株式をたくさんお持ちの方が、節税や相続対策のために「資産管理会社」を作るケースが増えています。でも、どんな税金がかかるのか、どんな法律が関係するのか、ちょっと複雑で分かりにくいですよね。そこで今回は、株式を保有する資産管理会社に適用される税法について、仕組みから注意点まで、優しく解説していきます。
そもそも資産管理会社ってどんな会社?
まずは、資産管理会社がどのようなものか、基本から確認しましょう。資産管理会社は、その名の通り個人の資産を管理するために設立される会社で、「プライベートカンパニー」とも呼ばれます。特に株式を多く保有している方が、その管理・運用を法人に移すことで、さまざまなメリットが生まれるんですよ。
資産管理会社の主な役割
資産管理会社の主な役割は、オーナー個人が所有している株式や不動産などの資産を、法人として所有・管理・運用することです。株式保有型の資産管理会社の場合、主な収入源は保有する株式から得られる配当金収入になります。個人で配当を受け取るのではなく、一度会社で受け取ることによって、税制上のメリットを活かすことができるんです。
どんな人が設立するの?
資産管理会社を設立されるのは、主に次のような方々です。
- 上場企業の創業者やオーナー経営者
- 多数の株式を保有し、多額の配当所得がある個人投資家
- 将来の相続で、ご家族に多額の相続税がかかりそうな資産家
年間の所得が1,000万円を超えてくると、個人の税負担が重くなってくるため、法人化による節税効果を検討し始める方が多いようです。
株式保有型と不動産保有型の違い
資産管理会社には、主に管理する資産の種類によって「株式保有型」と「不動産保有型」があります。株式保有型は、その名の通り株式の管理がメインです。一方、不動産保有型は、賃貸マンションやアパートなどの不動産を管理し、家賃収入を得ることを目的としています。どちらのタイプかによって、税務上の考え方やメリットが少しずつ変わってきますが、今回は「株式保有型」に焦点を当ててお話ししていきますね。
資産管理会社に関わる主な税金の種類
資産管理会社を設立すると、会社そのものにかかる税金と、オーナー個人にかかる税金が発生します。それぞれどのような税金なのか見ていきましょう。
法人にかかる税金
資産管理会社は法人ですので、利益に対して法人としての税金を納める必要があります。主に以下の3つの税金がかかります。
| 税金の種類 | 内容 |
| 法人税 | 会社の利益(所得)に対してかかる国の税金です。税率は会社の規模や所得金額によって異なります。 |
| 法人 住民税 |
会社の所在地である都道府県や市町村に納める地方税です。利益に応じてかかる「法人税割」と、赤字でもかかる「均等割」があります。 |
| 法人 事業税 |
事業を行うことに対して、会社の所在地である都道府県に納める地方税です。所得に応じて税額が決まります。 |
オーナー個人にかかる税金
資産管理会社を設立しても、オーナー個人の税金が完全になくなるわけではありません。会社からお金を受け取る際には、個人として税金を納める必要があります。
- 所得税・住民税:資産管理会社から役員報酬として給与を受け取る場合、その給与に対して所得税と住民税がかかります。
- 譲渡所得税:個人で所有していた株式を資産管理会社に売却する際、売却して得た利益(譲渡所得)に対して、所得税・復興特別所得税(15.315%)と住民税(5%)がかかります。
税金のメリット1:所得税と法人税の税率差を活用した節税
資産管理会社を設立する最大のメリットの一つが、個人と法人の税率の違いを利用した節税です。具体的にどれくらい違うのか、比べてみましょう。
個人の所得税は最高55%
個人の所得税は「累進課税」という仕組みになっており、所得が多ければ多いほど税率が高くなります。所得税の最高税率は45%で、これに住民税の約10%が加わるため、高所得者の場合は所得の約55%もの税金を納めることになります。
法人の実効税率は約20%~30%台
一方、法人税は利益の額にかかわらず税率が一定の「比例課税」が基本です。資本金1億円以下の中小法人の場合、年800万円以下の所得に対しては15%の軽減税率が適用されます。法人住民税や法人事業税を含めた実効税率で考えても、だいたい20%台から30%台前半に収まることが多く、個人の最高税率と比べるとかなり低く抑えられています。
所得分散による節税効果
オーナー1人で高い配当所得を得るのではなく、ご家族を資産管理会社の役員にして役員報酬を支払うことで、所得を分散できます。例えば、オーナー1人で5,000万円の所得がある場合と、夫婦2人で2,500万円ずつ役員報酬を受け取る場合とでは、世帯全体でかかる所得税・住民税の合計額を大きく減らすことができます。さらに、役員報酬は給与所得控除の対象となるため、これも大きな節税ポイントになります。
税金のメリット2:相続税対策としての活用法
資産管理会社は、将来の相続税対策としても非常に有効です。大切な資産をスムーズに次の世代へ引き継ぐための仕組みを見ていきましょう。
株式の評価額を引き下げる効果
個人で上場株式などを直接持っていると、その時価がそのまま相続財産の評価額になります。しかし、資産管理会社を通して株式を保有すると、相続財産は事業会社の株式ではなく「資産管理会社の株式(非上場株式)」に変わります。この資産管理会社の株式を評価する際には、保有する株式の含み益に対してかかる法人税等相当額(37%)を純資産価額から控除できるため、結果として相続税評価額を大きく引き下げられる可能性があるのです。
生前贈与がしやすくなる
オーナーが保有する事業会社の株式そのものを贈与するのは、手続きが複雑だったり、経営権の問題が生じたりすることがあります。しかし、資産管理会社の株式であれば、経営権に直接影響を与えることなく、暦年贈与(年間110万円まで非課税)などを活用して計画的にご家族へ贈与していくことが可能です。これにより、将来の相続財産をスムーズに減らしていくことができます。
納税資金の準備
相続が発生すると、相続税を原則として10ヶ月以内に現金で納付しなければなりません。資産管理会社からご家族(将来の相続人)へ役員報酬や退職金を支払うことで、相続税の納税資金を計画的に準備しておくことができます。これにより、いざという時に慌てて大切な株式を売却する、といった事態を避けることにつながります。
資産管理会社を設立・運営する際の税務上の注意点
多くのメリットがある資産管理会社ですが、設立や運営にあたっては税務上の注意点もあります。思わぬトラブルを避けるために、しっかり押さえておきましょう。
株式を会社へ移転するときの税金
オーナー個人が所有する株式を資産管理会社へ移す際は、「売却」という形をとるのが一般的です。このとき、必ず「時価」で売買する必要があります。もし株式の価値が購入時より上がっていれば、その売却益に対して譲渡所得税(合計約20.315%)がかかります。株価が高騰しているタイミングで設立すると、この納税額が非常に大きくなる可能性があるため、資産管理会社の設立は株価がなるべく低い時期に行うのが鉄則です。
会社の維持コストと税金
会社を設立すると、たとえ利益が出ていない赤字の状態であっても、法人住民税の「均等割」が毎年かかります。これは会社の規模によりますが、最低でも年間7万円程度は必要です。その他にも、税理士への顧問料や社会保険料の会社負担分など、法人を維持するためのコストが発生することも忘れないようにしましょう。
同族会社の行為計算否認のリスク
資産管理会社は、オーナーとそのご家族で経営する「同族会社」になることがほとんどです。そのため、例えば実態に見合わない高額な役員報酬を支払うなど、税金の負担を不当に減らすための行為と税務署に判断された場合、その取引が否認されてしまうリスクがあります(法人税法第132条の2)。税務のルールを守り、適切な会社運営を心がけることが大切です。
まとめ
株式保有の資産管理会社は、所得税と法人税の税率の違いを活かした節税や、効果的な相続税対策など、税法上のメリットが非常に大きい仕組みです。特に、多くの株式を保有し、高い配当所得がある方や、将来の相続に備えたい方にとっては、強力なツールとなり得ます。
ただし、設立時の譲渡所得税の問題や、法人としての維持コスト、税務上のリスクも存在します。メリットを最大限に活かし、リスクを避けるためには、ご自身の状況に合わせて慎重に計画を立てることが何よりも重要です。設立を検討する際は、資産税に詳しい税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
参考文献
資産管理会社の株式保有と税金のよくある質問まとめ
Q.資産管理会社で株式を保有する税務上のメリットは何ですか?
A.個人で保有する場合に比べて低い法人税率が適用されたり、役員報酬などで所得を分散できたりする点がメリットです。また、経費として認められる範囲が広がり、相続税対策としても有効です。
Q.資産管理会社が受け取る株式の配当金にかかる税金はどうなりますか?
A.法人が受け取る配当金には「益金不算入制度」が適用され、受け取った配当金の一部または全額が課税対象から除外される場合があります。これにより法人税の負担が軽減されます。
Q.資産管理会社で株式を売却した場合の税金はどうなりますか?
A.個人の場合は約20%の分離課税ですが、法人の場合は株式の売却益が他の事業損益と通算された上で法人税が課されます。損失が出た場合に他の利益と相殺できる点がメリットです。
Q.資産管理会社が相続税対策になるといわれるのはなぜですか?
A.個人所有の有価証券そのものではなく、資産管理会社の株式を相続対象とすることで、役員退職金の活用などにより計画的に株価評価を引き下げ、相続税評価額を抑える効果が期待できるためです。
Q.資産管理会社の役員報酬は経費として認められますか?
A.はい、適正な金額であれば経費として計上できます。会社の利益を圧縮して法人税を抑える効果があり、個人側でも給与所得控除を受けられるため節税につながります。
Q.資産管理会社を設立する際の税務上の注意点は何ですか?
A.設立・維持にコストがかかる点や、税務調査で経費の妥当性を指摘されるリスクがあります。また、含み益のある株式を法人に移す際には、個人に所得税が課される可能性があるため専門家への相談が重要です。