消費税の計算方法の一つである「簡易課税制度」。事務負担が軽くなるメリットがありますが、「一度選んだら2年間はやめられない」という、いわゆる「2年縛り」があるのをご存知でしたか?このルールを知らないと、思わぬタイミングで損をしてしまう可能性も。この記事では、簡易課税の2年縛りのルールと、一般課税(本則課税)への切り替えパターンについて、分かりやすく解説していきます。
そもそも消費税の簡易課税制度って何?
消費税の納税額を計算する方法には、原則的な「一般課税(本則課税)」と、特例的な「簡易課税」の2種類があります。まずは、簡易課税制度がどんなものか、基本からおさらいしましょう。
簡易課税制度の基本
簡易課税制度は、中小事業者の経理事務の負担を軽くするために作られた制度です。本来、消費税は「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いて計算します。しかし、簡易課税制度では、「預かった消費税」に業種ごとに決められた「みなし仕入率」を掛けるだけで、「支払った消費税」を計算できるんです。これにより、経費一つひとつの消費税を計算・集計する手間が省けます。
簡易課税制度を選べる事業者の条件
この便利な簡易課税制度ですが、誰でも選べるわけではありません。適用を受けるには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下である必要があります。基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度のことを指します。また、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。
| 対象者 | 基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者 |
| 手続 | 適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出 |
みなし仕入率とは?
みなし仕入率は、事業の種類によって6つの区分に分けられています。ご自身の事業がどれに当てはまるかによって、納税額が大きく変わってくるんですよ。
| 事業区分 | みなし仕入率 |
| 第1種事業(卸売業) | 90% |
| 第2種事業(小売業など) | 80% |
| 第3種事業(製造業、建設業など) | 70% |
| 第4種事業(飲食店業など) | 60% |
| 第5種事業(サービス業など) | 50% |
| 第6種事業(不動産業) | 40% |
「2年縛り」のルールを正しく理解しよう
簡易課税制度の最大の注意点が、この「2年縛り」です。一度「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出して簡易課税の適用を受けると、原則として2年間は一般課税(本則課税)に変更することができません。例えば、令和6年から簡易課税を始めた場合、令和6年と令和7年の2年間は簡易課税での申告が必須となります。大きな設備投資などで多額の消費税を支払う予定があっても、途中で一般課税に戻して還付を受ける、といったことはできないので注意が必要です。
なぜ2年間の継続適用が必要なの?
この2年縛りは、事業者が有利な方ばかりを選んで税負担を不当に軽くするのを防ぐために設けられています。例えば、大きな仕入れがある年だけ一般課税で還付を受け、翌年は簡易課税で納税額を抑える、といった選択が自由にできてしまうと、制度の公平性が保たれなくなってしまいますよね。そのため、一度選択したら最低2年間は継続して適用するというルールになっているのです。
「2年縛り」はいつからカウントされる?
2年縛りのカウントは、簡易課税制度の適用が始まった課税期間の初日からスタートします。例えば、個人事業主の方が令和7年分から簡易課税を適用したい場合、令和6年12月31日までに届出書を提出します。そして、令和7年1月1日から適用が開始され、令和7年と令和8年の2年間が縛りの期間となります。この場合、一般課税に戻すための「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出できるのは、令和9年分の申告からということになります。
簡易課税から一般課税への切り替え3つのパターン
「2年縛り」が原則ですが、必ずしも2年間ずっと簡易課税が適用され続けるわけではありません。状況によっては、一般課税に切り替わったり、切り替えたりすることができます。ここでは、具体的な3つのパターンを見ていきましょう。
パターン1:原則通り、2年間は変更できない
これが最も基本的なケースです。一度簡易課税を選択したら、事業を廃止した場合を除き、2年間は継続して適用します。例えば、令和6年分から簡易課税を選択した場合、令和7年分までは簡易課税が適用されます。令和8年分から一般課税に戻したい場合は、令和8年の課税期間が始まる前日、つまり令和7年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。
パターン2:売上増で強制的に一般課税になる
2年縛りの期間中であっても、基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が5,000万円を超えた場合、その課税期間は簡易課税制度の適用要件から外れるため、強制的に一般課税(本則課税)となります。
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
- 令和4年:課税売上高 4,000万円
- 令和5年:課税売上高 6,000万円
- 令和6年:簡易課税を選択して適用開始(基準期間である令和4年の売上が5,000万円以下なのでOK)
- 令和7年:基準期間である令和5年の売上が5,000万円を超えているため、強制的に一般課税
この場合、令和7年は2年縛りの期間中ですが、自動的に一般課税で申告することになります。
パターン3:強制的に一般課税になった後、また簡易課税に戻る?
パターン2の続きが気になりますよね。翌年、基準期間の課税売上高が再び5,000万円以下になった場合はどうなるのでしょうか。この場合、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出していなければ、自動的に簡易課税に戻ります。
先ほどの例で続きを見てみましょう。
- 令和6年:課税売上高 4,500万円
- 令和8年:基準期間である令和6年の売上が5,000万円以下なので、自動的に簡易課税に戻る
もし、このまま一般課税を続けたいのであれば、令和8年の課税期間が始まる前日(令和7年12月31日)までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しておく必要があります。この届出書を提出しておけば、令和8年以降も一般課税を継続できます。
免税事業者の場合はどうなる?
2年縛りは、あくまで課税事業者であることが前提のルールです。もし、簡易課税を選択している期間中に、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になり免税事業者になった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、その課税期間は消費税の申告・納税義務自体がなくなるため、簡易課税も一般課税も関係ありません。そして、2年縛りのカウントは、免税事業者であった期間も含めて進みます。
例を見てみましょう。
- 令和6年:課税事業者として簡易課税を適用(縛り1年目)
- 令和7年:基準期間(令和5年)の売上が1,000万円以下だったため、免税事業者に。
- 令和8年:基準期間(令和6年)の売上が1,000万円を超えたため、再び課税事業者に。
このケースでは、令和7年は免税事業者ですが、簡易課税の適用期間としては2年目とカウントされます。そのため、令和8年から一般課税に戻りたい場合は、令和7年中に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出すれば、令和8年から一般課税を選択できます。
【注意】高額特定資産を取得した場合はさらに縛りが!
簡易課税の2年縛りとは別に、さらに長期間の縛りが発生するケースがあります。それは「高額特定資産」を取得した場合です。
高額特定資産とは?
高額特定資産とは、一回の取引で税抜1,000万円以上の棚卸資産や固定資産のことを指します。例えば、1,200万円の機械装置や、1,500万円で仕入れた商品などが該当します。
3年間の縛りルール
課税事業者が一般課税(本則課税)の期間中にこの高額特定資産を取得した場合、その取得した課税期間の初日から3年間は、免税事業者になることや簡易課税制度を選択することができなくなります。これは、高額な仕入れで消費税の還付を受けた後、すぐに免税事業者になったり簡易課税で納税額を抑えたりすることを防ぐためのルールです。簡易課税の2年縛りよりも厳しいルールなので、大きな設備投資などを検討している場合は特に注意が必要です。
まとめ
今回は、消費税の簡易課税制度における「2年縛り」について解説しました。ポイントをまとめますね。
- 簡易課税制度を選択すると、原則として2年間は一般課税に変更できません。
- 2年縛りの期間中でも、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えれば強制的に一般課税になります。
- その後、売上が5,000万円以下に戻れば、不適用届を出さない限り自動的に簡易課税に戻ります。
- 免税事業者になった期間も、2年縛りの期間としてカウントされます。
- 税抜1,000万円以上の「高額特定資産」を取得すると、3年間は簡易課税を選択できなくなるので注意が必要です。
簡易課税制度は事務負担を軽減できる便利な制度ですが、2年縛りのようなルールを理解した上で、自社の事業計画に合わせて慎重に選択することが大切です。将来の設備投資の予定なども考慮して、最適な方法を選びましょう。
参考文献
国税庁 No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
消費税の簡易課税「2年縛り」に関するよくある質問
Q.消費税の簡易課税制度にある「2年縛り」とは何ですか?
A.一度、消費税の簡易課税制度を選択すると、原則として2年間(2つの課税期間)は本則課税に変更することができないというルールのことです。
Q.簡易課税の2年縛りは、いつからスタートしますか?
A.「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し、簡易課税制度の適用が始まった課税期間の初日からスタートします。
Q.なぜ簡易課税には2年縛りがあるのですか?
A.納税者が毎年の状況に応じて有利な方を選択し、頻繁に計算方法を変更することを防ぎ、税務行政の安定性を確保するためです。
Q.2年縛りの期間中に、本則課税に戻すことは絶対にできませんか?
A.原則として変更できません。ただし、事業を廃止した場合など、特別な事情がある場合は例外的に認められることがあります。
Q.2年が経過すれば、自動的に本則課税に戻りますか?
A.自動的には戻りません。本則課税に戻りたい場合は、適用をやめようとする課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を税務署に提出する必要があります。
Q.2年縛りの期間中に免税事業者になった場合、どうなりますか?
A.免税事業者となった課税期間は、簡易課税の効力も一旦停止します。その後、再び課税事業者になった際に、2年縛りの期間が継続していれば、簡易課税が適用されます。