ご家族から土地を相続したとき、その土地の価値を計算して相続税を申告する必要があります。多くの場合は道路に設定された「路線価」という価格をもとに評価するのですが、「そもそも土地の正面にある道路に路線価がない…」というケースも少なくありません。そんなとき、どうやって土地の価値を評価すればいいのでしょうか?特に、いびつな形の土地(不整形地)を評価する際に重要となる「想定整形地」の考え方がポイントになります。この記事では、正面路線に路線価がない場合の土地の評価方法と、想定整形地の作り方について、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
そもそも路線価と想定整形地って何?
まずは、土地評価の基本となる「路線価」と「想定整形地」という言葉について、簡単におさらいしておきましょう。この2つが分かると、この後の話がスムーズに理解できるかと思います。
相続税の土地評価の基本「路線価方式」
路線価とは、国税庁が毎年発表する、主要な道路に面した土地1平方メートルあたりの評価額のことです。相続税や贈与税を計算する際に、土地の価値を算出するための基準として使われます。路線価が定められている地域の土地は、基本的にこの「路線価方式」で評価します。
計算の基本はとてもシンプルで、以下のようになります。
土地の評価額 = 路線価 × 土地の面積(㎡)
例えば、路線価が「100,000円/㎡」の道路に面した200㎡の土地なら、評価額は2,000万円(100,000円 × 200㎡)が基本となります。実際には土地の形などに応じて様々な調整(補正)が入りますが、まずはこの基本を押さえておきましょう。
不整形地の評価で登場する「想定整形地」
次に「想定整形地」です。これは、形がきれいな四角形(正方形や長方形)ではない、いびつな形の土地、いわゆる「不整形地」を評価するときに使う考え方です。
不整形地は、きれいな四角形の土地(整形地)に比べて、家を建てにくかったり、活用しづらかったりしますよね。そのため、相続税の評価ではその使いにくさを考慮して、評価額を減額する「不整形地補正」というルールが適用されます。
この不整形地補正を計算するために、まず「もしこの土地がきれいな四角形だったら」という仮想の土地を設定します。これが「想定整形地」です。具体的には、評価したい不整形地がすべてすっぽりと収まる、道路に面した長方形または正方形のことを指します。この想定整形地と実際の土地の面積を比べることで、どれくらい形がいびつなのかを判断し、評価額の減額率を決める、というわけです。
正面路線に路線価がない!どうやって評価するの?
さて、ここからが本題です。相続した土地の正面にある道路に、肝心の路線価が設定されていない場合はどうすればよいのでしょうか。評価のしようがないように思えますが、ちゃんと方法は用意されていますのでご安心ください。主な方法として「特定路線価」を申請する方法があります。
税務署に申請する「特定路線価」
特定路線価とは、路線価が設定されていない道路について、納税者からの申出にもとづいて税務署長が個別に設定する路線価のことです。
「この道路の路線価を決めてください」と税務署にお願いするイメージですね。所轄の税務署に「特定路線価設定申出書」という書類を提出することで申請できます。申請が認められると、税務署は周辺の路線価や土地の状況などを考慮して、その道路の路線価を個別に設定してくれます。この特定路線価を使えば、通常の路線価方式と同じように土地の評価を進めることができます。
特定路線価が設定されないケース
ただし、申請すれば必ず特定路線価が設定されるわけではありません。以下のようなケースでは、設定されないことがあります。
| 設定されない主な理由 | 具体例 |
| 建築基準法上の道路ではない | 見た目は道でも、法律上はただの通路や空き地として扱われる場合。 |
| 道路の幅員が極端に狭い | 人や自転車が通るのがやっとのような、非常に狭い道。 |
また、土地が複数の道路に接していて、他の道路に路線価が設定されている場合も、特定路線価の申請はできません。特定路線価が設定されなかったり、申請できない場合は、別の方法で評価することになります。
特定路線価を使わない場合の評価方法
特定路線価を申請しない、または設定されなかった場合、他の方法で評価額を計算します。代表的なのは「無道路地」として評価する方法です。
無道路地として評価するケース
無道路地とは、文字通り、建築基準法上の道路に接していない土地のことです。路線価が設定されていない道路は、建築基準法上の道路と認められないことが多く、その道路にしか接していない土地は「無道路地」として扱われる可能性があります。
無道路地は、建物の建築ができないなど利用価値が著しく低いため、評価額が大幅に減額されます。具体的には、もしその土地から公道まで通路を開設するとしたらいくらかかるか、その通路開設費用に相当する金額を評価額から差し引くことができます。控除できる金額は、最大で評価額の40%にもなるため、評価額に大きな影響を与えます。
正面路線がない場合の想定整形地の取り方
正面路線に路線価がない不整形地を評価する場合、「どの道路を基準にするか」で想定整形地の作り方が変わり、結果的に評価額も変わってきます。ここが非常に重要なポイントです。
特定路線価を設定した場合の想定整形地
特定路線価の申請が通り、路線価が設定された場合は、その道路を正面路線として扱います。そして、その正面路線に垂直になるように線を引き、評価対象の土地がすべて収まる長方形(または正方形)を作図します。これが想定整形地となります。これは、通常の不整形地評価と全く同じ考え方なので、一番わかりやすいパターンですね。
無道路地として評価する場合の想定整形地
一方、無道路地として評価する場合は少し複雑です。無道路地は直接道路に接していないため、どの道路を「正面」とみなすかが問題になります。一般的には、その土地から最も近い路線価のある道路を基準に評価します。
その基準となる道路に接しているかのように、土地全体を囲む想定整形地を作図します。そして、その想定整形地の評価額から、通路部分の価額を差し引いて無道路地の評価額を計算します。この方法だと、評価額を大きく下げられる可能性があります。
【注意点】評価額に大きく影響するポイント
どちらの方法を選ぶかによって、想定整形地の形や大きさが変わります。想定整形地が変われば、不整形地補正の計算の基礎となる「かげ地割合(想定整形地に占める、実際の土地以外の部分の割合)」も変わります。つまり、どの評価方法を選択するかは、最終的な相続税評価額に直結するということです。どちらが有利になるかは土地の形状や周辺の状況によってケースバイケースなので、慎重な判断が求められます。
具体的な計算例を見てみよう
少し複雑なので、具体的な例で見てみましょう。ここでは、特定路線価が設定された場合と、無道路地として評価した場合を比べてみます。
【前提条件】
| 土地の面積 | 250㎡ |
| 土地の形状 | 不整形地 |
| 接道状況 | 正面は路線価のない道路。一番近い路線価のある道路の路線価は200,000円/㎡。 |
| 想定整形地の面積 | 300㎡ |
| かげ地割合 | (300㎡ – 250㎡) ÷ 300㎡ = 約16.7% |
| 不整形地補正率 | 0.96 (普通住宅地区、かげ地割合15%以上の場合と仮定) |
【ケース1:特定路線価が180,000円/㎡に設定された場合】
- 補正前の評価額: 180,000円 × 250㎡ = 45,000,000円
- 不整形地補正後の評価額: 45,000,000円 × 0.96 = 43,200,000円
【ケース2:無道路地として評価する場合】
- 基準となる路線価での評価額: 200,000円/㎡ を使います。
- 不整形地としての評価額: (200,000円 × 250㎡) × 0.96 = 48,000,000円
- 通路開設費用の控除額: 200,000円 × (通路幅2m × 奥行10m) = 4,000,000円 (※通路部分の面積を20㎡と仮定)
- 最終的な評価額: 48,000,000円 – 4,000,000円 = 44,000,000円
この例では、特定路線価を設定した方が評価額が低くなりました。しかし、土地の形状や通路の長さによっては、無道路地評価の方が有利になることも十分に考えられます。どちらの方法を選択すべきか、専門的な知識が不可欠であることがお分かりいただけるかと思います。
まとめ
今回は、正面路線に路線価がない土地の評価方法と、想定整形地の考え方について解説しました。
ポイントをまとめると以下のようになります。
- 正面路線に路線価がない場合、まずは税務署に「特定路線価」の申請を検討しましょう。
- 特定路線価が設定されない、または申請できない場合は、「無道路地」としての評価も選択肢になります。
- どの評価方法を選ぶかによって「想定整形地」の作り方が変わり、不整形地補正率や評価額が大きく変動します。
- どの方法が最も有利かは、土地の状況によって異なるため、安易な自己判断は禁物です。
土地の評価、特に路線価がないケースは非常に専門的で複雑です。評価方法を一つ間違えるだけで、相続税額が数百万円単位で変わってしまうことも珍しくありません。相続財産にこのような土地が含まれている場合は、必ず土地評価に詳しい税理士などの専門家にご相談いただくことを強くおすすめします。
参考文献
路線価がない土地評価のよくある質問まとめ
Q. 正面路線に路線価がない場合、必ず特定路線価を申請しないといけませんか?
A. 義務ではありませんが、適正な評価のためには申請が推奨されます。ただし、状況によっては無道路地評価など他の方法が有利な場合もありますので、専門家への相談がおすすめです。
Q. 特定路線価はどのように決まるのですか?
A. 税務署が、近隣の路線価、道路の状況、周辺の土地の利用状況などを総合的に考慮して、個別に評価額を設定します。
Q. 想定整形地とは何ですか?
A. 不整形地(いびつな形の土地)を評価する際に、その土地がすっぽり収まるように作る、道路に面した仮想の長方形または正方形の土地のことです。不整形地補正率を計算する際の基準となります。
Q. 特定路線価の申請には費用がかかりますか?
A. 税務署への申請自体に費用はかかりません。無料で手続きできます。ただし、税理士などの専門家に申請を代行してもらう場合は、別途報酬が必要になります。
Q. 路線価がない道路は、私道ということですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。公道であっても、交通量が極端に少ない、行き止まりの道路であるなどの理由で、路線価が設定されていない場合があります。
Q. 土地の評価方法を間違えるとどうなりますか?
A. 評価額を本来より低く申告してしまうと、税務調査で指摘され、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるリスクがあります。逆に高く申告すると、払い過ぎた税金は税務署から教えてもらえず、損をしてしまいます。