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未入金の死亡保険金や入院給付金は相続財産?申告漏れを防ぐポイント

2025-06-28
目次

ご家族が亡くなられた後、保険会社から支払われるお金について、「まだ手続き中で受け取っていないから、相続税の申告には関係ないかな?」と思っていませんか?実は、その考えは少し危険かもしれません。たとえ未入金であっても、死亡保険金や入院給付金は相続財産に含めて申告する必要があるケースがほとんどなんです。この記事では、つい見落としがちな未入金の保険金や給付金の正しい扱い方について、わかりやすく解説していきますね。

死亡保険金は未入金でも相続財産になります

まず大切なポイントとして、死亡保険金は、保険会社からまだお金が振り込まれていなくても、相続税の計算に含める必要があります。なぜなら、亡くなられた時点(相続が開始した時点)で、保険金を受け取る「権利」が発生していると考えられるからです。このように、亡くなったことを原因として受け取る財産のことを、税法上「みなし相続財産」と呼びます。

「みなし相続財産」って何?

「みなし相続財産」とは、故人が生前に持っていた預貯金や不動産といった「本来の相続財産」とは少し性質が違うものです。故人の死亡をきっかけにご家族などが受け取る財産で、代表的なものに死亡保険金死亡退職金があります。
これらは保険契約などに基づいて受取人に直接支払われるため、遺産分割協議の対象にはなりません。しかし、相続税を計算する際には、他の相続財産と合算して税額を計算する必要がある、と覚えておきましょう。

死亡保険金には嬉しい非課税枠があります

死亡保険金は、遺されたご家族の生活を支えるという大切な役割を持っています。そのため、税金の負担が少し軽くなるように「生命保険の非課税枠」という制度が設けられています。この非課税枠の金額は、以下の計算式で求められます。

500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人いるご家庭なら、「500万円 × 3人 = 1,500万円」までが非課税となります。受け取った保険金が1,500万円以下であれば、その保険金に相続税はかかりません。もし2,000万円の保険金を受け取った場合は、非課税枠を超える500万円分だけが相続税の課税対象となります。
ただし、この非課税枠を使えるのは、保険金の受取人が相続人である場合だけなので注意してくださいね。

保険契約の形でかかる税金が変わる?

生命保険金にかかる税金は、実は「誰が保険料を払っていたか(契約者)」「誰が保険の対象だったか(被保険者)」「誰が保険金を受け取ったか(受取人)」の組み合わせによって、相続税、贈与税、所得税のどれになるかが変わります。相続税の対象となるのは、亡くなった方がご自身で保険料を負担していたケースです。

契約の形 かかる税金の種類
契約者:夫 / 被保険者:夫 / 受取人:妻 相続税
契約者:夫 / 被保険者:妻 / 受取人:子 贈与税
契約者:夫 / 被保険者:妻 / 受取人:夫 所得税

入院給付金は相続財産?未入金なら申告不要?

亡くなる前に入院されていた場合、死亡保険金とは別に、入院日数に応じた「入院給付金」が支払われることがあります。この入院給付金も、亡くなった時点で受け取る権利が確定していれば、未入金であっても相続財産に含める必要があります。ただし、死亡保険金とは少し扱いが異なるので注意が必要です。

受取人が誰かで扱いが大きく変わります!

入院給付金を相続財産に含めるかどうかは、保険契約で「誰が受取人として指定されているか」で決まります。これは非常に重要なポイントです。

【受取人が被相続人(亡くなった方)の場合】
この場合、入院給付金は故人が受け取るべきだったお金、つまり「本来の相続財産」として扱われます。したがって、預貯金などと同じように遺産分割の対象となり、相続税の課税対象にもなります。ここで注意したいのは、入院給付金には死亡保険金の非課税枠は使えないという点です。受け取った金額の全額を相続財産として申告する必要があります。

【受取人が相続人(配偶者や子など)の場合】
この場合は、給付金は「受取人固有の財産」と考えられます。そのため、相続財産には含まれず、相続税の課税対象にもなりません。受け取った方の一時所得にもならず、所得税も非課税です。

死亡保険金と一緒に入金されるお金の注意点

保険会社からの支払明細を見ると、死亡保険金の他に「配当金」や「特約還付金」といった項目が記載されていることがあります。これらのお金も、種類によって相続税の扱いが異なります。まとめて「死亡保険金」として扱ってしまうと、申告内容が間違ってしまう可能性があるので気をつけましょう。

死亡保険金の非課税枠が使えるもの

以下のものは、死亡保険金と同じ「みなし相続財産」として扱われ、非課税枠の対象に含めることができます。

  • 配当金:保険会社の運用が好調だった場合に、契約者に分配されるお金です。
  • 割戻金:共済契約における配当金のようなものです。
  • 前納保険料・未経過保険料:保険料を前払いしていた場合に、亡くなった後の期間分として返還されるお金です。

死亡保険金の非課税枠が使えないもの

以下のものは、故人の「本来の相続財産」とみなされ、非課税枠の対象にはなりません。全額が相続税の課税対象となりますので、申告漏れのないようにしましょう。

  • 入院給付金や手術給付金(受取人が被相続人の場合):先ほどご説明した通りです。
  • 特約還付金:特約部分の積立金などが、主契約の終了に伴って返還されるお金です。
  • 生存保険金:生前に受け取るはずだったお祝い金などで、未請求のままだったものです。

見落としがちな契約者貸付金の扱い

もし故人が生命保険の「契約者貸付制度」を利用していた場合、その扱いには特に注意が必要です。契約者貸付とは、解約返戻金の一定範囲内でお金を借りられる制度のことです。
この貸付残高がある場合、死亡保険金は貸付金を差し引いた(相殺した)金額で振り込まれます。しかし、相続税の計算では、相殺される前の保険金総額を「みなし相続財産」として計上しなければなりません。そして、差し引かれた貸付金残高を、借金として他の財産から差し引く(債務控除する)ことはできません

例えば、死亡保険金が1,000万円、契約者貸付が200万円あった場合、実際に振り込まれるのは800万円です。しかし、相続税の申告書には、生命保険金として1,000万円を記載し、非課税枠の計算もこの1,000万円を基に行います。貸付金の200万円は債務控除できない、というルールになっています。

未入金でも相続財産に含める理由とタイミング

なぜ、まだ手元にないお金まで申告する必要があるのでしょうか。それは、相続税のルールが「相続開始時(亡くなった日)に所有していた財産」を基準にしているからです。
死亡保険金や入院給付金(受取人が被相続人の場合)は、亡くなったその瞬間に受け取る権利が法的に確定します。そのため、実際にお金が振り込まれるのが数週間後、数ヶ月後であっても、亡くなった日の財産として計上する必要があるのです。
相続手続きを進める際は、保険会社から送られてくる「支払通知書」や「支払明細書」を必ず確認し、どの種類のお金がいくら支払われたのかを正確に把握することが、正しい申告への第一歩となります。

まとめ

今回は、未入金の死亡保険金や入院給付金の相続税における扱いについて解説しました。最後にポイントをまとめておきましょう。

  • 死亡保険金は未入金でも「みなし相続財産」として相続税の対象になるが、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使える。
  • 入院給付金は、受取人が誰かで扱いが全く異なる。受取人が故人なら「本来の相続財産」となり非課税枠は使えない。
  • 保険金と一緒に支払われるお金(配当金など)も、種類によって非課税枠の対象になるかならないかが分かれるため、明細の確認が重要。
  • 契約者貸付がある場合、相殺前の保険金額で申告し、貸付金は債務控除できない。

保険に関するお金は種類が多く、少し複雑に感じるかもしれません。しかし、申告漏れがあると後から追加で税金を納めることにもなりかねません。もし少しでも不安な点やわからないことがあれば、税理士などの専門家に相談してみてくださいね。

参考文献

死亡保険金・給付金の相続に関するよくある質問まとめ

Q.未入金の死亡保険金は相続財産になりますか?

A.いいえ、死亡保険金は原則として受取人固有の財産とされ、民法上の相続財産には含まれません。ただし、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象となる場合があります。

Q.被相続人が請求していなかった入院給付金はどうなりますか?

A.被相続人が生前に受け取る権利があった入院給付金は、相続財産に含まれます。相続人が保険会社に請求手続きを行う必要があります。

Q.死亡保険金には必ず相続税がかかるのですか?

A.いいえ、必ずかかるわけではありません。受取人が相続人の場合、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。この金額を超えた部分が相続税の課税対象となります。

Q.死亡保険金の受取人が被相続人本人だった場合はどうなりますか?

A.受取人が被相続人自身に指定されている場合、その死亡保険金は相続財産となり、遺産分割協議の対象となります。

Q.未請求の保険金や給付金の請求手続きはどうすればいいですか?

A.まず保険証券などで契約内容を確認し、保険会社に連絡します。その後、保険会社から指示された必要書類(死亡診断書、戸籍謄本など)を提出して手続きを進めます。

Q.相続放棄をしても死亡保険金は受け取れますか?

A.はい、保険金の受取人に指定されていれば、それは受取人固有の財産のため、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、未請求の入院給付金などを請求すると相続を承認したとみなされ、放棄できなくなる可能性があるので注意が必要です。

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