インボイス制度が始まって、これまで消費税と無縁だった免税事業者の方も、課税事業者になることを検討する機会が増えましたよね。そのときに出てくるのが「簡易課税」という言葉。でも、「簡易課税って何?」「免税事業者から変更する手続きは?」「どのタイミングで、どうやって選べばいいの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。この記事では、消費税の簡易課税制度の基本から、免税事業者との違い、そして変更するための手続きについて、分かりやすく解説していきます。
消費税の免税事業者と課税事業者の基本
まずは、消費税の基本的なルールからおさらいしましょう。事業者は、消費税を納める義務がある「課税事業者」と、納める義務が免除されている「免税事業者」に分かれます。どちらに当てはまるかは、主に売上の金額で決まるんですよ。
免税事業者になれる条件は?
免税事業者でいられるのは、原則として基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者です。個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度の売上がこの基準になります。例えば、2024年の場合、2022年の課税売上高が1,000万円以下であれば、2024年は免税事業者となります。ただし、特定期間(個人事業主は前年の1月1日から6月30日)の課税売上高または給与支払額が1,000万円を超えた場合は課税事業者になるなど、例外もあるので注意が必要です。
課税事業者とは?
一方で、課税事業者とは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者のことです。この条件に当てはまると、自動的に消費税の申告と納税の義務が発生します。また、インボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応するために、売上が1,000万円以下でも自ら選択して課税事業者になる「適格請求書発行事業者」も、課税事業者となります。
課税事業者の消費税計算方法
課税事業者が納める消費税は、単純に売上にかかった消費税をそのまま納めるわけではありません。「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いて計算します。この計算方法には、「原則課税」と「簡易課税」の2種類があるんです。
| 計算方法 | 内 容 |
| 原則課税(一般課税) | 売上で預かった消費税額から、仕入れや経費で支払った消費税額を正確に差し引いて納税額を計算する方法です。 |
| 簡易課税 | 事務負担を軽くするための特例制度で、支払った消費税額を計算せず、売上で預かった消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて納税額を計算します。 |
簡易課税制度ってどんな制度?
では、課税事業者が選べる「簡易課税制度」について、もう少し詳しく見ていきましょう。この制度は、特に中小企業の経理の手間を減らすために作られた、とても便利な仕組みなんです。
簡易課税制度を利用できる条件
簡易課税制度は、誰でも利用できるわけではありません。次の2つの条件を両方満たす必要があります。
1. 基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であること。
2. 適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出していること。
この届出書を一度提出すると、原則として2年間は継続して適用する必要があるので、選択は慎重に行いましょう。
みなし仕入率とは?
簡易課税の計算で使う「みなし仕入率」は、事業の種類によって変わります。国が「この業種なら、売上に対してこれくらいの仕入れがあるだろう」と決めた割合のことです。実際の仕入れがこれより少なくても多くても、この率を使って計算します。
| 事業区分 | みなし仕入率 |
| 第1種事業(卸売業) | 90% |
| 第2種事業(小売業など) | 80% |
| 第3種事業(製造業、建設業など) | 70% |
| 第4種事業(飲食店業など) | 60% |
| 第5種事業(サービス業、運輸通信業など) | 50% |
| 第6種事業(不動産業) | 40% |
簡易課税のメリット・デメリット
簡易課税を選ぶことには、良い点と注意すべき点があります。ご自身の事業に合わせてどちらが有利か考えてみましょう。
| メリット | デメリット |
| 消費税の計算が簡単になり、経理の負担が軽くなります。 | 実際に支払った消費税が多くても、その額は考慮されません。そのため、大きな設備投資などがあった年は、原則課税より納税額が高くなる可能性があります。 |
| 実際の仕入れ率がみなし仕入率より低い場合、納税額が少なくなることがあります(節税効果)。 | 一度選択すると、原則2年間は変更できません。 |
免税事業者から簡易課税事業者への変更手続き
インボイス制度の開始をきっかけに、免税事業者から課税事業者になり、さらに簡易課税制度を選びたいと考えている方も多いでしょう。ここでは、その具体的な手続きの流れを解説します。
必要な届出書は?
免税事業者が簡易課税事業者になるためには、基本的に2つの届出書を税務署に提出する必要があります。
| 届出書 | 役 割 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | インボイスを発行するための登録です。これを提出すると、課税事業者になります。 |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 課税事業者になった上で、簡易課税制度を選択するために提出します。 |
提出のタイミングに注意!
届出書を提出するタイミングはとても重要です。原則として、「消費税簡易課税制度選択届出書」は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出しなければなりません。例えば、2025年1月1日から簡易課税の適用を受けたい個人事業主の方は、2024年12月31日までに提出が必要です。
ただし、インボイス制度開始に伴う特例があります。免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合、登録を受ける課税期間中に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税を適用できます。
届出書の提出を忘れたらどうなる?
もし、「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出を忘れてしまった場合、その課税期間は自動的に原則課税で消費税を計算することになります。原則課税は、日々の取引で支払った消費税額を正確に集計する必要があるため、帳簿付けの負担が大きくなります。後から「やっぱり簡易課税が良かった」と思っても変更はできないので、提出期限はしっかり守りましょう。
簡易課税から免税事業者に戻ることはできる?
一度、課税事業者(簡易課税を含む)になった後、「やっぱり売上が少なくなったから免税事業者に戻りたい」と考えることもあるかもしれません。その場合の手続きについても確認しておきましょう。
免税事業者に戻るための条件
簡易課税事業者から免税事業者に戻るためには、まず大前提として、基準期間の課税売上高が1,000万円以下である必要があります。売上が1,000万円を超えている限りは、免税事業者には戻れません。
必要な手続きと注意点
基準期間の売上が1,000万円以下になった上で、免税事業者に戻るには、状況に応じて以下の届出が必要です。
「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」:インボイス登録を取りやめるために提出します。これを出さないと、売上が1,000万円以下でも課税事業者のままです。
「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」:将来、再び課税事業者になったときに、自動的に簡易課税が適用されるのを防ぐために提出します。これを提出しておかないと、次に課税事業者になった際に、原則課税を選びたくても選べなくなってしまう可能性があります。
なお、一度簡易課税を選択すると2年間は変更できないという「2年縛り」があるため、すぐに免税事業者に戻れないケースもあるので注意しましょう。
どんな場合に簡易課税を選ぶと有利?
結局のところ、「原則課税」と「簡易課税」、どちらを選べば良いのでしょうか。有利になるかどうかは、事業の内容によって大きく異なります。具体的なケースを見ていきましょう。
簡易課税が有利になりやすいケース
簡易課税は、実際の経費が少ない事業ほど有利になる傾向があります。例えば、以下のようなケースです。
・フリーランスのデザイナーやコンサルタントなど、仕入れが少なく、技術や知識の提供がメインの事業(第5種事業:みなし仕入率50%)。
・実際の仕入れや経費の割合が、みなし仕入率よりも低い事業全般。
・消費税の計算や記帳の手間を、とにかく減らしたいと考えている方。
原則課税が有利になりやすいケース
逆に、以下のような場合は原則課税の方が有利になる可能性があります。
・輸出業など、売上が免税取引中心で、仕入れには消費税がかかる事業(消費税の還付が受けられるため)。
・店舗の改装や高額な機材の購入など、大きな設備投資を予定している年。支払う消費税額が大きくなるため、原則課税で計算した方が納税額が少なくなる、あるいは還付になることがあります。
・実際の仕入れや経費の割合が、みなし仕入率よりも高い事業全般。
まとめ
今回は、消費税の簡易課税制度と免税事業者からの変更手続きについて解説しました。インボイス制度の導入により、多くの事業者が消費税の仕組みと向き合うことになりました。ご自身の事業の売上や経費の状況をよく確認し、どの選択が最も有利になるか、また経理の負担をどれだけ減らせるかを考えることが大切です。
特に、各種届出書には提出期限があります。「知らなかった」では済まされないこともありますので、変更を検討する際は、計画的に進めるようにしましょう。もし判断に迷う場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
| ポイント | 内 容 |
| 免税事業者とは | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者。 |
| 簡易課税とは | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、届出をすれば選択できる消費税の簡単な計算方法。 |
| 変更手続き | 免税事業者から簡易課税になるには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」と「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要。 |
| 有利な選択 | 経費が少ない事業は簡易課税、設備投資などが多い事業は原則課税が有利になる傾向。 |
| 注意点 | 各種届出には提出期限があり、一度選択すると原則2年間は変更できないなどの縛りがある。 |
参考文献
消費税の簡易課税と免税事業者の変更に関するよくある質問まとめ
Q.免税事業者からインボイス発行事業者になるには、いつまでに手続きが必要ですか?
A.原則、課税事業者になりたい課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。ただしインボイス制度の経過措置により、2029年9月30日までは、登録希望日から15日前までに登録申請書を提出すれば、その登録日から課税事業者になることができます。
Q.課税事業者になった後、簡易課税制度を利用するにはどうすればいいですか?
A.簡易課税制度の適用を受けたい課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
Q.インボイス登録を機に課税事業者になりましたが、簡易課税の届出を忘れてしまいました。何か救済措置はありますか?
A.はい、「2割特例」という制度が利用できます。インボイス制度を機に免税から課税事業者になった場合、事前の届出なしで、売上にかかる消費税額の2割を納税額にできます。この特例は2026年9月30日の属する課税期間まで適用可能です。
Q.一度選択した簡易課税制度をやめることはできますか?
A.はい、可能です。「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、適用をやめたい課税期間の初日の前日までに提出します。ただし、簡易課税制度は原則として2年間継続して適用する必要があるためご注意ください。
Q.一度課税事業者になった後、売上が1,000万円以下になったら免税事業者に戻れますか?
A.はい、戻れます。基準期間の課税売上高が1,000万円以下になった場合、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出し、インボイス発行事業者の登録を取り消す手続きを行えば、翌課税期間から免税事業者に戻ることが可能です。
Q.インボイスの登録申請と簡易課税の届出は、どちらを先にすべきですか?
A.どちらを先にしても手続き上は問題ありません。ただし、インボイス登録と同時に課税事業者になる場合、その課税期間の末日までに簡易課税の届出書を提出すれば適用が認められる特例がありますので、ご自身の状況に合わせて進めましょう。