お父様が亡くなられ、深い悲しみの中、様々な手続きに直面されていることと思います。今回は、ご両親の共有名義になっていた土地について、お母様の持ち分を今後どうすればよいのか、生前贈与と相続のどちらがご家族にとって得になるのかを詳しく解説いたします。
生前贈与と相続の違いとそれぞれの基本的な仕組み
財産を次の世代へ引き継ぐ方法には、お母様がご存命のうちに譲り受ける生前贈与と、万が一のことがあった後に引き継ぐ相続の2種類があります。課税される税金の種類や非課税となる枠の大きさが異なります。
生前贈与とは?贈与税の基本と基礎控除
生前贈与は、お母様が生きている間に財産を譲り受ける方法です。贈与税には、財産をもらう人1人あたり年間110万円まで非課税となる基礎控除が用意されています。長い期間をかけて少しずつ贈与すれば、大きな節税効果が期待できます。
| 適用される税金 | 贈与税 |
| 非課税枠(基礎控除) | 年間110万円 |
相続とは?相続税の基本と基礎控除
相続は、お母様が亡くなられた後に財産を引き継ぐ方法です。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という大きな基礎控除枠があります。お母様の財産の総額がこの枠内に収まるのであれば、そもそも相続税はかかりません。
税率の比較!贈与税は高いって本当?
一般的に、贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。しかし、贈与税の基礎控除を利用して数年に分けて土地の持ち分を移転させることで、結果的に相続税として一度にまとめて支払うよりも税金の負担を軽くできるケースも多々あります。
お母様の土地の持ち分を生前贈与するメリット
お母様名義の土地の持ち分を生前贈与することには、税金面以外にもいくつかのメリットがあります。
暦年贈与を活用して将来の相続財産を減らせる
年間110万円の枠内で土地の持ち分を少しずつ贈与する暦年贈与を活用すれば、将来お母様が亡くなられた際の相続財産を確実に減らすことができます。結果として、残されたご家族の相続税負担を大きく軽減できます。
| 贈与を行う期間 | 非課税となる総額 |
| 10年間継続した場合 | 1,100万円分の持ち分移転が可能 |
相続時精算課税制度でまとまった持ち分を移転
60歳以上の親から18歳以上の子や孫へ贈与する場合、2,500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税制度を利用できます。さらに令和6年からは年間110万円の基礎控除も追加され、まとまった土地の持ち分を早期に引き継ぐ際に使い勝手が非常に良くなりました。
将来値上がりしそうな土地に有効
都市開発などで将来的に土地の価格が上がることが予想される場合、評価額が低いうちに生前贈与を済ませておくことで、将来高くなった評価額で相続税を計算されるのを防ぎ、結果として税金の負担を抑えることができます。
生前贈与を選ぶ際の注意点とデメリット
メリットの多い生前贈与ですが、不動産特有の注意点や税務上のリスクも存在します。
不動産取得税や登録免許税などのコストがかかる
土地を生前贈与で受け取ると、相続の場合にはかからない不動産取得税が課税されます。また、名義変更のための登録免許税も、相続の場合に比べて高額になるため注意が必要です。
| 取得方法 | 登録免許税の税率 |
| 相続による取得 | 固定資産税評価額の0.4% |
| 生前贈与による取得 | 固定資産税評価額の2.0% |
生前贈与加算(持ち戻し)に要注意
お母様が亡くなる前に行われた一定期間内の生前贈与は、無効とみなされて相続財産に加算される生前贈与加算というルールがあります。令和6年以降、この加算期間が亡くなる前の3年間から7年間へ段階的に延長されているため、早めの対策が求められます。
小規模宅地等の特例が使えなくなるリスク
お母様と同居している場合など、土地の評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例という強力な制度があります。しかし、生前贈与で土地を受け取ってしまうと、この特例が使えなくなり、かえって税金が高くなる恐れがあります。
相続を待った方が得になるケースとは?
必ずしも生前贈与が正解とは限りません。状況によってはお母様の相続が発生するまで待った方が得になるケースもあります。
お母様の全財産が基礎控除額以下の場合
お母様の預貯金や土地の持ち分を合わせた総財産が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除額以下であれば、相続税は1円もかかりません。この場合、あえて名義変更の費用をかけて生前贈与を行う必要はありません。
小規模宅地等の特例を利用できる場合
前述の通り、土地の評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例を活用できれば、相続税を大幅に抑えることができます。同居要件などを満たしている場合は、あえて生前贈与をせずに相続を待つ方が税制上有利です。
| 適用前 | 特例適用後(80%減額) |
| 評価額3,000万円の土地 | 評価額600万円として計算 |
結局どちらが得?判断するための具体的なステップ
ご家族の状況に合わせて、生前贈与と相続のどちらがお得かを見極めるための具体的なステップをご紹介します。
お母様の財産総額と相続税の基礎控除を把握する
まずは、土地の評価額とお母様名義の預貯金などの合計額を計算しましょう。その合計額が相続税の基礎控除額を上回るかどうかで、今後生前贈与を行うべきかどうかの方向性が大きく変わってきます。
土地の名義変更にかかる経費をシミュレーションする
生前贈与を行う場合は、贈与税だけでなく、不動産取得税や登録免許税といった諸経費の計算も必須です。これらの経費と将来軽減できる相続税の額を比較して、本当に得になるかを慎重に判断してください。
まとめ
お父様が亡くなられた後の、共有名義だった土地のお母様の持ち分については、財産の総額や同居の有無、今後の法改正などを総合的に考慮して判断する必要があります。生前贈与で少しずつ移転させるのが良いか、相続時精算課税制度を利用するか、あるいは相続を待つべきか、ご家族でしっかりと話し合い、早めの計画を立てることをおすすめします。
参考文献
国税庁:No.4152 相続税の計算
国税庁:No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
生前贈与と相続のよくある質問まとめ
Q.父が亡くなったので、母名義の土地の持ち分をすぐに自分へ名義変更すべきですか?
A.すぐに変更する必要はありません。贈与税や不動産取得税がかかる場合があるため、お母様の全財産が相続税の基礎控除内かどうかを確認してから検討することをおすすめします。
Q.土地の持ち分を毎年110万円ずつ生前贈与することは可能ですか?
A.可能です。ただし、土地の評価額を計算し、110万円分に相当する持ち分を毎年登記し直す必要があるため、その都度登録免許税などの経費や手間がかかる点に注意が必要です。
Q.小規模宅地等の特例は生前贈与でも使えますか?
A.小規模宅地等の特例は、相続または遺贈によって土地を取得した場合にのみ適用される制度です。そのため、生前贈与で土地を受け取った場合には利用することができません。
Q.相続時精算課税制度を利用して土地をもらうメリットは何ですか?
A.2,500万円までの特別控除に加え、令和6年からは年間110万円の基礎控除も利用できるため、まとまった価値の土地を贈与税をかけずに早期にお子様へ引き継げる点が大きなメリットです。
Q.生前贈与から3年以内に母が亡くなった場合、贈与された土地はどうなりますか?
A.亡くなる前一定期間内(令和6年以降は段階的に3年から7年へ延長)に行われた生前贈与は、相続財産として持ち戻して相続税が計算されます。そのため、生前贈与の節税効果が薄れてしまいます。
Q.土地を相続で受け取るのと生前贈与で受け取るのでは、税金の種類はどう違いますか?
A.相続の場合は相続税がかかりますが不動産取得税はかからず、登録免許税も0.4%です。一方、生前贈与の場合は贈与税に加え、不動産取得税と2.0%の登録免許税がかかります。