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家族信託と遺言の併用は最強?メリット・デメリットを徹底解説

2025-02-28
目次

大切な財産を誰にどのように遺すか。その方法として「家族信託」と「遺言」があります。どちらも耳にしたことはあるけれど、違いがよくわからない、どちらを選べばいいか迷っている、という方も多いのではないでしょうか。実はこの二つ、どちらか一方を選ぶだけでなく、上手に併用することで、それぞれの弱点を補い合い、より強力な生前対策が可能になるんです。この記事では、家族信託と遺言を併用するメリット・デメリットから、具体的な注意点まで、わかりやすくお話ししていきますね。

家族信託と遺言、それぞれの役割と違い

まずは基本の確認から。家族信託と遺言は、どちらも財産の承継先を決めるための大切な手続きですが、その役割や特徴には大きな違いがあります。この違いを理解することが、上手に活用する第一歩です。

効力が発生するタイミングが違う

一番大きな違いは、効力が発生するタイミングです。家族信託は、契約を結んだ時点から効力がスタートします。そのため、元気なうちから財産管理を家族に任せることができ、認知症などによる判断能力の低下に備えることができます。一方で、遺言は、遺言者が亡くなった後にはじめて効力が発生します。つまり、生前の財産管理には対応できないのです。

財産を渡す相手をどこまで決められる?

財産の承継先をどこまで指定できるか、という点も異なります。遺言で指定できるのは、基本的に次の代(一次相続)までです。「私が亡くなったら妻に、妻が亡くなったら長男に」と遺言に書いても、妻が財産を受け取った後に考えを変えて、別の内容の遺言を作成してしまう可能性は否定できません。しかし、家族信託には「受益者連続型信託」という仕組みがあり、「自分が亡くなったら妻に、妻が亡くなったら長男に、長男が亡くなったら孫の〇〇に」というように、何代にもわたる資産承継の道筋を法的に有効な形で決めておくことができます。

生前の財産管理ができるのは家族信託だけ

もし認知症などで判断能力が低下してしまうと、預金口座が凍結されたり、不動産の売却や修繕ができなくなったりする「資産凍結」のリスクがあります。遺言は亡くなった後にしか効力がないため、この資産凍結リスクには対応できません。その点、家族信託は元気なうちから信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用を託す制度なので、認知症対策として非常に有効です。たとえ本人の判断能力が低下しても、受託者が契約内容に従って財産を管理し続けてくれます。

内容の変更や撤回のしやすさ

内容の変更や撤回のルールも異なります。遺言は、遺言者本人の意思だけで、いつでも自由に書き直したり、取り消したりすることができます。しかし、家族信託は「契約」なので、原則として委託者(財産を託す人)、受託者(財産を託される人)、受益者(利益を受ける人)といった当事者全員の合意がなければ変更や解除はできません。この点は、簡単に変えられない安心感がある一方で、柔軟性に欠けるとも言えますね。

比較項目 家族信託
効力発生時期 契約後すぐ(生前)
二次相続以降の指定 可能(受益者連続型信託)
生前の財産管理 可能(認知症対策に有効)
変更・撤回 原則、当事者全員の合意が必要
比較項目 遺言
効力発生時期 死亡後
二次相続以降の指定 不可(法的な拘束力なし)
生前の財産管理 不可
変更・撤回 本人だけで自由にできる

家族信託と遺言を併用するメリット

「家族信託があれば遺言はいらないのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ、併用することで、お互いの弱点をカバーし、より理想的な財産管理と資産承継を実現できるんです。

すべての財産の行き先を漏れなく指定できる

家族信託で管理できるのは、契約で定めた「信託財産」に限られます。例えば、自宅不動産と預金の一部を信託しても、それ以外の預金、株式、自動車、貴金属などは信託財産に含まれません。これらの財産について何も対策をしないと、相続が発生したときに遺産分割協議が必要になり、相続人間でトラブルになる可能性があります。そこで遺言書を併用し、「信託財産以外のすべての財産は、〇〇に相続させる」と指定しておくことで、すべての財産の行き先を明確にし、スムーズな相続を実現できます。

農地など信託しにくい財産もカバーできる

財産の中には、法律上の規制で家族信託に含めることが難しいものもあります。代表的なのが「農地」です。農地を信託するには農業委員会の許可が必要な場合があり、手続きが複雑です。こういった信託が難しい財産については、遺言書で承継先をしっかりと定めておくことが非常に重要になります。

遺言でしかできない「身分行為」を指定できる

法律には「身分行為」と呼ばれるものがあり、これは遺言でしか定めることができません。具体的には、以下のような内容です。

  • 子の認知
  • 未成年後見人の指定
  • 相続人の廃除・取消し

もし、このような希望がある場合は、家族信託とは別に、必ず遺言書を作成しておく必要があります。

家族信託と遺言を併用するデメリットと注意点

メリットの大きい併用ですが、いくつか知っておくべきデメリットや注意点もあります。事前にしっかり理解しておきましょう。

費用が高くなる可能性がある

当然ですが、家族信託と遺言の両方を専門家に依頼して作成すると、それぞれに費用がかかります。特に、どちらも法的な効力を確実にするために「公正証書」で作成するのが一般的ですので、その分の費用も考慮しておく必要があります。

種類 費用の目安
家族信託 専門家報酬:信託財産の評価額の1%前後(最低30万円~)+ 公正証書作成費用:約3~11万円 + 登録免許税(不動産がある場合):固定資産税評価額の0.3~0.4%など
公正証書遺言 専門家報酬:約10~30万円 + 公正証書作成費用:約4~10万円(財産額による) + 証人日当(2名分):約2~3万円など

費用はかかりますが、将来のトラブルを防ぎ、ご自身の想いを確実に実現するための投資と考えることもできますね。

内容に矛盾が生じないように注意が必要

併用する上で最も注意したいのが、家族信託の契約内容と遺言書の内容が矛盾してしまうことです。例えば、家族信託契約で「自宅不動産は、私が死亡したら長男に帰属させる」と定めたにもかかわらず、遺言書で「自宅不動産は、次男に相続させる」と書いてしまうようなケースです。このような矛盾は、相続時の混乱やトラブルの大きな原因となります。

どちらが優先されるの?

もし、家族信託と遺言の内容が矛盾してしまった場合、原則として「家族信託」の内容が優先されます。なぜなら、信託契約を結んだ時点で、その財産(信託財産)の所有権は形式的に受託者へ移転しており、もはや遺言者の財産(遺産)ではなくなっているからです。遺言の効力は遺産にしか及ばないため、信託財産については遺言で指定しても無効になってしまうのです。これは、遺言書と信託契約のどちらを先に作成したかに関係なく、常に家族信託が優先されます。

【ケース別】あなたの場合は併用すべき?

それでは、どのような場合に併用を検討すべきなのでしょうか。具体的なケースで見ていきましょう。

認知症対策など、生前の財産管理が心配な場合

この場合は、家族信託の活用が最も効果的です。遺言では生前の財産管理はできません。そして、信託しなかった財産のために遺言書を併用することで、生前から死後まで、財産に関する心配事をなくすことができます。

財産の承継先を孫の代まで確実に決めたい場合

先祖代々の土地や事業を特定の子孫に継がせたいなど、二次相続以降の承継先まで指定したいなら、受益者連続型信託が可能な家族信託が必須です。遺言では法的な拘束力がないため、想いを確実に実現することは難しいでしょう。

費用を抑え、死後の財産承継だけを決めたい場合

もし、生前の財産管理には特に不安がなく、亡くなった後の財産の分け方だけを指定したいのであれば、遺言書だけで十分かもしれません。特に、自分で作成する「自筆証書遺言」であれば、費用をほとんどかけずに作成することも可能です。

併用を成功させるためのポイント

家族信託と遺言の併用は、非常に強力な対策ですが、設計が複雑になります。成功させるためには、以下のポイントを押さえておきましょう。

専門家への相談が不可欠

家族信託と遺言の併用は、法務(民法、信託法など)と税務(相続税、贈与税など)の両方の知識が不可欠です。ご自身や家族だけで進めるのは非常にリスクが高いため、必ず家族信託に詳しい司法書士や弁護士、税理士といった専門家に相談しましょう。

家族会議でしっかり話し合う

なぜ対策が必要なのか、どのような想いで財産を遺したいのか、その目的や内容をオープンに話し合う「家族会議」の場を設けることが大切です。家族の理解と協力が、後のトラブルを防ぐ一番の鍵となります。

まとめ

家族信託と遺言は、どちらか一方が優れているというものではなく、それぞれに異なる役割と得意分野があります。お互いの弱点を補う形で併用することで、認知症による資産凍結リスクへの備えから、何代にもわたる円滑な資産承継まで、より盤石な対策を講じることが可能になります。設計は複雑になりますが、大切な家族と財産を守るために、非常に有効な選択肢です。まずは専門家に相談し、あなたの家族に合った最適なプランを一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

参考文献

国税庁:相続税のあらまし

国税庁:贈与税の申告のしかた

国税庁:No.4103 相続時精算課税の選択

家族信託と遺言の併用に関するよくある質問まとめ

Q.家族信託と遺言を併用する最大のメリットは何ですか?

A.家族信託で生前の財産管理と承継をスムーズにし、遺言で信託財産以外の財産や「最後の想い」を定めるなど、互いの弱点を補い、より柔軟で確実な資産承継を実現できる点です。

Q.家族信託と遺言の内容が矛盾した場合、どちらが優先されますか?

A.同じ財産については、先に効力が発生している信託契約の内容が優先されます。信託契約によって財産の所有権は受託者に移っているため、遺言でその財産について指定しても無効になります。

Q.家族信託と遺言を併用しない場合のデメリットはありますか?

A.家族信託だけでは信託しなかった財産の承継先を指定できず、遺言だけでは認知症などによる生前の財産凍結リスクに対応できません。それぞれ単独ではカバーできない範囲がある点がデメリットです。

Q.家族信託と遺言の併用は、どのような人におすすめですか?

A.不動産や自社株など特定の財産を特定の人に確実に承継させたい方、認知症対策をしながら円満な相続も実現したい方、二次相続以降の承継先まで指定したい方などにおすすめです。

Q.家族信託ではできず、遺言でなければ対応できないことは何ですか?

A.子の認知、未成年後見人の指定、相続人の廃除やその取り消しといった身分に関する事項は、遺言でしか定めることができません。これらは信託契約の対象外です。

Q.家族信託と遺言を併用する場合、費用面で注意すべき点はありますか?

A.それぞれで専門家への相談料や作成費用、公証人手数料などが発生するため、単独で手続きするよりも費用が高くなる可能性があります。事前に全体でかかる費用の見積もりを確認することが重要です。

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