会社の役員になると、自分のお給料、つまり「役員報酬」を決めることができます。しかし、この役員報酬には従業員の給与とは違う、税金に関する大切なルールがあります。その中心となるのが「定期同額給与」です。このルールを正しく理解していないと、せっかくの役員報酬が経費として認められず、結果的に会社の税金が増えてしまうかもしれません。この記事では、定期同額給与の基本から、経費にするための要件、金額を変更するときの注意点まで、分かりやすく解説していきますね。
定期同額給与とは?役員報酬の基本を理解しよう
定期同額給与とは、簡単に言うと「毎月決まった時期に、同じ金額で支払われる役員報酬」のことです。例えば、「毎月25日に50万円を支払う」と決めたら、その事業年度が終わるまで、ずっとそのルールを守って支払う給与のことを指します。従業員のお給料と似ていますが、役員の場合は利益調整を防ぐために、税法で厳格なルールが定められているのが大きな違いです。
損金算入が認められる3つの役員報酬
役員への報酬を経費(損金)として認めてもらうには、次の3つのいずれかの方法で支払う必要があります。中小企業のほとんどは「定期同額給与」を採用しています。
| 給与の種類 | 概 要 |
| 定期同額給与 | 毎月決まった日に同額を支給する給与。事前の届出は不要です。 |
| 事前確定届出給与 | 賞与(ボーナス)のように、特定の日に決まった額を支給する給与。事前に税務署へ「いつ、誰に、いくら支払うか」を届け出る必要があります。 |
| 業績連動給与 | 会社の利益などの業績指標に連動して金額が決まる給与。主に上場企業などが対象で、要件が複雑です。 |
なぜ役員報酬のルールは厳しいの?
なぜ役員報酬だけ、こんなに厳しいルールがあるのでしょうか?それは、役員が自分の給与を自由に決めて、会社の利益を不当に操作するのを防ぐためです。例えば、決算前に「思ったより利益が出たから、役員報酬を増やして税金を減らそう」ということができてしまうと、税の公平性が保てなくなってしまいます。そのため、期中の安易な金額変更ができないように、厳格なルールが設けられているのです。
定期同額給与を損金算入するための3つの要件
定期同額給与として支払った役員報酬を、会社の経費(損金)として全額認めてもらうためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。ここでは、絶対に押さえておきたい3つのポイントを解説します。
毎月決まった日に同じ金額を支払う
これが定期同額給与の最も基本的なルールです。「支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごと」で、その事業年度内の「支給額が同額」であることが求められます。例えば、毎月50万円と決めたのに、ある月だけ60万円にしたり、40万円にしたりすると、原則として変動した部分の金額は経費として認められなくなってしまいます。支給日が銀行の休業日などで1日や2日ずれるのは問題ありませんが、毎月バラバラの日に支払うのは避けましょう。
金額の決定は株主総会の決議が必要
役員報酬の金額は、経営者が勝手に決められるわけではありません。会社法により、定款に定めがない限り、株主総会の決議によって決定する必要があります。そして、決議した内容を証明するために、「株主総会議事録」を作成し、会社で保管しなければなりません。この議事録は、税務調査の際に役員報酬が適正に決定されたかを確認するための重要な証拠となりますので、必ず作成・保管しましょう。
不相当に高額でないこと
役員報酬の金額は、あまりにも高すぎると、その高額な部分が経費として認められない場合があります。これを「不相当高額な役員給与」と言います。何をもって「高額」と判断されるかは、明確な金額基準があるわけではありませんが、主に以下の2つの観点から総合的に判断されます。
| 判断基準 | 内 容 |
| 実質基準 | 役員の職務内容、会社の収益状況、従業員への給与支給状況、同業・同規模の他社の役員報酬水準などと比べて高すぎないか。 |
| 形式基準 | 株主総会で決議された金額を超えて支給していないか。 |
会社の状況に見合わない高額な報酬を設定すると、税務調査で否認されるリスクがあるので注意が必要です。
定期同額給与の金額を変更(改定)できるタイミング
一度決めた役員報酬は、事業年度の途中では原則として変更できません。しかし、会社の状況に変化があった場合には、例外的に変更が認められるタイミングが決められています。知らずにタイミングを間違えると損金にできなくなるため、しっかり確認しましょう。
通常改定:事業年度開始から3ヶ月以内
役員報酬を変更できる最も一般的なタイミングです。事業年度が始まってから3ヶ月以内に開催される株主総会で決議すれば、その事業年度の役員報酬額を変更することができます。例えば、3月決算の会社であれば、新しい事業年度が始まる4月1日から6月30日までの間に決議・変更を行う必要があります。この期間を過ぎてしまうと、後述する特別な理由がない限り、その期の役員報酬は変更できません。
臨時改定事由:役員の地位や職務内容の重大な変更
事業年度の途中であっても、役員の役職や仕事内容が大きく変わった場合には、例外的に報酬の変更が認められます。これを「臨時改定事由」と呼びます。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 取締役が代表取締役に就任した
- 役員が病気やケガで入院し、職務を行えなくなった
- 会社の合併に伴い、役員の職務内容が大きく変わった
このような客観的な事実があれば、期の途中でも報酬の増額や減額が可能です。
業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化したとき
会社の経営状態が著しく悪化し、役員報酬を減額せざるを得ない状況になった場合も、例外的に変更が認められます。これを「業績悪化改定事由」と呼びます。
ただし、これは「減額」に限られます。
具体的には、以下のような深刻なケースが対象です。
- 主要な取引先の倒産や契約解除により、売上が激減した
- 自然災害などにより、事業継続が困難になった
- 財務諸表の数値が大幅に悪化し、金融機関や取引先との関係上、報酬減額が必要になった
「少し業績が落ち込んだ」や「一時的に資金繰りが厳しい」といった理由では認められないため、注意が必要です。
定期同額給与の金額を変更する手続きの流れ
実際に役員報酬の金額を変更する場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。正しい手順を踏まないと、せっかくの変更が税務上認められない可能性もあります。ここでは、具体的な手続きの流れを解説します。
STEP1:株主総会での決議
まず、役員報酬の変更案について、株主総会で決議を得る必要があります。取締役会を設置している会社の場合は、取締役会で具体的な金額を決定し、その上限額について株主総会の承認を得るのが一般的です。いつ、誰の報酬を、いくらに変更するのかを明確にして、株主の承認を得ましょう。
STEP2:株主総会議事録の作成・保管
決議が完了したら、その内容を記録した「株主総会議事録」を作成し、会社で大切に保管します。この議事録には、開催日時、場所、出席者、決議事項、そして決議の結果などを正確に記載します。これは会社法で定められた義務であり、税務調査の際に役員報酬が正しく変更されたことを証明する重要な書類となります。
STEP3:社会保険の手続き(必要な場合)
役員報酬の金額が大きく変わると、健康保険や厚生年金保険の保険料も変わることがあります。具体的には、報酬月額の変更によって標準報酬月額が2等級以上変動する場合は、年金事務所へ「被保険者報酬月額変更届」を提出する必要があります。この手続きを忘れると、正しい社会保険料が計算されないため、忘れずに行いましょう。
定期同額給与が損金不算入になる具体例
定期同額給与のルールを守らなかった場合、具体的にどのようなペナルティがあるのでしょうか。ここでは、よくある失敗例を挙げて、損金として認められなくなる(損金不算入となる)ケースを見ていきましょう。
3ヶ月経過後に理由なく増額・減額した場合
これが最も多い失敗例です。例えば、3月決算の会社が、事業年度開始から3ヶ月を過ぎた12月に「業績が良いから」という理由で、月50万円だった役員報酬を月70万円に増額したとします。この場合、増額した20万円分は、12月から3月までの4ヶ月間、損金として認められません。(20万円 × 4ヶ月 = 80万円が損金不算入)
逆に、業績悪化などの正当な理由なく減額した場合も注意が必要です。例えば、月50万円から月30万円に減額すると、減額前の期間に支払われた報酬の一部(この例では差額の20万円)が「高すぎた」と判断され、損金不算入となる可能性があります。
届け出なく特定の月だけ増額した場合(役員賞与)
毎月の報酬とは別に、夏や冬にボーナスを支払いたい場合もあるでしょう。しかし、これを「事前確定届出給与」として事前に税務署に届け出をしないで支払うと、その全額が損金不算入となります。例えば、毎月50万円の定期同額給与に加え、7月に100万円を役員賞与として支払った場合、この100万円は経費になりません。役員に賞与を支払う場合は、必ず事前に届出の手続きを行いましょう。
まとめ
今回は、定期同額給与について詳しく解説しました。役員報酬を経費として正しく計上することは、会社の節税対策の基本中の基本です。大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 定期同額給与は、毎月決まった日に同額を支払う役員報酬のこと
- 損金算入するには、株主総会の決議や議事録の保管が必要
- 金額の変更は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に行う
- 期の途中で変更できるのは、役員の地位変更や著しい業績悪化など、特別な理由がある場合のみ
- ルールを守らないと、変動した部分の金額が経費として認められず、税金の負担が増えてしまう
役員報酬のルールは少し複雑に感じるかもしれませんが、一度理解すれば難しいものではありません。計画的に金額を決定し、正しい手続きを踏むことで、健全な会社経営と適切な節税につなげることができます。もし判断に迷うことがあれば、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
定期同額給与のよくある質問まとめ
Q.定期同額給与とは何ですか?
A.役員報酬を損金(経費)として計上するための要件の一つで、毎月決まった時期に同じ金額を支給する給与のことです。原則として、事業年度を通じて支給額を変更することはできません。
Q.なぜ定期同額給与にする必要があるのですか?
A.役員報酬を損金として認めさせ、法人税の負担を軽減するためです。このルールを守らないと、支給した役員報酬が損金として認められず、結果的に税負担が増える可能性があります。
Q.定期同額給与の金額はいつ変更できますか?
A.原則として、事業年度開始の日から3ヶ月以内です。この期間内に株主総会などで改定の決議を行い、その事業年度の役員報酬額を決定する必要があります。
Q.事業年度の途中で役員報酬を増減できますか?
A.原則としてできません。ただし、役員の昇進や降格、経営状況が著しく悪化したなどの特別な事情がある場合に限り、例外的に改定が認められることがあります。
Q.役員に賞与(ボーナス)を支給した場合、定期同額給与になりますか?
A.いいえ、なりません。役員への賞与は原則として損金に算入できません。もし役員へ賞与を支給し、それを損金にしたい場合は、事前に税務署へ届出を行う「事前確定届出給与」という別の制度を利用する必要があります。
Q.もし金額を間違えて支給してしまったらどうなりますか?
A.毎月の支給額が同額でなくなった場合、変動した部分だけでなく、その事業年度に支給した役員報酬の全額が損金として認められなくなるリスクがあります。経理処理には十分な注意が必要です。