があるんです。

土地の売却には高額な譲渡所得税がかかる

先祖代々受け継いできたような土地は、取得したときの価格が非常に低いか、不明な場合が多いです。もしこの土地を時価で自分の会社に売却すると、売却価格から取得費を差し引いた「譲渡所得」に対して、高額な税金がかかってしまいます。所有期間が5年を超えていても、所得税・住民税合わせて約20%の譲渡所得税が発生します。例えば、1億円で売却して取得費がほとんどない場合、約2,000万円もの税金を払わなければなりません。これでは節税どころではありませんよね。

「土地の無償返還に関する届出書」の活用

そこで、土地は個人で所有したまま、会社に貸すという形をとります。このとき、地主(個人)と会社の間で地代のやり取りが発生しますが、権利金などを授受しない場合、税務上は「借地権の贈与があった」とみなされ、会社側に受贈益課税という問題が起こる可能性があります。
しかし、これを回避するための制度があります。それが「土地の無償返還に関する届出書」です。この届出書を税務署に提出することで、「将来、この土地は無償で地主に返還しますよ」という約束をしたことになり、権利金のやり取りがなくても借地権の贈与とはみなされません。これにより、余計な税金をかけずに「土地は個人、建物は会社」というスキームを始められるのです。

法人化(資産管理会社設立)の具体的なメリット

税金対策以外にも、法人化にはさまざまなメリットがあります。長期的な資産管理や事業承継を見据えた場合、法人という形は非常に有効です。

家族へのスムーズな財産移転

法人の役員としてご家族に役員報酬を支払うことは、実質的に生前贈与と同じ効果があります。贈与税の基礎控除額である年間110万円を超えて財産を渡そうとすると贈与税がかかりますが、役員報酬として支払えば贈与税はかかりません(所得税・住民税の対象にはなります)。これにより、計画的に次世代へ財産を移転させ、将来の相続財産が過度に膨らむのを防ぐことができます。

損失の繰越期間が長い

不動産経営では、大規模修繕などで一時的に大きな赤字が出ることがあります。この赤字(欠損金)は、翌年以降の黒字と相殺して税金を減らすことができます。この繰越期間が、個人事業主(青色申告)の場合は3年間ですが、法人の場合は10年間と非常に長くなります。将来の黒字と長期間にわたって相殺できるのは、経営の安定にとって大きなメリットです。

事業承継がしやすい

地主さんが亡くなった場合、個人所有の不動産は相続手続きや遺産分割協議が必要になり、複雑化しがちです。しかし、法人所有であれば、会社の株式を承継することで事業を引き継ぐことができます。株式の贈与や相続によって後継者に経営権を移すことができるため、不動産そのものを分割するよりもスムーズに事業承継を進めることが可能です。

知っておきたい法人化のデメリットと注意点

メリットの多い法人化ですが、もちろん良いことばかりではありません。コストや手間がかかるというデメリットもしっかり理解しておく必要があります。

設立費用と維持コストがかかる

まず、会社を設立する際には、登記費用や定款認証費用などが必要です。株式会社であれば約25万円、合同会社でも約10万円の設立費用がかかります。
さらに、設立後も法人を維持するためのコストが発生します。たとえ赤字であっても、法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)は必ず支払わなければなりません。また、税務申告も個人より複雑になるため、税理士への顧問料(年間30万円~)も必要になるでしょう。

社会保険への加入義務

法人を設立すると、役員1人であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。保険料は会社と個人で折半して負担しますが、国民健康保険や国民年金に比べて負担額が増えるケースが多いです。これはデメリットである一方、将来受け取れる年金額が増えるというメリットでもあります。

資金の使い方が制限される

個人事業主の場合、事業で得た利益は生活費などに自由に使うことができます。しかし、法人の場合、会社の利益はあくまで「会社のお金」です。社長であっても自由にお金を引き出すことはできず、役員報酬という形で計画的に受け取る必要があります。会社の資金を個人的に使うと「役員貸付金」となり、税務上好ましくないとされるため注意が必要です。

法人化を検討すべきタイミングはいつ?

では、どのくらいの収入があれば法人化を検討すべきなのでしょうか。一般的には、税率の観点から一つの目安があります。

課税所得800万円~900万円が目安

個人の所得税率と法人税率を比較すると、法人化のメリットが出てくるのは、個人の課税所得が800万円~900万円を超えたあたりからと言われています。所得税率は課税所得900万円を超えると33%になりますが、中小企業の法人税の実効税率は約25%程度です。この税率の差が、法人化を考える一つの大きな分岐点になります。

課税所得金額 個人の所得税率(速算)
~800万円 5%~23%
800万円超 23%~45%
法人の所得金額 法人税率(中小法人)
~800万円 15%
800万円超 23.2%

※上記は簡略化した税率です。実際には住民税や事業税なども考慮する必要があります。

相続対策を本格的に始めたいとき

所得税の節税だけでなく、将来の相続を見据えて対策を始めたいと思ったときも、法人化を検討する良いタイミングです。特に、複数の不動産をお持ちの方や、相続人が複数いる場合、法人化によって財産の管理や承継がシンプルになります。専門家である税理士などに相談し、ご自身の資産状況やご家族の状況に合わせたシミュレーションをしてもらうことが重要です。

まとめ

地主さんが自分の土地に自分の会社で建物を建てて貸すのは、所得税の節税、相続税対策、そしてスムーズな事業承継という、主に3つの大きな目的があるからなのです。
この方法は、個人の所得を法人に移して役員報酬として分散することで高い所得税率を回避し、土地を会社に貸すことで「貸宅地」として相続税評価額を引き下げます。
ただし、会社設立・維持のコストや社会保険の負担といったデメリットもあるため、誰にでも最適な方法というわけではありません。一般的には、不動産所得から経費を引いた課税所得が800万円を超えたあたりが、法人化を検討する一つの目安とされています。
ご自身の資産状況や将来設計に合わせて、この方法が本当にメリットをもたらすのかどうか、一度専門家と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

参考文献

国税庁 No.2260 所得税の税率

国税庁 No.5759 法人税の税率

国税庁 土地の無償返還に関する届出書

地主の不動産会社設立に関するよくある質問まとめ

Q.なぜ地主は会社を設立して建物を貸すのですか?

A.個人の高い所得税率を避け、法人税の低い税率を適用するためです。また、経費にできる範囲が広がり、役員報酬として家族に所得を分散できるなど、大きな節税効果が期待できます。

Q.会社を設立すると相続対策にもなりますか?

A.はい、効果的な相続対策になります。不動産そのものではなく会社の株式を相続対象にすることで、相続財産の評価額を下げ、相続税の負担を軽減できる可能性があります。

Q.個人で貸すのと法人で貸すのとの一番の違いは何ですか?

A.税金の計算方法と税率が大きく異なります。一定以上の所得がある場合、個人で高い所得税を払うより、法人にして法人税を払う方が手元に残るお金が多くなるケースがあります。

Q.地主が土地を会社に貸し、会社が建物を建てるのはなぜですか?

A.収入を「地主個人(地代)」と「会社(家賃)」に分けるためです。これにより個人の所得が極端に高くなるのを防ぎ、所得税の累進課税を緩和する効果があります。

Q.会社を設立するデメリットや注意点はありますか?

A.会社の設立費用や維持コスト(税理士費用、社会保険料など)が発生します。また、赤字でも法人住民税の支払いが必要です。メリットとデメリットを比較検討することが重要です。

Q.どのような人が会社を設立する方法に向いていますか?

A.不動産所得が多く、所得税率が高くなっている方や、複数の収益物件をお持ちで将来の相続も視野に入れている方に向いている手法です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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対応責任者
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