ご家族が亡くなられて遺産を整理していたら、ゴルフ会員権が出てきた、というケースは少なくありません。ただ、バブル期とは違って、今のゴルフ会員権は価格が落ち着いているものも多いですよね。中には「時価が10万円なのに、名義変更に20万円もかかる…これって実質的に価値がないのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。今回は、そんな「譲渡価値がないように見えるゴルフ会員権」の相続税評価額がどうなるのか、分かりやすく解説していきますね。
ゴルフ会員権の相続税評価の基本ルール
まず、大前提としてゴルフ会員権は、売買できる財産的な価値があるため、相続税の課税対象となります。相続税を計算するときは、亡くなった日(相続開始日)時点の価値で評価するのがルールです。国税庁では、ゴルフ会員権の評価方法を定めていますので、基本を一緒に見ていきましょう。
取引相場のあるゴルフ会員権の評価方法
市場で売買されている、いわゆる「取引相場」があるゴルフ会員権は、国税庁のルールに基づいて評価額を計算します。計算式は意外とシンプルですよ。
相続税評価額 = 相続開始日の通常の取引価格 × 70%
ポイントは、市場で取引されている価格そのものではなく、その価格の70%で評価するという点です。これは、ゴルフ会員権がすぐに現金化できるわけではない、という性質を考慮して少し割り引いて評価されるためです。
もし、会員権に預託金(ゴルフ場に預けている保証金のようなお金)が含まれている場合は、その預託金の額も評価額に加える必要があります。
取引相場はどうやって調べる?
「通常の取引価格」は、ゴルフ会員権の売買を仲介している業者のウェブサイトなどで確認できます。多くのサイトでは「売り相場」と「買い相場」が掲載されていますが、相続税評価で使うのは、その中間の価格(仲値)が一般的です。例えば、売り相場が12万円、買い相場が8万円なら、その中間の10万円を取引価格として計算します。
評価の基準となるのは、亡くなった日(相続開始日)時点の価格です。その日の価格がはっきりしない場合は、亡くなった日に最も近い日の価格を参考にします。
取引相場のないゴルフ会員権の評価方法
一方で、市場での取引相場がないゴルフ会員権もあります。例えば、規約で譲渡が禁止されていたり、長期間名義変更が停止されていたりするケースです。この場合の評価方法は、会員権の種類によって異なります。
| 会員権の種類 | 評価方法 |
| 株主制 | そのゴルフ場を運営する会社の株式として評価します(非上場株式の評価方法に準じます)。 |
| 預託金制 | 返還される預託金の金額そのものが評価額となります。 |
| プレー権のみ | 譲渡できず、預託金もないプレーするだけの権利の場合、資産価値はないと判断され、評価額は0円です。 |
株主制のゴルフ会員権の評価は専門的な知識が必要になるため、もし該当する場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
譲渡費用(名義変更料)は評価額から引ける?
さて、ここが今回の本題です。「時価が10万円で、名義変更料が20万円かかるなら、実質マイナスじゃないか。この費用は評価額から引けないの?」という疑問ですよね。結論からお伝えしますと、残念ながら名義変更料などの譲渡費用は、相続税評価額から差し引くことはできません。
具体例で解説!時価10万円、名義変更料20万円の場合
今回のキーワードにある具体的なケースで考えてみましょう。
- ゴルフ会員権の時価(取引相場):10万円
- 名義変更料:20万円
この場合の相続税評価額は、基本の計算式に当てはめて計算します。
10万円(取引価格) × 70% = 7万円
名義変更料の20万円は、この評価額から差し引くことはできません。したがって、相続税の計算上、このゴルフ会員権は7万円の価値がある財産として扱われることになります。「手出しのほうが多いのに…」と感じてしまいますが、これが税法上のルールなのです。
「実質的な価値がない」のに評価される理由
なぜ名義変更料を引けないのかというと、相続税の考え方に理由があります。相続税は、あくまで「亡くなった時点(相続開始時)で、その財産がいくらの価値を持っていたか」を評価します。
ゴルフ会員権の時価10万円というのは、亡くなった時点での客観的な価値です。一方で、名義変更料20万円は、相続した後に「誰かの名義に変える」という手続きをする際に発生する費用ですよね。これは、被相続人(亡くなった方)の債務ではなく、相続人が負担する手続き費用と見なされるため、亡くなった時点の財産価値を計算する上では考慮されない、というわけなのです。
評価額がゼロになるケースはある?
すべてのゴルフ会員権に価値があるわけではありません。次のようなケースでは、相続税評価額が0円、つまり相続税がかからないと判断されることがあります。
- プレー権のみで譲渡できない会員権
売買ができず、預託金の返還もない、純粋にプレーする権利だけの会員権は資産価値がないとみなされます。 - ゴルフ場が経営破綻している場合
ゴルフ場が倒産しており、プレーもできず、預託金も返還される見込みが全くない場合は、価値がないものとして評価額は0円になります。
ただし、経営状況が悪化していても、プレーが継続できたり、再建計画によって将来的に預託金の一部が返還される可能性があったりする場合は、その状況に応じて評価が必要になることもあるので注意が必要です。
相続後の選択肢と注意点
価値がつきにくいゴルフ会員権を相続した場合、どうすればよいのでしょうか。主な選択肢は3つです。
名義変更して利用する
相続人の誰かがゴルフをする場合、名義変更料を支払って会員権を引き継ぐ選択肢です。ただし、今回のように名義変更料が時価を上回る場合は、本当にその価値があるか慎重に検討する必要がありますね。
売却して現金化する
誰も利用しない場合は、売却を検討します。ゴルフ会員権業者に依頼して買い手を探してもらうのが一般的です。時価10万円で売却できたとしても、利益が出た場合は譲渡所得として所得税がかかる可能性があります。逆に、購入した時より安く売って損失が出た場合でも、その損失を給与所得など他の所得と相殺(損益通算)することはできません。
相続放棄を検討する
「こんな会員権はいらない」と思っても、ゴルフ会員権だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄をする場合は、預貯金や不動産など他のプラスの財産もすべて手放すことになります。他に多額の借金があるなど、家全体の財産がマイナスの場合に検討する手続きです。
よくある質問
最後に、ゴルフ会員権の相続でよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 年会費は誰が払うの?
A. 亡くなった後に発生する年会費は、相続人が負担することになります。もし亡くなった時点で未払いの年会費があれば、それは被相続人の債務として、相続財産全体から差し引くことができます。
Q. 複数の業者の取引相場が違う場合は?
A. 業者によって提示される相場が異なることはよくあります。その場合は、基本的には最も低い取引相場を使って評価しても問題ないとされています。ただし、あまりに他の相場とかけ離れている場合は、税務署から問い合わせが来る可能性もゼロではありませんので、いくつかの業者を比較して妥当な価格を把握することが大切です。
まとめ
今回は、時価よりも名義変更料が高いゴルフ会員権の相続税評価について解説しました。大切なポイントを最後にもう一度おさらいしましょう。
- ゴルフ会員権の相続税評価額は、原則として「亡くなった日の取引価格 × 70%」で計算します。
- 名義変更料などの譲渡費用は、相続税評価額から差し引くことはできません。
- そのため、時価10万円、名義変更料20万円のケースでは、相続税評価額は7万円となります。
たとえ実質的な手残りがマイナスになるとしても、税法上のルールでは財産として評価されてしまうのが現状です。ゴルフ会員権の評価は、その種類や状況によって判断が難しい場合もあります。もし評価方法に迷ったり、相続税申告に不安があったりする場合は、一度税理士などの専門家に相談してみてくださいね。
参考文献
ゴルフ会員権の相続税評価額に関するよくある質問
Q.ゴルフ会員権の相続税評価はどのように行いますか?
A.原則として、課税時期(相続開始日)における通常の取引価格の70%で評価します。これは国税庁の財産評価基本通達で定められています。
Q.時価10万円、名義変更料20万円のゴルフ会員権の評価額はいくらですか?
A.このケースでは、時価から名義変更料などの譲渡費用を差し引くとマイナスになるため、相続税評価額は0円(ゼロ)となります。
Q.なぜ時価より名義変更料が高いと評価額が0円になるのですか?
A.相続税評価では、財産を換金した場合の手取り額を考慮します。譲渡費用が時価を上回り、手取りがマイナスになる財産は、経済的な価値がないと判断されるためです。
Q.評価額が0円の場合、相続税の申告は不要ですか?
A.いいえ、評価額が0円であっても相続財産の一部であるため、遺産分割の対象となり、相続税の申告書にも「評価額0円」として記載する必要があります。
Q.評価額がマイナスになることはありますか?
A.評価額がマイナスになることはありません。計算上マイナスになったとしても、評価額は0円として扱われ、他の相続財産から差し引くことはできません。
Q.取引相場がないゴルフ会員権はどう評価すればよいですか?
A.取引相場がない場合は、預託金の返還請求権や株式の評価など、会員権の形態に応じて個別に評価します。評価方法が複雑なため、税理士などの専門家にご相談ください。