ご家族が亡くなられた際に、故人の勤務先から「弔慰金」が支給されることがあります。この弔慰金には相続税がかからない非課税の枠がありますが、その計算の基礎となるのが「普通給与」です。もし、故人が亡くなる直前に病気や欠勤などで給与が少なくなっていたら、その少ない金額で計算されてしまうのでしょうか?そんな疑問やご不安を抱えている方のために、この記事では弔慰金の非課税枠の計算方法と、その基礎となる普通給与について、わかりやすく解説していきます。
弔慰金の非課税枠とは?基本的な考え方を知ろう
会社からいただく弔慰金は、故人を悼み、遺族を慰めるための大切なお金です。そのため、税金の面でも特別な配慮がされています。まずは、弔慰金の非課税枠に関する基本的なルールから見ていきましょう。
弔慰金は原則非課税、でも上限があります
弔慰金は、その趣旨から、原則として相続税の課税対象にはなりません。しかし、あまりにも高額な弔慰金が支払われると、実質的に給与や退職金と同じ性質を持つとみなされることがあります。そこで、課税の公平性を保つために、一定の「非課税限度額(非課税枠)」が設けられているのです。この枠を超えない限り、相続税を心配する必要はありません。
亡くなった理由で非課税枠が変わります
弔慰金の非課税枠は、故人が亡くなられた理由が「業務上の死亡」か「業務外の死亡」かによって大きく異なります。業務上の死亡とは、仕事中の事故や、業務が原因での病気による死亡などを指します。
| 死亡の理由 | 非課税限度額 |
|---|---|
| 業務上の死亡 | 死亡当時の普通給与 × 36ヶ月分(3年分) |
| 業務外の死亡 | 死亡当時の普通給与 × 6ヶ月分(半年分) |
このように、業務上の死亡の場合は、遺族の生活保障という側面がより強くなるため、非課税枠が手厚く設定されています。
非課税枠を超えた分は「死亡退職金」扱いに
もし受け取った弔慰金がこの非課税枠を超えてしまった場合、その超えた部分の金額は「死亡退職金」として扱われます。死亡退職金は「みなし相続財産」とされ、相続税の課税対象となります。
ただし、この死亡退職金にも別途、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が用意されています。そのため、弔慰金の非課税枠を少し超えたからといって、すぐに相続税が発生するわけではないので、安心してくださいね。
非課税枠の計算のキモ!「普通給与」とは?
さて、非課税枠の計算で最も重要になるのが「普通給与」です。この金額がいくらになるかで、非課税になる金額が大きく変わってきます。ここでは「普通給与」の具体的な内容と、皆さんが気にされている「給与が少なかった場合」の取り扱いについて詳しく見ていきましょう。
「普通給与」に含まれるもの・含まれないもの
「普通給与」とは、故人が亡くなった当時に受け取っていた、毎月決まって支払われる給与のことを指します。具体的には、以下のようなものが含まれます。
| 普通給与に含まれるもの | 普通給与に含まれないもの |
|---|---|
| 基本給、俸給、賃金、扶養手当、役職手当、勤務地手当など、毎月固定的に支払われるもの | 賞与(ボーナス)や、残業代・出張手当など月によって変動が大きいもの |
ポイントは、賞与(ボーナス)は含まれないという点です。月々の給与明細に記載されている、手当などを含んだ合計額をイメージすると分かりやすいかもしれません。
いつの時点の給与で計算するの?
非課税枠の計算に使う普通給与は、原則として「死亡当時」の金額と定められています。つまり、亡くなられる直前に支給されていた給与額が基準となります。
【重要】欠勤や病気で給与が少なかった場合はどうなる?
ここが一番気になるポイントだと思います。結論から言うと、亡くなる直前に欠勤や病気療養などで給与が通常よりも少なくなっていた場合、原則としてその少なくなった金額を基に計算されることになります。
例えば、普段の普通給与が月額40万円だった方が、亡くなる直前の月は長期欠勤のため25万円に減額されていたとします。この場合、非課税枠の計算は25万円をベースに行うのが原則です。これは、ご遺族にとっては少し厳しいルールかもしれません。
ただし、会社の給与規程などで特別な定めがある場合や、著しく実態と乖離しているなど合理的な理由がある場合は、税務署との協議の余地も考えられますが、基本的には直前の支給額が基準になる、と覚えておいてください。
「普通給与」がない場合はどう計算する?
会社の役員などで、月々の給与ではなく年俸制や賞与のみで報酬を受け取っている場合、「普通給与」という概念が当てはまらないことがあります。そのようなケースでは、どのように非課税枠を計算するのでしょうか。
非常勤役員などで月給がないケース
このような場合、合理的な方法で普通給与の額を算定することになります。例えば、亡くなる直前に受け取った賞与の額を12で割って月額に換算したり、その会社と事業内容や規模が似ている会社の、同じような役職の人が受け取っている給与額を参考にしたりします。
大切なのは合理的な根拠
重要なのは、なぜその金額を普通給与としたのか、税務署にきちんと説明できる客観的で合理的な根拠があることです。この判断は非常に専門的で難しい場合が多いため、このようなケースに当てはまる場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
具体的な計算シミュレーション
それでは、具体的な例を使って、実際にどのように計算するのかを見ていきましょう。
ケース1:業務外の死亡で、亡くなる直前に給与が減った場合
【前提】
- 通常の普通給与:月額50万円
- 死亡直前の普通給与(欠勤のため):月額30万円
- 受け取った弔慰金:500万円
- 死亡理由:業務外の死亡(病気など)
【計算】
- 非課税枠の計算
少ない方の給与をベースにします。
30万円 × 6ヶ月 = 180万円 - 課税対象額の計算
500万円(弔慰金) – 180万円(非課税枠) = 320万円
この場合、320万円が死亡退職金として扱われ、相続税の課税対象財産に加算されることになります。
ケース2:業務上の死亡で、賞与のみを受け取っていた役員の場合
【前提】
- 役員で月給はなし
- 亡くなる直前に受け取った賞与:600万円(年1回)
- 受け取った弔慰金:2,000万円
- 死亡理由:業務上の死亡
【計算】
- 普通給与の算定
賞与を月額に換算します。
600万円 ÷ 12ヶ月 = 月額50万円(これを合理的に算定した普通給与とします) - 非課税枠の計算
50万円 × 36ヶ月 = 1,800万円 - 課税対象額の計算
2,000万円(弔慰金) – 1,800万円(非課税枠) = 200万円
このケースでは、200万円が死亡退職金として扱われます。
弔慰金の非課税計算で注意すべきその他のポイント
最後に、弔慰金の計算において注意しておきたい点をいくつか補足します。
「業務上の死亡」の判断基準は?
「業務上の死亡」に当たるかどうかは、非課税枠が大きく変わるため非常に重要です。仕事中の事故はもちろん、通勤途中の災害や、出張中に起きた事故、業務が原因で発症した病気による死亡なども含まれることがあります。この判断は個別の状況によって異なるため、迷った場合は会社や専門家によく確認しましょう。
複数の会社から弔慰金を受け取った場合
故人が複数の会社に勤務しており、それぞれの会社から弔慰金が支給された場合は、会社ごとに非課税枠を計算します。例えば、A社での勤務中に亡くなった(業務上の死亡)場合でも、副業で勤務していたB社からの弔慰金は「業務外の死亡」として計算することになりますので、注意が必要です。
まとめ
今回は、弔慰金の非課税枠と、その計算の基礎となる「普通給与」について解説しました。大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 弔慰金の非課税枠は、死亡当時の普通給与を基に計算します。
- 普通給与には基本給や各種手当が含まれ、賞与は含まれません。
- 相続発生前に欠勤などで給与が減っていた場合、原則としてその少ない金額で計算されるため、注意が必要です。
- 普通給与がない場合や、業務上の死亡に当たるかどうかの判断が難しい場合は、ご自身で判断せずに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
弔慰金は、故人が遺してくれたご家族への想いが形になったものです。正しく理解し、適切に手続きを進めていきましょう。
参考文献
弔慰金の非課税枠と普通給与に関するよくある質問
Q.弔慰金の非課税枠の計算で使われる「普通給与」とは何ですか?
A.故人が生前に受け取っていた給料や手当のことで、死亡時の月給やそれに準ずる給与を指します。賞与などの特別な給与は含まれません。
Q.業務上の死亡の場合、弔慰金の非課税枠はいくらになりますか?
A.故人の死亡時の普通給与の3年分(36ヶ月分)に相当する金額までが非課税となります。
Q.業務外の死亡の場合、弔慰金の非課税枠はいくらですか?
A.故人の死亡時の普通給与の半年分(6ヶ月分)に相当する金額までが非課税となります。
Q.亡くなる直前は欠勤が多く給与が少なかった場合、非課税枠の計算はどうなりますか?
A.はい、その少ない金額が計算の基礎となります。「死亡時」の普通給与が基準となるため、亡くなる直前の給与額で計算されます。
Q.弔慰金の計算に使う「普通給与」に賞与(ボーナス)は含まれますか?
A.いいえ、「普通給与」には賞与や退職金など、臨時に支払われる給与は含まれません。毎月決まって支払われる給与が対象です。
Q.弔慰金の非課税枠を超えた部分は、どうなりますか?
A.非課税枠を超えた部分は「死亡退職金」として扱われ、相続税の課税対象となります。ただし、死亡退職金にも別途非課税枠があります。