「遺族年金は夫を亡くした妻がもらうもの」というイメージが強いかもしれませんが、実は妻が死亡した場合でも、残された夫が遺族年金を受け取れるケースがあります。しかし、夫が死亡した場合とは条件が少し異なるため、注意が必要です。大切なご家族を亡くされ、不安な気持ちでいらっしゃる中、少しでもお金の心配を軽くできるよう、今回は妻が亡くなった場合の遺族年金について、受給条件や金額などをわかりやすく解説していきますね。
遺族年金は2種類あります
日本の公的年金制度は、国民年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の2階建て構造になっています。これに対応して、遺族年金にも「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。亡くなった妻がどちらの年金に加入していたかによって、受け取れる年金の種類が変わってきます。
遺族基礎年金:国民年金の基本保障
遺族基礎年金は、亡くなった妻が国民年金の被保険者であった場合などに、条件を満たす遺族に支給される年金です。自営業やフリーランスだった妻や、会社員の夫の扶養に入っていた専業主婦の妻などが亡くなった場合に関係してきます。一番のポイントは、「子どものいる遺族」が対象となる点です。
遺族厚生年金:会社員だった妻の保障
遺族厚生年金は、亡くなった妻が会社員や公務員で、厚生年金に加入していた場合に支給される年金です。遺族基礎年金に上乗せされる形で受け取れる場合や、遺族厚生年金のみを受け取る場合があります。こちらは遺族基礎年金とは異なり、子どもがいない夫でも受け取れる可能性がありますが、夫には特有の年齢要件があるのが特徴です。
夫が遺族年金をもらうための3つの条件
妻が死亡した際に夫が遺族年金を受け取るためには、いくつかの条件をクリアする必要があります。特に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」では、求められる条件が異なりますので、一つずつ確認していきましょう。
条件1:「子」のいる夫であること(遺族基礎年金)
遺族基礎年金を受け取るための最も重要な条件は、亡くなった妻に生計を維持されていた「子のある配偶者」であることです。ここでの「子」とは、次のいずれかに該当するお子さんのことを指します。
- 18歳になった年度の3月31日までの間にある子
- 20歳未満で障害等級1級または2級の障害の状態にある子
つまり、高校卒業までのお子さんや、障害を持つ20歳未満のお子さんがいる場合に、夫は遺族基礎年金の対象となります。逆にお子さんがいない場合や、お子さんがすでに成人している場合は、遺族基礎年金を受け取ることはできません。
条件2:妻の死亡時に夫が55歳以上であること(遺族厚生年金)
共働きの妻が亡くなり、遺族厚生年金の対象となる場合、夫には年齢の条件が加わります。それは、「妻が死亡した当時、夫が55歳以上であること」です。夫を亡くした妻にはこのような年齢制限がないため、これは男性特有の厳しい条件と言えます。
なお、55歳以上で受給権が発生した場合でも、実際に年金の支給が開始されるのは原則として60歳からとなりますので、この点も覚えておきましょう。(遺族基礎年金もあわせて受け取れる場合は、60歳前から受給可能です。)
条件3:「生計を維持されていた」こと(年収の壁)
遺族年金は、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族のための制度です。そのため、遺族年金を受け取る夫にも収入の要件があります。具体的には、夫の前年の年収が850万円未満(または所得が655.5万円未満)であることが条件です。
夫の収入が多く、家計を主に支えていると判断される場合は、妻に「生計を維持されていた」とは認められず、たとえ他の条件を満たしていても遺族年金を受け取ることができません。これは「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の両方に共通する条件です。
遺族年金でもらえる金額はいくら?
もし無事に受給条件を満たした場合、実際にどれくらいの金額を受け取れるのでしょうか。こちらも「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」で計算方法が異なります。
遺族基礎年金の金額
遺族基礎年金の金額は、定額となっており、お子さんの人数によって加算されます。令和6年度の金額は以下の通りです。
| 基本額 | 816,000円 |
| 子の加算額(第1子・第2子) | 各 234,800円 |
| 子の加算額(第3子以降) | 各 78,300円 |
例えば、お子さんが2人いる場合は、「816,000円 + 234,800円 + 234,800円 = 1,285,600円」が年間の受給額となります。この年金は、一番下のお子さんが18歳の年度末になるまで支給されます。
遺族厚生年金の金額
遺族厚生年金の金額は、一律ではありません。亡くなった妻の厚生年金加入期間の長さや、その間の給与(平均標準報酬額)によって決まります。
基本的な計算式は、亡くなった妻が本来もらうはずだった老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3の額となります。加入期間が短い場合でも、最低300月(25年)加入したものとみなして計算される保障措置があります。正確な金額は人それぞれ異なるため、お近くの年金事務所や「ねんきんネット」で確認することをおすすめします。
注意!遺族年金がもらえない・止まってしまう場合
これまでご説明した条件を満たさない以外にも、遺族年金がもらえなかったり、受給中に支給が停止されたりするケースがあります。代表的なものを知っておきましょう。
妻が保険料を納めていなかった
遺族年金を受け取るには、亡くなった妻がきちんと年金保険料を納めていたことが大前提です。原則として、国民年金の加入期間のうち、保険料納付済期間と免除期間を合わせた期間が3分の2以上必要です。保険料の未納期間が長いと、他の条件を満たしていても遺族年金は支給されません。
夫が再婚した
遺族年金を受給している夫が再婚した場合(事実婚の状態を含む)、その時点で遺族年金を受け取る権利はなくなります。これは、新しい配偶者によって生計が立てられるとみなされるためです。
65歳以降、自分の年金との調整がある
夫が65歳になり、ご自身の老齢厚生年金を受け取るようになると、妻の死亡による遺族厚生年金との間で金額の調整が行われます。具体的には、まずご自身の老齢厚生年金が優先的に全額支給されます。その上で、遺族厚生年金の額がご自身の老齢厚生年金の額を上回る場合に、その差額分のみが遺族厚生年金として支給されます。もしご自身の老齢厚生年金の方が多ければ、遺族厚生年金は全額支給停止となります。
遺族年金と税金の関係
遺族年金を受け取ることになった場合、税金がどうなるのか心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。遺族年金は、残された家族の生活を支えるという大切な目的があるため、税制上優遇されています。
遺族年金は嬉しい非課税所得です
国民年金法や厚生年金保険法に基づいて支給される遺族年金は、所得税も住民税も課税されません。そのため、遺族年金を受け取っても確定申告をする必要はありません。年間の収入には含まれますが、税金の計算上は「なかったもの」として扱われる、と考えると分かりやすいかもしれません。
相続財産には含まれません
遺族年金を受け取る権利(受給権)は、亡くなった方の財産を相続する「相続財産」とはみなされません。これは、法律によって受給権者(お金を受け取る人)が定められている「遺族固有の権利」と考えられるためです。したがって、遺族年金は相続税の課税対象にもなりません。
まとめ
妻が死亡した場合、残された夫が遺族年金を受け取るには、「18歳未満の子の有無」や「夫の年齢(55歳以上)」、「年収(850万円未満)」など、いくつかの条件があります。特に夫が受け取る場合の条件は、妻が受け取る場合よりも厳しいのが現状です。
しかし、共働き世帯が増え、妻が家計の大きな支えとなっているご家庭も少なくありません。万が一の際に「知らなかった」ために受け取れるはずの年金を逃してしまうことがないよう、ご自身の状況が条件に当てはまるか、一度確認してみることが大切です。もしご自身での判断が難しい場合は、お近くの年金事務所などに相談してみてくださいね。
参考文献
妻が死亡した時の遺族年金に関するよくある質問
Q.妻が死亡した場合、夫は遺族年金をもらえますか?
A.はい、妻によって生計を維持されていたなど、一定の要件を満たせば夫も遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)を受け取ることができます。
Q.夫が遺族年金を受け取るための主な条件は何ですか?
A.遺族基礎年金は「18歳未満の子がいること」、遺族厚生年金は「妻の死亡時に夫が55歳以上であること」などが主な要件です。ただし、所得制限など他の条件もあります。
Q.子供がいない場合、夫は遺族年金を受け取れませんか?
A.お子様がいない場合、遺族基礎年金は対象外となります。しかし、妻の死亡時に夫が55歳以上である等の要件を満たせば、遺族厚生年金は受け取れる可能性があります。
Q.遺族厚生年金はいつから支給されますか?
A.夫が遺族厚生年金を受け取る権利があっても、支給が開始されるのは原則として60歳からです。ただし、55歳から繰り上げて受け取ることも可能です。
Q.妻が専業主婦やパートだった場合でも、夫は遺族年金をもらえますか?
A.妻が厚生年金に加入していた期間があれば遺族厚生年金の対象となります。国民年金のみの加入だった場合は、子のいる夫であれば遺族基礎年金の対象となります。
Q.遺族年金の手続きはどこで行えばよいですか?
A.お手続きは、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターの窓口で行います。必要書類が多岐にわたるため、事前に確認することをおすすめします。