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家族信託の遺言効果とは?遺言書より柔軟な財産承継を実現する方法

2025-10-18
目次

「自分の亡き後、大切な家族に財産を確実に引き継いでほしい」そう考えたとき、多くの方が「遺言書」を思い浮かべるかもしれません。しかし最近、遺言書と同じような効果を持ちながら、さらに柔軟な財産管理と承継を実現できる「家族信託」という制度が注目されています。この記事では、家族信託が持つ「遺言効果」とは何か、遺言書との違いやメリットを比較しながら、わかりやすく解説していきますね。

家族信託が持つ「遺言効果」とは?

家族信託とは、ご自身の財産(例えば、預金や不動産など)の管理や処分を、信頼できる家族(受託者)に託す契約のことです。そして、その財産から得られる利益を受け取る人(受益者)をご自身や他の家族に指定します。この仕組みの中で、「自分が亡くなった後は、この財産を長男に渡す」といったように、ご自身の死後の財産の承継先をあらかじめ契約で定めておくことができます。これが、家族信託が持つ「遺言効果」と呼ばれる機能です。遺言書を作成しなくても、信託契約によって財産の引き継ぎ先を決めておける、というわけですね。

遺言書との基本的な違い

家族信託と遺言書は、どちらも財産の承継先を指定できる点で似ていますが、決定的な違いがあります。それは「効力が発生するタイミング」です。遺言書は、書いた方が亡くなった後(相続開始後)に初めて効力を発揮します。一方、家族信託は契約を結んだ時点から効力がスタートします。この違いが、生前の財産管理に大きな差を生むんですよ。

項目 家族信託
効力発生時期 契約を結んだときから
遺言書 亡くなったときから

生前の財産管理もできるのが大きな特徴

遺言書はあくまで「亡くなった後のこと」しか定められません。そのため、ご本人が元気なうちは財産管理に役立ちませんが、もし認知症などで判断能力が低下してしまうと、預金が引き出せなくなったり、不動産が売却できなくなったりする「資産凍結」のリスクがあります。その点、家族信託は契約後すぐに効力が発生するため、万が一ご自身の判断能力が低下しても、あらかじめ定めた受託者が契約内容に従って財産の管理や処分をスムーズに行ってくれます。これは、遺言書にはない非常に大きなメリットと言えるでしょう。

「倒産隔離機能」で財産を守る

もう一つ、家族信託には大切な機能があります。それは「倒産隔離機能」です。信託契約によって託された財産は、管理を任された受託者個人の財産とは法律上、明確に区別されます。そのため、万が一、受託者が多額の借金を負ったり、破産してしまったりした場合でも、信託された財産が差し押さえられることはありません。これにより、大切な財産を安全に守りながら、次の世代へ引き継ぐことができるのです。

家族信託で実現できる遺言を超えた財産承継

家族信託のすごいところは、単に財産を引き継ぐだけでなく、遺言書では実現が難しい、より長期的で細やかな想いを形にできる点にあります。ここでは、その代表的な例をいくつかご紹介しますね。

数世代にわたる資産承継(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)

遺言書で財産の承継先として指定できるのは、原則として次の代までです。例えば、「私が死んだら妻に、その妻が死んだら長男に」という指定はできません。しかし、家族信託を使えば、このような数世代にわたる承継先の指定が可能になります。これを「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と呼びます。例えば、最初の受益者をご自身(委託者)とし、ご自身の死亡後は配偶者を、配偶者の死亡後は長男を、というように、リレー形式で財産を引き継がせていくことができるのです。ただし、信託法により、信託が開始されてから30年を経過した後に現に存する受益者が死亡するまで、または新たな受益権を取得する者が現れなくなるまで、と定められています。

障がいのある子どものための「福祉型信託」

障がいのあるお子さんを持つ親御さんにとって、「自分がいなくなった後、この子の生活はどうなるのだろう」という不安は非常に大きいものです。遺言で財産を残しても、お子さん自身でその財産を管理するのが難しい場合もあります。家族信託(福祉型信託)を活用すれば、親御さんが亡くなった後も、信頼できる親族(受託者)がお子さんのために財産を管理し、毎月決まった額の生活費を渡したり、必要な費用の支払いを代行したりすることができます。これにより、お子さんの長期的な生活の安定を図ることが可能になります。

ペットのための「ペット信託」

大切な家族の一員であるペットの将来を心配される方もいらっしゃるでしょう。残念ながら、ペットは法律上「モノ」として扱われるため、遺言で直接財産を相続させることはできません。しかし、家族信託を使えば、ご自身に万が一のことがあった後、新しい飼い主となってくれる人(受託者)にペットの飼育費用を信託財産として託し、その財産からお世話をしてもらう「ペット信託」という仕組みを作ることができます。これにより、安心してペットの将来を任せることができます。

家族信託と遺言書のメリット・デメリット比較

ここまで見てきたように、家族信託には多くのメリットがありますが、もちろんデメリットや、遺言書の方が適しているケースもあります。どちらが良い・悪いということではなく、ご自身の目的や状況に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。ここで一度、両者の特徴を表で比較してみましょう。

家族信託
メリット ・生前の資産凍結対策ができる
・二次相続以降の承継先も指定可能
・柔軟な財産管理ができる
・相続発生時の手続きがスムーズ
デメリット ・初期費用(専門家報酬など)が高め
・信頼できる受託者が必要
・信託できない財産がある
・税務が複雑になる場合がある
遺言書
メリット ・費用が比較的安価で作成できる
・すべての財産を対象にできる
・自分の意思だけで作成できる
デメリット ・生前の資産凍結対策はできない
・二次相続以降の指定は不可
・死後に開封、検認手続きが必要
・内容によっては紛争の種になることも

家族信託を利用する際の注意点

非常に便利な家族信託ですが、利用する際にはいくつか知っておくべき注意点があります。後で「こんなはずではなかった」とならないよう、しっかり確認しておきましょう。

遺留分を侵害しない設計が必要

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。これは非常に強い権利で、たとえ家族信託や遺言書で特定の相続人に多くの財産を渡す内容になっていても、他の相続人は自身の遺留分を主張(遺留分侵害額請求)することができます。信託契約を作る際には、この遺留分に配慮した財産配分を考えないと、後々の親族間トラブルの原因になってしまうため、注意が必要です。

信頼できる受託者の選定が重要

家族信託の成功は、財産管理を任せる「受託者」にかかっていると言っても過言ではありません。長期間にわたり大切な財産を預けるわけですから、単に仲が良いというだけでなく、誠実で責任感があり、財産管理の能力もある人を選ぶことが極めて重要です。もし適任者が見つからない場合や、公平性を保ちたい場合には、弁護士や司法書士などの専門家を「信託監督人」としてつけ、受託者の業務をチェックしてもらう仕組みも検討しましょう。

信託できない財産もある

基本的に多くの財産が信託できますが、一部対象にできないものもあります。例えば、一身専属権と呼ばれる年金を受け取る権利や、農地法の許可が必要な農地などは、原則として信託財産に含めることができません。ご自身の財産の中に、信託できるものとできないものがないか、事前に確認しておく必要があります。

税金の問題(贈与税・不動産取得税など)

家族信託は税金対策の万能ツールではありません。特に注意が必要なのが、財産を託す人(委託者)と、信託から利益を受ける人(受益者)が異なる場合です。この場合、委託者から受益者への「贈与」とみなされ、受益者に贈与税が課税される可能性があります。また、不動産を信託財産にすると、所有権が受託者に移転するため、登録免許税(固定資産税評価額の0.3%~0.4%)や、ケースによっては不動産取得税がかかる場合もあります。税務については非常に専門的な知識が必要ですので、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。

家族信託と遺言書の併用も有効な選択肢

家族信託と遺言書は、対立するものではなく、むしろお互いを補い合う関係にあります。両方の良いところを組み合わせることで、より盤石な相続対策をすることも可能です。

遺言書で信託契約を補完する

例えば、主な財産である自宅と預貯金は家族信託で管理・承継の道筋をつけ、信託契約に含めなかったその他の財産(自動車や貴金属など)については、遺言書で誰に渡すかを指定しておく、といった使い分けができます。また、「もし信託契約で定めた受託者が自分より先に亡くなってしまった場合は、この人を次の受託者とする」といった予備的な内容を遺言書で定めておくことも、リスク管理の観点から有効です。

どのようなケースで併用が考えられるか

併用が特に有効なのは、財産の種類が多い方や、相続人の関係が複雑な方、そしてご自身の意思をより確実に実現したいと考える方です。「認知症による資産凍結を防ぎたい主要な財産は信託で守り、残りの財産の分け方や、感謝の気持ちなどを付言事項として遺言書に記す」という形は、合理的かつ円満な相続を実現するための理想的な方法の一つと言えるでしょう。

まとめ

家族信託が持つ「遺言効果」は、従来の遺言書にはない、生前の財産管理から数世代にわたる資産承継までを実現できる、非常に柔軟で強力な仕組みです。特に、認知症などによる資産凍結への備えや、障がいのあるお子さんの将来を守りたいといったニーズに応えることができます。
一方で、費用がかかることや、信頼できる受託者の存在が不可欠であること、遺留分や税金の問題など、検討すべき課題も少なくありません。ご自身の家族構成や財産状況、そして何よりも「誰に、どのように財産を引き継いでいきたいか」という想いを整理した上で、遺言書との併用も視野に入れながら、司法書士や弁護士、税理士といった専門家と相談して、最適な方法を見つけていくことが大切です。

家族信託の遺言効果に関するよくある質問まとめ

Q.家族信託には遺言書のような「遺言効果」はありますか?

A.はい、あります。家族信託では、委託者(財産を預ける人)が亡くなった後の財産の承継先(次の受益者など)をあらかじめ指定できます。これは遺言書と同様に、ご自身の亡き後の財産承継を決める効果があるため「遺言効果」と呼ばれます。

Q.家族信託と遺言書、内容が矛盾した場合はどちらが優先されますか?

A.原則として家族信託契約が優先されます。信託契約によって財産の所有権はすでに受託者に移っているため、委託者が遺言書でその財産を別の人に遺そうとしても、法的に無効となるのが一般的です。

Q.家族信託をすれば、遺言書はもう必要ないのでしょうか?

A.必ずしもそうとは言えません。家族信託で管理できるのは、契約で定めた「信託財産」のみです。信託契約に含めていない預貯金や不動産などの財産がある場合は、その承継先を指定するために別途遺言書を作成することが有効です。

Q.遺言書と比べた、家族信託のメリットは何ですか?

A.家族信託は、生前の財産管理から亡くなった後の財産承継までを一つの契約でスムーズに行える点が大きなメリットです。遺言書は亡くなった後にしか効力を発揮しませんが、家族信託は認知症などによる資産凍結対策として、生前から効力を発揮させることができます。

Q.家族信託で二次相続以降(次の次の代)の承継先も決められますか?

A.はい、可能です。家族信託の仕組みを使えば、ご自身が亡くなった後の受益者だけでなく、その受益者が亡くなった後のさらに次の受益者まで指定できます。これは遺言書では実現が難しい、数世代にわたる柔軟な資産承継の設計が可能です。

Q.家族信託でも遺留分は考慮する必要がありますか?

A.はい、考慮する必要があります。家族信託によって特定の相続人に財産を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分を侵害された相続人は、その分を請求する権利があるため、信託契約を設計する際は遺留分にも配慮することが重要です。

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