2024年3月1日から始まった「戸籍証明書等の広域交付制度」。これによって、本籍地が遠くても近くの役所で戸籍謄本などを取得できるようになりました。特に相続手続きなどで戸籍を集める必要がある方にとっては、とても便利な制度ですよね。でも、「具体的に何が便利なの?」「注意点はある?」と気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、戸籍の広域取得のメリットとデメリットを、わかりやすく徹底解説します。
戸籍の広域交付制度ってどんな制度?
2024年3月1日に始まった「戸籍の広域交付制度」は、これまで本籍地の市区町村役場でしか取得できなかった戸籍謄本などを、全国どこの市区町村の窓口でも請求できるようにする画期的な制度です。法務省の「戸籍情報連携システム」という仕組みを活用することで、各市区町村が持っている戸籍情報を連携させ、この便利なサービスが実現しました。
「どこでも」「まとめて」取得可能に!
この制度のキャッチフレーズは「どこでも、まとめて」。具体的には、2つの大きなポイントがあります。
- 【どこでも】 自分の本籍地がどこにあっても、お住まいの地域や勤務先の近くなど、一番便利な市区町村の窓口で戸籍を請求できます。例えば、本籍地が北海道で、現在東京にお住まいの方でも、東京の役所で北海道の戸籍が取得できるんです。
- 【まとめて】 相続手続きなどで、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集める場合、本籍地が複数にまたがることがよくあります。従来はそれぞれの本籍地の役所に個別に請求する必要がありましたが、この制度を使えば1か所の窓口でまとめて請求できます。
広域交付で取得できる証明書の種類と費用
広域交付制度で取得できる証明書は、主に相続手続きで必要となるものです。ただし、すべての戸籍関連書類が対象ではないので注意が必要です。
取得できる証明書 | 手数料(1通あたり) |
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 450円 |
除籍全部事項証明書(除籍謄本) | 750円 |
改製原戸籍謄本 | 750円 |
これらの証明書は、戸籍に記載されている情報がすべて記載された「全部事項証明書(謄本)」に限られます。
戸籍の広域取得、最大のメリットは?
なんといっても、戸籍の広域取得には時間と手間を大幅に削減できるという大きなメリットがあります。具体的にどのような利点があるのか、3つのポイントに分けて見ていきましょう。
近くの役所で完結!移動時間と交通費を節約
最大のメリットは、本籍地が遠方にあっても、わざわざそこまで行く必要がなくなったことです。これまでは、遠い本籍地の役所まで足を運ぶか、郵送で請求するしかありませんでした。広域交付制度を使えば、お近くの市区町村役場の窓口に行くだけで済むので、移動にかかる時間や交通費を大幅に節約できます。
相続手続きの戸籍収集が劇的に効率化
相続手続きでは、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等が必要になります。結婚や転籍で本籍地が変わっていると、複数の役所に請求する必要があり、これが本当に大変な作業でした。広域交付制度なら、複数の本籍地の戸籍を一度に請求できるため、手続きにかかる時間が劇的に短縮されます。2024年4月から始まった相続登記の義務化への対応も、よりスムーズに進められるようになります。
郵送請求の手間と費用も削減
郵送で戸籍を請求する場合、申請書の準備のほかに、手数料として「定額小為替」を郵便局で購入する必要がありました。この定額小為替、1枚発行するのに200円の手数料がかかります。例えば450円の戸籍謄本を1通請求するだけでも、合計650円と郵送料がかかっていたのです。広域交付なら窓口で現金払いできるため、この定額小為替の手数料や郵送料がかからず、経済的な負担も軽くなります。
要注意!戸籍の広域取得のデメリットと注意点
とても便利な広域交付制度ですが、利用する上で知っておくべきデメリットや注意点もいくつかあります。思わぬ二度手間にならないよう、事前にしっかり確認しておきましょう。
請求できる人と取得できる戸籍に制限がある
広域交付制度で戸籍を請求できるのは、本人、配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)に限られています。そのため、相続手続きで必要になることが多い兄弟姉妹や、おじ・おば、おい・めいの戸籍は請求できません。これらの戸籍が必要な場合は、従来通り本籍地の役所に直接請求する必要があります。
代理人請求や郵送請求はできません
この制度は、厳格な本人確認が求められるため、必ず請求者本人が窓口に出向く必要があります。
できないこと | 理由 |
代理人による請求(委任状を使っても不可) | なりすまし防止のため、本人確認を厳格化しているためです。司法書士などの専門家も、職務上請求でこの制度を利用することはできません。 |
郵送による請求 | 窓口で顔写真付きの身分証明書による本人確認が必須なため、郵送での受付は行っていません。 |
取得できない証明書がある
広域交付の対象は「全部事項証明書(謄本)」のみです。そのため、以下の証明書は取得できませんのでご注意ください。
- 戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)
- 戸籍の附票の写し
- 身分証明書、独身証明書
- コンピューター化されていない一部の戸籍
特に「戸籍の附票」は、相続登記で不動産の登記簿上の住所と亡くなった方の最後の住所をつなげるために必要な場合があります。これが取得できない点は大きな注意点です。必要な場合は、本籍地の役所に郵送などで請求しましょう。
即日交付されない可能性も
広域交付では、請求を受けた役所が本籍地の役所に内容を確認する作業が発生します。そのため、請求が集中した場合や、複数の戸籍をまとめて請求した場合などは、発行に時間がかかり、当日中に受け取れないことがあります。後日再び窓口に取りに行く必要があるケースも考えられますので、時間に余裕を持って手続きをすることをおすすめします。
戸籍の広域交付、どうやって申請するの?
では、実際に広域交付制度を利用するにはどうすればよいのでしょうか。簡単な流れと必要なものをまとめました。
申請から受け取りまでの流れ
申請は、お近くの市区町村役場の窓口で行います。自治体によっては事前予約が必要な場合もあるため、ホームページなどで確認しておくとスムーズです。
- 準備:必要なものを用意し、必要に応じて役所に事前予約をします。
- 訪問・申請:予約した日時(または開庁時間内)に役所の窓口へ行き、備え付けの申請書に必要事項を記入して提出します。
- 手数料の支払い:証明書の発行手数料を支払います。
- 受け取り:証明書を受け取ります。内容に間違いがないか、その場で確認しましょう。(後日交付の場合は、指定された日に再度訪問します)
申請に必要なもの
申請の際には、顔写真付きの公的な身分証明書が必須です。忘れると手続きができないので、必ず持参してください。
必要なもの | 具体例 |
顔写真付きの公的な身分証明書 | 運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど(健康保険証や年金手帳は不可) |
手数料 | 現金で準備しておきましょう。 |
また、請求したい戸籍の「本籍地」と「筆頭者」の情報がわかると手続きがスムーズに進みます。事前にメモしていくと良いでしょう。
それでも困ったら?専門家への依頼も検討しよう
広域交付制度は非常に便利ですが、「どの戸籍が必要かわからない」「兄弟の戸籍も必要で、結局郵送請求も必要になった」「平日に役所に行く時間がない」といったお悩みも出てくるかと思います。
司法書士なら戸籍収集から手続きまで一括で依頼可能
相続手続きで戸籍を集める場合、司法書士などの専門家に依頼することも有効な選択肢です。専門家は職務上請求という権限を使って、依頼者に代わって必要な戸籍をすべて収集することができます。広域交付の対象外である兄弟姉妹の戸籍や戸籍の附票なども、もちろん取得可能です。
専門家に依頼する費用の目安
戸籍収集のみを専門家に依頼する場合の費用は、事務所や収集する戸籍の通数にもよりますが、おおむね3万円~8万円程度が目安となります。戸籍収集だけでなく、その後の遺産分割協議書の作成や不動産の名義変更(相続登記)まで含めて依頼することで、相続手続き全体をスムーズかつ正確に進めることができます。
まとめ
2024年3月から始まった戸籍の広域交付制度は、私たちの手続きの負担を大きく減らしてくれる便利な制度です。最後に、メリットとデメリットをもう一度おさらいしておきましょう。
- メリット:近くの役所で、複数の本籍地の戸籍をまとめて取得できる。時間・費用・手間を大幅に削減できる。
- デメリット:請求できる人や証明書の種類に制限がある。代理人請求や郵送請求はできず、本人が窓口に行く必要がある。
特に相続手続きでは、この制度をうまく活用することで、最初のステップである戸籍収集を効率的に進めることができます。ただし、注意点も理解した上で、必要に応じて従来の方法や専門家への依頼も組み合わせながら、ご自身の状況に合った最適な方法を選んでくださいね。
参考文献
法務省:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
国税庁
戸籍の広域交付に関するよくある質問まとめ
Q. 戸籍の広域交付とは何ですか?
A. 本籍地が遠くにある場合でも、お住まいや勤務先の最寄りの市区町村の窓口で、戸籍証明書や除籍証明書をまとめて請求できる新しい制度です。
Q. 戸籍の広域交付の最大のメリットは何ですか?
A. 一番のメリットは、複数の市区町村に本籍地が点在していても、一つの窓口でまとめて戸籍証明書を取得できる点です。これにより、郵送請求などの手間や時間が大幅に削減できます。
Q. 戸籍の広域交付にデメリットや注意点はありますか?
A. デメリットとして、請求できる人が本人・配偶者・直系の親族に限られることや、コンピュータ化されていない一部の戸籍は取得できない点が挙げられます。また、発行に時間がかかる場合もあります。
Q. 広域交付はどこで手続きできますか?
A. 全国の市区町村役場の窓口で手続きできます。本籍地ではない、お住まいの地域や勤務先の近くの役場でも問題ありません。
Q. 戸籍の広域交付は誰でも請求できますか?
A. いいえ、請求できるのは本人、配偶者、父母や祖父母(直系尊属)、子や孫(直系卑属)に限られます。兄弟姉妹の戸籍や、代理人による請求はできません。
Q. 広域交付の手続きに必要な持ち物は何ですか?
A. 運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど、官公署が発行した顔写真付きの本人確認書類が必須です。健康保険証など顔写真がないものは認められないためご注意ください。