海外へ1年以上転居されることになり、ご所有の収益物件やご自宅をどなたかに貸し出そうとお考えですね。実は、海外にお住まいになる期間が1年以上になると、税金上の扱いは非居住者となり、日本の不動産を貸す際のルールが大きく変わります。特に気をつけたいのが、お部屋を借りてくれる方が個人なのか法人なのかによって、源泉徴収という税金の天引きの手続きがまったく違ってくるという点です。これをきちんと知らずに貸し出してしまうと、後から税務署からペナルティを受けたり、借りてくれた方に大きな負担をかけてしまったりすることがあります。今回は、海外赴任中に不動産を貸す際の具体的な注意点や、個人と法人での扱いの違いについて、わかりやすくお話ししていきます。
非居住者が日本の不動産を貸す際の基本ルール
海外に転居されると、日本に住んでいた頃とは税金のルールが変わってきます。まずは、どのような状態になるとルールが変わるのか、そして不動産から得られる収入にどのような税金がかかるのかを整理していきましょう。
非居住者とはどのような人のこと?
税金の世界では、日本国内に住所がない、あるいは現在まで引き続いて1年以上日本国内に居所がない人のことを非居住者と呼びます。海外へ1年以上の長期転勤で赴任される方や、海外に移住される方は、この非居住者に当てはまります。1年未満の短期的な出張や滞在であれば居住者のままですが、1年以上という期間がひとつの大きな区切りになることを覚えておいてください。
国内源泉所得として日本で課税される
非居住者になったからといって、日本の税金を一切払わなくてよくなるわけではありません。日本の不動産を貸して得た家賃収入は、国内源泉所得と呼ばれ、日本国内で発生した利益として引き続き日本の税務署に税金を納める義務があります。海外にお住まいであっても、日本で生み出されたお金には日本のルールが適用されるという仕組みになっています。
出国前に必要な納税管理人の選任
海外にいながら日本の税金の手続きをすべて自分で行うのはとても大変です。そこで、日本を出発する日までに、日本に住んでいる方の中から納税管理人を選んで、税務署へ「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出する必要があります。納税管理人はご家族やご親族でもなれますし、税理士などの専門家に依頼することもできます。この手続きを忘れてしまうと、税務署からの大切なお知らせが届かなかったり、税金の納付が遅れて延滞税がかかってしまったりするので、出国前に必ず済ませておきましょう。
借主が個人の場合の手続きと注意点
ここからが本題です。あなたのお部屋を借りてくれる借主さんが個人の場合、どのような目的で借りるかによって、税金の手続きが大きく二つに分かれます。詳しく見ていきましょう。
自己や親族の居住用なら源泉徴収は不要
借主さんが個人であり、そのお部屋をご自身やご家族が住むため(居住用)に借りる場合は、家賃から税金を天引きする源泉徴収は不要です。つまり、あなたが設定した毎月の家賃が例えば10万円であれば、そのまま10万円があなたの口座に振り込まれます。借主さんにとって特別な税金の手続きは発生しないので、一般的な賃貸契約と同じような感覚でやり取りができます。
居住用以外(事業用など)は源泉徴収が必要
一方で、借主さんが個人であっても、そのお部屋を事務所や店舗などの事業用として借りる場合は注意が必要です。この場合、借主さんは毎月の家賃を支払う際に、家賃の20.42%を源泉徴収して税務署に納付する義務が発生します。借主さん自身が税金の手続きを毎月行わなければならないため、契約の際に「私は海外に住む非居住者なので、源泉徴収のお手続きをお願いします」としっかりお伝えしておくことが大切です。
借主が法人の場合の手続きと注意点
次に、お部屋を借りてくれるのが会社などの法人の場合です。近年は社宅として法人がお部屋を借りるケースも多いですが、個人の場合とはルールが異なりますので、しっかりと確認しておきましょう。
用途に関わらず20.42%の源泉徴収が必要
借主が法人の場合は、そのお部屋を従業員の社宅(居住用)として使おうと、会社の事務所(事業用)として使おうと、用途に関係なく必ず源泉徴収が必要になります。税率は一律で家賃の20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)です。法人が借主となる時点で、必ず税金の天引きが発生すると覚えておいてくださいね。
借主の法人が毎月税務署へ納付する
源泉徴収された20.42%の税金は、借主である法人が、家賃を支払った月の翌月10日までに、税務署の指定する「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」という納付書を使って納付します。もし法人がこの納付を忘れたり遅れたりすると、法人の側に不納付加算税や延滞税といった罰金がかかってしまいます。そのため、契約時には借主となる法人へ税務上のルールを丁寧にお伝えすることがトラブル防止につながります。
個人と法人で家賃の手取り額はどう変わる?
源泉徴収があるかないかで、あなたが毎月受け取れる家賃の手取り額は大きく変わります。ここでは具体的な金額を当てはめて比較してみましょう。
源泉徴収の有無による手取り額の比較
毎月の家賃が10万円だった場合、源泉徴収が不要なケースと必要なケースで、実際に振り込まれる金額がどう変わるのかを表にまとめました。
| 借主と用途 | あなたに振り込まれる手取り額 |
|---|---|
| 個人(居住用) | 100,000円(100%) |
| 法人または事業用の個人 | 79,580円(家賃の79.58%) |
このように、源泉徴収が必要な場合は、毎月20,420円が税金として天引きされるため、手元に入ってくるお金は約8万円に減ってしまいます。住宅ローンの返済がある場合は、この手取り額でやりくりできるかを事前に計算しておくことがとても大切です。
確定申告で払いすぎた税金を精算する
手取りが減ってしまって損をするのではと心配になるかもしれませんが、安心してください。天引きされた20.42%の税金はあくまで仮払いの状態です。翌年の2月16日から3月15日までの間に、納税管理人を通じて日本で確定申告を行うことで、正しい税金を計算し直します。家賃収入からマンションの管理費や固定資産税、ローンの利息などの必要経費を差し引いた利益をもとに本来の税額を計算するため、多くの場合、天引きされていた税金の一部または全額が還付金として戻ってきます。
源泉徴収を免除・軽減するための制度
毎月の手取り額が減ってしまうと資金繰りが厳しいという方のために、一定の条件を満たすことで源泉徴収を免除してもらったり、税率を軽くしてもらったりする制度が用意されています。
源泉徴収免除証明書の交付を受ける
日本国内で不動産賃貸業などの事業を継続的に行っていて、確定申告書を毎年きちんと提出しているなど、いくつかの条件をクリアしている場合は、税務署に申請をして源泉徴収の免除証明書を発行してもらうことができます。この証明書を借主(家賃の支払者)に提示すれば、法人が借主であっても源泉徴収されず、家賃の100%を受け取ることができるようになります。
租税条約による免除や軽減を確認する
あなたがこれから赴任する国と日本との間で、二重課税を防ぐための租税条約が結ばれている場合、その条約の内容によっては源泉徴収が免除されたり、税率が軽減されたりすることがあります。条約の内容は赴任先の国によって異なりますので、借主を通じて税務署へ「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。ご自身が赴任する国のルールを、事前に専門家に確認しておくことをおすすめします。
まとめ
海外赴任で1年以上日本を離れる非居住者の方が不動産を貸す場合、借主が個人の居住用であればこれまで通り家賃を満額受け取れますが、借主が法人の場合や事業用の場合は、毎月20.42%の源泉徴収が行われます。手取り額が減ってしまう点には注意が必要ですが、翌年に確定申告をきちんと行えば、払いすぎた税金は精算されます。出国前には必ず納税管理人を定め、借主の方にもルールの説明をしっかり行って、安心して海外生活をスタートさせてくださいね。
参考文献
海外赴任時の不動産賃貸に関するよくある質問まとめ
Q. 非居住者とはどのような人のことを指しますか?
A. 日本国内に住所がなく、かつ現在まで引き続いて1年以上日本国内に居所がない人のことを指します。海外に1年以上転勤する方も該当します。
Q. 借主が個人の場合、家賃から税金は引かれますか?
A. 借主がご自身や親族の居住用として借りる場合は源泉徴収は不要です。ただし、事務所や店舗など事業用として借りる場合は20.42%の源泉徴収が必要です。
Q. 借主が法人の場合はどうなりますか?
A. 借主が法人の場合、社宅などの居住用であっても事業用であっても、用途に関わらず必ず家賃の20.42%が源泉徴収され、法人が税務署に納付する義務があります。
Q. 源泉徴収で天引きされた税金は戻ってきますか?
A. 翌年に日本で確定申告を行い、家賃収入から必要経費を差し引いた正しい利益に基づいて計算をやり直すことで、払いすぎていた税金が還付金として戻ってくることが多いです。
Q. 納税管理人とは何をする人ですか?
A. 海外にいる非居住者に代わって、日本での確定申告書の提出や税金の納付、税務署からの書類の受け取りなどを行う人のことです。出国前に税務署への届出が必要です。
Q. 源泉徴収を免除してもらう方法はありますか?
A. 一定の要件を満たして税務署から源泉徴収免除証明書の交付を受けたり、赴任先の国と日本との租税条約の規定を活用したりすることで、源泉徴収が免除や軽減される場合があります。