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家族信託で証券を信託する際の注意点とは?失敗しないためのポイント解説

2025-10-28
目次

ご自身の親御さんの将来を考え、「認知症になったら、実家の不動産や預金はどうしよう…」と心配される方は多いですよね。その対策として注目されているのが家族信託です。特に、株式や投資信託などの「証券」を運用されている親御さんの場合、家族信託は非常に有効な手段となります。しかし、預金や不動産と違い、証券を信託する際には、特有の注意点がいくつかあります。これを「知らなかった」では、せっかくの準備が無駄になってしまうことも。この記事では、家族信託で証券を信託する場合の具体的な留意点や手続きの流れ、税金の話まで、分かりやすく丁寧にご説明していきますね。

家族信託で証券を信託する大きなメリット

まず、なぜ証券を家族信託する方が増えているのでしょうか。その背景には、他の財産にはない証券ならではの事情と、家族信託が持つ大きなメリットがあります。

認知症による資産凍結を確実に防げる

最大のメリットは、資産凍結を防げることです。証券口座の名義人である親御さんが認知症などで判断能力が低下したと金融機関に判断されると、その方の資産を守るために口座が凍結されてしまいます。こうなると、たとえご家族であっても、株式を売却して介護費用に充てたり、満期になった投資信託を解約したりすることが一切できなくなってしまいます。家族信託を組んでおけば、受託者であるお子さんが、親御さんの判断能力に関わらず、契約内容に従って証券の売買や管理を継続できるため、資産を有効活用し続けられるのです。

柔軟な資産承継の設計が可能になる

家族信託は、遺言よりも自由で柔軟な資産承継を実現できる点も魅力です。例えば、遺言では「財産は妻へ」という一代限りの指定しかできません。しかし家族信託では、「私が亡くなったら、まずは妻が利益を受け取り(受益者)、妻が亡くなったら、その残りの財産は長男が引き継ぐ」といったように、数世代にわたる資産承継の形を決めておくことができます。これを「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と呼び、ご自身の想いを長期的に実現できる仕組みです。

万が一の際も安心の倒産隔離機能

「倒産隔離機能」という言葉を聞いたことはありますか?これは、信託された財産が、託した人(委託者)や託された人(受託者)個人の財産から法的に独立するという大切な機能です。例えば、万が一、財産を管理しているお子さん(受託者)が事業に失敗して多額の借金を負ってしまったとしても、信託された証券は差し押さえの対象にはなりません。親御さんの大切な資産を、外部のリスクから守ることができるのです。

証券を信託する前に!金融機関への確認は必須です

証券の家族信託を考え始めたら、何よりも先にすべきことがあります。それは、親御さんが口座をお持ちの証券会社や銀行などの金融機関への確認です。ここを怠ると、計画が全く進まなくなる可能性があるので注意しましょう。

そもそも家族信託に対応しているか

残念ながら、すべての金融機関が家族信託の手続きに対応しているわけではありません。特にネット証券などでは、対応していないケースも多く見られます。いざ信託契約書を作成しても、肝心の証券会社が対応してくれなければ、証券を信託財産として移すことができません。必ず、契約準備を進める前に「家族信託でこちらの口座にある有価証券を信託したいのですが、手続きは可能でしょうか?」と、はっきりと確認を取りましょう。

信託口口座の開設と取扱商品

信託された財産は、受託者個人の財産と明確に分けて管理する義務(分別管理義務)があります。そのため、証券を管理するために「委託者〇〇 受託者△△ 信託口」といった名義の専用口座、いわゆる「信託口口座」を開設する必要があります。この信託口口座の開設に対応している金融機関も、まだ限られているのが現状です。また、信託口口座で取引できる金融商品が制限される場合も多いので、注意が必要です。

信託が難しい可能性がある主な商品 NISA・つみたてNISA口座内の商品、FX、信用取引、デリバティブ商品など
確認すべきポイント 信託口口座が開設できるか。現在保有している商品をそのまま信託できるか。信託後に新規で投資できる商品の種類は何か。

これらの点は、金融機関によってルールが大きく異なりますので、一つひとつ丁寧に確認することが成功の鍵となります。

証券を家族信託する具体的な手続きの流れ

では、実際に証券を家族信託する際、どのようなステップで進めていくのでしょうか。大まかな流れをご説明します。

専門家への相談と信託契約書の作成

まずは、家族信託に詳しい司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。「誰のために」「何を」「どのように」管理・承継していきたいのか、ご家族の希望を伝えて、最適な信託の形を設計してもらいます。その内容を盛り込んだ「信託契約書」を作成しますが、後々のトラブル防止や手続きの円滑化のため、公証役場で公正証書にするのが一般的です。

金融機関との事前協議と手続きの確認

契約書案の作成と並行して、証券会社との協議を進めます。専門家を通じて、信託契約書の内容で問題ないか、手続きに必要な書類は何かなどを確認してもらいます。金融機関によっては、独自の書式や覚書の提出を求められることもあります。この事前協議がスムーズに進むかどうかが、非常に重要です。

信託口口座の開設と証券の移管

信託契約の締結と金融機関の内部審査が終わったら、いよいよ信託口口座を開設します。その後、親御さん(委託者)個人の証券口座から、お子さん(受託者)名義の信託口口座へ、株式や投資信託などを移管する手続き(振替手続き)を行います。この移管が完了して、初めて証券の家族信託がスタートします。

見落としがち?証券の信託にかかる税金の注意点

家族信託は便利な制度ですが、税金の扱いについては少し複雑な面があります。特に証券の運用益に関する税金は、しっかり理解しておく必要があります。

利益が出た場合の確定申告は誰がする?

信託した証券から配当金や分配金、売却益(譲渡所得)などの利益が出た場合、その利益は誰のものでしょうか?答えは「受益者」です。多くの家族信託では、親御さんが「委託者兼受益者」となりますので、利益は親御さんのものになります。そのため、利益が出た場合の確定申告と納税の義務は、財産を管理している受託者(お子さん)ではなく、受益者(親御さん)が負うことになります。受託者が代わりに申告手続きを行うことはできますが、納税義務者があくまで受益者である点は覚えておきましょう。

最も注意したい「損益通算」の制限

ここが一番の注意点かもしれません。信託された証券の運用で損失(譲渡損失)が出てしまった場合、その損失は、信託していない他の所得と損益通算することができません

具体的に見てみましょう。

損益通算のケース 可否
信託口座の株式の損失 受益者個人の給与所得 不可
信託口座の株式の損失 受益者個人の別口座(特定口座など)の株式の利益 不可
信託口座の株式の損失 同じ信託財産内の不動産所得の黒字 可能

このように、信託財産はそれ全体で一つの独立した財布のように扱われるため、信託の「外」にある個人の財産と損益を合算できないルールになっています。積極的な運用を考えている場合は、この点を踏まえて信託する証券の種類や範囲を慎重に検討する必要があります。

贈与税や相続税への影響は?

一般的な「委託者=受益者」である「自益信託」の場合、財産の価値が本人から本人に移るだけなので、信託を設定したときに贈与税はかかりません。また、信託財産は受益者の財産として扱われるため、受益者である親御さんが亡くなった際には、その時点での信託財産が相続税の課税対象となります。つまり、家族信託は資産凍結を防ぐための制度であり、直接的な相続税対策になるわけではない、ということを理解しておきましょう。

失敗しないための専門家選びのポイント

証券の家族信託は、不動産だけの信託に比べて手続きが複雑で、金融機関との調整も必要になります。そのため、誰に相談するかという専門家選びが非常に重要です。

家族信託と金融機関実務に詳しい専門家を

ただ信託契約書が作れるというだけでなく、証券会社との交渉や信託口口座の開設手続きなど、金融機関の実務に精通している司法書士や弁護士を選ぶことが大切です。過去に証券信託の案件を扱った経験が豊富かどうかを、相談の際に確認してみると良いでしょう。

税務面の相談もできる体制か

先ほどご説明したように、信託に関わる税金、特に損益通算のルールは非常に専門的です。信託に詳しい税理士と連携している事務所や、税務面のアドバイスもできる専門家を選ぶと、後々の確定申告などで困ることがなく安心です。

まとめ

今回は、家族信託で証券を信託する場合の留意点について詳しく解説しました。証券の家族信託は、認知症などによる資産凍結を防ぎ、大切な資産を守りながら柔軟な管理を可能にする、とても有効な方法です。しかし、そのためには、金融機関が対応しているか、信託できる商品に制限はないかといった事前の確認が不可欠です。また、損益通算ができないなど、税務上の特有のルールも存在します。ご自身だけで進めるのは難しい部分も多いので、ぜひ金融機関の実務に詳しい専門家に相談しながら、ご家族にとって最適な形で大切な資産を守り、未来へ繋いでいきましょう。

参考文献

国税庁 No.4508 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税(※信託の基本的な課税関係の考え方として参考)

家族信託で証券を信託する場合のよくある質問まとめ

Q.どんな証券でも家族信託できますか?

A.すべての証券会社が家族信託に対応しているわけではありません。まずは、お取引のある証券会社が家族信託に対応しているか、信託口口座を開設できるかを確認する必要があります。対応していない場合は、対応可能な証券会社に口座を移管するなどの手続きが必要です。

Q.家族信託すると、株の損益通算や繰越控除はできなくなりますか?

A.信託した証券から生じた利益や損失は、受益者に帰属します。そのため、受益者が所有する他の証券の損益と通算すること(損益通算)や、損失を翌年以降に繰り越すこと(繰越控除)は、原則として可能です。ただし、信託契約の内容や税制の変更により取扱いが変わる可能性もあるため、専門家への確認をおすすめします。

Q.NISA口座の株式や投資信託も家族信託できますか?

A.NISA口座内の金融商品は、家族信託の対象にすることはできません。NISA口座の制度上、口座名義人本人による取引が前提となっているためです。信託したい場合は、NISA口座から課税口座に移管した上で手続きを行う必要があります。

Q.信託した株式の配当金や投資信託の分配金は誰が受け取るのですか?

A.配当金や分配金は、信託財産の一部として受託者が管理する信託口口座に入金されます。そして、その利益を受け取る権利は「受益者」にあります。通常、受益者(多くは親)の生活費などに充てられます。

Q.受託者は信託された証券を自由に売買できますか?

A.受託者は、信託契約書で定められた目的の範囲内で証券を管理・運用します。契約内容によりますが、一般的には受益者の利益のために、資産の組み換え(売買)を行う権限が与えられます。ただし、自己の利益のための取引など、信託の目的に反する行為は許されません。

Q.証券を家族信託する際、どのような費用がかかりますか?

A.専門家(司法書士や弁護士など)に信託契約書の作成を依頼する費用、信託口口座の開設手数料(金融機関による)、場合によっては公証役場で契約書を公正証書にする際の手数料などが必要です。具体的な金額は依頼先や信託する財産の内容によって異なります。

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