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故人の保証債務は相続される?引き継がれる権利義務と対処法

2025-11-23
目次

ご家族が亡くなられた後、遺産相続の手続きを進める中で「故人が誰かの保証人になっていた」という事実が発覚することがあります。プラスの財産だけでなく、こうしたマイナスの財産も相続の対象になるのか、不安に感じますよね。この記事では、相続財産に含まれる被相続人の保証債務について、その種類やリスク、そしてもし相続したくない場合の対処法まで、わかりやすく解説していきます。

保証債務も相続の対象になるの?

結論からお話しすると、被相続人の保証債務は原則として相続人に引き継がれます。相続とは、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務のようなマイナスの財産も含めた「一切の権利義務」を受け継ぐことだからです。もし故人が誰かの借金の保証人になっていた場合、その「保証人としての地位」も相続財産の一部として扱われるんですね。

相続される保証債務の種類

保証債務と一言でいっても、いくつか種類があります。それぞれで相続人が負う責任の重さが変わってくるので、違いをしっかり理解しておきましょう。

保証債務の種類 内容
(単純)保証債務 主債務者が返済できなくなった場合に、代わりに返済する義務です。債権者から請求されても「まず本人に請求してください」と主張できます。
連帯保証債務 主債務者とほぼ同じ責任を負う、より重い保証です。債権者は主債務者の返済能力に関わらず、いきなり連帯保証人に全額請求できます。
根保証債務 会社経営の借入金など、継続的な取引から生じる不特定の債務をまとめて保証するものです。保証人が亡くなった時点で存在した債務が相続対象になります。

連帯保証債務が特に注意が必要な理由

相続で特に注意したいのが「連帯保証債務」です。通常の保証と違い、連帯保証人には「まず主債務者に請求してほしい」と主張する権利(催告の抗弁権)や、「主債務者の財産から先に取り立ててほしい」と主張する権利(検索の抗弁権)がありません。そのため、債権者はいきなり相続人に対して、借金の全額返済を求めることができるのです。主債務者に返済能力があっても、相続人が返済を求められる可能性があり、非常に重い責任と言えます。

相続されない例外的なケース:身元保証債務

原則として保証債務は相続されますが、例外もあります。それが「身元保証債務」です。これは、就職の際に従業員が会社に損害を与えた場合に保証人が賠償するもので、保証人と従業員の個人的な信頼関係に基づくものと考えられています。そのため、この身元保証人の地位は相続人には引き継がれないのが一般的です。ただし、亡くなった時点ですでに具体的な損害が発生し、賠償額が確定している場合は、その確定した債務は相続の対象になる可能性があるので注意が必要です。

保証債務は誰がどれだけ相続するの?

故人の保証債務は、法定相続人が「法定相続分」に応じて分割して引き継ぐのが基本です。例えば、1,000万円の連帯保証債務があり、相続人が配偶者と子ども2人の場合、法定相続分に従って以下のように負担することになります。

  • 配偶者:1/2 → 500万円の保証債務
  • 子ども:それぞれ1/4 → 250万円ずつの保証債務

遺産分割協議で「長男がすべての保証債務を相続する」と決めても、それは相続人間の内部的な取り決めに過ぎません。債権者は各相続人に対して、法定相続分の割合に応じた金額を請求する権利を持っています。そのため、他の相続人も返済義務を免れるわけではない点に注意しましょう。

知らなかった!保証債務の有無を確認する方法

相続手続きを始める前に、故人が保証人になっていないかを確認することがとても大切です。知らないうちに多額の借金を背負うリスクを避けるためにも、以下の方法で調査しましょう。

遺品の中から手がかりを探す

まずは、故人の遺品を丁寧に確認することから始めましょう。思わぬところから手がかりが見つかることがあります。

  • 契約書類:「保証契約書」「金銭消費貸借契約書」「念書」といった書類がないか、ファイルや引き出しの中を探します。
  • 郵便物:金融機関や消費者金融からの督促状や契約更新の通知書が届いていないか確認します。
  • 預金通帳:定期的に不審な引き落としがないか、取引履歴を確認します。保証料の支払いなどが記録されているかもしれません。

信用情報機関に情報開示請求をする

故人の借入や保証契約の情報は、信用情報機関に登録されていることがあります。相続人であれば、戸籍謄本など必要な書類を揃えることで、情報開示を請求できます。主な信用情報機関は以下の3つです。

信用情報機関名 主な加盟機関
株式会社シー・アイ・シー(CIC) クレジットカード会社、信販会社、消費者金融など
株式会社日本信用情報機構(JICC) 消費者金融、信販会社など
全国銀行個人信用情報センター(KSC) 銀行、信用金庫、信用組合など

保証債務を相続したくない場合の対処法

調査の結果、プラスの財産よりも保証債務の額が明らかに大きいなど、相続したくない場合もあるでしょう。その場合は、家庭裁判所での手続きを検討する必要があります。ただし、これらの手続きには厳しい期限が設けられているので、迅速な対応が求められます。

相続放棄:すべての財産を引き継がない

相続放棄は、預貯金や不動産といったプラスの財産も、保証債務などのマイナスの財産も、一切相続しないという手続きです。相続放棄が家庭裁判所に認められると、初めから相続人ではなかったことになり、保証人としての責任から完全に逃れることができます。ただし、一度手続きをすると原則として撤回はできません。手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。

限定承認:プラスの財産の範囲で返済する

限定承認は、相続したプラスの財産の範囲内でのみ、保証債務などのマイナスの財産を返済するという方法です。もし債務を返済しても財産が残れば、その分は受け取ることができます。プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかはっきりしない場合に有効な手段です。ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員が共同で行う必要があるため、利用されるケースは少ないのが現状です。こちらも相続放棄と同様、3ヶ月以内の申し立てが必要です。

相続後に保証債務が発覚したらどうする?

相続放棄などの手続き期間(3ヶ月)が過ぎた後に、保証債務の存在が発覚してしまうケースもあります。「もうどうしようもない」と諦める前に、検討できる対処法がいくつかあります。

時効の援用を検討する

借金には消滅時効があります。最後に返済してから一定期間が経過している場合、時効が成立している可能性があります。消費者金融からの借金であれば5年、個人間の借金であれば10年が目安です。時効が成立している場合、債権者に対して「時効なので支払いません」という意思表示(時効の援用)をすることで、返済義務がなくなります。ただし、安易に債務の存在を認めたり、一部を返済したりすると時効が更新(リセット)されてしまうため、まずは専門家に相談することをおすすめします。

主債務者への求償権を行使する

もし相続人が保証債務を肩代わりして返済した場合、本来の債務者である主債務者に対して、返済した分を請求する権利(求償権)があります。内容証明郵便などを利用して、支払いを求めることになります。ただし、主債務者に支払い能力がなければ、残念ながら回収は難しいかもしれません。

債務整理を検討する

どうしても返済が困難な場合は、債務整理という法的な手続きもあります。債権者と交渉して将来の利息カットや分割払いを求める「任意整理」や、裁判所の手続きを通じて債務を大幅に減額する「個人再生」、原則としてすべての債務の支払いを免除してもらう「自己破産」などがあります。どの方法が適切かは状況によるため、弁護士などの専門家に相談しましょう。

まとめ

今回は、相続財産に含まれる保証債務について解説しました。故人が残した財産には、預貯金などのプラスの財産だけでなく、保証債務のようなマイナスの財産も含まれるのが原則です。もし保証債務を相続してしまった場合、大きな負担を背負う可能性があります。相続が始まったら、まずは故人の財産状況をしっかりと調査し、保証債務の有無を確認することが重要です。もし多額の保証債務が見つかった場合は、相続放棄や限定承認といった手続きを3ヶ月以内に行う必要があります。期間を過ぎてしまった場合でも、時効の援用などの対処法が残されていることもあります。判断に迷う場合は、一人で悩まずに、早めに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務

被相続人の保証債務の相続に関するよくある質問まとめ

Q. 亡くなった親が他人の借金の保証人でした。この保証債務も相続の対象になりますか?

A. はい、保証債務もマイナスの財産として相続の対象になります。被相続人が負っていた保証人としての地位と義務は、原則として相続人に引き継がれます。

Q. 親から相続したくない保証債務があります。どうすれば支払いを免れられますか?

A. 「相続放棄」または「限定承認」という手続きを家庭裁判所で行うことで、保証債務の支払いを免れることができます。ただし、相続放棄をするとプラスの財産も一切相続できなくなります。

Q. 保証債務を相続しないための「相続放棄」は、いつまでに行えばよいですか?

A. 相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。この期間を熟慮期間といいます。

Q. 相続財産に不動産などプラスの財産もあります。保証債務だけ放棄することは可能ですか?

A. 保証債務だけを放棄することはできません。しかし「限定承認」という手続きをとれば、相続したプラスの財産の範囲内でのみ債務を弁済すればよくなります。

Q. 被相続人が「連帯保証人」だった場合、相続に何か違いはありますか?

A. 連帯保証債務も通常の保証債務と同様に相続されます。連帯保証は通常の保証よりも責任が重いため、相続人はその重い責任を引き継ぐことになります。

Q. 兄弟など相続人が複数いる場合、保証債務はどのように相続されますか?

A. 保証債務のような金銭債務は、法定相続分に応じて各相続人に分割して承継されます。例えば、相続人が子2人の場合、保証債務もそれぞれ2分の1ずつ引き継ぐことになります。

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