個人事業主になると、会社員時代のように給料から天引きされるのではなく、自分で税金を納める必要があります。特に「所得税」「住民税」「事業税」は、それぞれ計算する人や支払うタイミングが異なり、戸惑う方も多いのではないでしょうか。この記事では、これら3つの税金について「誰が」「いつ計算して」「いつ、どうやって払うのか」を、初心者の方にも分かりやすく解説します。納税の全体像を掴んで、計画的に準備を進めましょう。
所得税は「自分で計算」して「確定申告」で納付
所得税は、個人の1年間の所得に対してかかる国の税金です。個人事業主の場合、自分で所得と税額を計算して国に申告・納税する「申告納税制度」がとられています。これが毎年行う「確定申告」です。
誰がいつ計算するの?
所得税を計算するのは「自分自身」です。毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得をまとめ、原則として翌年の2月16日から3月15日までの確定申告期間に税額を計算し、税務署に申告します。
どうやって計算するの?
所得税は、以下の計算式で算出されます。
(収入 − 必要経費 − 各種所得控除) × 所得税率 − 税額控除 = 所得税額
簡単に言うと、まず事業の売上(収入)から仕入れや経費(必要経費)を差し引いて「事業所得」を求めます。そこから基礎控除や社会保険料控除などの「所得控除」を引いたものが「課税所得」です。この課税所得の金額に応じて、以下の表の税率をかけて所得税額を計算します。
| 課税される所得金額 | 税率 |
| 195万円以下 | 5% |
| 195万円超 330万円以下 | 10% |
| 330万円超 695万円以下 | 20% |
| 695万円超 900万円以下 | 23% |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% |
| 4,000万円超 | 45% |
※2037年までは、算出した所得税額に2.1%の復興特別所得税が上乗せされます。
いつ、どうやって払うの?
所得税の納税期限は、確定申告の期限と同じく原則3月15日です。支払い方法は、以下のように様々です。
- 振替納税:指定した金融機関の口座から自動で引き落とされます。(4月中旬頃に引き落とし)
- e-Tax(電子納税):インターネットバンキングやクレジットカードで納付できます。
- クレジットカード納付:専用サイトから手続きします。(決済手数料がかかります)
- コンビニ納付:税務署で発行されるバーコード付きの納付書で支払います。(30万円以下)
- 金融機関・税務署の窓口:現金に納付書を添えて支払います。
また、前年の所得税額が15万円以上だった場合、その年の所得税の一部を前払いする「予定納税」が必要になります。7月と11月の2回に分けて納付します。
住民税は「自治体が計算」して「通知書」で納付
住民税は、お住まいの都道府県と市区町村に納める地方税です。所得税と大きく違うのは、自分で税額を計算する必要がない点です。確定申告の情報に基づいて、自治体が税額を計算してくれます。
誰がいつ計算するの?
住民税を計算するのは「市区町村」です。あなたが提出した確定申告書の情報が税務署から市区町村に共有され、それを基に税額が自動的に計算されます。計算結果は、毎年6月上旬頃に「住民税納税通知書」として自宅に郵送されます。
どうやって計算するの?
住民税は、主に2つの要素で構成されています。
| 所得割 | 前年の所得金額に応じて課税される部分です。税率は原則として一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。 |
| 均等割 | 所得金額にかかわらず、全員が同じ額を負担する部分です。標準的には年間で5,000円程度ですが、自治体によって若干異なります。 |
いつ、どうやって払うの?
個人事業主の場合、納税通知書に同封されている納付書を使って支払う「普通徴収」という方法になります。支払うタイミングは、原則として以下の年4回です。
- 第1期:6月末
- 第2期:8月末
- 第3期:10月末
- 第4期:翌年1月末
もちろん、第1期のタイミングで4回分をまとめて支払うことも可能です。金融機関の窓口やコンビニ、口座振替、クレジットカード、スマートフォン決済アプリなど、自治体が対応している方法で納付します。
事業税は「都道府県が計算」して「通知書」で納付
個人事業税は、事業を行っていることに対してかかる都道府県の税金です。ただし、すべての個人事業主が対象ではなく、地方税法で定められた「法定業種」(70業種)に該当する場合のみ課税されます。
誰がいつ計算するの?
事業税を計算するのも自分ではなく「都道府県」です。住民税と同様に、確定申告の情報が都道府県にも共有され、税額が計算されます。そして、毎年8月頃に都道府県税事務所から「納税通知書」が郵送されてきます。
どうやって計算するの?
事業税の計算式は以下の通りです。
(事業所得 − 事業主控除290万円) × 税率
大きな特徴は、所得から一律で290万円を差し引ける「事業主控除」があることです。つまり、年間の事業所得が290万円以下であれば、個人事業税はかかりません。税率は事業の種類によって異なり、3%から5%です。
| 第1種事業(37業種) | 物品販売業、飲食店業、コンサルタント業、デザイン業など【税率5%】 |
| 第2種事業(3業種) | 畜産業、水産業など【税率4%】 |
| 第3種事業(30業種) | 医業、弁護士業、税理士業、理容業、美容業など【税率5%】 あん摩・マッサージ・指圧師業など【税率3%】 |
注意点として、所得税の計算で使われる「青色申告特別控除(最大65万円)」は、事業税の計算では適用されないため、所得税の課税所得とは金額が異なります。
いつ、どうやって払うの?
事業税の納付は、原則として8月と11月の年2回に分けて行います。納税通知書に同封された納付書を使い、金融機関の窓口やコンビニ、クレジットカードなどで納付します。
3つの税金の流れを一覧でチェック!
ここまで解説した所得税、住民税、事業税のスケジュールと手続きを一覧表にまとめました。全体像を把握しておきましょう。
| 税金の種類 | 所得税 |
| 誰が計算する? | 自分 |
| 計算・申告の時期 | 翌年2月16日~3月15日 |
| いつ払う? | 原則、翌年3月15日まで |
| どうやって払う? | 口座振替、e-Tax、クレジットカード、窓口など |
| 税金の種類 | 住民税 |
| 誰が計算する? | 市区町村 |
| 通知が来る時期 | 翌年6月上旬頃 |
| いつ払う? | 年4回(6月、8月、10月、翌年1月) |
| どうやって払う? | 納付書で金融機関、コンビニ、スマホ決済など |
| 税金の種類 | 個人事業税 |
| 誰が計算する? | 都道府県 |
| 通知が来る時期 | 翌年8月頃 |
| いつ払う? | 年2回(8月、11月) |
| どうやって払う? | 納付書で金融機関、コンビニ、クレジットカードなど |
納税資金は計画的に準備しよう
会社員と違い、個人事業主は税金が自動的に天引きされません。そのため、自分で納税のためのお金を計画的に準備しておく必要があります。特に、所得税の確定申告が終わってホッとした頃に、住民税や事業税の納税通知書が届きます。「忘れていた!」とならないよう、あらかじめ年間の納税スケジュールを把握し、売上の中から納税資金を別に確保しておくことが大切です。事業用の口座に「納税用」として毎月一定額を積み立てておくと安心ですよ。
まとめ
所得税、住民税、事業税の計算と支払いの流れについて、ご理解いただけたでしょうか。ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 所得税:自分で計算し、確定申告のタイミングで納付する。
- 住民税・事業税:自治体が計算してくれるので、後から届く通知書に従って納付する。
それぞれの税金の仕組みとスケジュールをしっかり理解しておけば、慌てることなく納税に備えることができます。この記事を参考に、スムーズな納税計画を立ててくださいね。
参考文献
所得税・住民税・事業税のよくある質問まとめ
Q.所得税は誰がいつ計算するの?
A.毎年1月1日〜12月31日の所得をご自身で計算し、原則として翌年2月16日〜3月15日の間に確定申告を行います。
Q.住民税はいつどうやって払うの?
A.確定申告の情報に基づき市区町村が税額を計算し、6月頃に納税通知書が届きます。通知書に従い、通常は年4回(6月、8月、10月、翌1月)に分けて納付します。
Q.個人事業税はすべての事業主が払うの?
A.いいえ。法律で定められた事業(法定業種)を行っており、年間の事業所得が290万円の事業主控除を超えた場合にのみ課税されます。
Q.所得税の支払い方法には何がある?
A.確定申告の期限までに、金融機関や税務署での現金納付、口座からの振替納税、クレジットカード納付、コンビニ納付、e-Taxによる電子納税などの方法で支払います。
Q.住民税は自分で計算する必要がある?
A.いいえ、ご自身で計算する必要はありません。確定申告などの情報をもとに、お住まいの市区町村が税額を自動で計算してくれます。
Q.個人事業税はいつ通知が来てどうやって払うの?
A.8月頃に都道府県から納税通知書が届きます。納付は年2回(8月と11月)が一般的で、同封の納付書を使って金融機関などで支払います。