ご家族が亡くなられた後、「故人が個人年金保険に入っていた」というケースは少なくありません。実は、この「定期的にお金を受け取れる権利」も定期金として相続財産となり、相続税の対象になるんです。でも、預貯金のように金額がはっきりしないため、どう評価すれば良いのか分かりにくいですよね。ここでは、定期金とは何か、そしてその相続税評価の方法について、できるだけ専門用語をかみ砕いて、優しく解説していきますね。
そもそも定期金ってなんですか?
定期金とは、一言でいうと「定期的に分割でお金をもらえる契約に関する権利」のことです。一番身近な例は、保険会社と契約する個人年金保険ですね。被相続人(亡くなった方)が保険料を支払っていて、相続人(財産を受け継ぐ方)がその年金を受け取る場合、その「年金を受け取る権利」そのものが相続財産と見なされるんです。
例えば、「被相続人が亡くなった後、その子供が10年間にわたって毎年100万円ずつ保険金を受け取る」といった契約がこれにあたります。もし1,000万円を一括で受け取るなら評価は1,000万円ですが、10年に分割して受け取る場合は、すぐに全額を自由に使えるわけではないため、価値の評価方法が少し複雑になります。この評価ルールを定めているのが、相続税法という法律なんですよ。
定期金には3つの種類があるんです
相続税の計算をする上で、定期金はその受け取り方によって大きく3つの種類に分けられます。どの種類に当てはまるかで評価方法が変わってくるので、まずはこの違いをしっかりおさえておきましょう。
有期定期金|期間が決まっているタイプ
有期定期金は、お金を受け取れる期間があらかじめ決まっているタイプの定期金です。「契約から15年間」や「受取人が70歳になるまで」のように、期間に上限があるのが特徴ですね。例えば、被相続人が亡くなった後、子供に10年間にわたって毎年50万円が支払われる、といった契約がこれに該当します。
無期定期金|永久にもらえるタイプ
無期定期金は、その名の通り、期間の定めがなく永久にお金を受け取れる権利のことを指します。理論上は存在するものの、現実の保険商品などでこのような契約が結ばれることはほとんどありません。少し特殊なケースだと考えていただいて大丈夫です。
終身定期金|亡くなるまでずっともらえるタイプ
終身定期金は、受取人が亡くなるまでずっとお金を受け取れる権利のことです。受取人が長生きすればするほど、受け取れる総額が増えるのが特徴です。公的年金とは別に、生命保険会社などが提供する終身年金保険がこれにあたりますね。いつまで受け取れるか分からないため、評価の際には「平均であと何年くらい生きるか」という指標が使われます。
相続税の評価方法は?【種類別】
ここからが本題です。定期金の相続税評価は、先ほどご説明した3つの種類ごとに異なります。基本的な考え方として、「もし今すぐ解約したらいくらになるか」「一時金で受け取るとしたらいくらになるか」「法律の計算式で計算したらいくらになるか」の3つを比べて、その中で最も高い金額を財産の評価額とするルールになっています。これは、相続税を不当に安くすることを防ぐための決まりなんです。
有期定期金の評価方法
有期定期金の権利は、下記の3つの金額を計算し、そのうち最も大きい金額で評価します。
| 評価方法1 | 相続開始の時点(亡くなった日)で解約した場合に支払われる解約返戻金の額 |
| 評価方法2 | 分割ではなく一時金で受け取れる場合に、その一時金の額 |
| 評価方法3 | 1年あたりの平均給付額 × 残りの期間に応じた複利年金現価率 ※少し複雑な計算式ですが、将来受け取るお金の総額を現在の価値に直したものです。 |
無期定期金の評価方法
無期定期金の権利も同様に、下記の3つのうち最も大きい金額で評価します。計算方法3が有期定期金と少し違うのがポイントです。
| 評価方法1 | 相続開始の時点で解約した場合に支払われる解約返戻金の額 |
| 評価方法2 | 一時金で受け取れる場合に、その一時金の額 |
| 評価方法3 | 1年あたりの平均給付額 ÷ その契約の予定利率 |
終身定期金の評価方法
終身定期金の権利も、やはり下記の3つのうち最も大きい金額で評価します。計算方法3では、受取人の「平均余命」が使われます。
| 評価方法1 | 相続開始の時点で解約した場合に支払われる解約返戻金の額 |
| 評価方法2 | 一時金で受け取れる場合に、その一時金の額 |
| 評価方法3 | 1年あたりの平均給付額 × 受取人の平均余命に応じた複利年金現価率 |
評価に必要な用語をわかりやすく解説
評価方法のところで、少し難しい言葉が出てきましたね。ここでは、計算に必要なキーワードを一つひとつ解説します。実際の計算には保険会社への問い合わせが必要な情報も含まれますので、ご注意くださいね。
解約返戻金・一時金
これは言葉の通りで、もし相続した定期金の契約をその時点ですぐに解約した場合に戻ってくるお金(解約返戻金)や、分割ではなく一括で受け取ることを選択した場合の金額(一時金)のことです。この金額は、契約している保険会社に問い合わせれば、「相続開始日時点の金額」として教えてもらうことができます。
予定利率
予定利率とは、保険会社が保険料を運用する際に契約者へ約束する利回りのことです。この利率が高いほど、保険料は安く、返戻金は多くなる傾向があります。これも個人では計算できないので、保険会社に確認する必要があります。
複利年金現価率
複利年金現価率は、「将来、何年にもわたって受け取るお金は、現在の価値に直すといくらになるか」を計算するための係数です。お金は時間とともに価値が変わる(今の100万円と10年後の100万円は価値が違う)という考えに基づいています。この率は国税庁が毎年公表しており、誰でも確認することができます。
平均余命
平均余命とは、「ある年齢の人が、平均してあと何年生きられるか」という統計上の年数のことです。これは厚生労働省が公表している「完全生命表」というデータを使います。例えば、60歳の男性の平均余命は約24年、女性なら約29年となっています(令和4年時点)。終身定期金の評価では、この年数をもとに将来受け取る総額を予測するんですね。
定期金を受け取った後の所得税にも注意
定期金に関する税金は、相続税だけで終わりではありません。相続した権利に基づいて、実際に年金の支払いを受け取り始めると、その年金収入に対して所得税(雑所得)がかかる場合があります。
「え、相続税も所得税も二重で取られるの?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。二重課税にならないような仕組みがちゃんと用意されています。簡単に言うと、相続税を計算するときに財産として評価された部分については、所得税の計算では経費のように扱われ、課税対象から差し引かれるんです。
ただし、この所得税の計算は年々変わっていき、非常に複雑です。年金の受け取りが始まったら、確定申告が必要になるケースがほとんどですので、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、相続財産となる「定期金」について解説しました。最後にポイントを振り返っておきましょう。
- 定期金とは、個人年金保険など「定期的にお金を受け取れる権利」のことで、相続税の対象になります。
- 受け取り方によって「有期定期金」「無期定期金」「終身定期金」の3種類に分けられます。
- 相続税評価額は、基本的に「解約返戻金額」「一時金額」「法律の計算式で算出した額」の3つのうち最も高い金額が採用されます。
- 正しい評価額を計算するには、保険会社への問い合わせや専門的な知識が必要です。
- 実際に年金を受け取り始めると、所得税(雑所得)がかかる場合があることも覚えておきましょう。
定期金の評価は、相続税申告の中でも特に複雑で分かりにくい部分の一つです。もしご自身での判断に不安を感じたら、無理せず相続に詳しい税理士に相談してくださいね。正確な申告をすることが、何よりの安心につながりますよ。
参考文献
- 財産評価基本通達 第24条(定期金に関する権利の評価)関係|国税庁
- No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係|国税庁
- 令和6年簡易生命表の概況|厚生労働省
定期金に関するよくある質問まとめ
Q.定期金とは何ですか?
A.定期金とは、生命保険契約などに基づき、一定期間または生涯にわたって定期的に金銭を受け取る権利のことです。個人年金保険などが代表的な例です。
Q.定期金と年金の違いは何ですか?
A.公的年金は国が運営する社会保障制度ですが、定期金は主に民間の保険会社などが提供する金融商品を指します。受け取りの原資や法的根拠が異なります。
Q.定期金にはどのような種類がありますか?
A.期間が決まっている「有期定期金」、被保険者が生存している限り続く「終身定期金」、契約者が亡くなった後も遺族が受け取れる「保証期間付終身定期金」などがあります。
Q.定期金は相続税の対象になりますか?
A.はい、なります。被相続人が保険料を負担し、相続人が受取人となっている定期金は、相続税法上「みなし相続財産」として課税対象になります。
Q.相続税における定期金の評価方法は?
A.定期金の評価額は、①解約返戻金の額、②一時金として受け取れる場合の金額、③将来受け取る予定の金額の現在価値、のいずれか最も高い金額で評価されます。
Q.定期金を受け取る際、他に税金はかかりますか?
A.はい、かかります。相続税の申告後、実際に定期金を受け取る際には、契約者と受取人の関係によって所得税(雑所得)または贈与税の対象となる場合があります。