ご家族が亡くなられ、準確定申告を済まされたとのこと、お疲れ様でございます。所得税の申告は一段落したものの、「これに対応する住民税や事業税はいつ、どうなるの?」「相続税の申告で、未払いの税金として計上できるのかな?」といった新たな疑問が出てきますよね。特に相続税申告では、故人の債務をきちんと計上することが節税に繋がるため、とても大切なポイントです。この記事では、準確定申告後の住民税と事業税の扱いや、それらを相続税申告で債務控除できるのかについて、分かりやすく解説していきます。
準確定申告後の住民税はどうなる?
まずは、多くの方が気になる住民税について見ていきましょう。実は、準確定申告で計算した所得に対して、住民税が課税されることはありません。その理由を、住民税の仕組みからご説明しますね。
住民税の課税の仕組み「賦課期日主義」
住民税は、前年1年間の所得をもとに計算され、その年の1月1日(これを賦課期日といいます)に住所がある市区町村で課税されるというルールになっています。これを「賦課期日主義」と呼びます。例えば、令和5年中の所得に対する住民税は、令和6年1月1日に住所がある場所で課税され、令和6年6月頃から納付が始まります。
亡くなった年の所得に対する住民税は課税されない
ここが重要なポイントです。準確定申告は、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得について行います。仮に令和6年10月1日に亡くなった場合、準確定申告の対象は令和6年1月1日から10月1日までの所得です。
この所得に対する住民税が課税されるのは、翌年の令和7年1月1日時点となります。しかし、令和7年1月1日の時点で故人はこの世に存在しないため、課税対象者がいないことになります。そのため、準確定申告で申告した所得に対する住民税は課税されないのです。
未納の住民税は債務控除の対象に
では、すべての住民税が関係なくなるかというと、そうではありません。亡くなった年に支払うべき住民税は、前年の所得に対して課税されたものです。例えば、令和6年に亡くなった場合、令和6年6月から納付が始まる住民税は、令和5年中の所得にかかるものです。
この住民税に未納分があった場合、それは故人が支払うべきだった「確定した債務」となります。したがって、この未納分は相続税申告において債務控除の対象となります。
準確定申告後の事業税はどうなる?
次に、故人が個人事業主だった場合の事業税についてです。事業税の扱いは住民税とは異なり、注意が必要です。住民税と違い、亡くなった年の所得に対しても事業税は課税されます。
事業税の課税の仕組み
個人事業税は、前年中の事業所得が290万円(事業主控除)を超えた場合に、その事業所の所在地の都道府県から課税される税金です。通常、所得税の確定申告書を提出すると、その情報が都道府県に連携され、8月頃に納税通知書が送られてきます。
準確定申告を行った場合も同様に、その申告内容に基づいて個人事業税が計算されます。
亡くなった年の所得に対する事業税も課税対象
住民税と大きく違うのは、事業税には「賦課期日」という考え方がない点です。そのため、準確定申告で申告した亡くなった年の所得に対しても、事業税は課税されます。
準確定申告書を提出後、しばらくすると都道府県税事務所から納税通知書が送られてきます。この税金は、故人の事業活動によって生じたものですから、相続財産から支払うべき債務となります。
未払いの事業税は債務控除の対象に
準確定申告によって発生した事業税は、故人の債務です。そのため、この納税額は相続税申告において債務控除の対象となります。また、前年の所得に対する事業税(通常8月と11月に納付)に未納分があった場合も、同様に債務控除の対象となります。
未払いの税金を相続税申告で債務控除する
相続税は、故人が遺したプラスの財産(預貯金、不動産など)の合計から、マイナスの財産(借入金、未払金など)を差し引いた金額を基に計算されます。このマイナスの財産を差し引くことを債務控除と呼びます。未払いの税金もこの債務に含まれるため、漏れなく計上することが大切です。
債務控除できる税金・できない税金のまとめ
ここで、準確定申告に関連する税金が債務控除の対象になるかどうかを整理してみましょう。
| 税金の種類 | 債務控除の可否 |
| 準確定申告で納付した所得税 | できる |
| 前年所得に対する未納の住民税 | できる |
| 亡くなった年の所得に対する住民税 | できない(そもそも課税されないため) |
| 前年所得に対する未納の事業税 | できる |
| 亡くなった年の所得に対する事業税 | できる |
| 相続人の責任で発生した延滞税や加算税 | できない |
このように、住民税と事業税では扱いが異なる点をしっかり押さえておくことが重要です。
具体的なケースで流れを確認しよう
もう少し具体的にイメージするために、例を挙げて見てみましょう。
【例】個人事業主だった方が令和6年7月31日に亡くなった場合
- 所得税(準確定申告)
- 対象期間:令和6年1月1日~7月31日
- 申告・納税期限:令和6年11月30日まで
- この時に納付した所得税は、相続税の債務控除の対象になります。
- 住民税
- 令和5年分の所得に対する住民税(令和6年度分):令和6年6月から納付が始まっています。もし亡くなった時点で第2期分以降の未納があれば、その未納額は債務控除の対象になります。
- 令和6年分の所得に対する住民税(令和7年度分):準確定申告した所得に対する住民税です。令和7年1月1日には故人は存在しないため、課税されません。
- 事業税
- 令和5年分の所得に対する事業税:令和6年8月頃に納税通知書が届きます。この税額は全額、債務控除の対象になります。
- 令和6年分の所得に対する事業税:準確定申告の内容に基づき、後日納税通知書が届きます。この税額も債務控除の対象になります。
まとめ
最後に、今回のポイントをまとめます。
- 準確定申告で申告した所得に対して、住民税は課税されません。
- 一方で、事業税は課税されます。
- 亡くなった時点で未納だった前年分の住民税や事業税は、相続税の債務控除の対象です。
- 準確定申告で納付した所得税や、それによって発生した事業税も債務控除の対象になります。
相続手続きは、準確定申告から相続税申告まで、さまざまな税金が複雑に関わってきます。特に債務控除は、相続税額に直接影響する重要な項目です。もし少しでも不安な点があれば、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
準確定申告後の住民税・事業税に関するよくある質問
Q.準確定申告をした後、住民税はいつ、どのように通知されますか?
A.住民税は、その年の1月1日現在にお住まいの区市町村で、前年中の所得に対して課税されます。したがって、 昨年中に亡くなった方に対しては、前年中所得が発生していても、今年度の住民税は課税されません。
Q.準確定申告をした後、個人事業税はいつ通知されますか?
A.個人事業税は、準確定申告の内容を基に都道府県が計算し、通常、亡くなった年の8月頃に納税通知書が送付されます。ただし、自治体によって時期が異なる場合があります。
Q.故人の住民税や事業税は、相続税申告で考慮すべきですか?
A.はい、考慮すべきです。亡くなった日時点で未払いの住民税や事業税は、故人の「債務」として相続財産から控除できます。これにより相続税の負担が軽減される可能性があります。
Q.納税通知書が届く前に相続税申告の期限がきます。どうすればよいですか?
A.準確定申告書を基に住民税額や事業税額を見積もり計算し、その金額を「未払税金」として相続税申告書に計上します。後日、確定した税額と差額があれば修正申告等を検討します。
Q.故人の住民税や事業税の支払い義務は誰にありますか?
A.納税義務は相続人が承継します。納税通知書は相続人の代表者宛に送付され、相続人が支払うことになります。この支払うべき税金が相続税の債務控除の対象となります。
Q.準確定申告で所得税が還付された場合、住民税・事業税はかからないのですか?
A.所得税が還付された場合でも、前年中の事業の所得によっては事業税が課税されることがあります。所得税の計算方法と事業税の計算方法は異なるため、必ずしも連動するわけではありません。また住民税は、前年中の所得に対して課税されるため翌年の1月1日現在では既にご逝去されているため、準確定申告をした翌年の住民税は課税されません。