相続手続きを進める上で、とても便利な「法定相続情報一覧図」。でも、「不動産登記(相続登記)をするときじゃないと作れないのでは?」と誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。実は、そんなことはないんですよ。この記事では、法定相続情報一覧図をいつ作成できるのか、そしてどのタイミングで作成するのが一番効率的なのかを、わかりやすく解説していきますね。
法定相続情報一覧図ってそもそも何?
「法定相続情報一覧図」と聞いても、あまり馴染みがないかもしれませんね。これは、たくさんの相続手続きをぐっと楽にしてくれる、とても便利な書類なんです。まずは、どんなものなのか簡単にご紹介します。
一枚で相続関係がわかる便利な証明書
法定相続情報一覧図とは、亡くなられた方(被相続人)と、その方の財産を相続する権利のある人(相続人)との関係を、家系図のように一枚の紙にまとめたものです。これを法務局に提出して内容を確認してもらうと、登記官という担当者が「この内容は戸籍の内容と合っていますよ」というお墨付き(認証)をしてくれます。このお墨付きをもらった一覧図の写しがあれば、相続手続きのたびに、出生から死亡までの戸籍謄本といった書類の束を提出する必要がなくなるんです。
どんな手続きで使えるの?
この一覧図の写しは、不動産の名義変更(相続登記)だけでなく、さまざまな相続手続きで戸籍謄本の束の代わりとして利用できます。手続き先が複数ある場合に特に便利ですよ。
| 手続きの種類 | 主な提出先 |
|---|---|
| 不動産の名義変更(相続登記) | 法務局 |
| 預貯金の解約・名義変更 | 銀行、信用金庫、JAなど |
| 株式など有価証券の名義変更 | 証券会社 |
| 相続税の申告 | 税務署 |
| 自動車の名義変更 | 運輸支局 |
| 年金の手続き | 年金事務所 |
法定相続情報一覧図はいつ作成できるの?
それでは、この記事の本題です。「法定相続情報一覧図は、不動産登記のタイミングでしか作成できないのか?」という疑問にお答えします。相続財産に不動産があるかないか、相続登記をするかしないかに関わらず、作成できるんですよ。
結論:不動産登記のタイミングでなくても作成できます!
法定相続情報一覧図は、不動産登記(相続登記)の手続きとは関係なく、単独で作成を申し出ることができます。大切なポイントは、「相続が開始した後」であることです。つまり、被相続人の方が亡くなられた後であれば、相続人の方がいつでも法務局に申し出て作成することができます。逆に、ご本人が亡くなる前(生前)に作成することはできませんので、その点は注意してくださいね。
不動産がなくても作成できる?
はい、相続財産に不動産が含まれていなくても、法定相続情報一覧図は作成できます。例えば、「実家は賃貸で不動産はないけれど、複数の銀行に預金がある」といったケースでも、預貯金の解約手続きをスムーズに進めるために作成すると、とても便利です。不動産の有無は、一覧図を作成するための条件ではありません。
おすすめの作成タイミングは?
法定相続情報一覧図を作成するのにおすすめのタイミングは、「相続手続きを始めよう」と決めた最初の段階です。
まず、亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍謄本などを集めますが、この書類収集はどちらにしても必要な作業です。戸籍が集まったら、すぐに法定相続情報一覧図の申出をしてしまいましょう。
そうすることで、例えば不動産の名義変更(法務局)、A銀行での預金解約、B証券会社での株式名義変更といった複数の手続きを、一覧図の写しを使って同時並行で進めることができます。もし相続登記も予定しているなら、登記申請と同時に一覧図の申出をすると、法務局へ行くのが一度で済むので効率的ですよ。
法定相続情報一覧図を作成するメリットとデメリット
便利な制度ですが、もちろんメリットだけでなく、少し手間がかかるという側面もあります。ご自身の状況に合わせて、作成するかどうかを判断するための参考にしてくださいね。
メリット:手続きの時間と手間を大幅にカット!
一番のメリットは、やはり手続きの効率化です。
- 戸籍謄本の束が不要に:これまで何通もあった戸籍謄本の束を、手続きのたびに持ち歩く必要がなくなります。
- 手続きを同時進行できる:一覧図の写しは無料で必要な枚数を発行してもらえるので、銀行や法務局など、複数の手続きを同時に進められます。戸籍の束が返ってくるのを待つ必要がありません。
- 無料で再交付可能:一度申し出をすれば、法務局で5年間は無料で写しを再交付してもらえます。後から追加で手続きが必要になったときも安心です。
デメリット:作成に少し手間がかかる
一方で、こんなデメリットもあります。
- 最初の戸籍収集は必要:一覧図を作るためには、結局、一度は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などをすべて集める必要があります。
- 一覧図の作成と申出の手間:集めた戸籍をもとに一覧図を作成し、申出書を書いて法務局へ提出するという作業が発生します。
- 交付までに時間がかかる:法務局に申し出てから、一覧図の写しが交付されるまで、通常1週間から2週間程度かかります。
- メリットが少ない場合も:相続手続きをする先が1か所しかない場合などは、戸籍の束をそのまま提出した方が早いこともあります。
法定相続情報一覧図の作り方(申出の流れ)
「自分でも作れるの?」と不安に思うかもしれませんが、手順を踏めばご自身で作成することも十分可能です。ここでは、大まかな流れをご紹介します。
STEP1: 必要書類を集める
まずは、申出に必要な書類を市区町村役場などで集めます。これが一番大変な作業かもしれません。
- 被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本等:出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本が必要です。
- 被相続人の住民票の除票:最後の住所地を証明する書類です。
- 相続人全員の戸籍謄本または抄本:現在の戸籍です。
- 申出人(手続きをする相続人)の本人確認書類:運転免許証のコピーや住民票の写しなどです。
STEP2: 一覧図を作成する
集めた戸籍謄本などの情報をもとに、法定相続情報一覧図を作成します。法務局のホームページに様式(テンプレート)や記載例があるので、参考にしながら作成しましょう。手書きでも、パソコンで作成しても大丈夫です。A4の白い紙に、誰が見てもわかるように丁寧にかくのがポイントです。
STEP3: 法務局に申出をする
「申出書」に必要事項を記入し、STEP1で集めた書類とSTEP2で作成した一覧図をセットにして、管轄の法務局に提出します。提出できる法務局は、以下の場所から選べます。
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
窓口に直接持っていくほか、郵送での提出も可能です。
費用はどのくらいかかるの?
手続きにかかる費用も気になりますよね。一覧図そのものの発行手数料は無料ですが、準備段階で費用がかかります。
交付手数料は無料!でも…
法務局で法定相続情報一覧図の写しを交付してもらう際の手数料は無料です。何通発行してもらっても費用はかかりません。
ただし、申出の際に必要となる戸籍謄本(1通450円)や除籍謄本・改製原戸籍謄本(1通750円)、住民票(1通300円前後)などを取得するための実費は別途必要になります。相続関係によっては、集める戸籍の数が多くなり、合計で数千円から1万円以上かかることもあります。
専門家に依頼した場合の費用
戸籍の収集から一覧図の作成、法務局への申出までを司法書士などの専門家に依頼することもできます。その場合の報酬は、依頼する内容にもよりますが、おおよそ3万円から10万円程度が目安です。不動産の相続登記など、他の手続きとセットで依頼すると割安になることもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。法定相続情報一覧図について、作成のタイミングを中心に解説しました。最後にポイントをまとめますね。
- 法定相続情報一覧図は、不動産登記のタイミングとは関係なく、相続が開始した後ならいつでも作成できます。
- 不動産がなくても、預貯金などの相続手続きのために作成することが可能です。
- 相続手続きを始める最初の段階で作成すると、その後の手続きがスムーズに進むのでおすすめです。
- 作成には戸籍収集などの手間がかかりますが、相続手続き先が複数ある場合には、時間と労力を大幅に節約できる大きなメリットがあります。
ご自身の相続手続きの内容を考えて、この便利な制度を上手に活用するかどうか検討してみてくださいね。
参考文献
法定相続情報一覧図の作成タイミングに関するよくある質問
Q.法定相続情報一覧図は、不動産登記のときにしか作れないのですか?
A.いいえ、不動産登記のタイミングでなくても作成できます。相続が発生した後であれば、必要な戸籍謄本等を収集し、いつでも法務局に申し出て作成することが可能です。
Q.不動産がない場合でも、法定相続情報一覧図は作れますか?
A.はい、作れます。法定相続情報一覧図は、預貯金の解約や有価証券の名義変更、相続税の申告など、不動産登記以外のさまざまな相続手続きで利用できるため、不動産がない場合でも作成するメリットがあります。
Q.法定相続情報一覧図は、いつ作成するのがおすすめですか?
A.相続発生後、相続手続きを開始する前の段階で作成するのがおすすめです。最初に作成しておくことで、その後の金融機関や役所での手続きが戸籍謄本の束の代わりに一覧図の写しで済むため、全体がスムーズに進みます。
Q.法定相続情報一覧図を作成するメリットは何ですか?
A.戸籍謄本等の束を何度も出し直す手間が省ける点です。一覧図の写し1枚で相続関係を証明できるため、複数の金融機関での手続きなどを同時に進めやすくなり、時間と費用の節約につながります。
Q.法定相続情報一覧図が不要なケースはありますか?
A.相続人が一人しかいない場合や、手続き先が一行の預金解約のみなど極端に少ない場合は、必ずしも作成する必要はありません。戸籍謄本等を一度提出するだけで済むなら、作成の手間をかけなくてもよいでしょう。
Q.法定相続情報一覧図は自分で作成できますか?
A.はい、ご自身で戸籍謄本等を集めて作成し、法務局に申し出ることが可能です。法務局のウェブサイトに記載例や様式があります。ただし、相続関係が複雑な場合は、司法書士などの専門家に依頼することも検討しましょう。