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法定相続割合でも遺産分割協議書は必要?作成すべきケースを解説

2025-03-24
目次

相続が発生し、相続人みんなで「法律で決まっている割合(法定相続割合)で分けよう」と話がまとまることはよくありますよね。この場合、「わざわざ遺産分割協議書を作る必要はないのでは?」と考える方も多いのではないでしょうか。実は、法定相続割合で分ける場合でも、遺産分割協議書を作成した方が良いケースがたくさんあるんです。この記事では、法定相続割合で相続する際の遺産分割協議書の必要性について、わかりやすく解説していきます。

法定相続割合での相続と遺産分割協議書

そもそも「法定相続割合」とは何か、そして遺産分割協議書がどのような役割を持つのかを理解することが大切です。法律で定められた分け方と、相続人全員の合意を示す書類の関係について見ていきましょう。

法定相続割合とは?

法定相続割合とは、民法で定められている相続人が遺産を相続する際の基本的な割合のことです。誰が相続人になるかによって、その割合は決まっています。例えば、配偶者と子供2人が相続人の場合、配偶者が1/2、子供がそれぞれ1/4ずつとなります。この割合通りに遺産を分けるのであれば、原則として相続人同士の話し合い(遺産分割協議)は不要とされています。

相続人の組み合わせ 法定相続割合
配偶者と子 配偶者:1/2、子:1/2 (子が複数いる場合は均等に分ける)
配偶者と直系尊属(父母など) 配偶者:2/3、直系尊属:1/3 (父母ともにいる場合は均等に分ける)
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4 (兄弟姉妹が複数いる場合は均等に分ける)

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書は、相続人全員が「どのように遺産を分けるか」を話し合って合意した内容を記録した公的な証明書です。この書類には、誰がどの財産をどれだけ相続するかが具体的に記載され、相続人全員が署名し、実印を押します。通常は法定相続割合と異なる分け方をする場合に作成されますが、法定相続割合で分ける場合でも、その合意を明確にするために作成することがあります。

法定相続割合なら遺産分割協議書は「原則」不要

法律上、法定相続割合で遺産を分ける場合、遺産分割協議書の作成は必須ではありません。 例えば、預貯金3,000万円を相続人である子供3人が1,000万円ずつ分ける、といったケースでは、遺産分割協議書がなくても金融機関が手続きに応じてくれることもあります。しかし、「原則」不要というだけで、実際の手続きでは作成した方がスムーズに進むことが多いのが実情です。

法定相続割合でも遺産分割協議書を作成すべき理由

「原則不要なら作らなくてもいいのでは?」と思うかもしれませんが、後々のトラブルを防ぎ、手続きを円滑に進めるために、作成をおすすめする理由がいくつかあります。具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。

相続人全員の合意を証明するため

最も大きな理由は、「相続人全員が法定相続割合で分けることに納得しました」という証拠を残すためです。口約束だけでは、後になって「そんな話は聞いていない」「やっぱり分け方を変えたい」といったトラブルに発展する可能性があります。遺産分割協議書に全員が署名・押印することで、合意内容が明確になり、後日の紛争を防ぐことができます。

金融機関などの相続手続きをスムーズに進めるため

金融機関によっては、預貯金の解約や名義変更の際に、たとえ法定相続割合であっても遺産分割協議書の提出を求められることがあります。遺産分割協議書がない場合、金融機関所定の書類に相続人全員が署名・押印する必要があり、相続人が遠方に住んでいる場合などは手続きが煩雑になりがちです。遺産分割協議書を一部作成しておけば、代表者が手続きを進めやすくなり、時間と手間を大幅に削減できます。

相続税の特例を利用するために必要になる

相続税の申告が必要な場合、「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」といった節税効果の大きい特例を利用するには、遺産分割協議書の提出が必須となります。これらの特例は、誰がどの財産を相続したかが確定していることが前提となるためです。法定相続割合で分ける場合でも、これらの特例を適用して相続税を抑えたいのであれば、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。

遺産分割協議書が不要なケースとは?

一方で、遺産分割協議書の作成が完全に不要となるケースも存在します。どのような状況であれば作成しなくても問題ないのか、具体的な例を確認しておきましょう。

相続人が1人しかいない場合

相続人が1人しかいない場合は、そもそも遺産を分ける相手が存在しないため、遺産分割協議を行う必要がありません。したがって、遺産分割協議書の作成も不要です。すべての遺産をその唯一の相続人が相続することになります。

遺言書ですべての遺産の分け方が指定されている場合

故人が作成した遺言書で、すべての遺産の相続先が具体的に指定されている場合も、遺産分割協議は不要です。相続人全員が遺言書の内容に合意していれば、その内容に従って手続きを進めるため、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

【要注意】不動産を法定相続割合で相続するリスク

遺産の中に不動産が含まれている場合、安易に法定相続割合で相続するのは注意が必要です。法定相続割合で不動産を相続するということは、相続人全員の「共有名義」にすることを意味します。これには大きなリスクが伴います。

売却や活用に全員の同意が必要になる

共有名義の不動産を売却したり、賃貸に出したり、大規模なリフォームをしたりするには、共有者全員の同意が必要になります。一人でも反対する人がいると、何もできなくなってしまうのです。将来、相続人の誰かが認知症になって判断能力が低下した場合も、手続きが非常に困難になります。

権利関係が複雑化する

共有者の一人が亡くなると、その人の持分はさらにその相続人へと引き継がれます(これを数次相続といいます)。世代を重ねるごとに共有者が雪だるま式に増えていき、面識のない親戚まで権利者に加わることも珍しくありません。こうなると、話し合いをまとめることはほぼ不可能になってしまいます。

不動産を共有するデメリット 具体的なリスク
意思決定の困難さ 売却、賃貸、大規模修繕などに共有者全員の合意が必要。
権利関係の複雑化 共有者の死亡により、会ったこともない人が新たな共有者になる可能性がある。
管理・費用の問題 固定資産税や管理費の負担割合でトラブルになることがある。

このようなリスクを避けるため、不動産については法定相続割合での共有は避け、遺産分割協議を行って特定の誰か一人が相続する(単独所有)ことを強くお勧めします。

遺産分割協議書を作成しないデメリット

法定相続割合で分けるからといって遺産分割協議書を作成しない場合、どのようなデメリットがあるのでしょうか。改めて整理してみましょう。

後日のトラブル発生リスク

最大のデメリットは、やはり相続トラブルのリスクです。「言った、言わない」の水掛け論になり、一度は納得したはずの相続人から不満が出てくる可能性があります。書面という客観的な証拠がないため、問題を解決するのが難しくなります。

相続手続きの遅延

不動産の相続登記(名義変更)や預貯金の解約手続きで、法務局や金融機関から遺産分割協議書の提出を求められた場合、そこから作成を始めなければなりません。相続人全員から改めて署名・押印をもらうのに時間がかかり、手続き全体が大幅に遅れてしまう可能性があります。

相続税の申告で不利益を被る可能性

相続税申告の期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割協議がまとまらない場合、一旦法定相続割合で申告・納税することになります。この場合、前述の「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」が適用できず、本来よりも高い税金を一時的に納めなければならなくなります。後から分割が確定すれば還付請求(更正の請求)も可能ですが、手続きが煩雑になり、一時的な資金負担も大きくなります。

まとめ

ここまで見てきたように、法定相続割合で遺産を分ける場合でも、遺産分割協議書を作成するメリットは非常に大きいです。特に、遺産に不動産が含まれる場合や、相続税申告が必要な場合は、作成が不可欠と言えるでしょう。 確かに、相続人全員から署名と実印をもらうのは手間がかかるかもしれません。しかし、その一手間をかけることで、将来起こりうる大きなトラブルを防ぎ、すべての相続手続きをスムーズに進めることができます。「うちは揉めないから大丈夫」と思わず、将来の安心のために、合意内容を書面に残しておくことを強くお勧めします。もし作成方法に不安がある場合は、司法書士などの専門家に相談してみましょう。

参考文献

No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁

法定相続情報証明制度の具体的な手続について|法務局

相続登記の申請をされる相続人の方へ|法務局

法定相続と遺産分割協議書に関するよくある質問まとめ

Q.法定相続分通りに遺産を分ける場合、遺産分割協議書は必要ないのでしょうか?

A.原則として不要ですが、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きで提出を求められるケースが多いため、作成しておくのが一般的です。後々の相続トラブルを防ぐためにも作成をおすすめします。

Q.法定相続割合で相続する場合、具体的にどのような手続きで遺産分割協議書が必要になりますか?

A.主に不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、株式や自動車の名義変更などの手続きで必要となります。金融機関や法務局によっては、法定相続分であっても相続人全員の同意を示す書類として要求されることがあります。

Q.法定相続分で分けるからといって遺産分割協議書を作成しない場合、どのようなデメリットがありますか?

A.各相続手続きがスムーズに進まない可能性があります。また、後から相続人間の認識の齟齬によるトラブルに発展するリスクや、相続人の一人が協力的でなくなった場合に手続きが滞るリスクがあります。

Q.法定相続分通りに分けるのに、あえて遺産分割協議書を作成するメリットは何ですか?

A.相続人全員が遺産の分け方に合意したことを明確な書面として残せるため、後々の紛争を予防できる点が最大のメリットです。また、各種相続手続きを円滑に進めることができます。

Q.法定相続割合で相続する場合、遺産分割協議書が完全に不要なケースはありますか?

A.相続人が一人しかいない場合や、遺言書で全ての遺産の分け方が指定されている場合は、遺産分割協議自体が不要なため遺産分割協議書も必要ありません。また、名義変更手続きが不要な財産しかない場合も作成しないことがあります。

Q.法定相続分で分ける場合の遺産分割協議書はどのように作成すればよいですか?

A.「誰が」「どの遺産を」「法定相続分である〇分の〇の割合で取得する」という内容を明確に記載します。そして、相続人全員が署名し、実印で押印のうえ、印鑑証明書を添付するのが一般的です。

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