ご家族が遺された投資用マンション。家賃収入はありがたいけれど、相続税の申告で「まだ受け取っていない家賃」や「先にもらった家賃」をどう扱えばいいのか、お悩みではありませんか?
実は、この未収家賃や前受家賃の扱いは、相続税額に影響する大切なポイントです。申告漏れで後からペナルティを受けないためにも、正しい計算方法と記載方法を知っておくことが重要です。
この記事では、投資用マンションの家賃収入がある場合の、未収家賃・前受家賃の相続税申告における計算方法と注意点を、わかりやすく解説していきますね。
未収家賃は相続税の課税対象になります
まず一番大切なポイントからお伝えします。亡くなった方(被相続人)が受け取るはずだったのに、まだ受け取っていなかった家賃、つまり「未収家賃」は、相続財産として相続税の課税対象になります。「まだ手元にないお金なのになぜ?」と思われるかもしれませんが、法律上は「お金を受け取る権利(債権)」も価値のある財産とみなされるためです。
なぜ未収家賃が相続財産になるの?
未収家賃が相続財産となる根拠は、国税庁の財産評価基本通達に定められています。簡単に言うと、「亡くなった日(課税時期)において、受け取るべき期限が来ているのにお金が入っていない家賃などは、その金額で財産として評価します」というルールです。
つまり、滞納されている家賃も、亡くなった方が持っていた「家賃を請求する権利」として、預貯金や不動産と同じように相続財産に含めて申告する必要があるのです。
未収家賃に該当するかの判断基準は「支払期日」
では、どの家賃が「未収家賃」に該当するのでしょうか。その判断基準はとてもシンプルで、「亡くなった日までに支払期日が到来しているかどうか」で決まります。
以下の2つの条件を両方満たすものが、相続税の対象となる未収家賃です。
| 要件1 | 亡くなった日(相続開始日)の時点で、賃貸借契約書に定められた家賃の支払期日が到来していること |
| 要件2 | 要件1の家賃が、亡くなった日までに支払われていないこと |
賃貸借契約書を確認して、家賃の支払日がいつになっているかをチェックすることが最初のステップになります。
回収できない滞納家賃はどうなる?
「何年も滞納されていて、回収できる見込みがない家賃にも相続税がかかるの?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。もし、入居者と連絡が取れない、支払い能力がないなど、客観的にみて回収が不可能だと判断される場合は、その未収家賃の評価額をゼロとして申告できる可能性があります。
ただし、単に「払ってくれそうにない」というだけでは認められにくく、内容証明郵便での督促履歴や、裁判所の支払督促などの手続きを行った記録など、回収努力をしたにもかかわらず回収不能であることを示す証拠が必要になることが多いです。判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
【ケース別】未収家賃の具体的な計算方法
未収家賃に該当する月は、家賃の支払い方式によって変わってきます。ここでは、一般的な「前家賃」と「後家賃」の2つのケースに分けて、具体的な計算方法を見ていきましょう。ここでは、相続開始日が「10月15日」、家賃が月10万円と仮定します。
「翌月分を前月末までに支払う」契約の場合(前家賃)
これは、10月分の家賃を9月30日までに支払う、という一般的な契約形態です。この場合、10月15日に亡くなった時点で支払期日が到来しているのは、10月分の家賃(支払期日は9月30日)までです。
もし、10月分の家賃が10月15日時点でまだ支払われていなければ、この10万円が未収家賃として相続財産になります。9月分以前の家賃にも滞納があれば、それも全て合算します。
「当月分を当月末までに支払う」契約の場合(後家賃)
こちらは、10月分の家賃を10月30日に支払う、という契約です。この場合、10月15日に亡くなった時点で支払期日が到来しているのは、9月分の家賃(支払期日は9月30日)までです。
もし、9月分の家賃が10月15日時点で支払われていなければ、この10万円が未収家賃となります。10月分の家賃は、まだ支払期日(10月30日)が来ていないため、未収家賃には該当しません。
日割り計算は必要?
後家賃のケースで、「10月1日~15日までの15日分は日割りで計算するの?」という疑問が浮かぶかもしれません。結論から言うと、家賃の日割り計算は不要です。
相続税の計算では、あくまで「支払期日が到来しているか」が判断基準です。10月15日の時点では10月分の家賃の支払期日が来ていないため、亡くなるまでの期間に対応する家賃を計算して財産に加える必要はありません。
前受家賃の相続税申告での扱い
未収家賃とは逆に、亡くなる前に翌月分以降の家賃を先んじて受け取っていた「前受家賃」はどのように扱われるのでしょうか。これは「預かり金」のようなものなので、マイナスの財産として遺産総額から差し引ける(債務控除)のでしょうか?
前受家賃は原則として債務控除の対象にならない
結論として、前受家賃は原則として債務控除の対象にはなりません。
例えば、前家賃の契約で9月25日に10月分の家賃を受け取った後、10月15日に亡くなったとします。この場合、受け取った家賃のうち、10月16日~31日分は前受けしていることになりますが、これを相続財産からマイナスすることはできません。
なぜ債務控除できないのか?
債務控除が認められるのは、亡くなった時点で「確定している債務」、つまり借入金のように返済義務があるものに限られます。
賃貸借契約では、大家さん(貸主)が亡くなっても契約は相続人に引き継がれます。入居者(借主)はそのまま住み続けるため、先に受け取った家賃を返還する義務は発生しません。そのため、「確定している債務」とは認められず、債務控除の対象外となるのです。
相続税申告書への記載方法
未収家賃がある場合、相続税申告書のどこに、どのように記載すればよいのでしょうか。申告漏れがないように、しっかり確認しておきましょう。
未収家賃の記載場所と書き方
未収家賃は、「相続税の申告書 第11表 相続税がかかる財産の明細書」に記載します。
書き方の例は以下の通りです。
| 財産の明細:種類 | 債権 |
| 細目 | 未収家賃 |
| 財産の所在地 | 賃貸物件の所在地を記載します。(例:東京都〇〇区〇〇1-2-3) |
| 数量 | (空欄) |
| 単価 | (空欄) |
| 価額 | 相続財産に計上する未収家賃の合計額を記載します。(例:100,000) |
誰からの未収家賃なのかを特定するために、申告書とは別に、入居者ごとの未収家賃の内訳書を作成して添付すると、税務署にも分かりやすく親切です。
申告に必要な書類は?
未収家賃の存在を証明するために、以下のような書類を準備しておくとスムーズです。
- 賃貸借契約書:家賃の金額や支払期日を確認するために必要です。
- 家賃の入金履歴がわかる預金通帳のコピー:どの月の家賃まで入金があったかを確認します。
- 家賃管理表やレントロール:不動産管理会社に管理を委託している場合に発行される書類で、家賃の入金状況が一覧でわかります。
未収家賃に関する注意点と生前対策
最後に、未収家賃の相続で気をつけたいポイントと、相続人が困らないために生前からできる対策について解説します。
申告漏れはペナルティの対象に
未収家賃は金額が少額な場合もあり、つい申告を忘れてしまいがちですが、意図的でなくても申告漏れを税務署から指摘されると、本来の税金に加えて「過少申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課されてしまいます。
金額の大小にかかわらず、相続財産を調査する際には、家賃の入金状況もしっかりと確認することが大切です。
生前にできる未収家賃対策
相続人に負担をかけないためには、マンションのオーナーである方が元気なうちから対策をしておくことが理想です。家賃の滞納が発生したら放置せず、速やかに督促状を送る、保証会社に連絡するなど、こまめに回収を行う習慣をつけましょう。
回収が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談して法的な手続きを進めることも検討し、できるだけ未収の状態を解消しておくことが、円満な相続につながります。
まとめ
投資用マンションの家賃収入に関する相続税申告のポイントをまとめます。
- 亡くなった日までに支払期日が到来している未収家賃は、相続財産として課税対象になります。
- どの家賃が未収に該当するかは、賃貸借契約書の支払い方式(前家賃か後家賃か)によって変わります。
- 先に受け取った前受家賃は、原則として債務控除の対象にはなりません。
- 未収家賃は相続税申告書第11表に記載し、申告漏れがないように注意が必要です。
未収家賃や前受家賃の計算は、契約内容によって判断が分かれることもあり、少し複雑に感じるかもしれません。もしご自身での判断に不安がある場合や、滞納額が大きく対応に困っている場合は、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けながら、正確で安心な相続税申告を進めていきましょう。
参考文献
投資用マンションの家賃収入と相続税申告のよくある質問
Q.相続が発生した時、まだ受け取っていない家賃(未収家賃)はどう扱いますか?
A.未収家賃は、被相続人(亡くなった方)が受け取るべき権利(債権)として相続財産に加算します。相続開始日時点で入金されていない家賃が対象です。
Q.すでに来月分として受け取っている家賃(前受家賃)は相続税の計算に関係しますか?
A.はい、関係します。前受家賃は被相続人が亡くなった後に提供するサービスへの対価なので、相続財産から差し引ける「債務」として扱われます。
Q.未収家賃はいつの時点のものを計上すればよいですか?
A.相続開始日(亡くなった日)までに支払期日が到来しているにもかかわらず、まだ入金されていない家賃を相続財産として計上します。
Q.前受家賃はどうして相続財産から差し引けるのですか?
A.前受家賃は、相続人が故人に代わって部屋を貸すという義務を引き継ぐための「預り金」のような性質を持つため、被相続人の債務として扱われ、相続財産から控除できます。
Q.未収・前受家賃の他に、相続財産に加算・減算するものはありますか?
A.はい。入居者から預かっている敷金や保証金は返還義務があるため債務として控除できます。また、未払いの固定資産税や管理費なども債務として控除の対象になります。
Q.未収家賃が回収できない可能性がある場合でも、相続財産に含める必要がありますか?
A.原則として債権として計上する必要があります。ただし、入居者の支払い能力などから回収が著しく困難であると客観的に証明できる場合は、評価額を減額できる可能性があります。