ご家族が突然亡くなられた後の手続きは、精神的にも大変な中で進めなければなりません。その第一歩となるのが「死亡診断書」の受け取りですが、状況によってはすぐにもらえないことがあります。今回は、どのような場合に死亡診断書の代わりに監察医務院や大学の法医学教室が関わるのか、その手続きや費用について、分かりやすくご説明しますね。
死亡診断書と死体検案書の違いについて
人が亡くなったことを法的に証明する書類には、「死亡診断書」と「死体検案書」の2種類があります。どちらも故人に関する情報や死因が記載されており、書式も一体化されていますが、発行される状況が異なります。
死亡診断書が発行されるケース
死亡診断書は、故人が生前に診察を受けていた医師が発行する書類です。具体的には、かかりつけ医が診察を続けていた病気が原因で亡くなられた場合や、入院中の病院で亡くなられた場合に発行されます。医師が死亡を確認し、生前の診察内容から死因を明確に判断できる状況で作成されるもの、と覚えておくと良いでしょう。
死体検案書が発行されるケース
一方、死体検案書は、上記以外の状況で発行される書類です。例えば、かかりつけ医がおらず自宅で突然亡くなられた場合、事故死、自殺、他殺の疑いがある場合、または死因が不明な場合などです。これらのケースでは、医師がご遺体の状況を調べ(これを「検案」といいます)、死因を特定した上で作成されます。検案を行うのは、主に警察からの依頼を受けた医師や監察医となります。
法的な効力は同じです
名前は違いますが、死亡診断書と死体検案書の法的な効力は全く同じです。市区町村役場への死亡届の提出、火葬の許可、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きなど、故人が亡くなったことを証明するあらゆる場面で、どちらの書類も同等に扱うことができますのでご安心ください。
監察医務院や医大(法医学教室)が関わるのはどんな時?
ご家族が自宅などで突然亡くなられた場合、警察への連絡が必要になります。そして、その死に不審な点がないか調べる過程で、監察医務院や大学の法医学教室が関わってくることがあります。
警察への連絡が必要な「異状死」とは
医師法第21条では、医師が死体を検案して異状があると認めた場合、24時間以内に警察署に届け出ることが義務付けられています。この「異状死」に該当する場合、警察が介入することになります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- かかりつけ医のいない方の自宅での死亡
- 突然死、原因がはっきりしない死亡
- 交通事故、労働災害などの事故による死亡
- 自殺や他殺が疑われる死亡
- 診察していた病気とは異なる原因での死亡
このような状況では、まず警察による「検視」が行われ、事件性の有無が確認されます。
監察医制度がある地域の場合
東京都23区、大阪市、名古屋市、横浜市、神戸市には監察医制度が設けられています。これらの地域で事件性のない異状死(行政解剖の対象となる死)が発見された場合、専門の医師である監察医が検案や解剖を行い、死因を究明します。その際に利用されるのが監察医務院です。
監察医制度がない地域の場合
監察医制度がない地域では、警察が嘱託した地域の医師(警察医)や、大学の法医学教室の医師が検案や解剖を担当します。そのため、「医大に行く」という状況は、このケースに当てはまることが多いです。ご遺体は警察署や大学病院に搬送され、そこで死因の調査が行われます。
検案から死体検案書受け取りまでの流れ
警察が関わる場合、どのような流れで手続きが進むのか、順を追って見ていきましょう。突然のことで動揺されると思いますが、落ち着いて対応することが大切です。
発見から警察への連絡
ご家族が亡くなっているのを発見した場合、まずは救急車(119番)と警察(110番)の両方に連絡してください。救急隊が死亡を確認した後、警察官が到着します。その際、現場の状況はできるだけ変えずに、そのままの状態にしておくことが重要です。
警察による検視
警察官が現場に到着すると、事件性がないかを確認するための「検視」が行われます。ご遺体の状況や部屋の様子などを詳しく調べ、ご家族から事情を聞くこともあります。この検視によって事件の疑いがないと判断されると、次のステップに進みます。
監察医などによる検案
検視の結果、犯罪の可能性が低いと判断されると、監察医や警察医がご遺体の外表面を詳しく調べて死因を特定する「検案」が行われます。通常、ご遺体は警察署や監察医務院などに搬送されてから検案が実施されます。この検案によって死因が特定されれば、死体検案書が作成されます。
行政解剖・司法解剖
検案だけでは死因が特定できない場合、ご遺族の承諾を得た上で「行政解剖」が行われることがあります。これは死因の究明を目的とした解剖です。一方、検視の段階で事件性が疑われる場合には、ご遺族の承諾なしに強制的に行われる「司法解剖」が実施されます。司法解剖は、犯罪捜査の一環として行われます。
死体検案書を受け取るまでにかかる時間と費用
死体検案書が手元に来るまでの時間や、どのくらいの費用がかかるのかは、気になるところだと思います。ここではその目安についてご説明します。
時間の目安
検案だけで済み、特に問題がなければ、半日~1日程度で死体検案書が発行され、ご遺体が戻ってくることが多いです。しかし、行政解剖や司法解剖が行われる場合は、数日から1週間程度の時間がかかることもあります。解剖が終わるまでは、葬儀の日程などを確定させることはできません。
費用の目安
検案や解剖にかかる費用は、公費で賄われる部分と自己負担になる部分があります。一般的な目安は以下の通りです。
| 項目 | 費用の目安 |
| 死体検案書の発行手数料 | 5,000円~10,000円程度 |
| 検案料 | 30,000円~100,000円程度(自治体や状況による) |
| ご遺体の搬送費用 | 警察署からご自宅や斎場までの搬送費用。距離や業者によりますが、数万円程度かかることが多いです。 |
| 行政解剖・司法解剖の費用 | 解剖そのものにかかる費用は、原則として公費負担となり、ご遺族に請求されることはありません。 |
死体検案書を受け取った後の手続き
無事に死体検案書を受け取った後には、速やかに行わなければならない手続きがいくつかあります。主な手続きを順番にご紹介します。
死亡届の提出
まず最初に行うのが、市区町村役場への死亡届の提出です。死体検案書の左半分が死亡届の様式になっていますので、必要事項を記入して提出します。提出期限は、死亡の事実を知った日から7日以内と定められています。通常は葬儀社が代行してくれることが多いです。
火葬許可証の取得
死亡届が受理されると、役場から「火葬許可証」が交付されます。この許可証がないと火葬を行うことができませんので、非常に重要な書類です。紛失しないように大切に保管しましょう。
葬儀の準備
ご遺体が戻り、火葬許可証が手に入ったら、葬儀社と具体的な葬儀の日程や内容について打ち合わせを進めていきます。警察が関わる場合は、ご遺体が戻ってくるタイミングが不確定なため、死体検案書を受け取ってから本格的な準備を始めるのが一般的です。
相続手続き
葬儀が終わった後も、手続きは続きます。銀行口座の解約、不動産の名義変更、生命保険金の請求、相続税申告など、さまざまな相続手続きで故人の死亡を証明する必要があります。その際に死体検案書のコピー(または死亡届記載事項証明書)が必要になりますので、何枚かコピーを取っておくと便利です。
まとめ
ご家族が突然亡くなられ、警察や監察医務院が関わる状況は、誰にとっても非常につらいものです。しかし、死体検案書は、その後の死亡届の提出や相続手続きを進める上で不可欠な書類です。突然の出来事で動揺されると思いますが、まずは警察に連絡し、その後の指示に従って冷静に対応することが大切です。検案や解剖には時間がかかることもありますが、正確な死因を究明するための重要なプロセスです。手続きで分からないことや不安なことがあれば、葬儀社や専門家に相談しながら、一つひとつ進めていきましょう。
参考文献
監察医と死亡診断書(死体検案書)のよくある質問まとめ
Q. 死亡診断書ではなく、死体検案書が必要になるのはどんな時ですか?
A. かかりつけ医がおらず自宅で突然亡くなった場合や、死因が不明な場合、事件性が疑われる場合など、医師による死亡の確認ができない状況で必要となります。
Q. 監察医務院や大学の法医学教室に、遺族が直接行くのですか?
A. いいえ、遺族が直接依頼したり訪問したりするわけではありません。警察が現場の状況から検案が必要と判断した場合に、警察の依頼(嘱託)によって監察医や大学の医師が検案を行います。
Q. 自宅で倒れている家族を発見したら、まず何をすればよいですか?
A. まずは救急(119番)と警察(110番)に連絡してください。その後の手続きは警察の指示に従います。現場の状況をできるだけ変えずに待つことが重要です。
Q. 「死体検案書」は「死亡診断書」の代わりとして使えますか?
A. はい、使えます。死体検案書は、死亡届の提出、火葬許可証の申請、年金や保険の手続きなど、死亡診断書と同様に公的な証明書として効力を持ちます。
Q. 検案や死体検案書の発行にかかる費用は誰が支払いますか?
A. 死体検案書の作成費用や、ご遺体の搬送費用などは、法律に基づき原則としてご遺族(相続人)の負担となります。費用は地域や状況によって異なります。
Q. 死体検案書を受け取った後の流れを教えてください。
A. 死亡診断書と同様に、死体検案書の「死亡届」部分に必要事項を記入し、死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村役場へ提出します。これにより火葬許可証が交付されます。