「海外に住んでいるけれど、日本の親の遺産を相続放棄したい…」そんな状況で、手続きの方法や期限について不安を感じていませんか?ご安心ください、海外在住者でも相続放棄は可能です。ただし、日本に住んでいる場合とは少し異なる注意点があり、特に「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期限は待ってくれません。この記事では、海外から相続放棄の手続きをスムーズに進めるための具体的な方法、必要書類、そして注意すべきポイントを、誰にでも分かりやすく解説していきます。
そもそも相続放棄とは?海外在住でもルールは同じ?
まず、相続放棄の基本についておさらいしましょう。相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産といったプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、すべて一切受け継がないという意思表示を家庭裁判所に対して行う法的な手続きです。この基本的なルールは、相続人が世界のどこに住んでいても変わりません。
相続放棄の期限はいつから数える?
相続放棄で最も重要なのが「期限」です。この期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」と法律で定められています。ポイントは「知った時」からカウントが始まるという点です。例えば、海外に住んでいると、ご家族が亡くなった事実や、ご自身が相続人であることを知るのが遅れるケースもありますよね。その場合は、その事実を知った日がスタート地点になります。だからといって、のんびりはしていられません。知ったからには、すぐに準備を始めることが大切です。
相続放棄の手続きはどこで行う?
「海外在住だから、現地の裁判所で手続きするの?」と思うかもしれませんが、それは違います。相続放棄の申立ては、日本の法律に基づく手続きなので、日本の裁判所で行います。具体的には、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。ご自身の住所地ではないので、間違えないようにしましょう。
相続放棄にかかる費用
相続放棄の手続き自体には、高額な費用はかかりません。主にかかるのは、裁判所に納める手数料や、必要書類の取得費用などの実費です。専門家に依頼しない場合、ご自身で負担する費用の目安は以下の通りです。
| 収入印紙 | 申述人1人につき800円 |
| 連絡用の郵便切手 | 申立てをする家庭裁判所によりますが、400円~500円程度 |
| 戸籍謄本などの取得費用 | 1通あたり450円~750円程度(取得する書類の種類や通数によります) |
| 在留証明書の発行手数料 | 現地の日本大使館・領事館で異なりますが、1,200円相当額程度 |
海外在住者ならではの相続放棄手続きの流れ
海外から相続放棄を行う場合、手続きの流れは日本在住者と基本的には同じですが、書類のやり取りに時間がかかることを常に意識しておく必要があります。大まかな流れは以下の4ステップです。
ステップ1:必要書類を集める
まず、家庭裁判所に提出するための書類を集めます。日本在住者と共通の書類に加えて、海外在住者特有の書類が必要になるのが大きな特徴です。
【基本的な必要書類】
| 相続放棄の申述書 | 裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。 |
| 被相続人の住民票除票または戸籍附票 | 被相続人の最後の住所地の役所で取得します。 |
| 申述人(ご自身)の戸籍謄本 | ご自身の本籍地の役所で取得します。 |
| 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本 | 被相続人の本籍地の役所で取得します。 |
※被相続人との関係によっては、さらに他の戸籍謄本が必要になる場合があります。
【海外在住者が追加で必要になることが多い書類】
| 在留証明書 | ご自身の現在の住所を証明する書類です。お住まいの国にある日本の大使館や領事館で発行してもらいます。 |
| サイン証明(署名証明) | 日本の印鑑証明書の代わりとなるものです。裁判所によっては不要な場合もありますが、念のため準備しておくと安心です。在留証明書と同じく、日本の大使館や領事館で取得できます。 |
日本の役所で書類を取得する場合、郵送で請求することになりますが、海外への直接発送に対応していない役所もあります。その場合は、日本にいるご親族にお願いして代理で取得してもらうのがスムーズです。
ステップ2:家庭裁判所へ申立てを行う
必要書類がすべて揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に郵送で提出します。書類の郵送には、追跡ができて配達日数も比較的早いEMS(国際スピード郵便)などを利用すると良いでしょう。提出後、裁判所が書類を確認し、不備がなければ受理されます。
ステップ3:裁判所からの「照会書」に回答する
申立てから1~2週間ほどすると、家庭裁判所から「相続放棄についての照会書」という質問状が送られてきます。これは、「本当にご自身の意思で相続放棄をしますか?」「相続財産を勝手に使ったりしていませんか?」といった内容を確認するためのものです。この照会書に正直に回答し、署名して裁判所に返送します。このやり取りも国際郵便になるため、時間がかかることを覚えておきましょう。
ステップ4:「相続放棄申述受理通知書」を受け取る
照会書への回答に問題がなければ、家庭裁判所は相続放棄を正式に認め、「相続放棄申述受理通知書」という書類を送付してくれます。この通知書を受け取ったら、相続放棄の手続きは無事に完了です。この書類は、借金の債権者などに対して相続放棄したことを証明する大切な書類になりますので、必ず大切に保管してください。
ここが違う!海外在住者が注意すべき3つのポイント
海外から相続放棄を進める上で、特に気をつけておきたいポイントが3つあります。これを知っているだけで、手続きがぐっとスムーズになりますよ。
ポイント1:住所の証明に「在留証明書」が必要
日本に住民票がない海外在住者の場合、現在の住所を公的に証明するために「在留証明書」の提出を求められることがほとんどです。これは、お住まいの地域を管轄する日本の大使館や領事館の窓口で申請する必要があります。申請にはパスポートや現地の滞在許可証などが必要で、発行までに時間がかかることもあるため、相続放棄を決めたら、まず最初にこの在留証明書の取得準備に取り掛かりましょう。
ポイント2:書類のやり取りは「国際郵便」が基本
日本の役所や家庭裁判所との書類のやり取りは、すべて国際郵便になります。国内郵便のように翌日に届くことはなく、お住まいの国の郵便事情によっては、到着までに1週間以上かかることも珍しくありません。3か月という限られた時間の中で、往復の郵送期間を考慮すると、実際に書類の準備や作成にかけられる時間はかなり短くなります。常にスケジュールに余裕を持って行動することが成功のカギです。
ポイント3:日本にいる協力者の存在がカギ
海外からの手続きを一人ですべて行うのは、時間的にも精神的にも大変です。もし日本にご家族や信頼できるご親族がいるなら、協力を仰ぐのが最も現実的で確実な方法です。例えば、戸籍謄本などの書類を代理で取得してもらったり、裁判所からの郵便物を日本国内で受け取る「送達場所」になってもらったりすることで、郵送にかかる時間を大幅に短縮できます。協力者がいない場合は、専門家への依頼を検討しましょう。
3か月の期限に間に合わない!そんな時の対処法
「どうしても書類集めに時間がかかって、3か月以内に申立てができそうにない…」そんな絶望的な状況でも、諦めるのはまだ早いです。一つだけ、対処法があります。
「相続放棄の期間伸長」を申し立てる
やむを得ない理由で3か月以内に相続放棄の判断ができない場合、家庭裁判所に「相続放棄のための申述期間伸長」を申し立てることができます。例えば、「海外にいるため財産調査に時間がかかる」といった理由は、期間伸長が認められやすい正当な理由になります。ただし、この申立ても、本来の3か月の熟慮期間内に行う必要があります。期限が迫ってきたら、放置せずにすぐに家庭裁判所に相談するか、専門家に連絡を取りましょう。
専門家への依頼も検討しよう
海外からの相続放棄手続きは、日本在住者に比べてハードルが高いのが実情です。もし手続きに少しでも不安を感じたり、仕事などで時間が取れなかったりする場合は、司法書士や弁護士といった専門家に依頼することも有効な選択肢です。
専門家に依頼するメリット
専門家に依頼すると費用はかかりますが、それ以上のメリットがあります。面倒な戸籍謄本の収集から、裁判所に提出する申述書の作成、裁判所とのやり取りまで、手続きの大部分を代行してもらえます。何より、期限管理を任せられる安心感は大きいでしょう。国際郵便の時間を気にしたり、書類の不備で手続きが遅れたりする心配もなくなります。
専門家選びのポイント
専門家に依頼する場合は、国際相続や海外在住者の手続きに詳しい、経験豊富な事務所を選ぶことが大切です。最近では、Zoomなどのオンライン会議システムを利用して、海外からでも直接相談に乗ってくれる事務所が増えています。ホームページなどで対応実績を確認し、まずは気軽に問い合わせてみるのがおすすめです。
まとめ
今回は、海外在住者のための相続放棄手続きについて解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
海外在住であっても、相続放棄は可能です。ただし、手続きの期限は日本在住者と同じく「相続を知った時から3か月以内」です。海外からの手続きは、在留証明書の取得や国際郵便でのやり取りに時間がかかるため、何よりも早めに行動を開始することが重要です。日本にいるご親族の協力を得たり、必要であれば専門家の力を借りたりして、期限内に確実に手続きを終えられるように準備を進めていきましょう。この記事が、あなたの不安を少しでも解消する手助けになれば幸いです。
参考文献
海外在住者の相続放棄に関するよくある質問まとめ
Q.海外に住んでいますが、日本の相続放棄はできますか?
A.はい、できます。日本国内の家庭裁判所に申し立てることで手続きが可能です。
Q.相続放棄の手続きに期限はありますか?
A.相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。
Q.日本に行かずに手続きを完了できますか?
A.はい、可能です。日本の専門家(弁護士や司法書士など)に依頼すれば、日本に帰国することなく手続きを進められます。
Q.海外在住の場合、相続放棄に必要な特別な書類はありますか?
A.日本の住民票の代わりに「在留証明書」、実印の代わりに「サイン証明書(署名証明書)」が必要になることが一般的です。これらは現地の日本大使館や領事館で取得します。
Q.サイン証明書(署名証明書)とは何ですか?
A.日本の実印の代わりとなるもので、本人が書類に署名したことを証明する書類です。現地の日本大使館や領事館で、職員の面前で署名することで発行されます。
Q.手続きを専門家に依頼するメリットは何ですか?
A.戸籍謄本などの必要書類の収集代行、裁判所への申述書作成・提出、裁判所からの照会への対応などをすべて任せられるため、時間と手間を大幅に削減できます。