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換価分割で不動産売却!譲渡所得税の負担は誰がどう払う?徹底解説

2025-04-18
目次

ご家族が遺した不動産を相続したものの、相続人が複数いるため、どうやって分けたらいいか悩んでいませんか?そんなとき、不動産を売却して現金で分ける「換価分割(かんかぶんかつ)」は、公平でわかりやすい方法としてよく選ばれます。しかし、ここで気になるのが「譲渡所得税」です。この税金のことを知らないと、思わぬ負担が発生してしまうかもしれません。この記事では、換価分割で不動産を売却した場合の譲渡所得税について、誰が・いつ・いくら負担するのか、そして賢く節税できる特例まで、わかりやすく解説していきます。

換価分割とは?まずは基本を知ろう

換価分割とは、相続した不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分け合う方法です。物理的に分けにくい不動産でも、現金にすることで1円単位まできっちり公平に分割できるのが最大のメリットです。特に、誰もその不動産に住む予定がない場合や、相続税の納税資金を確保したい場合に有効な手段となります。

他の遺産分割方法との違い

遺産の分け方には、換価分割の他に「現物分割」と「代償分割」があります。それぞれの特徴を比べてみましょう。

分割方法 内  容
現物分割 土地は長男、建物は次男、預貯金は長女というように、遺産をそのままの形で分ける方法。最もシンプルな方法ですが、財産の価値が異なると不公平感が出やすいです。
代償分割 長男が不動産をすべて相続する代わりに、他の相続人(次男や長女)に法定相続分に相当するお金(代償金)を支払う方法。不動産を残したい場合に有効ですが、不動産を相続する人には代償金を支払う資力が必要です。
換価分割 不動産などを売却して現金化し、そのお金を相続人で分ける方法。公平に分けられますが、大切な不動産を手放すことになり、売却には諸経費や税金がかかります。

換価分割のメリット・デメリット

換価分割には良い点もあれば、注意すべき点もあります。

【メリット】

  • 公平な分割が可能:現金を分けるので、相続人間で不公平が生じにくいです。
  • 代償金が不要:代償分割のように、誰かが自己資金を用意する必要がありません。
  • 納税資金の確保:売却で得た現金で、相続税やその他の費用を支払うことができます。

【デメリット】

  • 資産を手放すことになる:思い出のある家や土地を残すことはできません。
  • 希望価格で売れるとは限らない:市場の状況や売却を急ぐ事情によっては、想定より低い価格になる可能性があります。
  • 諸経費と税金がかかる:不動産会社への仲介手数料や登記費用、そして売却益に対して譲渡所得税がかかります。

換価分割の手続きの流れ

換価分割は、一般的に以下の流れで進められます。

  1. 遺産分割協議:相続人全員で、不動産を換価分割することに合意します。その内容を「遺産分割協議書」にまとめます。
  2. 相続登記:不動産の名義を、亡くなった方から相続人へ変更します。
  3. 不動産の売却:不動産会社に仲介を依頼し、買主を見つけて売買契約を結びます。
  4. 代金の分配:売却代金から諸経費や税金を差し引いた後、遺産分割協議書で決めた割合に応じて各相続人に分配します。

換価分割でかかる譲渡所得税の基本

換価分割で不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税と住民税がかかります。これをまとめて「譲渡所得税」と呼びます。この税金は、相続人自身が確定申告をして納税する必要があります。

譲渡所得税は誰が負担するの?

ここが最も重要なポイントです。換価分割の場合、譲渡所得税は不動産を売却した相続人全員が、それぞれの取得割合(持分)に応じて負担します。たとえ手続きを簡単にするために代表者1人の名義(単独登記)で売却したとしても、税金の負担義務は売却代金を受け取るすべての相続人にあります。代表者1人だけが全額を負担するわけではないので、注意しましょう。

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税は、以下の計算式で算出されます。

課税譲渡所得金額 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

譲渡所得税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率

  • 売却価格:不動産が売れた金額です。
  • 取得費:亡くなった方(被相続人)がその不動産を購入したときの代金や手数料のことです。購入時の契約書などが見つからず取得費がわからない場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。
  • 譲渡費用:売却のために直接かかった費用で、不動産会社に支払った仲介手数料や印紙税などが含まれます。

税率は不動産の所有期間で変わる

譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって大きく異なります。重要なのは、この所有期間は亡くなった方(被相続人)がその不動産を取得した日からカウントするという点です。相続してからすぐに売却したとしても、被相続人が長く所有していれば、低い税率が適用されます。

所有期間 区分 税率(所得税+復興特別所得税+住民税)
5年以下(売却した年の1月1日時点) 短期譲渡所得 39.63%
5年超(売却した年の1月1日時点) 長期譲渡所得 20.315%

相続登記の方法で税金の扱いが変わる?注意点

亡くなった方名義のままでは不動産は売却できません。必ず相続人の名義に変更する「相続登記」が必要です。この登記の方法によっては、税務上のトラブルにつながる可能性があるので注意が必要です。

相続人全員の共有名義で登記する場合

相続人それぞれの持分で共有登記する方法です。税務上は最も明確で、各相続人が自分の持分に応じた譲渡所得を計算し、確定申告を行います。手続きは少し煩雑になりますが、トラブルは起きにくい方法です。

代表者1人の単独名義で登記する場合

手続きをスムーズに進めるため、相続人のうち1人を代表者として、その人の名義で登記してから売却する方法です。この場合、非常に重要なのが遺産分割協議書の書き方です。

遺産分割協議書に、「この登記は換価分割を目的とするものであり、売却代金は各相続人が〇〇の割合で取得する」という旨を必ず明記してください。この記載がないと、税務署から「代表者がいったん不動産をすべて相続し、その売却代金を他の相続人に贈与した」とみなされ、高額な贈与税が課せられる危険性があります。適切な遺産分割協議書を作成すれば、この方法でも各相続人が譲渡所得を申告することになり、贈与税はかかりません。

知らないと損!譲渡所得税の負担を軽くする3つの特例

相続した不動産の売却には、税負担を軽減できる特例が用意されています。要件に当てはまれば大幅な節税につながるため、必ず確認しましょう。

相続税の取得費加算の特例

相続の際に相続税を納めた人が、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内にその相続した不動産を売却した場合、納めた相続税の一部を不動産の取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで課税対象となる譲渡所得が減り、結果的に譲渡所得税が安くなります。

被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除

亡くなった方が一人で住んでいた家(いわゆる空き家)を売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる強力な特例です。ただし、適用には以下のような細かい要件があります。

  • 相続開始の直前まで被相続人が居住していたこと
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(耐震リフォームが必要な場合あり)
  • 相続開始から3年が経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却代金が1億円以下であること

※令和6年1月1日以降の譲渡で、相続人が3人以上の場合は控除額が最大2,000万円になります。

マイホームを売ったときの3,000万円特別控除

亡くなった方と同居していた相続人がその家を相続し、売却した場合に適用できる可能性がある特例です。この場合、売却した家が相続人自身の「マイホーム」に該当すれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。上記の「空き家特例」とは別の制度であり、適用要件も異なりますので、自分がどちらに該当するか確認が必要です。

換価分割と他の税金の関係

換価分割では、譲渡所得税以外にもいくつかの税金が関わってきます。

相続税との関係

相続税は、亡くなった日(相続開始日)時点での財産の評価額に基づいて計算されます。そのため、その後に不動産をいくらで売却したとしても、基本的に相続税の金額には影響しません。売却価格が高くても低くても、相続税は変わらないと覚えておきましょう。

贈与税との関係

前述のとおり、遺産分割協議書に「換価分割が目的であること」と「代金の分配割合」をきちんと記載しておけば、売却代金を分けても贈与とはみなされず、贈与税はかかりません。遺産分割協議書の作成は非常に重要です。

その他の費用(登録免許税・印紙税など)

税金以外にも、不動産を売却する際には以下のような費用がかかります。

  • 登録免許税:相続登記の際に法務局に納める税金です。
  • 印紙税:不動産の売買契約書に貼る収入印紙の代金です。
  • 仲介手数料:売却を依頼した不動産会社に支払う手数料です。

これらの費用も誰がどのように負担するのか、事前に相続人間で話し合っておくとスムーズです。

まとめ

換価分割で不動産を売却した場合、その売却益に対する譲渡所得税は、相続人全員がそれぞれの取得割合に応じて負担するのが原則です。税額の計算や特例の適用には専門的な知識が必要であり、特に手続きを簡略化するために代表者1人の名義で売却する際には、遺産分割協議書の書き方に細心の注意を払わないと、思わぬ贈与税がかかるリスクもあります。ご自身での判断が難しいと感じたら、相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、最適な方法で手続きを進めることをお勧めします。

参考文献

換価分割の譲渡所得税に関するよくある質問まとめ

Q.換価分割で不動産を売却した場合、譲渡所得税は誰が負担するのですか?

A.相続人全員が、遺産分割協議で決めた取得割合(または法定相続分)に応じて負担します。売却代金を受け取った割合で、それぞれが納税義務を負うことになります。

Q.換価分割における譲渡所得税の申告は、代表者一人が行えば良いですか?

A.いいえ、代表者がまとめて申告することはできません。不動産の共有持分を売却したとみなされるため、相続人それぞれが個別に確定申告を行う必要があります。

Q.換価分割でも「マイホームを売ったときの3,000万円特別控除」は使えますか?

A.被相続人が居住していた不動産の場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を各相続人が利用できる可能性があります。ただし、要件が複雑なため専門家への確認をおすすめします。

Q.譲渡所得税を計算する際の「取得費」はどうなりますか?

A.被相続人がその不動産を取得したときの価額(購入代金や手数料など)が取得費として引き継がれます。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算します。

Q.遺産分割協議書には、換価分割についてどのように記載すれば良いですか?

A.「相続不動産を売却し、その売却代金から諸経費を差し引いた残額を、各相続人が〇分の〇の割合で取得する」といったように、換価分割を行う旨と各相続人の取得割合を明記することが重要です。

Q.換価分割と代償分割では、税金の負担は変わりますか?

A.はい、変わります。換価分割は売却した相続人全員に譲渡所得税がかかります。一方、代償分割は不動産を取得した相続人が将来売却するまで譲渡所得税はかかりませんが、他の相続人に代償金を支払う必要があります。

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