「家族信託で実家を子どもに託したいけど、登記費用ってどのくらいかかるんだろう?」とお悩みではありませんか?家族信託は、認知症対策や円滑な資産承継にとても有効な手段ですが、不動産を信託財産に含める場合は、所有権移転登記と信託登記という手続きが必要になります。この登記手続きには、残念ながら一定の費用がかかります。この記事では、家族信託における不動産の登記費用について、その内訳から具体的な計算方法、そして少しでも費用を抑えるためのコツまで、わかりやすく解説していきますね。
家族信託での不動産登記費用の内訳
家族信託で不動産の名義変更(登記)をするときにかかる費用は、大きく分けて3つの要素で構成されています。それぞれの内容をしっかり理解して、全体の費用感を把握しましょう。
登録免許税
登録免許税は、登記手続きを行う際に国に納める税金のことです。不動産の価値に応じて税額が決まるため、避けては通れない費用のひとつです。家族信託の場合、この登録免許税は「所有権移転登記」と「信託登記」の2つの手続きに対してかかりますが、法律上、これらを1つの申請で行うため、税額は合算されず、高い方の税率が適用される仕組みになっています。具体的には、不動産の固定資産税評価額に基づいて計算されます。
司法書士への報酬
不動産の登記手続きは、法律の専門知識が必要で非常に複雑です。そのため、多くの場合、司法書士という専門家に依頼することになります。その際に支払うのが司法書士への報酬です。報酬額は、司法書士事務所によって異なりますが、不動産の信託登記だけであれば、おおよそ10万円から15万円程度が相場と言えるでしょう。ただし、これはあくまで登記手続きのみの費用です。家族信託全体のコンサルティングや信託契約書の作成も併せて依頼する場合は、さらに費用が必要になるので、事前にしっかりと見積もりを確認することが大切ですよ。
その他実費
登録免許税や司法書士報酬のほかに、手続きを進める上で必要となる細々とした費用があります。これを「実費」と呼びます。主なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)の取得費用:1通600円程度(オンライン請求なら480円〜500円)
- 固定資産評価証明書の取得費用:1通300円〜400円程度(市区町村によって異なります)
- 郵送費や交通費:書類のやり取りや法務局への移動にかかる費用
これらの実費は、合計で数千円から1万円程度になることが多いです。
家族信託の登録免許税の計算方法
登記費用の中でも大きな割合を占める登録免許税。ここでは、その具体的な計算方法を見ていきましょう。計算の基礎となるのは、毎年市区町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されている固定資産税評価額です。
土地の場合
土地を信託財産とする場合の登録免許税は、以下の計算式で求められます。
計算式:土地の固定資産税評価額 × 0.3%
例えば、固定資産税評価額が3,000万円の土地を信託する場合、登録免許税は「3,000万円 × 0.3% = 9万円」となります。なお、本来の信託登記の税率は0.4%ですが、土地の信託に関しては租税特別措置法により、令和8年(2026年)3月31日まで0.3%に軽減されています。
建物の場合
建物を信託財産とする場合の登録免許税は、土地とは少し税率が異なります。
計算式:建物の固定資産税評価額 × 0.4%
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の建物を信託する場合、登録免許税は「1,000万円 × 0.4% = 4万円」となります。
| 登記の種類 | 登録免許税の税率 |
|---|---|
| 土地の信託登記 | 固定資産税評価額の0.3% (軽減措置適用後) |
| 建物の信託登記 | 固定資産税評価額の0.4% |
登録免許税が非課税になるケースとは?
「この登録免許税、どうにか安くならないの?」と思われるかもしれませんが、残念ながら、個人が行う家族信託において登録免許税が非課税になるケースは基本的にありません。法律で定められた特定の公共法人が行う登記など、ごく限られた場合にのみ非課税措置が取られますが、一般的な家族信託では適用されないのが実情です。したがって、不動産を信託する際には、登録免許税は必ず発生する費用として予算に組み込んでおく必要があります。
家族信託の登記費用を抑える方法
必ずかかる費用とはいえ、少しでも安く抑えたいのが本音ですよね。ここでは、登記費用を賢く節約するための3つの方法をご紹介します。
自分で登記手続きを行う(セルフ登記)
司法書士に依頼せず、ご自身で法務局へ申請手続きを行う「セルフ登記」という方法があります。この方法の最大のメリットは、司法書士への報酬(約10万円〜15万円)をまるごと節約できる点です。しかし、登記申請書の作成や必要書類の収集は非常に専門的で、少しでも不備があると法務局で受理されなかったり、何度も修正を求められたりする可能性があります。時間と手間がかかる上、正確性も求められるため、法律知識に自信がない方にはあまりおすすめできない方法です。
複数の司法書士に見積もりを取る
司法書士の報酬は、事務所ごとに料金体系が異なります。そのため、複数の司法書士事務所に相談し、見積もりを取る(相見積もり)ことがとても重要です。サービス内容と費用を比較検討することで、ご自身の希望に合った、納得のいく費用の専門家を見つけることができます。ただし、単純に「安いから」という理由だけで選ぶのは避けましょう。家族信託に関する実績が豊富か、親身に相談に乗ってくれるかなど、信頼できる司法書士を選ぶことが、結果的にスムーズな手続きにつながります。
信託する財産を厳選する
登録免許税は、不動産の固定資産税評価額に比例して高くなります。つまり、信託する不動産の評価額が高ければ高いほど、登記費用もかさみます。そこで、本当に信託する必要がある不動産かどうかを一度見直してみるのも一つの手です。例えば、近い将来に売却する予定の不動産や、特に管理に困っていない不動産まで、すべてを信託に含める必要はないかもしれません。信託の目的を明確にし、財産を厳選することで、結果的に登録免許税を抑えることができます。
贈与や売買との登記費用の比較
「家族信託じゃなくて、生前贈与じゃダメなの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、不動産の名義変更にかかる登録免許税は、その原因によって税率が大きく異なります。家族信託がどれくらいお得なのか、他の方法と比較してみましょう。
| 登記の原因 | 登録免許税の税率(不動産) |
|---|---|
| 信託 | 土地:0.3%、建物:0.4% |
| 贈与 | 2.0% |
| 売買 | 2.0%(土地は令和8年3月31日まで1.5%) |
| 相続 | 0.4% |
この表を見ると一目瞭然ですが、家族信託の登録免許税は、贈与や売買に比べて税率が格段に低く設定されています。例えば、評価額3,000万円の土地を贈与した場合の登録免許税は60万円ですが、信託であれば9万円で済みます。この費用の差は大きいですよね。生前の資産承継を考えたとき、登記費用の面では家族信託が非常に有利な選択肢であることがわかります。
まとめ
今回は、家族信託における不動産の登記費用について詳しく解説しました。費用の内訳は主に「登録免許税」「司法書士報酬」「その他実費」の3つです。特に登録免許税は、贈与や売買と比べて税率が低く抑えられており、生前対策として大きなメリットがあります。費用を抑える方法としてセルフ登記もありますが、手続きの複雑さを考えると、信頼できる司法書士に相談するのが最も安心で確実な方法と言えるでしょう。家族信託を検討する際は、まず専門家に相談し、ご自身の状況に合ったプランと正確な費用を見積もってもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
家族信託の不動産登記費用に関するよくある質問まとめ
Q.家族信託で不動産を登記する際、費用はいくらくらいかかりますか?
A.費用の総額は、国に納める「登録免許税」と、手続きを依頼する「司法書士への報酬」、その他実費で構成されます。不動産の評価額や依頼先によって異なりますが、一般的に数十万円程度が目安です。
Q.登録免許税はどのように計算しますか?
A.信託設定時の登録免許税は、土地が「固定資産税評価額の0.3%」、建物が「固定資産税評価額の0.4%」です。例えば、評価額2,000万円の土地なら6万円、評価額1,000万円の建物なら4万円となります。※税率が変更される場合があります。
Q.司法書士に依頼した場合の報酬相場はどのくらいですか?
A.司法書士への報酬は、信託登記手続きだけであれば10万円前後が相場です。信託契約書の作成から依頼する場合は、内容の複雑さに応じて報酬額が変動します。
Q.登記費用を安くする方法はありますか?
A.専門的な手続きのため、司法書士に依頼するのが一般的です。費用を抑えたい場合は、複数の司法書士事務所に見積もりを依頼し、比較検討することをおすすめします。ご自身で登記を行うことも理論上は可能ですが、非常に複雑なため推奨されません。
Q.信託が終了したときも登記費用はかかりますか?
A.はい、かかります。信託が終了し、不動産が次の所有者に移る際には、所有権移転登記が必要です。この際の登録免許税は「固定資産税評価額の0.4%」がかかります。
Q.贈与や相続と比べて、信託の登記費用(登録免許税)は高いですか?
A.生前贈与(税率2.0%)に比べると、信託設定時(土地0.3%、建物0.4%)の登録免許税は大幅に安くなります。相続(税率0.4%)と比較すると同程度の税率です。ただし、信託は設定時と終了時の2回登記が必要になる点を考慮する必要があります。