ご家族の相続で、相続人の中に障害をお持ちの方がいらっしゃる場合、相続税の負担を大きく軽減できる「障害者控除」という制度があります。すでにお父様の相続(一次相続)でこの制度を利用された方もいらっしゃるかもしれませんね。その場合、「次にお母様の相続(二次相続)が起きたとき、もう一度この控除は使えるのだろうか?」と疑問に思うのは自然なことです。結論からお伝えしますと、障害者控除は、お母様の相続でも利用できる可能性があります。ただし、2回目に利用する際には、控除できる金額に一定のルールがあるんです。この記事では、お父様の相続に続いてお母様の相続が発生した場合に、障害者控除が再び使えるのか、そしてその際の計算方法や大切な注意点について、わかりやすく解説していきます。
相続税の障害者控除とは?まずはおさらい
まずはじめに、相続税の障害者控除がどのような制度なのか、基本的なポイントを一緒におさらいしておきましょう。この制度は、障害のある相続人の方の、相続後の生活の負担を軽くするために設けられています。
障害者控除の適用要件
障害者控除を利用するためには、次の4つの要件をすべて満たしている必要があります。
要 件 | 内 容 |
財産の取得 | 相続や遺言によって財産を取得していること |
住所 | 財産を取得したときに日本国内に住所があること |
障害の状態 | 財産を取得したときに法律で定められた障害者であること |
相続人の立場 | 亡くなった方の法定相続人であること |
特に大切なのは「法定相続人であること」です。例えば、遺言でお孫さんが財産を受け取った場合でも、代襲相続などで法定相続人になっていない限り、障害者控除は使えないので注意が必要ですね。
控除額の計算方法
障害者控除の金額は、相続人の方の年齢と障害の程度によって決まります。計算式は以下の通りです。
(85歳 - 相続が始まった日の年齢) × 10万円(一般障害者の場合)
(85歳 - 相続が始まった日の年齢) × 20万円(特別障害者の場合)
この計算で使う年齢は、例えば「50歳6ヶ月」のように1年未満の端数がある場合、切り上げて「51年」として計算します。納税する方にとって少しでも有利になるように配慮されているんですね。
一般障害者と特別障害者の違い
控除額の計算で出てきた「一般障害者」と「特別障害者」は、障害の程度によって区分されています。お手元の障害者手帳などで確認してみましょう。
区分 | 主な該当者 |
一般障害者 | ・身体障害者手帳3級~6級 ・精神障害者保健福祉手帳2級・3級 ・療育手帳(愛の手帳など)のB・C判定など |
特別障害者 | ・身体障害者手帳1級・2級 ・精神障害者保健福祉手帳1級 ・療育手帳(愛の手帳など)のA判定(重度)など ・成年被後見人の方 |
【本題】父の次に母の相続…2回目の障害者控除は使える?
それでは、この記事の核心である「お父様の相続の次に、お母様の相続でも障害者控除は使えるのか?」という点について解説します。答えは「はい、使えます」です。障害者控除は、一度使ったら終わりという制度ではありません。
ただし、ここが一番のポイントですが、2回目に使える控除額は、1回目の相続(父の相続)で使いきれなかった控除額が上限になるというルールがあります。つまり、1回目の相続で控除額をすべて使い切ってしまった場合は、残念ながら2回目の相続では利用することができません。次の章で、この計算方法を詳しく見ていきましょう。
2回目の障害者控除額の計算方法
お母様の相続(二次相続)で使える障害者控除の金額は、お父様の相続(一次相続)の状況によって変わります。少し複雑に感じるかもしれませんが、仕組みを理解すれば大丈夫ですよ。
1回目の相続で控除額を使い切っていない場合
1回目の相続で、計算された控除額がご自身の相続税額よりも大きく、全額を使いきれなかった場合、その「残額」が重要になります。2回目の相続で使える控除額は、次のAとBを比べて、金額が少ない方になります。
- A:2回目の相続(母の相続)の時の年齢で計算した、本来の障害者控除額
- B:1回目の相続(父の相続)で使いきれなかった控除額
例えば、お父様の相続の時に控除しきれなかった金額が200万円あったとします。そして、お母様の相続の時に計算した控除額が600万円だったとしても、このケースで使えるのは少ない方の200万円ということになります。
1回目の相続で控除額を全額使い切った場合
1回目の相続で、計算した控除額をすべてご自身の相続税から差し引くことができた場合、または、使いきれない分を兄弟などの扶養義務者の相続税から差し引いて全額を使い切った場合はどうでしょうか。この場合、「1回目に使いきれなかった控除額」は0円ということになります。そのため、2回目の相続では障害者控除を利用することはできません。
具体的な計算例でシミュレーションしてみよう
言葉だけだと少しイメージしづらいかもしれませんので、具体的な数字を使ってシミュレーションしてみましょう。
【ケース設定】
- 相続人Aさん:特別障害者
- 一次相続(父):Aさん 50歳の時に発生。Aさんの相続税額は500万円。
- 二次相続(母):Aさん 55歳の時に発生。Aさんの相続税額は400万円。
- (※他に扶養義務者となる相続人はいないと仮定します)
一次相続(父の相続)での計算
まず、お父様の相続の時の控除額を計算します。
障害者控除額:(85歳 – 50歳) × 20万円 = 700万円
Aさんの相続税額は500万円なので、控除額700万円を差し引くと、相続税は0円になります。このとき、まだ控除額に余裕がありますね。
控除しきれなかった額:700万円(控除額) – 500万円(相続税額) = 200万円
この200万円という金額が、次の二次相続で重要になります。
二次相続(母の相続)での計算
次にお母様の相続です。まず、この時点でのAさんの年齢で控除額を計算します。
二次相続での控除額(A):(85歳 – 55歳) × 20万円 = 600万円
次に、一次相続で使いきれなかった額を確認します。
一次相続で控除しきれなかった額(B):200万円
ルールに従い、A(600万円)とB(200万円)の少ない方の金額が、今回使える控除額の上限となります。つまり、200万円です。
Aさんの二次相続での相続税額は400万円でしたので、ここから200万円を控除します。
最終的な納税額:400万円(相続税額) – 200万円(控除額) = 200万円
このように、2回目の相続でも控除は使えますが、使える金額は1回目の状況によって決まる、という仕組みになっています。
障害者控除を2回使うときの注意点
二次相続で障害者控除を正しく適用するためには、いくつか注意しておきたい点があります。ぜひ覚えておいてくださいね。
1回目の相続の記録を必ず保管しておく
二次相続での控除額を計算するためには、「一次相続でいくら控除額があり、実際にいくら使ったのか」という情報が不可欠です。一次相続で障害者控除を使った結果、相続税が0円になり申告をしなかった場合でも、計算の根拠となった書類やメモは必ず大切に保管しておきましょう。これが無いと、二次相続の際に正確な控除額が計算できなくなってしまいます。
扶養義務者で控除した場合も計算に含める
一次相続で、ご自身の相続税から控除しきれなかった分を、ご兄弟など他の扶養義務者の相続税から差し引いた場合、その金額も「1回目で使った控除額」に含まれます。控除しきれなかった額を計算する際には、扶養義務者が使った分も忘れずに差し引いて計算するようにしましょう。
まとめ
今回は、お父様の相続に続いてお母様の相続でも障害者控除が使えるか、というテーマについて解説しました。最後に大切なポイントをまとめておきますね。
- 障害者控除は、父の相続、母の相続と複数回にわたって利用できる可能性があります。
- 2回目に使える控除額の上限は、1回目の相続で使いきれなかった控除額です。
- 1回目の相続で控除額を全額使い切ってしまった場合、2回目は利用できません。
- 二次相続に備えて、一次相続の際の申告書や計算の記録を必ず保管しておくことが非常に重要です。
相続税の計算、特に二次相続まで考慮した控除の適用は複雑になることがあります。もしご自身での判断に不安を感じる場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談してみるのも一つの良い方法ですよ。
参考文献
相続税の障害者控除は何度でも使える?よくある質問まとめ
Q. 父の相続で障害者控除を使いました。次に母が亡くなった時の相続でも、同じ人が障害者控除を使えますか?
A. はい、使えます。相続税の障害者控除は、相続ごとに適用要件を満たしていれば何度でも利用できます。
Q. 障害者控除の金額は、前の相続で使った分が引かれますか?
A. いいえ、引かれません。障害者控除の額は、相続が発生するたびに改めて計算されます。したがって、父の相続で控除を使ったとしても、母の相続での控除額が減ることはありません。
Q. 障害者控除の計算方法を教えてください。
A. 障害者控除額は「(85歳 - 相続開始日の年齢)× 10万円(特別障害者の場合は20万円)」で計算します。年齢は1年未満を切り上げて計算します。
Q. 父の相続の時に、障害者控除額が相続税額より大きくて使いきれませんでした。余った分を母の相続で使えますか?
A. いいえ、使いきれなかった控除額を次の相続に繰り越すことはできません。ただし、その相続で控除しきれない額は、その障害者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。
Q. 障害者控除を受けるための要件は何ですか?
A. 次の3つの要件をすべて満たす必要があります。①相続開始日に日本国内に住所があること、②相続や遺贈で財産を取得した法定相続人であること、③相続開始日に85歳未満で、障害者手帳などを持っている障害者であることです。
Q. 障害者控除の適用を受けるには、どのような手続きが必要ですか?
A. 相続税の申告書に、障害者控除を適用する旨と控除額を記載し、障害者手帳のコピーなどの証明書類を添付して税務署に提出する必要があります。