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故人の高額医療費還付、請求はいつまで?相続財産への加算と注意点

2025-06-29
目次

ご家族が亡くなられた後は、悲しむ間もなくさまざまな手続きに追われてしまいますよね。その中で、意外と見落としがちなのが「高額療養費」の還付請求です。故人が生前に支払った医療費の一部が戻ってくるかもしれない、大切な手続きです。でも、「いつまでに申請すればいいの?」「戻ってきたお金は相続財産になるの?」といった疑問も多いのではないでしょうか。この記事では、亡くなった方の高額療養費の還付請求について、申請期限から相続財産としての扱い、注意点まで、わかりやすく解説していきます。

そもそも高額療養費制度ってどんな制度?

まず、基本となる高額療養費制度についてご説明しますね。これは、1ヶ月間(月の初めから末日まで)に支払った医療費の自己負担額が、所得や年齢に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻されるという公的な医療保険制度です。故人がどの健康保険(国民健康保険、後期高齢者医療制度、会社の健康保険組合など)に加入していても対象となり、亡くなった後でも相続人の方が請求することができます。ただし、対象となるのは保険が適用される診療費のみで、入院中の食事代や差額ベッド代などは対象外なので注意してくださいね。

自己負担限度額は所得や年齢で変わります

払い戻される金額の基準となる「自己負担限度額」は、みんな同じではありません。年齢(70歳未満か70歳以上か)や、その方の所得によって区分が分かれています。ご自身のケースがどこに当てはまるか、確認してみましょう。

<70歳未満の方の自己負担限度額(例)>

所得区分 自己負担限度額(月額)
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000円)×1%
年収約770万~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000円)×1%
年収約370万~約770万円 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
~年収約370万円 57,600円
住民税非課税者 35,400円

※上記はあくまで一例です。70歳以上の方や、多数回該当(過去12ヶ月に3回以上上限額に達した場合)など、条件によって限度額は変わります。

対象外となる費用に注意

高額療養費制度で還付の対象となるのは、あくまで「保険適用分」の医療費です。以下の費用は対象になりませんので、領収書を確認する際に覚えておきましょう。

  • 入院時の食事代(食費)
  • 差額ベッド代(個室料など)
  • 先進医療にかかる費用
  • その他、保険適用外の治療やサービス

高額療養費の還付、申請はいつまでにすればいい?

払い戻しが受けられるのは嬉しいですが、気になるのは「いつまでに申請すればいいのか」という点ですよね。うっかり期限を過ぎてしまわないように、しっかり確認しておきましょう。

申請期限は「2年」!時効に注意

高額療養費の還付請求には時効があります。その期限は「診療を受けた月の翌月の初日から2年間」です。この2年という期間を過ぎてしまうと、残念ながら請求する権利がなくなってしまいます。例えば、2023年5月に診療を受けた場合、申請期限は2025年5月31日までとなります。故人が亡くなる前に申請していなかった医療費についても、この2年の時効が来ていなければ、さかのぼって請求することが可能です。相続手続きは何かと時間がかかりますが、この期限は忘れないようにしましょう。

亡くなった方の高額療養費の申請手続き

では、実際にどのように申請手続きを進めればよいのでしょうか。申請できる人から申請先、必要な書類まで、順を追って見ていきましょう。

誰が申請できるの?

故人の高額療養費を申請できるのは、「法定相続人」です。一般的には、配偶者やお子さんが申請することになります。もし遺言書で財産を受け取る人(受遺者)が指定されている場合は、その受遺者が申請できることもあります。

どこに申請すればいいの?

申請先は、故人が亡くなった時に加入していた健康保険によって異なります。保険証などでどちらに加入していたかを確認し、対応する窓口に問い合わせましょう。

故人が加入していた保険 申請窓口
国民健康保険・後期高齢者医療制度 故人がお住まいだった市区町村の役所の担当窓口(国保年金課など)
会社の健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など) 故人が加入していた健康保険組合や、全国健康保険協会の支部

申請に必要な書類は?

申請に必要な書類は申請先によって多少異なりますが、一般的には以下の書類が必要になります。事前に電話などで確認しておくとスムーズです。

  • 高額療養費支給申請書(窓口で受け取るか、ホームページからダウンロードできます)
  • 医療費の領収書の原本
  • 故人の健康保険証
  • 申請者(相続人)の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 申請者(相続人)名義の振込先口座がわかるもの(通帳やキャッシュカード)
  • 故人と申請者の関係がわかる戸籍謄本など

【重要】還付金は相続財産になる?相続税はかかる?

さて、ここが最も重要なポイントです。無事に還付されたお金は、相続においてどのように扱われるのでしょうか。知らずにいると思わぬ落とし穴にはまる可能性もあるので、しっかり理解しておきましょう。

原則として相続財産に含まれます

結論から言うと、高額療養費の還付金は「相続財産」になります。なぜなら、この還付金は「本来、生きていれば故人本人が受け取るはずだったお金」だからです。そのため、故人の預貯金や不動産などと同じように扱われます。
相続財産になるということは、以下の2つの点に影響します。

  1. 遺産分割協議の対象になる:相続人が複数いる場合、誰がこの還付金を受け取るのか、遺産分割協議で話し合って決める必要があります。
  2. 相続税の課税対象になる:他の財産と合計した額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告と納税が必要です。

相続財産にならない例外ケース

原則は相続財産となりますが、一つだけ例外的なケースがあります。それは、「亡くなった方が誰かの扶養に入っていた場合(被扶養者だった場合)」です。
この場合、高額療養費の還付金は、保険料を支払っている被保険者(扶養していた人)の権利として支払われます。そのため、故人の財産とはならず、相続財産には含まれません。もちろん、相続税の課税対象にもなりません。

高額療養費の還付を受ける際の注意点

高額療養費の還付金が相続財産になることから、いくつか注意すべき点が出てきます。特に相続放棄を考えている方は、慎重な対応が必要です。

還付金を受け取ると相続放棄できない?

これが最大の注意点です。故人に借金などのマイナスの財産が多く、相続放棄を検討している場合、高額療養費の還付金を安易に受け取ってはいけません。
還付金は相続財産であるため、これを受け取る行為は「財産を相続する意思がある」とみなされてしまう可能性があります。その結果、家庭裁判所で相続放棄が認められなくなったり、一度認められた相続放棄が無効になったりする恐れがあるのです。借金も一緒に相続することになってしまうため、まずは財産調査をしっかり行い、相続放棄をするかどうかを決めてから、還付請求の手続きに進むようにしてください。

医療費控除との関係は?

故人が亡くなった年の所得税の申告(準確定申告)で、医療費控除を受ける際にも注意が必要です。故人が死亡日までに支払った医療費は、医療費控除の対象になります。しかし、その医療費について高額療養費の還付金を受け取った(または受け取ることが確定した)場合は、支払った医療費の合計額からその還付金の額を差し引いて申告しなければなりません。二重に得をすることはできない、と覚えておきましょう。

まとめ

亡くなった方への想いを胸に、煩雑な手続きを一つひとつ進めていくのは本当に大変なことです。高額療養費の還付請求もその大切な手続きの一つです。最後に、今回のポイントを振り返っておきましょう。

  • 故人の高額療養費は、診療月の翌月初日から2年以内なら相続人が請求できます。
  • 還付金は原則として相続財産となり、遺産分割や相続税の対象になります。
  • 故人に借金などがあり相続放棄を検討している場合は、還付金を安易に受け取らないでください。
  • 申請先は故人が加入していた健康保険の窓口です。手続きが不安な場合は、まず問い合わせてみましょう。

忘れがちな手続きですが、知っているかどうかで大きな違いが出ます。この記事が、皆さまの相続手続きの一助となれば幸いです。

【参考文献】

高額医療費の還付と相続に関するよくある質問まとめ

Q. 高額療養費の還付申請はいつまでに行えばいいですか?

A. 診療を受けた月の翌月1日から2年以内です。この期間を過ぎると時効となり、申請できなくなるためご注意ください。

Q. 亡くなった家族の高額医療費も還付申請できますか?

A. はい、相続人が代わりに申請することができます。申請期限は故人が診療を受けた月の翌月1日から2年以内です。

Q. 故人の高額医療費の還付金は、相続財産になりますか?

A. はい、相続財産になります。還付金は故人が受け取るべきだった「未収金」として扱われるため、相続財産に加算して相続税の申告を行う必要があります。

Q. 相続放棄をした場合、故人の高額医療費の還付金は受け取れますか?

A. いいえ、受け取れません。相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がないことになるため、還付金を受け取る権利も失います。万が一受け取ると、相続を承認したとみなされる可能性があります。

Q. 高額医療費の還付申請はどこにすればよいですか?

A. 故人が加入していた公的医療保険の窓口に申請します。国民健康保険であれば市区町村役場、会社の健康保険(協会けんぽや組合健保など)であればその保険者が申請先となります。

Q. 相続人が故人の高額医療費を申請する際に必要なものは何ですか?

A. 一般的に、保険証、医療費の領収書、振込先口座情報に加えて、故人との続柄がわかる戸籍謄本などが必要になります。必要書類は保険者によって異なるため、事前に申請先に確認することをおすすめします。

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本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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