ご家族が亡くなられた後、さまざまな手続きで必要になるのが「死亡診断書」です。しかし、状況によっては医師が死亡診断書を書いてくれないケースがあることをご存知でしょうか。いざという時に慌てないためにも、その理由と対処法を知っておくことはとても大切です。この記事では、死亡診断書が発行されないケースや、代わりになる書類、手続きの流れについて、わかりやすく解説していきます。
死亡診断書とは?なぜ必要なの?
まずはじめに、死亡診断書がどのような書類で、なぜ手続きに不可欠なのかを理解しておきましょう。この書類がなければ、故人様を見送るための手続きや相続手続きを進めることができません。
死亡診断書の役割と提出先
死亡診断書は、医師が人の死亡を医学的・法律的に証明するために作成する公的な書類です。この一枚があることで、人が亡くなったという事実が公式に認められます。
主に、以下のような手続きで必要となります。
- 死亡届の提出:市区町村役場へ提出し、火葬(埋葬)許可証を受け取るために必須です。
- 年金や保険の手続き:年金の受給停止や死亡保険金の請求などに使用します。
- 相続手続き:預貯金の解約、不動産の名義変更、相続税の申告など、故人の財産を引き継ぐ際に死亡の事実を証明するために必要です。
このように、故人様に関するほぼすべての公的な手続きのスタート地点となる、非常に重要な書類なのです。
死亡診断書と死体検案書の違い
死亡診断書とよく似た書類に「死体検案書」があります。これらは書式が一体化していることがほとんどですが、発行される状況が異なります。法的な効力は全く同じです。
| 書類名 | 発行される状況 |
|---|---|
| 死亡診断書 | 医師が継続的に診療していた傷病が原因で亡くなった場合に発行されます。 |
| 死体検案書 | 診療中の傷病以外(突然死、事故死、自殺、孤独死など)で亡くなった場合に、警察による検視の後、医師が死因を特定するために検案を行い発行されます。 |
どちらの書類が発行されるかによって、その後のご家族の対応が少し変わってきます。
医師が死亡診断書を書いてくれない3つのケース
通常、病院で亡くなれば担当医が死亡診断書を書いてくれます。しかし、ご自宅で亡くなられた場合など、状況によっては発行してもらえないことがあります。主な理由は以下の3つです。
24時間以内に診察していない場合
医師法第20条では、「自ら診察しないで診断書を交付してはならない」と定められています。そのため、医師が最後に診察してから24時間以上が経過している場合、原則としてすぐに死亡診断書を書くことはできません。
ただし、明らかに最後の診察時から診療していた傷病が原因で亡くなったと判断できる場合に限り、医師が改めてご遺体を診察(死後診察)することで、死亡診断書を発行できることがあります。
死因が不明または異常死の場合
かかりつけの病気とは異なる原因で亡くなった可能性がある場合や、事件性(事故、自殺、他殺)が疑われる「異状死」と医師が判断した場合は、死亡診断書は発行されません。
この場合、医師には警察への通報義務(医師法第21条)があります。その後は警察の指示に従い、検視や検案が行われ、最終的に「死体検案書」が発行される流れになります。
担当医が不在の場合
かかりつけ医が長期休暇や出張、退職などで不在というケースも考えられます。その場合、同じ医療機関の別の医師がカルテなどを引き継いで対応してくれることもありますが、状況によってはすぐに対応が難しいこともあります。事前にかかりつけ医の休診情報などを確認しておくと安心です。
死亡診断書がもらえない時の対処法
万が一、死亡診断書をすぐに発行してもらえない状況になった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。落ち着いて行動することが大切です。
死後診察を依頼する
ご自宅などで亡くなり、最後の診察から24時間以上が経過している場合は、まずかかりつけ医に連絡を取りましょう。事情を説明し、ご自宅や施設などに来てもらい「死後診察」をしてもらいます。そこで生前の病気が原因での死亡と判断されれば、死亡診断書を発行してもらえます。
警察に連絡する
ご自宅で倒れているのを発見した場合や、死因に少しでも不審な点があると感じた場合は、救急車や医師の前に、まず警察(110番)に連絡してください。ご遺体を動かしたりせず、現場の状況を保全することが重要です。警察が現場検証や検視を行い、その後、監察医や警察医によって「死体検案書」が作成されます。
別の医師や病院に相談する
かかりつけ医と連絡が取れない、または対応を断られてしまったという場合は、地域の医師会や近隣の病院に相談する方法もあります。ただし、故人の生前の状況がわからないため、対応は困難な場合が多いです。基本的には「死後診察を依頼する」か「警察に連絡する」のどちらかになると考えておきましょう。
死亡診断書の代わりになる書類とは?
死亡診断書(または死体検案書)の原本は、死亡届と一緒に役所に提出するため、手元には残りません。その後の手続きでは、代わりとなる別の公的書類が必要になります。
死体検案書
前述のとおり、死体検案書は死亡診断書と法的に全く同じ効力を持つ書類です。警察が介入するケースでは、この死体検案書が死亡を証明する最初の書類となります。手続き上の扱いは死亡診断書と変わりありません。
死亡届記載事項証明書
「死亡届記載事項証明書」とは、市区町村役場に提出した死亡届の内容を証明する書類です。死亡診断書(死体検案書)の記載内容も転記されています。主に、簡易保険や遺族年金の手続きなどで、死亡診断書のコピーの代わりとして提出を求められることがあります。必要な場合は、死亡届を提出した市区町村役場で申請します。
戸籍(除籍)謄本
死亡届が受理されると、故人の戸籍は「除籍」という扱いになります。この死亡の事実が記載された「戸籍(除籍)謄本」は、死亡を公的に証明する最も一般的な書類です。不動産の名義変更や預貯金の相続手続きなど、多くの相続手続きで提出が求められます。
書類発行にかかる費用と注意点
各種書類の発行には費用がかかります。また、手続きをスムーズに進めるための注意点もありますので、確認しておきましょう。
各書類の発行費用目安
発行にかかる費用は、医療機関や自治体によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 書類名 | 発行費用の目安 |
|---|---|
| 死亡診断書 | 3,000円 ~ 10,000円程度(公的医療保険適用外) |
| 死体検案書 | 30,000円 ~ 100,000円程度(解剖の有無等による) |
| 死亡届記載事項証明書 | 1通 350円程度 |
| 戸籍(除籍)謄本 | 1通 750円 |
死亡診断書(死体検案書)のコピーを忘れずに!
最も重要な注意点です。死亡診断書(死体検案書)の原本は、死亡届と共に役所に提出すると返却されません。しかし、その後の生命保険の請求や各種手続きでコピーの提出を求められることが非常に多いです。
そのため、役所に提出する前に、必ずコンビニなどで10枚ほどコピーを取っておきましょう。これを忘れると、後から「死亡届記載事項証明書」などを取得する手間と費用がかかってしまいます。
まとめ
ご家族の死という大変な状況の中で、死亡診断書がもらえないとなると、さらに不安が募ることと思います。しかし、理由と対処法を知っておけば、落ち着いて対応できます。
今回のポイントをまとめます。
- 医師が死亡診断書を書いてくれない主な理由は「24時間以内の診察がない」「死因が不明・異状死」などです。
- 対処法は、状況に応じて「かかりつけ医に死後診察を依頼する」か「警察に連絡する」のどちらかになります。
- 死因が不明な場合は「死体検案書」が発行され、法的な効力は死亡診断書と同じです。
- 役所へ提出後は「死亡届記載事項証明書」や「戸籍(除籍)謄本」が死亡を証明する書類となります。
- 原本を役所に提出する前に、必ず複数枚コピーを取っておくことが手続きをスムーズに進める鍵です。
突然のことで判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、葬儀社や相続の専門家などに相談することも検討してください。適切なアドバイスをもらうことで、心の負担を少しでも軽くすることができるはずです。
参考文献
死亡診断書・死体検案書のよくある質問まとめ
Q.医師が死亡診断書を書いてくれないのは、どのような場合ですか?
A.医師が診察しておらず、死亡の原因が不明な場合や、事件性が疑われる場合などです。例えば、突然死や孤独死、事故死のケースでは、すぐに死亡診断書は発行されません。
Q.死亡診断書の代わりに発行される書類は何ですか?
A.「死体検案書」が発行されます。これは、警察の検視の後に医師が死体を検案し、死亡日時や死因などを記載する書類です。法的な効力は死亡診断書と同じです。
Q.死亡診断書と死体検案書の違いは何ですか?
A.死亡診断書は、生前から診察していた傷病で亡くなった場合に、担当医師が作成します。一方、死体検案書は、それ以外の原因(突然死、事故死、自殺など)で亡くなった場合に、検案した医師が作成するものです。
Q.行方不明や災害で遺体が見つからない場合、死亡届はどうすればよいですか?
A.このような場合、死亡診断書や死体検案書は発行されません。代わりに、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てるか、大規模な災害などの場合は「死亡認定」という手続きを経て、死亡届を提出することになります。
Q.失踪宣告とはどのような手続きですか?
A.失踪宣告は、行方不明者の生死が7年間(普通失踪)または戦争や災害などの危難が去ってから1年間(危難失踪)明らかでない場合に、家庭裁判所が法律上死亡したものとみなす制度です。これにより、死亡届の提出や相続手続きが可能になります。
Q.死亡診断書や死体検案書がないと、葬儀や火葬はできないのですか?
A.はい、できません。市区町村役場に死亡届を提出する際に、死亡診断書または死体検案書を添付する必要があります。役場から「死体火葬許可証」が交付されて、初めて火葬が可能になります。