ご家族が亡くなられて相続が発生したとき、財産に「定期借地権」が含まれていると、その評価や申告手続きで戸惑ってしまうかもしれません。特に「定期借地権等の評価明細書」は、計算が複雑で書き方が分かりにくいですよね。この記事では、定期借地権等の評価明細書の書き方を、項目ごとに分かりやすく、そして丁寧にご説明します。この記事を読めば、きっとご自身での作成もスムーズに進められるはずですよ。
定期借地権とは?まずは基本をおさえましょう
相続税の申告で最初につまずかないために、まずは「定期借地権」がどのような権利なのかを知っておきましょう。土地を借りる権利である「借地権」には、契約更新ができる「普通借地権」と、契約期間が決まっていて更新がない「定期借地権」があります。定期借地権は、契約期間が終われば必ず土地を地主さんに返さなければならない、という特徴があるんです。
定期借地権の3つの種類
定期借地権には、実は3つの種類があります。どの種類に当てはまるかによって、契約期間などが異なりますので、お手元の契約書を確認してみてくださいね。
| 種類 | 特 徴 |
| 一般定期借地権 | 存続期間は50年以上。契約の更新はなく、期間が満了したら更地にして土地を返還するのが原則です。居住用の建物など、利用目的の制限はありません。 |
| 事業用定期借地権等 | 存続期間は10年以上50年未満。名前のとおり、店舗や工場など事業用の建物を所有することが目的です。 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 存続期間は30年以上。契約期間が満了したときに、借地上の建物を地主さんが相当の対価で買い取る特約が付いたものです。 |
なぜ定期借地権の評価は複雑なの?
定期借地権の評価が普通借地権と比べて複雑なのは、「契約の残存期間」が評価額に大きく影響するからです。契約期間が決まっているため、相続が発生した時点で「あと何年その土地を使えるのか」という点が価値を決める重要な要素になります。残りの期間が短ければ評価額は低く、長ければ高くなる、という考え方ですね。この残存期間を考慮した複雑な計算が必要になるため、専門的な知識が求められるのです。
定期借地権等の評価方法
定期借地権の価値を金額で表す評価方法には、「原則的評価方法」と「簡便法」の2つがあります。どちらを使っても良いのですが、実際にはほとんどのケースで「簡便法」が使われています。
原則的評価方法
原則的評価方法は、国税庁の通達で「課税時期において借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額」と定められていますが、具体的な計算式は示されていません。そのため、この方法で評価するには、不動産鑑定士に鑑定を依頼する必要があります。費用も時間もかかってしまうため、実務で使われることは稀なケースです。
簡便法による評価方法
ほとんどの場合で用いられるのが、こちらの簡便法です。一定の計算式に当てはめて評価額を算出する方法で、不動産鑑定士への依頼は不要です。ただし、「課税上の弊害がない」場合に限られます。計算式は以下のようになります。
定期借地権等の評価額 = 課税時期の自用地評価額 × 設定時の定期借地権割合 × 定期借地権の残存期間逓減率
少し難しく見えますが、一つひとつの要素を理解すれば大丈夫です。次の章で詳しく見ていきましょう。
簡便法が使えない「課税上弊害がある」ケースとは?
簡便法は便利な方法ですが、使えないケースもあります。それは「課税上弊害がある場合」です。具体的には、定期借地権を設定した時と相続が発生した時とで、借地権者に帰属する経済的な利益が大きく変わっているような場合を指します。
例えば、以下のようなケースが該当する可能性があります。
- 契約後に追加で権利金を支払った場合
- 周辺の地価が大幅に上昇したにもかかわらず、地代が安いまま据え置かれている場合
このような特別な事情がなければ、基本的には簡便法で評価して問題ありません。
評価額の計算に必要な3つの要素
それでは、簡便法の計算式に出てきた3つの重要な要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。この3つを正しく計算することが、評価明細書を完成させるためのカギになります。
①課税時期の自用地評価額
これは、その土地がもし更地(自用地)だったら、いくらの価値になるかという金額のことです。相続税の土地評価で基本となるもので、路線価方式または倍率方式で計算します。この金額は、「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書(第1表)」で先に計算しておく必要があります。「定期借地権等の評価明細書」には、この第1表で算出した金額を転記することになります。
②設定時の定期借地権割合
これは、定期借地権を設定した当時に、その土地の時価のうち、どれくらいの割合が借地権の価値だったかを示すものです。以下の計算式で求めます。
設定時の定期借地権割合 = 定期借地権設定時の借地権者に帰属する経済的利益の総額 ÷ 定期借地権設定時における宅地の通常の取引価額
分子の「経済的利益の総額」が少しややこしいのですが、これは権利金など地主さんに支払った金額などが該当します。この部分は評価明細書を書くうえで最も複雑な部分ですので、後ほど詳しく解説しますね。
③定期借地権の残存期間逓減率
これは、契約期間全体のうち、相続が発生した時点で残っている期間の価値の割合を示すものです。時間が経つにつれて価値が減っていく(逓減)ことを反映させるための率ですね。以下の計算式で求められます。
残存期間逓減率 = 課税時期における残存期間に応ずる複利年金現価率 ÷ 定期借地権の設定期間に応ずる複利年金現価率
「複利年金現価率」という難しい言葉が出てきましたが、これは国税庁が公表している数値を使いますので、自分で計算する必要はありません。ご安心ください。
「定期借地権等の評価明細書」の入手方法と準備するもの
計算の仕組みが分かったところで、いよいよ評価明細書の作成準備に入りましょう。まずは、どこで用紙を手に入れて、何を用意すればよいかを確認します。
評価明細書のフォーマットはどこで手に入る?
「定期借地権等の評価明細書」のフォーマットは、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。PDF形式で提供されているので、印刷して手書きで作成するか、パソコン上で入力することも可能です。
記入の前に準備する書類
明細書をスムーズに記入するために、事前に以下の書類を手元に準備しておくと安心です。
- 定期借地権設定契約書:契約期間や権利金、保証金の額などが記載されています。
- 土地の登記事項証明書(登記簿謄本):法務局で取得します。土地の所在地や面積が確認できます。
- 固定資産税の課税明細書:毎年市区町村から送られてくるものです。固定資産税評価額の確認に使います。
- 路線価図・評価倍率表:国税庁のホームページで確認できます。自用地評価額の計算に必要です。
「定期借地権等の評価明細書」の書き方を項目別に解説
お待たせしました。ここからは、「定期借地権等の評価明細書」の具体的な書き方を、上から順番に解説していきます。お手元にダウンロードした書式と準備した書類をご用意ください。
「1 定期借地権等の目的となっている宅地の評価」の欄
まず、一番上の欄です。ここには、土地の所在地や地積(面積)などを登記事項証明書を見ながら記入します。そして、「自用地としての価額」の欄には、「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書(第1表)」で計算した自用地評価額を転記します。
「2 定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」の欄
ここが最も複雑な部分です。「経済的利益」とは、以下の3つの合計額を指します。
- (1) 権利金など返還されない金銭:契約時に支払った権利金や礼金、前払地代など、返ってこないお金の合計額を記入します。
- (2) 保証金など返還される金銭の運用益:契約時に預けた保証金や敷金について、無利息または市場金利より低い利率で預けている場合に、その差額分の経済的利益を計算して記入します。計算式が明細書に記載されていますので、契約書を見ながら当てはめていきます。
- (3) 差額地代:親族間での契約などで、相場より著しく安い地代が設定されている場合に、その差額分を経済的利益として計算します。第三者間の通常の契約であれば、ここは該当しないことがほとんどです。
これら(1)~(3)をそれぞれ計算し、その合計額を「経済的利益の総額」の欄に記入します。
「3 定期借地権等の設定の時におけるその宅地の通常の取引価額」の欄
ここには、定期借地権を設定した当時の、その土地の時価(実際の取引価格)を記入します。売買契約書などで確認できればその金額を記入しますが、もし不明な場合は、「設定時の相続税評価額 ÷ 0.8」という計算式で簡易的に算出することも認められています。
「4 課税時期における定期借地権の残存期間年数等」の欄
ここでは、期間に関する情報を整理します。
- 定期借地権等の設定期間年数:契約書で定められた契約期間を記入します。(例:50年)
- 課税時期における残存期間年数:設定期間から、相続開始日までの経過期間を引いた残りの期間を記入します。1年未満の端数は、6か月以上は切り上げ、6か月未満は切り捨てます。
- 基準年利率、複利年金現価率:これらの率は、相続があった年分の「基準年利率」を国税庁のホームページで確認し、そのページにある複利表から該当する期間の数値を転記します。設定期間と残存期間、それぞれの期間に対応する複利年金現価率を記入してください。
「5 定期借地権等の価額」の計算
最後は、これまでに記入した数値を使って最終的な評価額を計算する欄です。評価明細書に記載されている計算式に沿って、数字を当てはめていくだけです。
「1の金額」 × (「2の金額」 ÷ 「3の金額」) × (「4の残存期間に応ずる複利年金現価率」 ÷ 「4の設定期間に応ずる複利年金現価率」)
この計算で出た金額が、相続税申告で使う定期借地権等の評価額となります。
まとめ
今回は、「定期借地権等の評価明細書」の書き方について、詳しく解説しました。特に「借地権者に帰属する経済的利益の総額」の計算は、契約内容によって異なり、非常に複雑です。もし計算を間違えてしまうと、相続税を少なく申告してしまい、後から追徴課税を受けてしまうリスクもあります。少しでも記入に不安を感じたり、計算が難しいと感じられたりした場合は、無理せず税理士などの専門家にご相談されることを強くおすすめします。正確な申告で、安心して相続手続きを終えましょう。
参考文献
定期借地権等の評価明細書の書き方 よくある質問まとめ
Q.「定期借地権等の評価明細書」はどんな時に必要ですか?
A.相続税や贈与税の申告において、定期借地権や地上権などの権利を評価し、その評価額を算出するために必要となります。作成した明細書は申告書に添付して税務署へ提出します。
Q.評価明細書の様式はどこで入手できますか?
A.国税庁のウェブサイトから最新の様式(PDF形式)をダウンロードできます。また、確定申告書等作成コーナーを利用して電子的に作成することも可能です。
Q.「借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額」はどうやって計算しますか?
A.路線価が定められている地域では「路線価方式」で、定められていない地域では「倍率方式」で計算します。倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて算出します。
Q.「定期借地権の残存期間に応ずる割合」はどこで確認できますか?
A.国税庁が公表している財産評価基準書の「定期借地権等の残存期間に応ずる割合」で確認できます。課税時期(相続開始日や贈与日)時点での残存期間に対応する割合を使用してください。
Q.評価明細書と一緒に提出が必要な添付書類はありますか?
A.必須ではありませんが、評価の根拠となる資料(借地権設定契約書の写し、固定資産税評価証明書、路線価図など)を添付すると、税務署の確認がスムーズに進む場合があります。
Q.作成する上で最も注意すべき点は何ですか?
A.課税時期(相続開始日や贈与日)を正確に把握し、その時点の法令や評価基準に基づいて計算することです。特に、残存期間の計算を間違えると評価額が大きく変わるため注意が必要です。