ご家族が亡くなられた後、さまざまな手続きに追われる中で、「故人が支払っていた後期高齢者医療保険料はどうなるの?」「相続税の申告で何かすることはあるの?」といった疑問をお持ちではないでしょうか。後期高齢者医療保険料は、相続手続きの中でも見落としがちなポイントですが、正しく理解しておくことで、還付金を受け取れたり、相続税の負担を軽減できたりする場合があります。この記事では、後期高齢者医療保険の基本的な仕組みから、相続税申告における具体的な取り扱いまで、わかりやすく解説していきますね。
後期高齢者医療保険制度の基本をおさらい
相続での取り扱いをご説明する前に、まずは後期高齢者医療保険がどのような制度なのか、基本を一緒に確認しておきましょう。
後期高齢者医療保険制度とは?
後期高齢者医療制度とは、主に75歳以上の方が加入する公的な医療保険制度のことです。65歳から74歳までの方でも、一定の障害の状態にあると広域連合から認定された方は加入対象となります。運営は、各都道府県に一つずつ設置されている「後期高齢者医療広域連合」という特別な組織が行っていて、お住まいの市区町村が窓口となって手続きや保険料の徴収を行っています。この制度の大きな特徴は、被保険者一人ひとりが保険料を納めるという点です。
保険料はどうやって決まるの?
毎月の保険料は、被保険者全員が等しく負担する「均等割額」と、前年の所得に応じて負担額が変わる「所得割額」という2つの要素を合計して計算されます。この均等割額や所得割の料率は、お住まいの都道府県の広域連合によって異なりますので、地域によって保険料額に違いが出てきます。
均等割額 | 被保険者一人ひとりが同じ金額を負担する部分です。 |
所得割額 | 前年の所得に基づいて計算される部分で、所得が多い方ほど負担額が大きくなります。 |
保険料の納付方法は2種類
保険料の納付方法には、主に2つの方法があります。ご自身がどちらの方法で支払っていたかによって、相続時の手続きも少し変わってきます。
特別徴収 | 年金の定期支払い(年6回)の際に、あらかじめ保険料が天引きされる方法です。原則として、年額18万円以上の年金を受け取っている方が対象となります。 |
普通徴収 | 市区町村から送られてくる納付書を使って金融機関やコンビニで支払うか、口座振替で納付する方法です。特別徴収の対象とならない方などがこちらの方法で納めます。 |
故人の後期高齢者医療保険料、相続人は支払う義務がある?
大切な方が亡くなられた後、故人が支払うべきだった保険料はどうなるのでしょうか。相続人の方の支払い義務について見ていきましょう。
未納の保険料は相続人が支払います
もし、故人が亡くなられた時点でまだ支払っていない後期高齢者医療保険料があった場合、その未納保険料は相続人が支払い義務を引き継ぐことになります。これは、未納の保険料が「マイナスの財産(債務)」として扱われるためです。通常、相続が開始されると、市区町村役場から相続人の代表者宛てに納付書が送られてきますので、そちらで納付手続きを進めることになります。
亡くなった月以降の保険料はかかりません
ご安心いただきたいのは、保険料は月割りで計算されるという点です。後期高齢者医療制度の資格は、亡くなられた日の翌日に喪失します。そのため、保険料がかかるのは亡くなられた月までで、その翌月以降の保険料を支払う必要はありません。例えば、8月15日に亡くなられた場合、8月分の保険料までが支払い対象となり、9月分以降の保険料は発生しません。
相続放棄をした場合は支払い義務もなくなります
もし、故人に借金が多く、プラスの財産よりもマイナスの財産が多いなどの理由で家庭裁判所に「相続放棄」の申し立てをした場合は、すべての財産を相続する権利を放棄することになります。これには未納の保険料などの債務も含まれますので、相続放棄が認められれば、支払い義務もなくなります。
相続税申告における後期高齢者医療保険料の取り扱い
ここからが特に大切なポイントです。故人の後期高齢者医療保険料は、相続税の計算にどのように影響するのでしょうか。節税にもつながる大切な知識ですので、しっかり押さえておきましょう。
未納保険料は「債務控除」の対象になります
相続税を計算する際、故人が残した預貯金や不動産といったプラスの財産の合計額から、借入金や未払金といったマイナスの財産(債務)を差し引くことができます。これを「債務控除」と呼びます。故人が亡くなった時点で支払われていなかった後期高齢者医療保険料は、この債務控除の対象となるのです。債務控除を適用することで、相続税の課税対象となる財産の額が減り、結果的に相続税の負担を軽くすることができます。
債務控除の対象となる保険料の範囲
債務控除の対象となるのは、次のような保険料です。
- 故人が亡くなった日までに納期限が来ていたものの、まだ支払われていなかった保険料
- 故人が亡くなった月までの保険料のうち、亡くなった後で納期限が来るもの
これらは、故人が亡くなった後に相続人が支払った場合でも、しっかりと債務控除の対象になりますので、領収書などを大切に保管しておきましょう。
債務控除を受けるための必要書類
相続税申告で債務控除を受けるためには、その債務があったことを証明する必要があります。具体的には、市区町村から送られてきた故人の保険料の納税通知書や納付書がその証明になります。もし相続人が代わりに支払った場合は、その領収書も重要な証拠となります。相続税申告書に債務として未納保険料の金額を記載し、これらの書類は税務調査などに備えて手元に保管しておくようにしてくださいね。
還付金が発生する場合も!見落としやすいポイント
支払うだけではなく、逆にお金が戻ってくるケースもあります。こちらも相続税申告に関わる大切なことなので、見落とさないようにしましょう。
保険料を納め過ぎていた場合の「過誤納金」
特に年金から天引き(特別徴収)されていた方に多いのですが、年間の保険料額が7月に確定する前に、前年度の保険料額を基にした仮の金額で4月・6月・8月に天引き(仮徴収)が行われます。このため、年の途中で亡くなられた場合、本来納めるべき年間の保険料額よりも多く支払ってしまっていることがあります。この納め過ぎた保険料は「過誤納金」として、相続人に還付されます。
還付金は「プラスの相続財産」になります
ここが注意点です。故人に還付されるべきお金は、故人が受け取る権利があった「未収金」として扱われ、プラスの相続財産となります。そのため、相続税の課税対象財産に含めて申告しなくてはなりません。還付金がある場合は、市区町村役場から「過誤納金還付(充当)通知書」といった書類が届きますので、その金額を正確に把握し、忘れずに相続財産に計上しましょう。
高額療養費の還付金も忘れずにチェック
後期高齢者医療保険に関連して、もう一つ確認しておきたいのが「高額療養費」です。亡くなる前に病院への入院や手術などで医療費の自己負担額が高額になった場合、定められた自己負担限度額を超えた分のお金が戻ってくる制度です。この高額療養費の還付金も、まだ受け取っていなければ故人の「未収金」として相続財産に含まれます。高額療養費は自動的に還付されるわけではなく、申請が必要な場合が多いので、心当たりのある方は市区町村の担当窓口に問い合わせてみてください。
故人が亡くなった後の後期高齢者医療保険の手続き
相続税申告と並行して進めておきたい、行政への手続きについても簡単にご紹介します。
資格喪失の手続きと保険証の返却
市区町村役場に死亡届を提出すれば、通常は自動的に後期高齢者医療制度の資格喪失手続きも連携して行われます。手続きとして忘れてはならないのが、故人の後期高齢者医療被保険者証(保険証)の返却です。お住まいの市区町村役場の担当窓口(保険年金課など)へ返却しましょう。死亡届を提出する際に、一緒に持参すると二度手間にならずスムーズです。
葬祭費の支給申請を忘れずに
後期高齢者医療制度の被保険者が亡くなったとき、その方の葬儀を執り行った方(通常は喪主)に対して、自治体から「葬祭費」が支給される制度があります。これはご遺族の経済的な負担を軽減するためのものです。支給額はお住まいの自治体によって異なりますが、例えば東京都23区では7万円、横浜市・大阪市・名古屋市など多くの市で5万円が支給されます。この葬祭費は、ご自身で申請しなければ受け取ることができません。申請期限は葬儀を行った日の翌日から2年以内となっていますので、忘れずに手続きをしましょう。
まとめ
今回は、ご家族が亡くなられた際の、後期高齢者医療保険の相続税申告上の取り扱いについて解説しました。最後に大切なポイントを振り返っておきましょう。
- 故人に未納の保険料がある場合、それは相続人が支払う義務を負う「債務」となり、相続税申告では「債務控除」の対象として節税につながります。
- 逆に、保険料を払い過ぎていた場合の還付金(過誤納金)は、故人が受け取るべき権利だった「プラスの相続財産」として、相続税の課税対象に含める必要があります。
- 高額療養費の還付金や、申請しないともらえない「葬祭費」も見落としがちなので、忘れずに確認・申請することが大切です。
相続税の申告は、財産の評価や控除の適用など、専門的な知識が求められる場面が多くあります。もし手続きに少しでも不安を感じたり、他にも多くの相続財産があったりする場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家の力を借りることで、安心して、そして適切に手続きを進めることができますよ。
参考文献
後期高齢者医療保険と相続税申告のよくある質問まとめ
Q.亡くなった父の後期高齢者医療保険料の未払い分が見つかりました。相続税の申告でどうすればよいですか?
A.未払いの保険料は、被相続人(亡くなった方)の債務として相続財産から控除することができます。市区町村から届いた納付書などを証拠書類として保管しておきましょう。
Q.死亡後に故人の後期高齢者医療保険料が還付されると通知が来ました。これは相続財産になりますか?
A.はい、死亡後に還付される保険料は、被相続人が受け取るべきお金であったため「未収金」として相続財産に含まれます。相続税の申告に計上する必要があります。
Q.故人が生前に支払った医療費について、高額療養費の還付金が後日振り込まれました。これも相続税の対象ですか?
A.はい、高額療養費の還付金も、被相続人に帰属する権利であったため相続財産となり、相続税の課税対象となります。相続人が受け取った場合は、相続財産として申告してください。
Q.亡くなった親の医療費を私が代わりに支払いました。相続税の債務控除になりますか?
A.はい、被相続人が亡くなる前に確定していた医療費を相続人が代わりに支払った場合、その金額は債務として相続財産から控除できます。ただし、ご自身の確定申告で医療費控除として申告した場合は、二重控除になるため債務控除はできません。
Q.父は年金から後期高齢者医療保険料が天引きされていました。死亡後の年金から引かれた保険料はどうなりますか?
A.死亡日以降に支払われる年金から天引きされた保険料は、後日、市区町村から相続人に還付されます。この還付金は相続財産として申告が必要です。
Q.後期高齢者医療保険から支給される「葬祭費」は、相続税の対象になりますか?
A.いいえ、後期高齢者医療保険から葬祭を行った方(喪主など)に直接支払われる「葬祭費」は、相続財産には含まれないため、相続税の課税対象外です。