ご自身の資産管理会社が所有するビルに、家賃を払わずに住みながら管理人をしている、という方もいらっしゃるかもしれません。「管理人報酬ももらっていないし、家賃も払っていないから、プラスマイナスゼロで問題ないのでは?」と思っていませんか?実はその状態、税務上はいくつかのリスクを抱えている可能性があるんです。この記事では、そのような状況でどんな税金の考え方が発生するのか、個人と法人それぞれの立場から、優しく分かりやすく解説していきます。
家賃を払わずに居住、これって税法上どうなるの?
会社が所有する物件に家賃なしで住む場合、税法上ではその「家賃を払わなくて済んでいる」という経済的な利益が、現物給与として扱われる可能性があります。つまり、「家賃分のお給料をもらっている」のと同じだと考えられてしまうんですね。
「現物給与」とは?家賃無料が給与になる仕組み
現物給与とは、会社から金銭以外の「モノ」や「サービス」の形で提供される経済的な利益のことです。例えば、食事の支給や社宅の提供などがこれにあたります。今回のように、資産管理会社のビルに家賃ゼロで住んでいる場合、本来支払うべき家賃分(経済的利益)を会社から給与として受け取っている、とみなされるのです。この現物給与は、所得税や住民税、社会保険料の計算の基礎に含まれることになります。
給与として課税される金額(賃貸料相当額)の計算方法
では、いくらが給与として課税されるのでしょうか。それは、周辺の家賃相場ではなく、国税庁が定めた「賃貸料相当額」という基準で計算されます。少し複雑ですが、以下の3つの合計額がその金額になります。
【賃貸料相当額の計算式】
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額) × 0.2%
+
(2) 12円 × (その建物の総床面積(平方メートル) / 3.3平方メートル)
+
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額) × 0.22%
例えば、この計算で賃貸料相当額が月5万円となった場合、家賃を一切払っていなければ、毎月5万円の給与が上乗せされていると判断されることになります。
家賃を少しでも払えば非課税になる?そのボーダーライン
「じゃあ、少しでも家賃を払えばいいの?」と思うかもしれませんが、ここにも明確なルールがあります。給与として課税されないためには、計算した「賃貸料相当額」の50%以上の家賃を会社に支払う必要があります。50%未満しか支払っていない場合は、賃貸料相当額と実際に支払った家賃との差額が給与として課税されます。
| 状況(賃貸料相当額が月5万円の場合) | 給与として課税される金額 |
|---|---|
| 家賃の支払いが全くない | 50,000円(全額) |
| 家賃を月10,000円支払っている(50%未満) | 40,000円(50,000円 – 10,000円) |
| 家賃を月25,000円支払っている(50%以上) | 0円(課税されない) |
つまり、家賃を全く払っていない場合は、賃貸料相当額の全額が給与課税の対象となってしまうのです。
管理人なのに報酬なし、これは問題ないの?
管理人業務を行っているにもかかわらず、その対価である報酬が支払われていない点も、税務上の論点となります。あなたが会社の役員なのか、従業員なのかによって少し考え方が変わります。
役員の場合:「役員報酬」としての考え方
資産管理会社の役員が管理人を兼ねている場合、家賃相当額の経済的利益は「役員報酬」の一部とみなされます。役員報酬は、法人税法上、毎月決まった額を支払う「定期同額給与」でないと会社の経費(損金)にできません。もし、家賃相当額を役員報酬として正式に決めていなければ、その分は経費として認められず、会社が余分な法人税を支払うことになる可能性があります。
従業員の場合:労働の対価としての問題
もしあなたが従業員の立場で管理人業務を行っている場合、家賃相当額は「給与」とみなされます。会社は、この現物給与に対しても源泉徴収を行う義務があります。また、管理人業務という労働を提供しているのに報酬がない状態は、労働関連の法律に抵触する可能性もゼロではありませんが、税務上は家賃相当額がその対価(給与)とみなされることになります。
報酬ゼロでも社会保険の加入義務は発生する?
注意したいのが社会保険です。健康保険や厚生年金保険の保険料は、「報酬月額」を基に計算されますが、この「報酬」には現物給与も含まれます。金銭での給与がゼロでも、家賃相当額という現物給与があるために社会保険の加入義務が発生したり、すでに加入している場合は保険料が上がったりする可能性があります。
個人(あなた)への影響は?確定申告は必要?
この問題は、会社だけでなく、あなた個人の税金にも直接影響します。どのような影響があるのか見ていきましょう。
給与所得として所得税・住民税がかかる
最も直接的な影響は、家賃相当額があなたの「給与所得」に加算されることです。所得が増えるため、当然、納めるべき所得税や住民税も高くなります。これまで税金を納めていなかった場合でも、納税義務が発生するかもしれません。
会社が年末調整してくれない場合の確定申告
本来であれば、会社がこの現物給与を含めて源泉徴収を行い、年末調整で精算してくれます。しかし、会社側がこのルールを認識しておらず、何も処理をしていない場合、あなたは正しい所得を申告できていない状態になります。その場合は、ご自身で確定申告を行い、追加の税金を納める必要があります。
税務調査で指摘されるリスク
この状態を放置していると、将来、税務調査が入った際に指摘される可能性が高いです。その場合、過去にさかのぼって修正申告を求められ、本来の税額に加えて、延滞税や過少申告加算税といったペナルティの税金も支払わなければならなくなります。
資産管理会社(法人)側への影響は?
問題は個人だけにとどまりません。法人である資産管理会社側にも、いくつかの税務リスクが発生します。
役員への家賃相当額は損金不算入に?
前述のとおり、役員に対して家賃相当額の経済的利益を与えた場合、それが定期同額給与のルールから外れていると、法人税の計算上、経費(損金不算入)として扱われる可能性があります。その結果、会社の利益が意図せず増える形となり、法人税の負担が増加してしまいます。
源泉徴収義務違反のリスク
会社には、給与を支払う際に所得税を天引き(源泉徴収)して国に納める義務があります。現物給与もこの対象です。家賃相当額に対して源泉徴収を怠っていた場合、「源泉徴収義務違反」となり、税務署から納税を求められるだけでなく、不納付加算税や延滞税といったペナルティが課せられます。
消費税の仕入税額控除はできる?
通常、居住用の家賃は消費税が非課税です。会社が建物の維持管理費などで支払った消費税について、社宅として有償で貸し付けている場合は一定の要件下で仕入税額控除ができますが、無償で貸与している場合は控除が認められません。経理処理が複雑になるため、この点も注意が必要です。
今からできる具体的な対策
「リスクがあるのは分かったけど、どうすればいいの?」という方のために、具体的な対策を3つご紹介します。
対策1:賃貸借契約を結び、適切な家賃を支払う
最も安全で透明性の高い方法です。資産管理会社とあなたの間で正式な賃貸借契約書を作成し、算出した「賃貸料相当額の50%以上」の家賃を毎月支払うようにしましょう。これにより、現物給与の問題は発生しなくなり、税務上のリスクをなくすことができます。
対策2:役員報酬または給与として正式に計上する
もし家賃を支払わない形を維持したいのであれば、家賃相当額を役員報酬や給与に上乗せする形で正式に支給し、そこから所得税の源泉徴収や社会保険料の控除を正しく行う方法もあります。ただし、役員の場合は役員報酬の金額を事業年度の途中では自由に変更できないため、株主総会での決議など、適切な手続きを踏む必要があります。
対策3:税理士に相談する重要性
ご自身の状況がどのケースに当てはまるのか、賃貸料相当額は具体的にいくらになるのかなど、判断が難しい部分も多いかと思います。このような場合は、自己判断で進めずに、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。過去の申告に誤りがあった場合の対応も含めて、最適な解決策を提案してくれます。
まとめ
資産管理会社のビルに家賃タダ・管理人報酬なしで住むという一見シンプルな状況には、「現物給与」という税務上の大きな論点が隠されています。この状態を放置すると、個人には追徴課税、法人には損金不算入や源泉徴収義務違反といった、双方にとって手痛いペナルティが課されるリスクがあります。大切なのは、現状のリスクを正しく認識し、「適切な家賃を支払う」または「給与として正しく計上する」という対策を速やかに実行することです。少しでも不安に感じたら、専門家である税理士に相談して、クリーンな状態にしておくことを強くおすすめします。
参考文献
資産管理会社の社宅家賃と管理人報酬のよくある質問まとめ
Q.資産管理会社のビルに家賃なしで住むと、税金がかかりますか?
A.はい、税金がかかる可能性があります。家賃相当額が役員報酬(給与)とみなされ、所得税の課税対象になることがあります。これを「経済的利益」と呼びます。
Q.管理人として働いているので家賃が無料なのは問題ないのでは?
A.管理人業務の対価として家賃が無料になっている場合、家賃相当額が「給与」とみなされます。管理人報酬をもらっていない場合でも、実質的に家賃相当額の給与を受け取っていると判断される可能性があります。
Q.家賃を払わない場合、会社側(資産管理会社)に税務上の問題はありますか?
A.はい、問題が生じる可能性があります。役員に対して適正な家賃を受け取っていない場合、その家賃相当額が役員への給与とみなされ、法人税の計算上、損金として認められないことがあります。
Q.適正な家賃とはいくらですか?どうやって計算しますか?
A.税法上、役員社宅の適正な家賃(賃貸料相当額)には計算方法が定められています。建物の固定資産税の課税標準額や床面積などを用いて計算します。この金額以上を受け取っていれば、給与として課税されることはありません。
Q.家賃なしで住んでいることが税務署にわかるとどうなりますか?
A.税務調査などで指摘された場合、過去にさかのぼって所得税の修正申告を求められる可能性があります。延滞税や過少申告加算税といった追徴課税が発生することもあります。
Q.管理人報酬をもらって、その中から家賃を払う形にした方が良いですか?
A.はい、その方が税務上のリスクを減らせます。金銭のやり取りを明確にすることで、給与と家賃の関係がはっきりします。管理人報酬と家賃の金額設定については、専門家へ相談することをおすすめします。