会社の事業を一時的にストップする「休眠」。その間、税金はどうなるのか気になりますよね。特に、利益がなくても課税される法人住民税の「均等割」について、東京都の法人が休眠届を出した場合に免除されるのか、手続きや注意点を分かりやすく解説します。
そもそも法人住民税の「均等割」とは?
まず、基本となる法人住民税の「均等割」がどのような税金なのか、しっかりおさえておきましょう。赤字でも支払いが必要な税金なので、仕組みを理解しておくことが大切です。
利益がなくてもかかる税金
法人住民税は、「法人税割」と「均等割」の2つで構成されています。法人税割は、会社の利益(所得)に応じて課税されるため、赤字決算の場合は基本的に発生しません。一方で、均等割は、法人がその地域に存在しているというだけで課税される税金です。会社の資本金や従業員数に応じて金額が決まるため、たとえ事業が赤字でも納税義務が発生するのが特徴です。
東京都の均等割の金額は?
東京都の23区内に事務所がある法人の場合、均等割の額は資本金等の額と従業員数によって決まります。会社の規模によって負担額が変わる仕組みになっています。具体的な金額を見てみましょう。
| 区分(資本金等の額・従業員数) | 均等割額(年額・23区内の場合) |
| 資本金1,000万円以下・従業員50人以下 | 70,000円 |
| 資本金1,000万円以下・従業員50人超 | 140,000円 |
| 資本金1,000万円超 1億円以下・従業員50人以下 | 180,000円 |
| 資本金1,000万円超 1億円以下・従業員50人超 | 200,000円 |
※上記金額は、都民税と特別区民税の合計額です。
休眠届を出せば均等割は免除されるの?
ここが一番気になるポイントだと思います。結論からお伝えすると、東京都では、所定の手続きを踏んで休眠届を提出することで、均等割が免除される可能性があります。何もしなくても自動的に免除されるわけではないので、注意が必要です。
なぜ免除される可能性があるの?
法人住民税の納税義務は、その地域に「事務所または事業所」を有する法人にあると定められています。休眠会社とは、事業活動を完全に停止している会社のことです。事務所を引き払い、従業員もいない、電話も動いていないといった状態であれば、事業を行うための「事務所等」が存在しないと判断されます。その結果、納税義務の根拠がなくなるため、均等割が免除されるというわけです。
免除の判断は誰がする?
最終的な判断は、東京都(管轄の都税事務所)が行います。提出された届出書の内容を確認し、事業実態が全くないと認められた場合に、免除が適用されます。そのため、「申請すれば100%免除される」と断言はできませんが、適切に手続きを行い、実際に事業活動が停止していれば、認められることがほとんどです。
均等割免除のための具体的な手続き
では、実際に均等割の免除を受けるためには、どのような手続きをすればよいのでしょうか。主に3つの行政機関への届出が必要になりますので、順番に見ていきましょう。
税務署への届出
まず、国の税金を管轄する税務署へ、休業する旨を届け出ます。提出する書類は以下の2つです。
| 提出書類 | 記載のポイント |
| 異動届出書 | 「異動事項等」の欄に「休業(休眠)」と記載し、「異動年月日」には休業を開始した日付を書きます。 |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 「廃止」にチェックを入れます。従業員への給与支払いがなくなることを届け出るための書類です。 |
東京都(都税事務所)への届出
次に、地方税である法人住民税を管轄する都税事務所へ届出をします。これが均等割の免除に直結する最も重要な手続きです。
| 提出書類 | 記載のポイント |
| 異動届出書 | 税務署に提出したものと同様に、休業する旨を記載して提出します。 |
この届出をすることで、都税事務所は法人が休眠状態に入ったことを把握し、均等割の課税を停止する判断をします。届出を提出する際に、窓口や電話で「休業による均等割の免除を希望します」と一言伝えておくと、より確実でしょう。
市町村役場への届出(市町村に事務所がある場合)
もし会社の所在地が23区ではなく、東京都内の市や町、村にある場合は、その市町村役場にも同様の「異動届出書」を提出する必要があります。法人住民税は都道府県と市町村がそれぞれ課税するため、両方への手続きを忘れないようにしましょう。
会社を休眠させるメリット
均等割が免除される以外にも、会社を休眠させることにはいくつかのメリットがあります。廃業や解散とは違う選択肢として考えてみましょう。
会社を維持するコストを抑えられる
最大のメリットは、会社を存続させるためのコストを大幅に削減できることです。事業活動がなければ利益が出ないので法人税はかからず、休眠の届出をすれば法人住民税の均等割もかからなくなります。税金の負担がなくなることで、最小限のコストで法人格を維持できます。
いつでも事業を再開しやすい
一度会社を解散・清算してしまうと、将来また事業を始めたくなったときには、新たに会社を設立し直さなければなりません。それには登録免許税などの設立費用や手間がかかります。休眠の場合は法人格が残っているため、事業を再開したいタイミングで、税務署や都税事務所に再開の届出をするだけで、スムーズに活動を再スタートできます。
休眠するときの注意点
メリットの多い休眠ですが、いくつか注意すべき点もあります。これらを知らずに放置してしまうと、思わぬペナルティを受ける可能性もあるので気をつけましょう。
税務申告は原則として必要
休眠届を提出して均等割が免除されても、法人税の申告義務は法律上残ります。利益がゼロであっても、毎年「所得ゼロ」の確定申告を行うのが原則です。もし、2期連続で申告を怠ると、税制上の優遇措置である青色申告の承認が取り消されてしまう可能性があります。将来事業を再開した際に、過去の赤字(繰越欠損金)と利益を相殺できなくなるなど、大きなデメリットがあるので、申告は続けることをお勧めします。
役員変更の登記は必要
会社が休眠状態であっても、役員の任期は経過していきます。株式会社の場合、役員の任期は最長10年です。任期が満了したにもかかわらず、役員変更の登記を怠っていると、登記懈怠(とうきけたい)とみなされ、裁判所から過料(罰金のようなもの)を科されることがあります。休眠中も役員の任期管理は忘れないようにしましょう。
「みなし解散」に注意
株式会社が最後の登記から12年間、一度も登記を行わずにいると、法務局の職権により解散したものとみなされる「みなし解散」という制度があります。長期間完全に放置してしまうと、知らないうちに会社がなくなってしまう可能性があります。定期的に役員変更登記を行っていれば、この「みなし解散」を避けることができます。
まとめ
東京都の法人が事業を一時的に停止する場合、税務署と都税事務所(市町村に事務所がある場合は市町村役場も)に「異動届出書」を提出することで、法人住民税の均等割が免除される可能性があります。これにより、会社を低コストで維持しながら、将来の事業再開に備えることができます。ただし、休眠中も法人税の申告や役員変更登記といった義務は残ります。これらの手続きを怠ると、青色申告の取り消しや過料といったペナルティにつながる恐れがあるため注意が必要です。会社の休眠を検討する際は、メリットと注意点の両方をしっかり理解した上で、計画的に進めましょう。
参考文献
法人事業税・特別法人事業税・地方法人特別税・法人都民税|申請様式(共通)|東京都主税局
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
東京都の法人休眠と均等割り免除に関するよくある質問
Q.東京都の法人は、休眠届を出せば法人住民税の均等割りは免除されますか?
A.はい、東京都では事業活動を停止している法人が所定の届出を行うことで、法人都民税の均等割りが免除される場合があります。ただし、自動的に免除されるわけではなく、都税事務所への申請と承認が必要です。
Q.均等割りの免除を受けるには、どのような手続きが必要ですか?
A.管轄の都税事務所に「異動届出書」を提出し、事業を休止した旨を届け出る必要があります。その際、均等割りの免除を受けたい旨を伝えて相談することが重要です。
Q.「休眠状態」とは、具体的にどのような状態を指しますか?
A.売上や経費の発生といった事業活動が一切なく、役員や従業員への給与支払いも停止している状態を指します。登記上は会社が存続していても、実質的な活動が全くないことが条件となります。
Q.休眠届を提出すれば、税務申告は不要になりますか?
A.いいえ、休眠中であっても原則として毎年の法人税の確定申告は必要です。申告を怠ると、青色申告の承認が取り消されるなどのペナルティがあるためご注意ください。
Q.法人の休眠にデメリットはありますか?
A.デメリットとして、①最後の登記から12年が経過すると「みなし解散」の対象となる、②許認可が失効する可能性がある、③事業再開時に改めて手続きが必要になる、といった点が挙げられます。
Q.市区町村への届出も必要ですか?
A.はい、必要です。法人住民税は「都道府県民税」と「市町村民税」で構成されています。都税事務所(都道府県)への届出とは別に、本店所在地のある市区町村役場にも同様の休眠の届出を行う必要があります。