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子会社を持つ非上場株式の評価方法は?相続税評価の重要ポイント

2025-02-26
目次

同族経営の会社の株式を相続などで評価する際、もしその会社が子会社を持っていたら、評価は少し複雑になります。親会社の株式評価は、子会社の株式価値も含まれるため、子会社の評価がとても重要になるんです。今回は、この子会社株式の評価方法について、特に重要なポイントを分かりやすく解説していきますね。

非上場株式の評価の基本をおさらい

まずは、非上場株式の評価方法の基本について簡単におさらいしましょう。非上場株式の評価は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)や株主の立場(同族株主か、そうでないか)によって使う評価方法が異なります。

原則的評価方式(同族株主の場合)

会社の経営に大きく関わっている同族株主などが株式を評価する場合は、原則的評価方式を使います。会社の規模に応じて、類似業種比準価額方式純資産価額方式を組み合わせて評価します。類似業種比準価額方式は事業内容が似ている上場企業の株価を参考にし、純資産価額方式は会社の資産と負債を相続税評価額に置き換えて1株あたりの純資産を計算する方法です。

会社規模 評価方法
大会社 類似業種比準価額方式
中会社 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用
小会社 純資産価額方式(類似業種比準価額方式との選択も可)

特例的評価方式(同族株主以外の場合)

会社の経営に関与していない少数株主の場合は、特例的評価方式である配当還元方式を使います。これは、過去の配当実績をもとに株価を評価する方法で、一般的に原則的評価方式よりも株価は低くなる傾向があります。

親会社が子会社株式を持っている場合の評価

親会社の株式を評価する際、その資産の中に子会社の株式が含まれていることがあります。この子会社株式も、親会社の資産の一部として評価に含める必要があります。具体的には、親会社の純資産価額方式による評価の中で、子会社株式の価値を計算することになります。

子会社株式の評価も基本は同じ

子会社が非上場会社である場合、その子会社株式の評価も、基本的には通常の非上場株式の評価方法と同じです。つまり、子会社の規模に応じて、類似業種比準価額方式や純資産価額方式を使って評価します。

最大の注意点!「評価差額に対する法人税等相当額」の控除ができない

ここが最も重要なポイントです。通常の純資産価額方式では、会社の資産に含み益(帳簿価額よりも時価が高い状態)がある場合、その含み益に対して将来かかるであろう法人税などを考慮して、評価額から一定額を差し引くことができます。これを「評価差額に対する法人税等相当額の控除」と言い、現在の税率は37%です。しかし、親会社の資産として子会社株式を評価する際には、この法人税等相当額の控除が認められていません

評価の対象 評価差額に対する法人税等相当額の控除
親会社自身の資産(土地など) 控除できる(37%)
親会社が保有する子会社株式 控除できない

なぜ法人税等相当額を控除できないの?

なぜ控除できないのか、不思議に思いますよね。これには主に2つの理由があります。

一つ目の理由は、二重控除の防止です。もし子会社株式の評価で法人税等相当額を控除し、さらに親会社の評価でも同じように控除を認めてしまうと、同じ含み益に対して二重に税金分を差し引くことになり、不公平が生じてしまいます。

二つ目の理由は、租税回避行為の防止です。このルールがないと、親会社の含み益がある資産(例えば土地など)を子会社に移すことで、意図的に株価を引き下げるという節税(租税回避)ができてしまう可能性があります。それを防ぐ目的もあるんです。

具体例で見てみよう!子会社株式の評価計算

少し複雑なので、具体的な数字を使って見ていきましょう。ここでは、親会社(評価会社)が子会社(非上場)の全株式を持っているケースを考えてみます。親会社の1株あたりの純資産価額を計算する流れです。

前提条件

親会社(評価会社)

  • 発行済株式数: 100万株
  • 資産の相続税評価額合計: 11億5,000万円(この中に子会社株式の評価額を含む)
  • 負債の相続税評価額合計: 2億円
  • 資産の帳簿価額合計: 4億円

子会社

  • 発行済株式数: 10万株(親会社が100%保有)
  • 資産の相続税評価額合計: 2億円
  • 負債の相続税評価額合計: 5,000万円

計算ステップ

ステップ1: 子会社の1株あたり純資産価額を計算
まず、子会社の純資産価額を相続税評価額ベースで計算します。
純資産価額 = 資産総額(2億円) – 負債総額(5,000万円) = 1億5,000万円
1株あたりの純資産価額 = 1億5,000万円 ÷ 発行済株式数(10万株) = 1,500円
【ポイント】ここでは、通常の純資産価額の計算で行う法人税等相当額(37%)の控除は行いません。

ステップ2: 親会社が保有する子会社株式の評価額を計算
次に、親会社が保有する子会社株式全体の評価額を求めます。
評価額 = 1株あたり純資産価額(1,500円) × 保有株式数(10万株) = 1億5,000万円
この金額が、親会社の資産(11億5,000万円)に含まれる子会社株式の評価額となります。

ステップ3: 親会社の1株あたり純資産価額を計算
最後に、親会社の純資産価額を計算します。こちらは通常通り、法人税等相当額を控除します。
1. 親会社の純資産価額(相続税評価額ベース) = 11億5,000万円 – 2億円 = 9億5,000万円
2. 親会社の純資産価額(帳簿価額ベース) = 4億円 – 2億円 = 2億円
3. 評価差額 = ① – ② = 7億5,000万円
4. 法人税等相当額 = ③ × 37% = 2億7,750万円
5. 控除後の親会社の純資産価額 = ① – ④ = 6億7,250万円
6. 親会社の1株あたり純資産価額 = ⑤ ÷ 発行済株式数(100万株) = 672.5円

このように、親会社自体の資産の含み益については法人税等相当額を控除できますが、子会社を評価する段階では控除できない、という点が大きな違いになります。

子会社だけでなく出資や新株予約権付社債も同様

今回は子会社株式を例に挙げましたが、この「法人税等相当額を控除しない」というルールは、親会社が保有する取引相場のない出資転換社債型新株予約権付社債などを評価する場合にも同じように適用されます。これらの資産を純資産価額方式で評価する際にも、評価差額に対する法人税等相当額は控除できないので注意が必要ですね。

評価を間違えるとどうなる?

もし、子会社株式の評価で誤って法人税等相当額を控除してしまうと、子会社株式の評価額が本来よりも低く計算されてしまいます。その結果、親会社の株式評価額も過小になり、相続税や贈与税の申告額が少なくなってしまいます。税務調査でこの誤りを指摘されると、過少申告加算税延滞税といったペナルティが課される可能性があります。専門的な知識が必要な部分なので、専門家である税理士に相談するのが安心です。

まとめ

今回は、子会社を持つ非上場株式の評価方法について解説しました。ポイントは以下の通りです。

  • 親会社の非上場株式を評価する際は、資産に含まれる子会社株式も評価する必要がある。
  • 子会社株式の評価方法は、基本的には通常の非上場株式の評価ルールと同じ。
  • 最大の注意点は、子会社株式を純資産価額方式で評価する際に、「評価差額に対する法人税等相当額(37%)」を控除できないこと。
  • このルールは、二重控除や租税回避行為を防ぐために設けられています。
  • 評価を誤ると追徴課税のリスクがあるため、専門家への相談が不可欠です。

非上場株式の評価、特に子会社が関わってくると計算が複雑になりがちです。ご自身の会社の株価がどうなるのか気になる方、相続対策をお考えの方は、ぜひ一度、相続に詳しい税理士にご相談くださいね。

参考文献

国税庁: No.4638 取引相場のない株式の評価

非上場株式の評価と子会社のよくある質問まとめ

Q.非上場株式を評価する際、保有する子会社株式はどう扱いますか?

A.親会社の資産として、まず子会社株式の相続税評価額を計算します。その評価額を親会社の純資産価額を計算する際の資産に加えて評価を行います。

Q.子会社が上場している場合の評価方法を教えてください。

A.子会社が上場している場合、その株式は通常の上場株式と同様に評価します。具体的には、課税時期の最終価格など4つの価格のうち、最も低い価額を選択して評価額とします。

Q.子会社が非上場の場合、どのように評価するのですか?

A.子会社が非上場の場合も、原則として財産評価基本通達に基づき評価します。会社の規模に応じて、類似業種比準価額方式や純資産価額方式などを組み合わせて1株あたりの評価額を計算します。

Q.親会社の純資産価額を計算する際、子会社株式の帳簿価額をそのまま使えますか?

A.いいえ、使えません。親会社の貸借対照表に計上されている子会社株式の帳簿価額(簿価)を、先ほど算定した相続税法上の評価額(時価)に置き換えて、親会社の純資産価額を計算する必要があります。

Q.子会社があると、非上場株式の評価はかなり複雑になりますか?

A.はい、複雑になります。親会社の評価の前提として、まず子会社の財産評価を個別に行う必要があるため、評価作業が二段階となり、時間も専門知識もより多く求められます。

Q.子会社を持つ非上場株式の評価は、税理士に相談した方がよいですか?

A.はい、強くおすすめします。子会社株式の評価は論点が多く、評価誤りのリスクも高まります。特に複数の子会社や孫会社がある場合は、相続税に詳しい税理士などの専門家への相談が不可欠です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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