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放置は危険!
持分あり医療法人の出資持分評価と具体的な相続対策

2025-08-23
目次

「うちは医療法人だから、株式会社と違って相続は関係ないかな?」もし、そう思われているなら少し注意が必要かもしれません。特に、2007年3月31日以前に設立された持分あり医療法人の場合、理事長先生の相続や事業承継の際に「出資持分」が大きな問題となることがあります。この出資持分は、放っておくと評価額が数億円に膨れ上がり、高額な相続税が発生することも珍しくありません。今回は、持分あり医療法人の出資持分評価の仕組みと、今からできる具体的な対策について、わかりやすくお話しします。

「持分あり医療法人」とは?基本的な仕組みを理解しよう

まずは、対策を考える上で基本となる「持分あり医療法人」の仕組みについて、簡単におさらいしておきましょう。2007年4月の医療法改正により、現在では新しく「持分あり医療法人」を設立することはできなくなりました。そのため、現存する持分あり医療法人は「経過措置型医療法人」とも呼ばれています。

出資持分とは?法人の財産に対する権利です

出資持分とは、とてもシンプルに言うと「医療法人に出資した人が、その法人の財産に対して持っている権利」のことです。株式会社の「株式」に似たイメージですね。この権利があることで、出資者は主に2つの権利を持ちます。

  • 払戻請求権:出資者が退社する際に、出資額に応じて法人の純資産の払い戻しを請求できる権利。
  • 残余財産分配請求権:法人が解散したときに、残った財産を出資額に応じて分配してもらう権利。

例えば、出資金1,000万円で設立した法人が、長年の経営で純資産1億円に成長したとします。この場合、出資者の持分の価値も1億円に増えている、ということになります。

なぜ出資持分が問題になるのか?

出資持分が問題となるのは、主に「相続」と「退社」の場面です。先ほどの例で、純資産が1億円の医療法人の理事長(出資者)が亡くなった場合、この1億円の出資持分が相続財産となり、高額な相続税がかかってしまいます。また、共同で出資した他の社員が退社する際に「私の持分を払い戻してください」と請求された場合、法人は多額の現金を支払う必要に迫られ、経営が立ち行かなくなるリスクさえあるのです。

「持分あり」と「持分なし」の違いを比較

2007年の法改正以降に設立された医療法人は、すべて「持分なし医療法人」です。両者の違いを簡単に表で見てみましょう。

項目 持分あり医療法人(経過措置型)
財産権(出資持分) あり
社員の退社時 出資割合に応じた払戻請求権がある
法人の解散時 出資割合に応じた残余財産の分配を受けられる
相続 出資持分が相続財産となり、相続税の課税対象になる
項目 持分なし医療法人
財産権(出資持分) なし
社員の退社時 払戻請求権はない(基金拠出型は基金の返還のみ)
法人の解散時 残余財産は国や地方公共団体に帰属する
相続 相続する財産がないため、相続税はかからない

相続税の対象に!出資持分の評価方法

持分あり医療法人の出資持分は、相続税や贈与税を計算する上で財産として評価する必要があります。この評価方法は、上場していない一般企業の株式(取引相場のない株式)の評価方法に準じて行われます。評価方法は複雑ですが、ここではその概要をご説明します。

原則的な評価方法(類似業種比準方式と純資産価額方式)

出資持分の評価は、主に「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という2つの方法を、法人の規模に応じて組み合わせて計算します。医療法人は利益配当が禁止されているため、株式会社の評価で使われる「配当還元方式」は適用されません。

類似業種比準方式とは?

これは、事業内容が似ている上場企業の株価を参考にして評価額を計算する方法です。具体的には、評価する医療法人の「1出資口あたりの利益額」「1出資口あたりの純資産額」を、国税庁が公表する同業種(医療法人の場合は「その他の産業(小売り・サービス業)」に分類)の上場企業の平均値と比較して評価額を算出します。収益力が高い医療法人ほど、評価額が高くなる傾向があります。

純資産価額方式とは?

こちらは、評価時点での医療法人の総資産から負債を差し引いた「純資産」を基に評価する方法です。ただし、帳簿上の金額ではなく、土地や建物、医療機器などをすべて相続税評価額に置き換えて計算します。そのため、含み益のある不動産などを多く所有している場合は、評価額が非常に高くなる可能性があります。

会社の規模で評価方法の使い分けが変わります

どちらの方式をどのくらい重視するかは、法人の規模(大会社・中会社・小会社)によって変わってきます。規模の判定は、従業員数や総資産価額、医業収入などによって決まります。

会社の規模 評価方式の組み合わせ
大会社 原則として、類似業種比準方式のみで評価します。
中会社 類似業種比準方式純資産価額方式を一定の割合で組み合わせて評価します。(例:類似業種60%+純資産40%など)
小会社 原則として、純資産価額方式で評価します。ただし、類似業種比準方式との組み合わせを選択することも可能です。

一般的に、純資産価額方式の方が評価額は高くなる傾向があるため、小規模な医療法人ほど評価額が高くなりやすい、という特徴があります。

今すぐ始めたい!具体的な出資持分対策

出資持分の評価額は、何もしなければ法人の成長とともに上がり続けます。手遅れになる前に、計画的な対策を始めることがとても大切です。ここでは、代表的な3つの対策をご紹介します。

対策①:役員退職金を活用して純資産を減らす

最も効果的で広く行われている対策の一つが、理事長や役員への役員退職金の支給です。適正な額の退職金を支給することで、法人の純資産を大きく減らすことができます。これにより、純資産価額方式で計算される評価額を直接的に引き下げることが可能です。
退職金は「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で計算されるのが一般的で、税務上も損金として認められるため、法人税の節税にも繋がります。ただし、不相当に高額な退職金は認められないため、功績倍率の設定など専門家と相談しながら進めることが重要です。

対策②:生命保険の活用

法人を契約者、理事長などを被保険者として生命保険に加入する方法も有効です。支払う保険料は、保険の種類によって全額または一部を損金に算入できるため、利益を圧縮し、法人税を抑えながら内部留保を積み立てることができます。そして、理事長が退職する際には、この保険を解約して解約返戻金を退職金の原資に充てることができます。また、万が一のことがあった場合には、死亡保険金が死亡退職金や弔慰金の支払い、納税資金などに活用できます。

対策③:持分の生前贈与

評価額がまだそれほど高くないうちに、後継者であるご子息などに出資持分を生前贈与しておく方法です。年間110万円までの贈与なら贈与税がかからない「暦年贈与」を活用して、毎年少しずつ持分を移していくことができます。また、最大2,500万円まで贈与税がかからない「相続時精算課税制度」を利用する方法もあります。この制度は、贈与時の評価額で相続財産に加算されるため、将来的に評価額が上がると見込まれる場合に有効です。どちらの制度を使うかは、ご家族の状況や資産背景によって変わるため、慎重な判断が必要です。

究極の対策?「持分なし医療法人」への移行

ここまで紹介した対策は評価額を引き下げるものでしたが、相続税の問題を根本的に解決する方法として「持分なし医療法人」へ移行する選択肢もあります。

移行のメリット:相続税・贈与税の優遇措置

国は持分なし医療法人への移行を推進しており、そのための税制優遇措置を設けています。具体的には、「認定医療法人制度」を活用する方法です。移行計画について厚生労働大臣の認定を受けると、以下のようなメリットがあります。

  • 相続税の納税猶予:理事長(出資者)の相続が発生しても、後継者が医療法人を継続する限り、出資持分にかかる相続税の納税が猶予されます。そして、その後継者も亡くなった場合など、一定の要件を満たせば猶予されていた相続税が全額免除されます。
  • 贈与税の非課税:出資者が持分をすべて放棄して「持分なし」に移行した場合、通常であれば法人に贈与されたとみなされて課される「みなし贈与税」が非課税になります。

この認定制度の申請受付は、現在のところ2026年12月31日までとなっています。

移行のデメリットと注意点

ただし、この移行には注意すべき点もあります。

  • 一度「持分なし」に移行すると、二度と「持分あり」には戻せません。
  • 出資持分を放棄するため、退社時の払戻請求権や解散時の残余財産分配請求権もすべてなくなります。
  • 認定医療法人の要件として、役員のうち親族関係者が占める割合を3分の1以下にしなければならない、といった運営上の制約も生じます。

これらのデメリットを十分に理解した上で、移行を検討する必要があります。

まとめ

持分あり医療法人出資持分評価は、クリニックの経営が順調であるほど高額になり、将来の相続や事業承継において大きな負担となる可能性があります。しかし、今回ご紹介したように、事前に計画を立てて対策を行うことで、そのリスクを大きく軽減することができます。
まずは自院の出資持分が現在どのくらいの価値になっているのかを把握することから始めましょう。そして、役員退職金の準備、生命保険の活用、生前贈与、そして「持分なし」への移行といった選択肢の中から、ご自身の医療法人の状況や将来の展望に最も合った対策を検討していくことが大切です。これらの対策は専門的な知識が必要となるため、医療法人の相続や事業承継に詳しい税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。

参考文献

持分あり医療法人の出資持分評価と対策のよくある質問まとめ

Q.「持分あり医療法人」とは何ですか?

A. 2007年の医療法改正前に設立された医療法人で、出資者が財産権(出資持分)を持つ形態です。出資者は退社時や法人の解散時に、出資持分に応じた払戻請求ができます。

Q. なぜ出資持分の評価額は高騰しやすいのですか?

A. 医療法人の利益が内部留保として蓄積されると、法人の純資産額が増加します。出資持分の評価額は、この純資産額を基に計算されるため、経営が順調であるほど評価額も高騰する傾向にあります。

Q. 出資持分を相続すると、どのような問題がありますか?

A. 高額になった出資持分を相続すると、多額の相続税が課せられる可能性があります。また、相続人による出資持分の払戻請求は、医療法人の経営を圧迫する大きなリスクとなります。

Q. 出資持分の評価額を下げる方法はありますか?

A. 役員退職金の支給や設備投資などを計画的に行い、法人の純資産を圧縮することで評価額を下げることが可能です。ただし、税務上の注意点も多いため専門家への相談が不可欠です。

Q. 事業承継に備えて、今からできる対策は何ですか?

A. まずは現状の出資持分評価額を正確に把握することが第一歩です。その上で、計画的な生前贈与の検討や、税制優遇を活用できる「持分なし医療法人」への移行を検討します。

Q. 「持分なし医療法人」へ移行するメリットは何ですか?

A. 最大のメリットは、出資持分が存在しないため、相続税や事業承継時の払戻請求といった問題が根本的に解決される点です。一定の要件を満たせば、贈与税が課されずに移行できる税制優遇もあります。

事務所概要
社名
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住所
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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