親から山林を相続することになったけれど、相続税がいくらかかるか不安…。そんなお悩みはありませんか?山林の相続税評価は、その場所や状況によって大きく変わります。この記事では、山林の相続税評価額の計算方法を、3つの区分に分けて、初心者の方にも分かりやすく解説します。ご自身の山林がどのタイプに当てはまるのか、確認しながら読み進めてみてくださいね。
山林の相続税評価は3つの区分から始まる
山林の相続税評価額を計算する第一歩は、その山林がどの種類に分類されるかを知ることです。国税庁の「財産評価基本通達」というルールでは、山林を「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3つに区分しています。この区分によって評価方法がまったく異なるため、まずはご自身の山林がどれに当てはまるかを確認することがとても重要なんです。
純山林とは?
純山林とは、市街地から遠く離れた場所にある、いわゆる「ザ・山林」のことです。林業を営むために使われているような山林や、人里離れた奥深い山などがこれにあたります。宅地として利用される可能性がほとんどないため、相続税評価額は3つの区分のなかで比較的低くなる傾向にあります。
中間山林とは?
中間山林は、純山林と市街地山林のちょうど中間に位置づけられる山林です。市街地の近くや別荘地帯などにあって、将来的に宅地になる可能性もゼロではないけれど、すぐに宅地化されるわけでもない…といったイメージですね。純山林よりも売買価格の水準が高いため、評価額も純山林よりは高めになります。
市街地山林とは?
市街地山林は、その名の通り市街地の中にある山林や、都市計画法で定められた市街化区域内にある山林を指します。周りが住宅街だったりすると、宅地としての価値が非常に高くなります。そのため、評価方法も山林としてではなく、宅地としての価値を基準に計算されるのが大きな特徴です。
山林の区分を確認する方法
では、ご自身の山林が「純山林」「中間山林」「市街地山林」のどれに該当するのか、どうやって確認すればいいのでしょうか。これは、ご自身で判断するのではなく、国税庁が公表している「評価倍率表」という資料で確認することができます。
評価倍率表の見方
評価倍率表は、国税庁のウェブサイトで誰でも見ることができます。お持ちの山林がある市区町村の評価倍率表を開き、「山林」の欄を確認してみてください。そこに書かれている記号で、どの区分に該当するかがわかります。
評価倍率表の表記 | 山林の区分 |
---|---|
「純」 | 純山林 |
「中」 | 中間山林 |
「比準」または「市比準」 | 市街地山林 |
評価倍率表の探し方
評価倍率表は、国税庁のウェブサイトにある「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」のページから探せます。該当する年分、都道府県、市区町村と進んでいくと見つけることができますよ。相続税の計算では、亡くなった(相続が発生した)年のものを使う必要があるので、間違えないように注意しましょう。
【区分別】山林の相続税評価額の計算方法
山林の区分がわかったら、いよいよ評価額の計算です。区分ごとに計算方法が違うので、それぞれ見ていきましょう。
純山林・中間山林の評価方法(倍率方式)
純山林と中間山林は、「倍率方式」という方法で評価します。計算式はとてもシンプルです。
計算式:固定資産税評価額 × 評価倍率
固定資産税評価額は、毎年春ごろに市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に添付されている「課税明細書」で確認できます。評価倍率は、先ほど確認した評価倍率表に記載されている数字を使います。
例えば、固定資産税評価額が500万円で、評価倍率表に記載の倍率が3.0の中間山林なら、相続税評価額は「500万円 × 3.0 = 1,500万円」となります。
市街地山林の評価方法(宅地比準方式)
市街地山林は、原則として「宅地比準方式」という、少し複雑な方法で評価します。これは、「もしその山林が宅地だったら」という仮定で評価額を出し、そこから「宅地にするために必要な造成費」を差し引くという考え方です。
計算式:(その山林が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額 - 1㎡当たりの宅地造成費) × 地積(面積)
「その山林が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額」は、路線価が定められている地域なら路線価を基に、路線価がない地域なら近隣の宅地の固定資産税評価額などを基に計算します。「1㎡当たりの宅地造成費」は、国税局ごとに金額が定められていて、傾斜の度合いなどによって変わります。
ただし、評価倍率表で「比準」ではなく倍率が指定されている場合は、純山林などと同じく倍率方式で計算することもあります。
評価額が下がる!知っておきたい特例や注意点
山林の状態によっては、評価額を下げられる特例が使える場合があります。相続税を少しでも抑えるために、ぜひ知っておきたいポイントです。
宅地への転用が見込めない市街地山林
市街地山林であっても、傾斜が急すぎて物理的に宅地造成が不可能だったり、造成に莫大なお金がかかりすぎて経済的に合理的でない場合は、宅地比準方式ではなく、近隣の純山林の価額に比準して評価することができます。これにより、評価額を大幅に下げられる可能性があります。例えば、傾斜度が30度以上ある土地などが一つの目安とされていますが、個別の状況に応じた判断が必要です。
保安林や特別緑地保全地区の評価
森林法などで「保安林」に指定されている山林は、水源の確保や災害防止のために木の伐採などが制限されます。そのため、その制限に応じて評価額が減額されるんです。控除される割合は、伐採の制限内容によって30%から80%と定められています。また、都市緑地法で「特別緑地保全地区」に指定されている山林も、原則として自用地としての評価額から80%を控除して評価できるため、評価額が20%まで下がります。
地積規模の大きな宅地の評価
市街地山林が一定の面積(三大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域で1,000㎡以上)を超える場合、「地積規模の大きな宅地の評価」という特例を適用できる可能性があります。これは、広すぎて一般の人が買いにくく、価値が下がることを考慮するためのもので、「規模格差補正率」という補正率をかけて評価額を下げることができます。ただし、適用には細かい要件があるので、すべての広い山林で使えるわけではありません。
山林を相続したら売却も検討しよう
山林は所有しているだけで管理が大変ですし、固定資産税もかかります。もし今後、ご自身で活用する予定がないのであれば、売却も一つの選択肢です。
売却時の税金(取得費加算の特例)
相続した山林を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合、「取得費加算の特例」という制度が使えます。これは、納めた相続税の一部を、売却した山林の取得費(買ったときの値段)に上乗せできるというものです。取得費が増えると、売却益(譲渡所得)が減り、結果的に所得税や住民税を節税できるという嬉しいメリットがあります。
相続後の手続きも忘れずに
山林を相続したら、相続税の申告とは別に、法務局での「相続登記(名義変更)」と、その山林がある市区町村役場への「森林の土地の所有者届出」が必要です。特に所有者届出は、所有者となった日から90日以内という短い期限が定められているので、忘れないようにしましょう。
まとめ
山林の相続税評価額の計算は、まず「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3つの区分を評価倍率表で確認することから始まります。純山林と中間山林は比較的簡単な倍率方式、市街地山林は複雑な宅地比準方式で評価するのが基本です。しかし、保安林であったり、宅地への転用が困難であったりする場合には、評価額を大きく下げられる可能性があります。計算が複雑で専門的な知識が必要な場面も多いため、不安な方は相続に強い税理士に相談することをおすすめします。正しい評価で、損のない相続税申告を行いましょう。
【参考文献】
- 国税庁 No.4602 土地家屋の評価
- 国税庁 No.4606 倍率方式による土地の評価
- 国税庁 No.4609 地積規模の大きな宅地の評価
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
山林の相続税評価額に関するよくある質問まとめ
Q. 山林の相続税評価額はどうやって計算するのですか?
A. 主に「倍率方式」で計算します。これは、その山林の固定資産税評価額に、国税庁が地域ごとに定める「評価倍率」を掛けて算出する方法です。一部の山林では異なる計算方法が用いられます。
Q. 山林の評価方法にはどんな種類がありますか?
A. 山林はその状況によって「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3つに区分され、それぞれ評価方法が異なります。所在するエリアによってどの区分に該当するかが決まります。
Q. 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になるのでしょうか?
A. いいえ、通常は異なります。多くの山林(純山林・中間山林)では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて相続税評価額を計算します。この倍率は国税庁のウェブサイトで確認できます。
Q. 「市街地山林」の評価方法について教えてください。
A. 市街地山林は、宅地への転用が見込まれる山林のことです。評価方法は複雑で、その山林が宅地であると仮定した価額から、宅地に造成するために必要な費用を差し引いて計算します。
Q. 価値の低い山林でも相続税はかかりますか?
A. 山林を含めた遺産総額が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば相続税はかかりません。多くの山林は評価額が低く、相続税の対象とならないケースも多いです。
Q. 山林の評価に必要な書類は何ですか?
A. 市区町村役場で取得する「固定資産税評価証明書」や「名寄帳」が必要です。その上で、国税庁のホームページに掲載されている「評価倍率表」を使ってご自身で計算するか、税理士などの専門家に評価を依頼します。