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法人税・所得税・相続税で違う!未収・前受家賃の計上時期と根拠を解説

2025-04-15
目次

不動産賃貸経営をしていると、家賃の入金が遅れてしまう「未収家賃」や、翌月分などを前もって受け取る「前受家賃」が発生することがありますよね。この未収家賃や前受家賃、実は法人税所得税相続税で考え方が少しずつ違うんです。「いつの収入として計上すればいいの?」「相続のとき、財産になるの?」など、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。この記事では、それぞれの税金における未収家賃・前受家賃の考え方の違いと、その根拠を分かりやすく解説していきますね。

税金ごとに違う!未収家賃・前受家賃の基本的な考え方

なぜ、法人税・所得税と相続税で家賃の扱いが異なるのでしょうか。それは、それぞれの税金が計算される目的が違うからです。

法人税や所得税は、1年間(事業年度)でどれだけ儲けが出たかを計算するための税金です。そのため、「いつの収入(または費用)として計上すべきか」という「期間」の考え方がとても重要になります。

一方、相続税は、亡くなった方の財産を相続人が引き継ぐ際に課される税金です。こちらは「亡くなったその日(相続開始日)に、どれだけの財産や借金があったか」を評価します。つまり、「時点」での財産を評価するという点が大きな違いです。この目的の違いが、未収家賃や前受家賃の扱いの違いにつながっているんですよ。

所得税・法人税における未収家賃・前受家賃

個人の不動産所得にかかる「所得税」と、法人が得る不動産収入にかかる「法人税」。この2つは、年間の儲け(所得)に対して課税されるという点で共通しているため、未収家賃や前受家賃の基本的な考え方もほぼ同じです。

原則は「権利確定主義」!収入計上のタイミング

所得税や法人税では、収入を計上するタイミングとして「権利確定主義」という考え方を採用しています。これは、実際にお金を受け取ったとき(現金主義)ではなく、「その収入を受け取る権利が確定したとき」に収入として認識するというルールです。

家賃収入の場合、この「権利が確定したとき」とは、賃貸借契約書に定められた「支払日」を指します。例えば、契約書に「当月分の家賃は、当月末日までに支払うこと」と記載されていれば、その月末日が来た時点で、たとえ入居者からの入金がなくても収入として計上する必要があるんです。

この考え方が、未収家賃や前受家賃の取り扱いを理解する上でとても大切なポイントになります。

未収家賃の取り扱い

未収家賃とは、契約で定められた支払日が過ぎているにもかかわらず、まだ受け取っていない家賃のことです。権利確定主義の考え方に基づけば、支払日が到来した時点で収入を受け取る権利は確定しています。したがって、実際に入金がなくても、その事業年度(またはその年)の収入として計上しなければなりません。

計上タイミング 賃貸借契約書で定められた支払日が到来した事業年度・年分
会計処理(例) 帳簿上、「売掛金」や「未収家賃」といった資産の勘定科目で処理します。

例えば、12月決算の法人が、12月分の家賃(支払期日:12月31日)を年内に受け取れなかったとしても、その12月分の家賃は、その事業年度の売上(収入)として計上する必要があります。申告漏れにならないように注意が必要ですね。

前受家賃の取り扱い

前受家賃は、契約上の支払日よりも前に受け取った家賃のことです。例えば、3月分の家賃(支払期日:3月末日)を2月に受け取ったようなケースです。

税務上の原則では、たとえ先に入金があっても、収入として計上するのはあくまで契約上の「支払日」が属する事業年度(または年)となります。つまり、上記の例では、2月に受け取っても3月分の収入として計上するのが原則です。

ただし、税務の実務上は、賃貸借契約書で「翌月分の家賃を当月末に支払う」と定められている場合、その支払日が到来した当月の収入として計上します。例えば、4月分の家賃の支払日が3月31日と定められていれば、3月31日の時点で権利が確定するため、3月の収入として計上することになります。

計上タイミング 契約上の支払日が到来した事業年度・年分
会計処理(例) 支払日より前に受け取ったお金は、一度「前受金」などの負債勘定で処理し、支払日が来たら収益(売上)に振り替えます。

回収不能な未収家賃はどうなる?(貸倒損失)

収入として計上したものの、入居者の夜逃げや自己破産などで、どうしても家賃を回収できなくなってしまうこともありますよね。このような回収不能となった未収家賃は、「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」として経費(損金)に計上することが可能です。

ただし、貸倒損失として認められるためには、単に「連絡が取れない」というだけでは不十分で、内容証明郵便で督促しても反応がない、裁判所の支払督促手続きを経ても回収できないなど、客観的に回収不能であることが証明できる状況が必要です。税務署に認めてもらうための要件は厳しいので、覚えておきましょう。

相続税における未収家賃・前受家賃

次に、相続税での考え方を見ていきましょう。相続税は、被相続人(亡くなった方)が亡くなった日(相続開始日)の時点で所有していた財産や債務をすべて評価して計算します。ここでのキーワードは「相続開始日時点」です。

未収家賃はプラスの相続財産

相続開始日時点で、すでに支払期日が到来しているにもかかわらず受け取れていない家賃、つまり未収家賃は、被相続人が持っていた「お金を受け取る権利(債権)」と考えられます。そのため、これは預貯金や不動産と同じように、プラスの相続財産として課税対象になります。

例えば、被相続人が10月16日に亡くなったとします。賃貸借契約が「9月分の家賃を9月30日に支払う」という内容だった場合、9月30日に支払期日が到来しています。もしこの9月分家賃が10月16日時点で未入金であれば、それは未収家賃として相続財産に含めなければなりません。

一方で、10月1日から亡くなった10月16日までの日割り家賃はどうでしょうか?この分の家賃の支払期日はまだ来ていませんよね。そのため、この期間の家賃は相続財産には含まれません。日割り計算は不要ということです。

前受家賃は債務控除の対象外?

ここが所得税や法人税と大きく違う点で、注意が必要なポイントです。相続開始日よりも「後」の期間に対応する家賃を前もって受け取っていた場合、この前受家賃は、原則として相続税の計算上、借金などと同じように財産から差し引ける「債務控除」の対象にはなりません。

「え、前もってもらったお金は負債じゃないの?」と思うかもしれません。しかし、相続が発生しても賃貸借契約は相続人に引き継がれます。入居者はそのまま住み続けるわけですから、大家の立場を引き継いだ相続人は、その前受家賃を入居者に返す必要がありません。税務上、「亡くなった時点で確実に返さなければならない債務」とは認められないため、債務控除の対象外となるのです。

回収不能な未収家賃の評価

未収家賃が相続財産になるとしても、その回収が難しいケースもありますよね。例えば、入居者が何ヶ月も家賃を滞納し、行方不明になっているような場合です。このような回収が著しく困難な未収家賃については、その全額を財産として評価するのではなく、回収可能性を考慮して評価額を減額することができます。

弁護士に依頼しても回収が絶望的であるなど、客観的な証拠に基づいて全く回収できないと判断される場合には、評価額を0円として申告することも可能です。ただし、なぜ回収不能なのかを税務署に説明できる準備は必要になります。

3つの税金の考え方の違いまとめ

これまでの内容を、税金の種類ごとに表で比較してみましょう。

税金の種類 未収家賃の考え方 前受家賃の考え方
法人税・所得税 権利確定主義に基づき、支払日が到来した期の収入として計上する。 支払日が到来していない分は、原則として収入計上しない(前受金として処理)。支払日が到来した期に収入となる。
相続税 相続開始日時点で支払期日が到来しているものは、プラスの財産(債権)として評価する。 相続人が契約を引き継ぐため、原則として債務控除の対象外となる。

具体例で見てみよう!ケーススタディ

もう少し具体的に、個人でアパート経営をしていた大家さんが亡くなった場合の例を見てみましょう。

  • 大家さん:個人事業主
  • 死亡日:10月16日
  • 家賃:月10万円

ケース1:後払い契約の場合(当月分を当月末払い)

この契約では、9月分の家賃は9月30日が支払日、10月分の家賃は10月31日が支払日です。

  • 準確定申告(所得税):亡くなった年の1月1日から10月16日までの所得を計算します。9月分の家賃までは、支払日が到来しているので収入に計上します。10月分の家賃は支払日(10月31日)がまだ来ていないため、たとえ10月16日まで住んでいたとしても、その期間の収入として計上する必要はありません。
  • 相続税:もし9月分の家賃が10月16日時点で未入金であれば、その10万円は相続財産になります。10月分の家賃は支払日が到来していないので、相続財産にはなりません。

ケース2:前払い契約の場合(翌月分を当月末払い)

この契約では、10月分の家賃は9月30日が支払日、11月分の家賃は10月31日が支払日です。

  • 準確定申告(所得税):10月分の家賃は支払日(9月30日)が到来しているので収入に計上します。11月分の家賃は支払日(10月31日)が来ていないので収入には計上しません。
  • 相続税:もし10月分の家賃が10月16日時点で未入金であれば、その10万円は相続財産になります。また、もし9月30日に10月分の家賃10万円をすでに受け取っていた場合、これは前受家賃となりますが、前述のとおり原則として債務控除の対象にはなりません

まとめ

いかがでしたでしょうか。未収家賃・前受家賃の税務上の扱いは、法人税・所得税では「いつの収入になるか(権利確定主義)」という期間の視点で、相続税では「亡くなった時点で財産や債務にあたるか」という時点の視点で考えるのがポイントです。

この違いを理解しておくことは、不動産オーナーご自身の確定申告はもちろん、将来ご家族が相続手続きをする際にも、申告漏れを防ぎ、適切な納税をするために非常に重要です。もし判断に迷うことがあれば、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

未収家賃・前受家賃の税務上の取り扱いに関するよくある質問まとめ

Q.所得税・法人税で、まだ入金されていない「未収家賃」はいつ売上に計上すればいいですか?

A.所得税・法人税では「権利確定主義」に基づき、入金の有無にかかわらず、賃貸契約で定められた家賃の支払日が到来した時点で売上(収益)として計上します。例えば、12月分の家賃が翌年1月に入金された場合でも、12月分の売上として計上する必要があります。

Q.来年分の家賃を今年中に受け取った「前受家賃」は、いつの売上になりますか?

A.所得税・法人税では、まだ提供していないサービスに対する対価のため、受け取った時点では売上になりません。決算時には「前受収益」として負債に計上し、翌期にサービスの提供(期間の経過)に応じて売上に振り替えます。

Q.相続が発生したとき、被相続人(亡くなった方)の「未収家賃」は相続税の対象になりますか?

A.はい、相続税の対象になります。被相続人が受け取る権利があった未収家賃は「債権」として相続財産に含まれます。相続開始日(亡くなった日)時点での未収家賃の総額を評価して、相続財産に加算します。

Q.相続税の計算上、「前受家賃」はどのように扱われますか?

A.相続開始日時点で被相続人が受け取っていた前受家賃は、まだ役務提供が完了していないため「債務」として扱われます。相続財産の総額からマイナス(控除)することができます。

Q.未収家賃が長期間回収できない場合、税務上の扱いはどうなりますか?

A.回収不能が明らかになった時点で「貸倒損失」として経費(損金)に計上できます。ただし、単なる滞納だけでは認められず、法的手続きや相手方の支払い能力がないなど、客観的に回収不能と判断できる事実が必要です。

Q.所得税と法人税で、未収家賃や前受家賃の基本的な考え方に違いはありますか?

A.基本的な考え方である「権利確定主義」は、所得税(不動産所得など)と法人税で共通しています。どちらも入金の有無ではなく、家賃を受け取る権利が確定した時点(通常は支払期日)で収益を認識し、役務提供が未了の対価は前受収益として処理します。

事務所概要
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税理士法人プライムパートナーズ
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