ご実家の売却を考えたとき、「売却時に住んでいないと、税金の控除が受けられないかも…」と不安に思われる方は少なくありません。銀行のご担当者様から居住要件について指摘を受け、心配になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。以前に「住まなくても大丈夫」と聞いた記憶があるけれど、それが所得税の話だったか、それとも相続税の話だったか…と混乱してしまうのも無理はありません。ご安心ください。実は、実家の状況によって、売却時に住んでいなくても所得税の控除を受けられるケースはちゃんと存在します。この記事では、実家の不動産売却に関する所得税の控除について、特に気になる「居住要件」に焦点を当てて、優しく、分かりやすく解説していきます。
所得税の控除、どんな種類があるの?
まず、不動産を売却して利益(これを譲渡所得といいます)が出ると、その利益に対して所得税と住民税がかかります。でも、ご安心ください。この税金の負担を軽くするための特例(特別控除)が用意されています。ご実家の売却で関係してくる可能性が高いのは、主に次の2つの特例です。
- マイホーム(居住用財産)を売ったときの3,000万円特別控除
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除(通称:空き家特例)
どちらも最大で3,000万円もの利益を控除できる、とても大きな特例です。しかし、どちらを使えるかは、ご実家の状況、特に「誰が」「いつまで」住んでいたかによって変わってきます。それぞれの「居住要件」を詳しく見ていきましょう。
「マイホーム(居住用財産)の3,000万円特別控除」とは?
この特例は、ご自身が住んでいた家、つまり「マイホーム」を売却したときに使える制度です。例えば、ご両親から相続した実家に、ご自身が引っ越して住んでいた場合などが当てはまります。
制度の概要
この特例の最大のポイントは、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できることです。つまり、売却による利益が3,000万円までであれば、所得税や住民税がかからなくなる可能性がある、非常に強力な制度です。
気になる「居住要件」は?
銀行の支店長さんが指摘されたのは、おそらくこの特例の居住要件のことでしょう。原則として、ご自身が住んでいる家を売却することが条件です。しかし、ここが大切なポイントです。
家を離れて住まなくなってからでも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、この特例の対象になります。
例えば、2022年5月に実家から引っ越した場合、2025年12月31日までに売却すれば、売却時に住んでいなくても控除を受けられる可能性があるのです。この期間内であれば、家を他の人に貸したりしていても問題ありません。以前「住まなくても大丈夫」と聞いたのは、この条件のことだったのかもしれませんね。
その他の主な適用要件
居住要件以外にも、いくつか大切な条件があります。代表的なものを表にまとめました。
売却先 | 親子や夫婦など、特別な関係にある人への売却ではないこと。 |
併用できない特例 | 売った年の前年や前々年に、この特例や住宅ローン控除など、他のマイホームに関する特例を使っていないこと。 |
家を取り壊した場合 | 家を取り壊した日から1年以内に売買契約を結び、住まなくなってから3年後の年末までに売却すること。また、取り壊してから売るまでの間、土地を駐車場など他の用途で貸していないこと。 |
この特例は、あくまで「ご自身が住んでいた家」が対象になる、という点を覚えておいてください。
相続した実家なら「空き家特例」が使えるかも!
ご両親が亡くなられて相続した実家が、誰も住まないまま空き家になっている…というケースも多いかと思います。この場合に使える可能性があるのが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」、通称「空き家特例」です。
制度の概要
こちらも、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。相続によって増え続ける空き家を減らすことを目的に作られました。この特例のおかげで、税金の心配をせずに実家の整理を進められる方がたくさんいらっしゃいます。
気になる「居住要件」は?
「空き家特例」の居住要件は、先ほどのマイホームの特例とは視点が異なります。この特例では、売主であるあなた(相続人)が住んでいる必要はありません。
その代わりに、「亡くなられた方(被相続人)が、亡くなる直前まで一人で住んでいたこと」が基本的な要件となります。
「でも、うちの親は亡くなる前、老人ホームに入っていたんだけど…」という方もいらっしゃるでしょう。ご安心ください。一定の要件を満たせば、被相続人が老人ホーム等に入居していた場合でも、この特例の対象になります。 例えば、施設に入居後も、ご実家が荷物置き場として使われていたり、一時的に帰宅したりしていた実態があり、誰にも貸していなかった場合などが該当します。
ただし、介護のためにあなた(子)の家に引っ越していた場合や、一般の賃貸住宅に移っていた場合は、残念ながら対象外となります。
その他の主な適用要件
空き家特例には、居住要件以外にも特徴的な条件がいくつかありますので、しっかり確認しましょう。
対象となる建物 | 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋であること。(マンションなどの区分所有建物は対象外) |
売却の条件 | 家が一定の耐震基準を満たすようにリフォームして売るか、家を取り壊して更地にしてから売ること。
※2024年1月1日以降の売却からは、売却後に買主が耐震改修や取り壊しを行った場合も対象となるよう拡充されました。 |
売却の期限 | 相続が開始した日(亡くなった日)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。 |
売却金額 | 売却代金が1億円以下であること。 |
相続後の利用 | 相続してから売却するまでの間、事業用や賃貸用、居住用として使われていないこと。 |
この特例は、まさに「相続した空き家」を売るための制度と言えますね。
結局、どちらの特例を使えばいいの?
「マイホームの特例」と「空き家特例」、ご自身の状況がどちらに当てはまるか、整理してみましょう。
- ケース1:ご自身が住んでいた(または最近まで住んでいた)実家を売る場合
→ 「マイホーム(居住用財産)の3,000万円特別控除」を検討しましょう。住まなくなってから3年後の年末までという期限を忘れないようにしてくださいね。
- ケース2:相続で受け継いだけれど、誰も住んでいない空き家の実家を売る場合
→ 「空き家特例」が使えるか確認しましょう。建物の建築年月日や耐震性、売却期限などの要件を一つひとつチェックすることが大切です。
- ケース3:相続した実家に、ご自身(相続人)が引っ越して住んでいる場合
→この場合、実家はあなたにとっての「マイホーム」になります。そのため、売却するときは「マイホーム(居住用財産)の3,000万円特別控除」の対象となります。「空き家特例」は使えませんのでご注意ください。
このように、ご実家の状況によって使える特例が変わってきます。銀行の担当者様がおっしゃっていた「居住していないと控除が受けられない可能性」というのは、ご自身の状況がどちらの特例の、どの要件に当てはまるかによって判断が分かれる、ということだったのかもしれません。
特例を使うための大切な注意点
これらの特例を利用して税金の負担を軽くするためには、いくつか共通の注意点があります。
確定申告が必ず必要です
特別控除を使った結果、納める税金が0円になったとしても、必ず売却した翌年に確定申告が必要です。「税金がかからないなら何もしなくていい」というわけではないので、絶対に忘れないようにしましょう。
他の特例との併用には注意
特に「マイホームの3,000万円特別控除」は、新しく家を購入した際に利用する「住宅ローン控除」とは原則として併用できません。どちらを使った方が全体として得になるかは、ご家庭の状況によって異なりますので、慎重な判断が必要です。
専門家への相談も検討しましょう
ここまでご説明したように、それぞれの特例には細かな要件がたくさんあります。ご自身での判断が難しい、少しでも不安があるという場合は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。売却手続きを進める前に相談することで、安心して最適な選択ができますよ。
まとめ
実家の不動産売却に関する所得税の控除について、ご不安は少し解消されたでしょうか。最後に、今回のポイントを振り返ってみましょう。
- 実家の売却で使える所得税の大きな控除には「マイホームの特例」と「空き家特例」の2種類がある。
- どちらの特例も、特定の条件下では「売却時に住んでいなくても」適用できる可能性がある。
- 「マイホームの特例」は、自分が住まなくなってから3年後の年末までが期限。
- 「空き家特例」は、亡くなった親が住んでいたことが要件で、相続人が住む必要はない。
- どちらの特例を使うにも、必ず確定申告が必要。
「住んでいるか、いないか」という点だけで判断するのではなく、ご実家のこれまでの状況や、これからの売却スケジュールに合わせて、どの特例が利用できるかを正しく理解することがとても大切です。大切なご実家の売却を、後悔なく進められるよう、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
参考文献
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)
実家の不動産売却に関する所得税控除のよくある質問まとめ
Q. 実家を売却する際、税金の控除は受けられますか?
A. はい、要件を満たせば「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」や「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」などの所得税控除を受けられる可能性があります。
Q. 売却する実家に自分が住んでいないと、3,000万円の特別控除は受けられないのでしょうか?
A. はい、原則として売主自身が住んでいる家(居住用財産)が対象です。ただし、住まなくなってから3年目の年末までに売却するなどの一定の要件を満たせば、適用できる場合があります。
Q. 相続した実家の場合、住んでいなくても控除を受けられると聞きました。本当ですか?
A. はい、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(通称:空き家特例)のことだと思われます。この特例は、ご自身が住んでいなくても、亡くなった親などが一人で住んでいた等の要件を満たせば、最高3,000万円の控除が受けられます。
Q. 「空き家特例」を受けるための主な要件は何ですか?
A. 主な要件は、①相続開始直前まで被相続人が一人で住んでいたこと、②昭和56年5月31日以前の旧耐震基準の家屋であること、③相続時から売却時まで事業や貸付に使われていないこと、④売却代金が1億円以下であること、などです。家屋の取り壊しや耐震リフォームが必要になるケースもあります。
Q. 「3,000万円の特別控除」と「空き家特例」の違いは何ですか?
A. 最も大きな違いは「誰が住んでいたか」です。「3,000万円の特別控除」は売主自身が住んでいたマイホームが対象、「空き家特例」は亡くなった親など(被相続人)が住んでいた相続空き家が対象となります。両方の特例を同時に適用することはできません。
Q. どちらの控除が適用できるか、自分で判断が難しいです。
A. ご自身の状況(いつまで住んでいたか、相続物件かなど)によって適用できる控除や要件が細かく異なります。間違いのないように、まずは税務署や税理士などの専門家にご相談されることを強くおすすめします。