親子で隣り合う土地を持っている、ということは珍しくありません。特に、お母様が奥の「旗竿地」を、お子様が手前の道路に面した土地を所有しているケース。もし、この状況でお母様の相続が発生し、お子様が奥の旗竿地を相続したら、その土地の相続税評価額はどうなるのでしょうか?「一体の土地になるから評価額は上がるの?」と心配になるかもしれませんね。実は、相続税の評価には大切なルールがあり、それを知っていると評価額を大きく下げられる可能性があります。今回は、そんな少し複雑な旗竿地の相続税評価について、具体例を交えながら優しく解説していきます。
親子で所有する旗竿地と手前の土地、相続税評価の基本
まず一番大切なポイントからお伝えしますね。土地の相続税評価額は、「相続が開始した時点(=被相続人が亡くなった時点)」の状況で判断されます。たとえ相続後にお子様が手前と奥の土地を一体として使えるようになったとしても、お母様が亡くなった瞬間には、まだ別々の方が所有していた、という事実が評価の基準になるんです。
評価単位の考え方「1画地」とは?
土地の評価は、登記簿上の「1筆、2筆…」という単位ではなく、「1画地(いっかくち)」という利用の単位ごとに行われます。この「1画地」は、利用状況によって判断されますが、原則として所有者が同じであることが前提です。今回のケースでは、お母様が亡くなった時点では、奥の土地の所有者は「お母様」、手前の土地の所有者は「お子様」と別々ですよね。そのため、これらは別々の土地として評価されるのが原則となります。
相続する「奥の土地」は単独で評価される
お母様の相続で評価の対象となるのは、お母様が所有していた財産のみです。つまり、奥にある旗竿地だけが相続税の評価対象となります。お子様が所有する手前の土地は、お母様の財産ではないため、評価の計算には含まれません。したがって、奥の土地が単独でどのような価値を持つのか、という視点で評価額を計算していくことになります。
手前の土地と一体の土地として評価はしない
相続後にはお子様が一つの大きな土地として利用できるため、一体として評価するのでは?と考えてしまいがちですが、それは間違いです。あくまで相続開始時点では、奥の土地は他人の土地(お子様の土地)を通らなければ道路に出られない状況でした。この「使い勝手の悪さ」が評価額に反映されることになるのです。相続後の状況を先取りして、価値の高い整形地として評価されることはありませんので、ご安心ください。
相続する旗竿地(奥の土地)の具体的な評価方法
では、奥の土地は具体的にどのように評価されるのでしょうか。これは、手前の土地(お子様の土地)を通行する権利があったかどうかによって、大きく2つのパターンに分かれます。このどちらに当てはまるかで、評価額が大きく変わる可能性があります。
ケース1:通路の権利がない場合「無道路地評価」
もし、お母様とお子様の間で、手前の土地を通路として使うための契約(例えば使用貸借契約など)を何も結んでいなかった場合、奥の土地は法的に道路に接していない「無道路地(むどうろち)」として扱われる可能性があります。
無道路地は、建物の建築ができないなど利用価値が著しく低いため、評価額が大幅に減額されます。具体的には、まず通常の不整形地として評価した価額から、道路に出るための通路を開設するのに必要と想定される費用(通路部分の土地代)を差し引くことができます。この控除額は、最大で不整形地評価額の40%にもなり、非常に大きな減額につながります。
ケース2:通路の権利がある場合「旗竿地評価」
親子間で「この通路は自由に使っていいよ」という合意があり、事実上通路として利用していた場合、例えば「使用貸借契約」があったと認められるような状況では、無道路地ではなく通常の「旗竿地(不整形地)」として評価されます。
旗竿地の評価は、その土地全体がすっぽり収まる長方形の土地(想定整形地)を仮定し、その評価額から、旗竿地以外の不要な部分(かげ地)の評価額を差し引いて計算します。これに加えて、間口が狭いことによる減額(間口狭小補正)や、奥行きが長すぎることによる減額(奥行長大補正)なども適用され、通常の整形地に比べて評価額は低くなります。
「無道路地評価」と「旗竿地評価」どちらが有利?
一般的には、「無道路地評価」の方が減額の幅が大きくなる傾向にあります。通路開設費用の相当額を最大40%も控除できる効果は非常に大きいためです。どちらの評価方法を適用できるかは、親子間の契約の有無や利用実態によって判断されるため、専門家による慎重な検討が必要になります。
評価額が大きく変わる!具体的な計算例で比較
言葉だけではイメージしにくいと思いますので、具体的な数字を使って、評価額がどれくらい変わるのかを見てみましょう。
前提条件
次のような土地があったとします。
| 路線価 | 1㎡あたり20万円 |
| 奥の土地(母所有・旗竿地) | 250㎡(旗部分:20m×10m、竿部分:2m×25m) |
| 手前の土地(子所有) | 100㎡(10m×10m) |
※各種補正率は簡略化して計算します。
「旗竿地(不整形地)」として評価した場合の計算
まず、旗竿地として評価します。想定整形地(奥行35m×間口12m)からかげ地を引くなどの複雑な計算を行い、さらに各種補正を適用します。仮に、様々な補正を適用した結果、1㎡あたりの評価額が路線価の70%である14万円になったとします。
評価額:14万円/㎡ × 250㎡ = 3,500万円
「無道路地」として評価した場合の計算
次に、無道路地として評価します。まず、上記の旗竿地評価額(3,500万円)を計算します。そこから、通路開設費用を控除します。通路(幅2m)を開設するために必要な土地代は、以下のようになります。
通路部分の価額:20万円/㎡ × (2m × 10m) = 400万円
この通路開設費用を旗竿地評価額から差し引きます。
評価額:3,500万円 – 400万円 = 3,100万円
評価額の比較
今回のシンプルな計算例でも、評価方法によってこれだけの差が生まれます。
| 旗竿地評価の場合 | 3,500万円 |
| 無道路地評価の場合 | 3,100万円 |
実際の計算では、不整形地補正率などがさらに細かく適用されるため、差額はさらに大きくなる可能性があります。どちらの評価を適用できるかを見極めることが、相続税を抑える上で非常に重要になるのです。
相続後の土地の扱いはどうなる?
相続税の評価は相続開始時点で決まりますが、相続手続きが終われば、お子様は手前と奥の土地を両方所有することになります。これにより、土地の価値や使い方は大きく変わります。
一体の土地として利用価値が向上
相続後は、旗竿地という制約がなくなり、一つのまとまった土地として利用できます。これまでは難しかった大きな建物を建てたり、駐車場を自由に配置したりと、建築計画の自由度が格段に上がります。土地としての利用価値が向上し、資産価値も高まるでしょう。
売却する場合も有利に
もし将来的に土地を売却することになっても、不整形な旗竿地単体で売るよりも、一体の整形地として売る方がずっと有利です。買い手が見つかりやすく、より高い価格での売却が期待できます。相続税評価では減額を受けつつ、実際の資産価値は高まるという、良い結果につながる可能性があります。
事前にできる生前対策は?
このような特殊なケースでは、お母様がお元気なうちにいくつかの対策をしておくことで、よりスムーズな相続が実現できます。
通路部分の権利関係を明確にしておく
「無道路地評価」の適用を目指すのであれば、あえて通路に関する契約を結ばないという考え方もあります。逆に、相続トラブルを避けたい場合は、通路部分の通行を認める「使用貸借契約書」などを書面で作成しておくことも有効です。どちらが良いかはご家庭の状況によりますので、専門家と相談して方針を決めるのが良いでしょう。
遺言書を作成しておく
「奥の土地は、手前の土地を所有している〇〇(お子様の名前)に相続させる」という内容の遺言書を作成しておくことで、遺産分割協議でのトラブルを防ぐことができます。他の相続人との間で不公平感が出ないよう、配慮した内容にすることが大切です。
専門家への早めの相談がカギ
土地の評価、特に旗竿地や無道路地の評価は非常に専門的で複雑です。また、生前対策には贈与税などの別の税金が関わってくることもあります。ご自身で判断せず、相続に詳しい税理士などの専門家に早めに相談し、ご家庭にとって最適な方法を見つけることを強くおすすめします。
まとめ
今回のポイントを振り返ってみましょう。
- お母様が旗竿地、お子様が手前の土地を所有している場合、相続税評価は「相続開始時点」で判断されます。
- 評価対象となるのはお母様が所有していた奥の土地単体です。手前の土地と一体評価されることはありません。
- 通路の権利関係により、評価方法が「無道路地評価」または「旗竿地評価」に分かれ、評価額が大きく変わる可能性があります。
- 一般的に「無道路地評価」が適用できれば、評価額を大幅に下げることができます。
- 相続後は一体の土地として利用できるため、資産価値は向上します。
一見すると不利に見える旗竿地ですが、相続のルールを正しく理解することで、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。しかし、その判断は非常に専門的です。不安な点や分からないことがあれば、ぜひ一度、相続の専門家にご相談くださいね。
参考文献
旗竿地の相続と土地評価に関するよくある質問まとめ
Q.親の旗竿地を、隣接する手前の土地を持つ私が相続します。土地の評価はどうなりますか?
A.相続によって二つの土地を一体として利用できる場合、合わせて一つの土地として評価する可能性があります。旗竿地単独の不整形地としての評価ではなくなるため、評価額が大きく変わることがあります。
Q.土地を「一体利用」として評価するとはどういうことですか?
A.相続により、元々別々だった土地が物理的・機能的に一つの土地として使える状態になることを指します。この場合、相続税の計算では、二つの土地を一つの評価単位として全体の価値を算出します。
Q.一体評価になると、相続税評価額は高くなりますか?
A.高くなるケースが一般的です。旗竿地単体では形の悪さから評価が下がりますが、手前の土地と合わせることで整形地に近い形になり、土地の利便性が向上するため、全体の評価額は高くなる傾向にあります。
Q.一体評価する場合、具体的な計算はどのように行いますか?
A.まず、相続した旗竿地と元々所有していた土地を合わせた全体の評価額を算出します。その上で、全体の評価額を各土地の時価の割合で按分するなど、合理的な方法で相続した土地の価額を計算します。
Q.必ず一体として評価されるのでしょうか?
A.いいえ、必ずではありません。例えば、二つの土地の間に大きな高低差がある、地目が異なるなど、一体としての利用が合理的でないと判断される場合は、それぞれを独立した土地として別々に評価することもあります。
Q.このような複雑な土地の相続税評価は、自分でできますか?
A.評価単位の判定や計算方法は非常に専門的で複雑です。誤った評価は追徴課税のリスクもあるため、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談し、適切な評価を受けることを強くお勧めします。