会社の業績が良かったとき、従業員に利益を還元しつつ節税もできる決算賞与ですが、支給にあたってはいくつか気をつけるべきポイントがあります。正しい手順を踏まないと、経費として認められず思わぬ税金を支払うことになってしまうかもしれません。この記事では、決算賞与の基本的な仕組みから、経費にするための厳格なルール、そして社会保険料の計算方法まで、具体的な数字を交えながら分かりやすくお話ししていきますね。
決算賞与とは?通常の賞与との違い
決算賞与は、会社の決算月に合わせて支給される特別なボーナスのことです。まずは、夏や冬に支給される通常の賞与と何が違うのか、どのような目的で支払われるのかを一緒に見ていきましょう。
決算賞与の目的と特徴
決算賞与の最大の目的は、業績に応じた利益の還元と法人税の節税効果です。事業年度の終わりに予想以上の利益が出た場合、その利益を従業員に分配することで、支払う法人税を抑えることができます。会社にとっては利益を有効に活用でき、従業員にとっては頑張りが直接収入につながるため、双方にとって嬉しい制度と言えますね。
通常の夏季・冬季賞与との違い
通常の賞与は、就業規則などで「基本給の2ヶ月分を7月と12月に支給する」といったように、あらかじめ支給時期や計算方法が決められていることがほとんどです。一方で決算賞与は、その年の利益の状況を見て臨時に支給額を決定します。そのため、業績が悪い年には支給されないこともあり、金額も毎年変動するのが特徴です。
| 項目 | 決算賞与 |
|---|---|
| 支給時期 | 事業年度の決算期前後 |
| 支給額の決定 | その年の業績に応じて臨時に決定 |
| 支給の義務 | 業績次第のため原則として義務はない |
決算賞与を支給するメリット
決算賞与を支給することで、従業員の会社に対する帰属意識が高まり、翌年以降のモチベーションアップに大きく貢献します。また、利益がそのまま残るとおよそ30%程度の法人税がかかってしまいますが、決算賞与として支払うことで損金(税務上の経費)に計上でき、税負担を適正に抑えることができるのです。
決算賞与を損金算入するための3つの要件
決算賞与を経費として認めてもらうためには、国税庁が定める厳格な3つのルールを守る必要があります。一つでも欠けると経費にできなくなってしまうので、しっかりと確認しておきましょう。
全従業員への事前通知が必須
決算日までに、支給対象となるすべての従業員に対して、個別の支給額を通知しなければなりません。例えば、3月31日が決算日の場合、3月31日までに「あなたには決算賞与として30万円を支給します」と一人ひとりに伝えておく必要があります。口頭ではなく、書面やメールなど証拠が残る形で通知することをおすすめします。
決算日から1ヶ月以内の支払い
通知した金額は、決算日の翌日から1ヶ月以内に全員へ支払う必要があります。3月決算の会社であれば、4月30日までに実際の振り込みを完了させなければなりません。この期日を1日でも過ぎてしまうと、その事業年度の経費としては認められず、翌年の経費になってしまうので十分注意してくださいね。
当期中に損金経理を行うこと
決算書の作成において、決算賞与の金額をその事業年度の費用として計上(損金経理)しておく必要があります。実際にお金が出ていくのは翌月になりますが、帳簿上は「未払金」や「賞与引当金繰入額」として、しっかりと当期の経費として記録しておきましょう。
決算賞与の計算方法と社会保険料の扱い
決算賞与を支給する際、そのまま全額を渡せるわけではなく、給与と同じように社会保険料や税金を差し引く必要があります。ここでは具体的な計算の仕組みをご説明します。
社会保険料の計算と控除の仕組み
賞与から引かれる社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上)があります。計算の基本は、支給額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に、それぞれの保険料率を掛け合わせます。例えば、東京都の協会けんぽ(令和6年度)の場合、健康保険料率は約9.98%、厚生年金保険料率は18.3%となっており、これらを労使で半分ずつ負担します。
源泉所得税の計算方法
社会保険料を差し引いた後の金額に対して、所得税がかかります。賞与の所得税は、前月の給与から社会保険料を引いた金額と、扶養親族の人数をもとに賞与に対する源泉徴収額の算出率の表を使って税率を求めます。税率は金額によって数%から数十%まで幅広いため、前月の給与額などを正しく把握しておくことが大切です。
社会保険料の上限額について
賞与にかかる社会保険料には、一定の金額で打ち止めになる上限が設定されています。健康保険料と介護保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの累計で573万円が上限です。一方、厚生年金保険料は累計ではなく、1ヶ月あたり150万円が上限となります。高額な決算賞与を支給する場合は、この上限額を意識して計算してくださいね。
| 保険の種類 | 賞与における上限額 |
|---|---|
| 健康保険・介護保険 | 年度の累計標準賞与額573万円 |
| 厚生年金保険 | 1ヶ月あたりの標準賞与額150万円 |
決算賞与支給時のトラブルを防ぐ注意点
ルールを守って支給したつもりでも、思わぬ落とし穴で経費にできなくなるケースがあります。ここでは特につまずきやすい3つの注意点を解説します。
退職予定者への支給に関する注意
決算賞与を事前通知した従業員が、支給日までに退職してしまうケースには注意が必要です。もし通知した人のうち一人でも支払われない人が出ると、全員分の決算賞与がその年の経費として認められなくなってしまいます。そのため、退職予定者がいる場合は事前に支給対象から外すなどの対応を検討しましょう。
役員への決算賞与は損金算入不可
従業員に対する決算賞与は経費になりますが、役員に対する決算賞与は原則として経費にできません。役員のボーナスを経費にするには、事前に税務署へ届出をする必要がありますが、決算間際に臨時に決める決算賞与ではこの届出の期限に間に合わないためです。
通知した金額と実際の支給額を一致させる
決算日までに「30万円支給します」と通知したにもかかわらず、資金繰りの都合で実際に「20万円しか支払えなかった」という場合、条件違反となり経費に算入できなくなります。1円でも金額が異なるとルール違反となってしまうため、確実に支払える金額を見極めてから通知することが大切です。
決算賞与の支給が会社に与える影響
決算賞与は税務上のメリットだけでなく、会社全体に様々な影響を与えます。良い面と気をつけるべき面の両方を知っておきましょう。
従業員のモチベーション向上効果
会社の利益が自分たちのボーナスとして直接還元されることは、従業員にとって何よりの喜びです。「頑張ればしっかり報われる」という信頼関係が生まれ、翌年以降の生産性や定着率の向上に大きく貢献します。定期的な賞与とは違う、特別なご褒美としての効果は絶大です。
手元資金減少によるキャッシュフロー悪化リスク
節税になるとはいえ、決算賞与を支給するということは、まとまった現金が手元から出ていくことを意味します。利益が出ていても、それが売掛金などですぐに現金化できない状態の場合、賞与の支払いで資金ショートを起こす危険性もあります。必ずキャッシュフローを確認し、手元資金に余裕がある範囲で支給額を決定してくださいね。
まとめ
決算賞与は、従業員への利益還元と会社の節税を両立できる素晴らしい制度です。しかし、経費として認めてもらうためには、全従業員への事前通知、決算日から1ヶ月以内の支払い、当期での損金経理という3つのルールを完璧に守る必要があります。また、社会保険料の上限額や役員への支給不可といった注意点もしっかり押さえておくことが重要です。手元資金のバランスを見極めながら、会社と従業員の双方が笑顔になれるような決算賞与の支給を行ってくださいね。
参考文献
決算賞与のよくある質問まとめ
Q.決算賞与とは何ですか?
A.決算賞与とは、企業の業績に応じて事業年度の終わりに支払われる特別なボーナスのことです。通常の賞与と異なり、節税対策として活用されることが多いのが特徴です。
Q.決算賞与を損金(経費)にするための要件は何ですか?
A.決算日までに全従業員へ支給額を通知すること、決算日から1ヶ月以内に支払うこと、当期の決算で損金として計上することの3つの要件をすべて満たす必要があります。
Q.役員にも決算賞与を支給して経費にできますか?
A.役員への決算賞与は原則として損金算入(経費化)できません。役員賞与を経費にするには事前の届出が必要ですが、決算賞与のタイミングでは間に合わないためです。
Q.決算賞与にも社会保険料はかかりますか?
A.はい、通常の賞与と同じように健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などがかかります。標準賞与額に各保険料率を掛けて計算し、給与から控除します。
Q.事前に通知した決算賞与の金額を変更することはできますか?
A.事前に通知した金額と実際の支給額が1円でも異なると、経費として認められなくなります。確実に支払える金額を通知することが重要です。
Q.退職予定者に決算賞与を支払わなかった場合どうなりますか?
A.通知を受けた従業員の中に一人でも支払われない人がいると、全員分の決算賞与がその年の経費として認められなくなります。対象者の選定には注意が必要です。