税理士法人プライムパートナーズ

海外証券口座のSO・RSU・ESPP相続、手続きと税金の注意点を解説

2025-07-11
目次

外資系企業にお勤めだったご家族が亡くなられた場合、海外の証券口座にある株式報酬(SO・RSU・ESPP)の相続が発生することがあります。海外資産の相続は、国内とは異なる手続きや税金の知識が必要で、戸惑う方も多いのではないでしょうか。この記事では、海外の証券口座にある株式報酬を相続する際の手続き、相続税の考え方、注意点などを分かりやすく解説します。

株式報酬制度(SO・RSU・ESPP)とは?

株式報酬制度は、会社が従業員へ給与とは別に自社株などを与えるインセンティブ制度です。外資系企業でよく見られる代表的な3種類の特徴を理解しておきましょう。

SO(ストックオプション)

SO(ストックオプション)とは、従業員が「あらかじめ決められた価格(権利行使価格)」で「自社株を購入できる権利」のことです。権利を行使して株式を取得し、株価が上がった時に売却すれば利益を得られます。相続時には、この「権利」自体を相続できるか、それともすでに権利行使して取得した「株式」を相続するのかで手続きが変わってきます。

RSU(譲渡制限付株式ユニット)

RSU(譲渡制限付株式ユニット)とは、一定の勤務期間などの条件を達成すると、従業員が「無償で株式を受け取れる権利」です。権利が確定すること(Vesting: ベスティング)で株式が交付されます。相続時には、ベスティング済みの株式なのか、まだ権利が確定していないベスティング未済のユニットなのかを確認する必要があります。

ESPP(従業員株式購入制度)

ESPP(従業員株式購入制度)とは、従業員が給与から天引きなどの形で、自社株を市場価格より割引された価格(例:15%割引など)で購入できる制度です。定期的に株式を購入していくため、相続財産として多くの株式を保有している可能性があります。

相続手続きの第一歩:株式の状態を把握しよう

相続手続きを始める前に、故人が保有していた株式報酬がどのような状態にあるのかを正確に把握することが非常に重要です。確認すべきポイントを整理しました。

契約書の内容を確認する

まずは、SOやRSUの付与時に交わされた契約書(Grant Agreementなど)を探しましょう。契約書には、本人が亡くなった場合の権利の取り扱いについて記載されています。相続人が権利を引き継げるのか、失効してしまうのかなど、重要な情報が書かれているため、必ず内容を確認してください。

権利が確定しているか(Vesting)を確認する

SOやRSUの場合、「ベスティング(権利確定)」が済んでいるかどうかが大きなポイントです。ベスティング済であれば、その株式は相続財産となる可能性が高いです。一方で、ベスティング未済のものは、多くの場合、権利が失効し相続財産とはなりません。ただし、契約によっては死亡時にベスティングが加速する(Accelerated Vesting)条項が含まれていることもありますので、契約書の確認が不可欠です。

株式はどこにあるか(証券口座の特定)

権利行使やベスティングによって得た株式が、どの国のどの証券会社の口座に保管されているかを確認します。外資系企業の場合、アメリカなどの証券会社が指定されていることが多いです。故人が残した郵便物やメールの中に、証券会社からの取引報告書などがないか探してみましょう。

海外証券口座の相続手続きと注意点

海外の証券口座の相続手続きは、日本のものと比べて格段に複雑で時間がかかります。特に注意すべき点を解説します。

英語でのやり取りと必要書類

証券会社とのやり取りは、基本的にすべて英語(または現地の言語)で行う必要があります。また、提出を求められる書類も多く、一般的に以下のようなものが必要になります。これらの書類は、英訳と公的な認証(アポスティーユ認証など)が求められることがほとんどです。

必要書類の例 説 明
死亡証明書(Death Certificate) 故人が亡くなったことを証明する公的書類です。
戸籍謄本など 故人と相続人の関係を証明する書類です。
相続人の本人確認書類 パスポートのコピーなどが該当します。
遺言書や遺産分割協議書 誰が資産を相続するかを証明する書類です。

プロベート(Probate)とは?

アメリカやイギリスなど英米法の国では、プロベートという裁判所が関与する遺産検認手続きが必要になる場合があります。プロベートは、遺言が有効かを確認し、遺産の管理人を任命して、債務の清算や遺産の分配を行う法的な手続きです。この手続きは、完了までに1年以上かかることも珍しくなく、現地の弁護士費用も高額になる傾向があります。プロベートが必要かどうかは、資産額や証券会社の規定によって異なります。

TOD(Transfer on Death)制度の活用(生前対策)

アメリカの証券口座では、TOD(Transfer on Death)という制度が利用できる場合があります。これは、口座名義人が生前に受取人(Beneficiary)を指定しておくことで、死亡時にプロベートを経ずに直接その受取人に資産が移転される仕組みです。生前対策として非常に有効ですが、相続が発生した後から利用することはできません。

海外資産と日本の相続税

海外の証券口座にある株式も、もちろん日本の相続税の課税対象です。税金の計算や申告において、国内資産とは異なる注意点があります。

相続税評価額の計算方法

海外の上場株式は、日本の株式と同様に、以下の4つの価格のうち、最も低い価格で評価します。
1. 相続開始日(死亡日)の終値
2. 相続開始月の終値の月平均額
3. 相続開始月の前月の終値の月平均額
4. 相続開始月の前々月の終値の月平均額

そして、算出した外貨建ての株価を、相続開始日のTTBレート(金融機関が顧客から外貨を買う際のレート)で円換算して評価額を決定します。

二重課税を避ける「外国税額控除」

もし現地の国で遺産税(アメリカのEstate Taxなど)が課税された場合、日本でも相続税を納めると、同じ資産に対して二重に税金がかかってしまいます。この二重課税を調整するために、外国税額控除という制度があります。外国で支払った税額を、日本の相続税額から一定の限度額内で控除することができます。

申告期限に間に合わない場合の対処法

海外資産の調査やプロベート手続きには時間がかかり、日本の相続税申告期限である「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に間に合わないケースが多くあります。その場合は、まず判明している財産だけで概算の申告・納税を行い、後に海外資産の内容が確定してから修正申告(税額が増える場合)や更正の請求(税額が減る場合)を行います。

海外資産がある場合の生前対策

相続人の負担を減らすために、海外に証券口座をお持ちの方は、元気なうちから対策をしておくことが非常に大切です。

財産情報の共有

最も重要なのは、ご家族に財産の情報を共有しておくことです。どの国の、どの証券会社に、どのような資産があるのか。ログインIDやパスワード、担当者の連絡先などをエンディングノートなどにまとめておくだけでも、相続人の負担は大きく変わります。

口座の整理・国内移管

可能であれば、生前に海外の株式を売却して現金化し、日本の口座に送金しておく、あるいは日本の証券会社に株式を移管しておくことも有効な対策です。これにより、複雑な海外での相続手続きを回避できます。

まとめ

海外の証券口座にあるSO・RSU・ESPPの相続は、国内資産の相続とは異なり、言語の壁、法制度の違い、税金の複雑さなど、多くのハードルが存在します。特に、プロベートという手続きが必要になると、時間も費用も大きな負担となります。まずは故人の残した書類から株式報酬の状況を正確に把握し、手続きの流れを理解することが大切です。しかし、ご自身だけですべてを進めるのは非常に困難な場合が多いでしょう。相続税の申告期限もありますので、手続きが複雑だと感じたら、できるだけ早い段階で国際相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4138 相続人が外国に居住しているとき

国税庁 外国の証券取引所に上場されている株式の評価

海外株式報酬(SO・RSU・ESPP)の相続に関するよくある質問

Q.プロベートは必ず必要ですか?

A.必ずしも必要ではありません。資産額が一定以下の場合や、TOD(死亡時譲渡)制度を利用している口座はプロベートが不要になることがあります。必要かどうかは、現地の法律や証券会社の規定によります。

Q.ベスティング前のRSUは相続できますか?

A.通常、ベスティング(権利確定)前のRSUは権利が失効し、相続できないことが多いです。ただし、契約によっては死亡時に権利確定が早まる条項(Accelerated Vesting)が定められている場合もあるため、契約書の確認が必要です。

Q.日本の遺言書は海外で使えますか?

A.日本の方式で作成された遺言書も、多くの国で有効と認められます。ただし、英語への翻訳や公的な認証が必要となり、手続きが複雑になる可能性があります。

Q.相続手続きにはどれくらいの時間がかかりますか?

A.プロベートが不要な場合でも半年から1年、プロベートが必要な場合は1年から3年、あるいはそれ以上かかることもあります。日本の相続税申告期限(10ヶ月)に間に合わないことが多いため注意が必要です。

Q.海外の証券会社とのやり取りはどうすればいいですか?

A.基本的に英語でのメールや電話でのやり取りになります。言語に不安がある場合や、専門的な内容が含まれる場合は、国際相続に詳しい専門家のサポートを受けることをお勧めします。

Q.外国税額控除を使えば、外国で払った税金は全額戻ってきますか?

A.全額が戻ってくるとは限りません。日本で計算した相続税額のうち、海外資産に対応する部分が控除の上限となるため、外国で支払った税額がその上限を超える場合、超えた分は控除できません。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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