ご家族が残してくれた大切な資産に、外貨建て保険が含まれているケースが増えています。「ドル建てやユーロ建ての保険って、どうやって相続税を計算するの?」「もし亡くなった日が土日だったら、為替レートはどうなるの?」そんな疑問をお持ちではありませんか?
外貨建ての資産は、日本円に換算して評価額を計算する必要がありますが、そのルールは少し特別です。この記事では、外貨建て保険の相続税評価額の計算方法から、相続発生日が銀行休日の場合の対応まで、わかりやすく解説していきます。ポイントを押さえて、落ち着いて手続きを進めましょう。
外貨建て保険の相続税評価額はどう計算する?
まず、基本となる外貨建て保険の相続税評価額の計算方法について見ていきましょう。海外の通貨で運用されている保険も、日本の相続税の対象となります。そのためには、保険の価値を日本円に換算する「邦貨換算」という作業が必要になります。この計算で最も大切なポイントは「いつの」「どの為替レート」を使うか、という点です。
評価のタイミングは「相続開始日」
相続税を計算する際の財産評価は、原則として被相続人が亡くなった日(=相続開始日)の価値(時価)で評価します。これは預貯金や不動産だけでなく、外貨建て保険でも同じです。保険会社から保険金が支払われた日や、相続人が手続きをした日ではないので注意しましょう。
使用する為替レートは「TTB」
為替レートには、実はいくつかの種類があります。相続税の計算でどのレートを使うかは、ルールで決められています。
外貨建て保険のような資産を評価する際に使用するのは「TTB(対顧客電信買相場)」です。これは、私たちが金融機関で外貨を日本円に交換するときのレートのことで、「相続人がその外貨資産を日本円に換金したらいくらになるか」という考え方に基づいています。
TTB(対顧客電信買相場) | 金融機関が顧客から外貨を買うレート(私たちが外貨を円に換えるとき) |
TTS(対顧客電信売相場) | 金融機関が顧客に外貨を売るレート(私たちが円を外貨に換えるとき) |
ちなみに、この二つの中間値は「TTM(仲値)」と呼ばれます。相続財産の評価では、このTTBを使うと覚えておきましょう。
外貨建て保険の評価額の計算式
評価のタイミングと使うべき為替レートがわかれば、計算はシンプルです。外貨建て保険の相続税評価額は、以下の式で計算します。
【計算式】
相続開始日時点の保険の権利(解約返戻金相当額など)の外貨額 × 相続開始日のTTBレート = 相続税評価額
例えば、相続開始日時点の保険の権利が10万米ドルで、その日のTTBが1ドル150円だったとします。その場合の評価額は以下のようになります。
100,000ドル × 150円/ドル = 15,000,000円
この1,500万円が、相続税の計算に含めるべき評価額となります。
相続発生日が銀行休日の場合の為替レート
では、この記事のもう一つのテーマである「相続発生日が銀行の休業日だったら?」というケースについて解説します。土日や祝日に亡くなられた場合、その日の為替レートは金融機関から公表されません。このような場合は、特別なルールが適用されます。
適用されるのは「最も近い前営業日」のレート
国税庁のルールでは、相続開始日が金融機関の休業日にあたる場合、「その日に最も近い前営業日の為替レート」を使用することになっています。後ろにずらすのではなく、前にさかのぼるのがポイントです。
具体例を見てみましょう。
相続開始日 | 適用する為替レートの日付 |
日曜日 | その週の金曜日のレート |
月曜日(祝日) | その前の週の金曜日のレート |
ゴールデンウィーク中の5月4日(土) | 連休に入る直前の営業日(例:5月2日(木))のレート |
このように、亡くなられた日が休日であっても、直前の営業日のレートを使えばよいので、慌てる必要はありません。
どの金融機関の為替レートを使えばいい?
TTBレートは、実は金融機関によってわずかに異なります。では、どの金融機関のレートを使えばよいのでしょうか。これもルールが決まっています。
原則は納税義務者(相続人)の取引金融機関
為替レートは、原則として納税義務者(財産を相続する人)が普段取引している金融機関が公表しているレートを使用します。被相続人が取引していた金融機関のレートを使っても問題ありません。もし、相続人に特定の取引金融機関がない場合は、任意の金融機関のレートを選んで使用することができます。
複数の取引金融機関がある場合は有利なレートを選択可能
相続人が複数の金融機関に口座を持っている場合、そのいずれかの金融機関のレートを任意で選ぶことができます。
ここで少し節税につながるポイントがあります。TTBは金融機関の利益となる為替手数料を差し引いた後のレートです。一般的に、為替手数料が高い金融機関ほどTTBのレートは低くなります。TTBが低いということは、評価額も低くなるということです。
複数の取引金融機関がある場合は、それぞれのTTBを比較し、最も評価額が低くなる(=節税になる)レートを選択するのも一つの方法です。
外貨建て保険を相続する際のその他の注意点
評価額の計算以外にも、外貨建て保険の相続で知っておきたい注意点がいくつかあります。
為替変動による受取額の増減リスク
相続税評価額は「相続開始日」のレートで確定しますが、実際に保険金を円貨で受け取るのは、それからしばらく経ってからです。その間に為替レートが変動すると、実際に手元に入る金額は評価額と異なる場合があります。
例えば、相続開始時より円安が進めば受取額は増えますが、円高が進めば受取額は目減りしてしまいます。この為替変動リスクは理解しておく必要があります。
為替差益が出た場合は確定申告が必要になることも
もし、相続開始時よりも円安が進んだことで、相続税申告時の評価額よりも多くの円貨を受け取れた場合、その差額(為替差益)は相続人個人の「雑所得」として所得税の確定申告が必要になることがあります。これは見落としがちなポイントなので、忘れずに確認しましょう。
生命保険金の非課税枠が適用できる
外貨建て保険も、日本の生命保険と同じ扱いです。そのため、死亡保険金として受け取る場合は、「500万円 × 法定相続人の数」で計算される生命保険金の非課税枠を利用できます。これは大きな節税効果があるので、必ず適用するようにしましょう。
もし外貨建ての借金があったら?
プラスの財産だけでなく、故人が外貨建ての借金を残しているケースも考えられます。この場合、評価の方法が資産とは逆になるので注意が必要です。
外貨建ての債務(借金など)を評価する場合は、資産の評価で使った「TTB」ではなく、「TTS(対顧客電信売相場)」を使います。これは、借金を返すために日本円を外貨に交換する必要がある、という考え方に基づいています。
外貨建ての資産(保険金など) | TTB(買相場)で評価(外貨→円) |
外貨建ての債務(借金など) | TTS(売相場)で評価(円→外貨) |
資産と負債で適用するレートが異なることを覚えておきましょう。
まとめ
外貨建て保険の相続税評価額について、ご理解いただけましたでしょうか。最後にポイントをおさらいしましょう。
- 外貨建て保険の評価額は「相続開始日」の「TTB(対顧客電信買相場)」で計算する。
- 相続開始日が銀行休日の場合は「最も近い前営業日」のレートを適用する。
- 為替レートは相続人の取引金融機関のものを使用し、複数ある場合は有利なレートを選択できる。
- 生命保険金の非課税枠も忘れずに活用する。
- 実際に受け取る際の為替差益には所得税がかかる場合があるので注意。
外貨建て資産の相続は少し複雑に感じるかもしれませんが、基本的なルールを押さえれば大丈夫です。もし手続きに不安がある場合や、他にも多くの財産があって申告が難しいと感じる場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
外貨建て保険の相続に関するよくある質問まとめ
Q. 外貨建て保険の相続税評価額は、どのように計算するのですか?
A. 相続開始時(被相続人が亡くなった日)の解約返戻金相当額を、相続開始日の為替レートで円換算して評価します。
Q. 相続税評価額の計算に使う為替レートは何ですか?
A. 原則として、相続開始日における金融機関の最終の対顧客直物電信売相場(TTS)を使用します。
Q. 相続発生日が土日や祝日など銀行の休日の場合、どの為替レートを使いますか?
A. 相続発生日に最も近い営業日の為替レートを使用します。具体的には、相続発生日より前の最も近い営業日のレートと、後の最も近い営業日のレートのうち、納税者にとって有利な(評価額が低くなる)方を選択できます。
Q. 適用する為替レートはどこで確認できますか?
A. 被相続人が利用していた金融機関(銀行など)のウェブサイトや窓口で確認できます。過去の為替レートについては、直接金融機関に問い合わせるのが確実です。
Q. 死亡保険金が支払われる場合、評価額はどうなりますか?
A. 死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われます。相続開始時の為替レートで円換算した保険金額から、生命保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)を差し引いた金額が評価額となります。
Q. なぜ外貨建ての資産を円に換算して評価する必要があるのですか?
A. 日本の相続税は、日本円で申告・納税することが法律で定められているためです。そのため、外貨建ての資産もすべて円貨に換算して評価額を算出する必要があります。