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特定居住用宅地等の特例、申告期限まで居住は必須?保有要件との違いを解説

2025-04-29
目次

ご家族が亡くなり、ご自宅を相続されたとき、相続税の負担が心配になりますよね。そんなときに非常に役立つのが「小規模宅地等の特例」の中の「特定居住用宅地等」の制度です。この特例を使えると、土地の評価額が最大で80%も減額され、相続税を大幅に抑えることができます。しかし、この特例は誰が土地を相続するかによって適用できる条件が大きく異なります。特に「申告期限まで土地を持ち続ける」という保有要件と、「申告期限までその家に住み続ける」という居住要件の違いを正しく理解することがとても重要です。今回は、特に誤解の多いこの2つの要件について、誰にどちらが適用されるのか、分かりやすく解説していきます。

特定居住用宅地等の特例とは?

特定居住用宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一つにしていたご家族が住んでいた土地を相続した場合に、その土地の評価額を330㎡(約100坪)を上限として80%減額できる制度です。この制度は、相続によって残された家族が住む場所を失ってしまうことがないように、生活の基盤を守る目的で設けられています。

特例の対象となる人(取得者)

この特例の大きな特徴は、土地を相続する「人」によって、満たすべき要件が変わってくる点です。主に、以下の3つのパターンに分けられます。

  • 配偶者
  • 被相続人と同居していた親族
  • 被相続人と別居していた親族(いわゆる「家なき子」)

それぞれの立場で、求められる「保有要件」や「居住要件」が異なりますので、次で詳しく見ていきましょう。

なぜ要件がこんなに複雑なの?

最大80%もの評価額減額は、相続税において絶大な節税効果があります。そのため、この制度を意図的に利用した過度な節税(租税回避)を防ぐ目的で、法律によって非常に厳格な要件が定められています。特に「家なき子」と呼ばれる別居親族が適用を受ける場合は、さらに細かい条件が加わります。ご自身の状況がどの要件に当てはまるのかを正確に把握することが、特例適用のカギとなります。

どれくらい減額される?シミュレーション

この特例の効果を具体的に見てみましょう。例えば、評価額が1億円、面積が300㎡の土地を相続した場合で考えてみます。

特例を適用しない場合 土地の評価額:1億円
特例を適用した場合 1億円 × 80% = 8,000万円(減額)
土地の評価額:1億円 – 8,000万円 = 2,000万円

このように、特例を適用できるかどうかで、相続税の計算の基になる財産の評価額が劇的に変わることがお分かりいただけるかと思います。

取得者別!居住要件と保有要件を徹底比較

ここが今回の最も重要なポイントです。「保有要件(申告期限まで土地を手放さない)」と「居住要件(申告期限まで住み続ける)」は、誰が土地を取得するかによって扱いが全く異なります。一つずつ確認していきましょう。

配偶者が取得する場合

被相続人の配偶者が土地を相続する場合、居住要件も保有要件もありません。これは、残された配偶者の生活保障を最優先に考えているためです。つまり、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)より前にその土地を売却したり、別の場所に引っ越したりしても、問題なく特例の適用を受けることができます。

同居親族が取得する場合

亡くなった方と同居していたお子さんなどが土地を相続する場合には、「保有要件」と「居住要件」の両方を満たす必要があります。具体的には、以下の2つです。

  • 相続税の申告期限まで、その土地を所有し続けること(保有要件)
  • 相続税の申告期限まで、その土地の上にある家に住み続けること(居住要件)

もし、申告期限より前に土地を売却してしまったり、転勤などの理由で引っ越してしまったりすると、原則としてこの特例は使えなくなってしまいますので、十分な注意が必要です。

別居親族(家なき子)が取得する場合

亡くなった方とは別に暮らしていた親族が土地を相続する場合、一定の厳しい要件を満たせば「家なき子特例」として特例の対象になります。この場合、「保有要件」は必要ですが、「居住要件」は求められません。

つまり、申告期限まで土地を売却することはできませんが、その家に住む必要はありません。相続した家を空き家にしておいたり、賃貸に出したりすることも可能です。ただし、「家なき子」と認められるためには、被相続人に配偶者や同居の相続人がいないことや、相続人が過去3年間、自分や親族が所有する家に住んでいないことなど、非常に厳しい条件をクリアする必要があります。

【重要】取得者ごとの要件まとめ表

これまでの内容をまとめると、以下のようになります。

取得者 保有要件(申告期限まで所有)
配偶者 不要
同居親族 必要
別居親族(家なき子) 必要
取得者 居住要件(申告期限まで居住)
配偶者 不要
同居親族 必要
別居親族(家なき子) 不要

この表から分かるように、キーワードの「家なき子以外は『居住要件』も重要な要件」というのは、まさに同居親族のことを指しているのです。

「家なき子特例」の注意点

「家なき子特例」は、別居していても使える便利な制度に見えますが、適用へのハードルは非常に高いのが実情です。

被相続人の状況が問われる

まず大前提として、亡くなった方に配偶者がおらず、かつ、同居している法定相続人(相続放棄した人も含みます)がいないことが要件です。配偶者がご存命の一次相続では、基本的にこの特例の出番はありません。

相続人自身の居住状況が問われる

最も厳しいのが相続人自身の要件です。「相続開始前3年以内に、ご自身や配偶者、3親等内の親族などが所有する家屋に住んだことがないこと」が求められます。例えば、親名義の実家で親とは別に暮らしている場合や、兄弟が所有するマンションに住んでいる場合なども、この要件に抵触する可能性があり、特例が使えません。

平成30年度税制改正でさらに厳格化

以前はこの要件がもう少し緩やかでしたが、制度の悪用を防ぐために平成30年度の税制改正で要件が厳しくなりました。ご自身が「家なき子」に該当するかどうかは、専門家でなければ判断が難しいケースが多いため、自己判断は禁物です。

こんなときはどうなる?ケーススタディ

具体的な事例をもとに、特例が使えるかどうかを見ていきましょう。

ケース1:同居していた長男が相続後、申告前に転勤になった

この場合、長男は「同居親族」にあたるため、「居住要件」が必要です。残念ながら、相続税の申告期限よりも前に転勤で引っ越してしまうと、生活の基盤が移ったとみなされ、特例は適用できなくなります。ただし、長男本人のみが単身赴任し、ご家族がその家に住み続けるといったケースでは、適用が認められる可能性もあります。

ケース2:賃貸暮らしの次男(家なき子)が相続後、申告前にその家を賃貸に出した

次男が「家なき子」の要件を満たしている場合、「居住要件」は不要です。そのため、相続した家に自分で住む必要はなく、申告期限前に第三者に賃貸に出しても特例の適用は可能です。ただし、「保有要件」はあるため、申告期限までに売却してしまうと適用できなくなります。

ケース3:被相続人が老人ホームに入居していた

亡くなった方が老人ホームに入居していた場合でも、一定の要件を満たせば、その方が亡くなるまで所有していたご自宅の土地に特例を適用できます。主な要件は以下の通りです。

  • 被相続人が要介護認定や要支援認定を受けていたこと
  • 老人ホーム入居後、自宅を誰かに貸したりしていなかったこと

これらの要件を満たせば、その土地は「被相続人が居住していた土地」として扱われます。そのうえで、土地を相続する親族が「同居親族(※)」または「家なき子」の要件を満たすかどうかを判断することになります。

※この場合の同居親族とは、被相続人が老人ホームに入る直前に同居しており、かつ、その後もその家に住み続けている親族を指します。

特例の適用を受けるための手続き

この特例は、自動的に適用されるわけではありません。ご自身で要件を満たしていることを証明し、相続税の申告を行う必要があります。

相続税申告が必須

最も重要な注意点は、特例を適用した結果、納める相続税額が0円になったとしても、相続税の申告手続きそのものは必ず行わなければならない、という点です。申告を忘れてしまうと、特例は適用されず、後から多額の税金とペナルティ(延滞税や無申告加算税)が課せられる可能性があります。申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

必要な添付書類

相続税申告書に加えて、特例の適用を受けるためには以下のような書類の添付が必要です。

  • 小規模宅地等に係る計算の明細書
  • 遺言書または遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで全て)

さらに、家なき子特例を適用する場合には、ご自身の居住状況を証明するために、戸籍の附票の写しや、お住まいの家の賃貸借契約書の写しなども必要になります。

まとめ

今回は、特定居住用宅地等の特例における「保有要件」と「居住要件」について解説しました。最後にポイントを振り返りましょう。

  • 特定居住用宅地等の特例は、土地を相続する人によって要件が大きく異なる。
  • 配偶者が相続する場合は、保有要件も居住要件も不要
  • 同居親族が相続する場合は、保有要件と居住要件の両方が必要。申告期限までの売却・引っ越しは原則NG。
  • 別居親族(家なき子)が相続する場合は、保有要件のみ必要で、居住要件は不要。ただし、適用ハードルは非常に高い。
  • 特例を受けるには、相続税額が0円でも申告が必須

このように、特定居住用宅地等の特例は非常に強力な節税策ですが、その要件は複雑です。特に同居親族の方が相続される場合は、申告が終わるまでうっかり引っ越してしまった、ということのないよう、くれぐれもご注意ください。要件の判定に少しでも不安がある場合は、必ず相続専門の税理士に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

特定居住用宅地等の特例に関するよくある質問

Q.特定居住用宅地等の特例とは何ですか?

A.亡くなった方が住んでいたご自宅の土地などを相続した場合に、一定の面積(330㎡)まで、その土地の相続税評価額を80%減額できる制度です。相続税の負担を大幅に軽減することができます。

Q.同居していた親族が相続した場合、申告前に引っ越しても特例は使えますか?

A.いいえ、原則として使えません。同居親族が相続する場合には、「相続税の申告期限までその家に住み続ける」という居住要件があるため、申告期限前に引っ越してしまうと特例の対象外となります。

Q.家なき子特例とは何ですか?居住要件はありますか?

A.亡くなった方と別居していた親族が、一定の厳しい要件を満たした場合に適用できる特例です。この特例には「申告期限まで土地を保有する」という保有要件はありますが、「申告期限まで住み続ける」という居住要件はありません。

Q.配偶者が相続する場合の要件を教えてください。

A.配偶者が相続する場合、特別な要件はありません。居住要件も保有要件も課されないため、相続後すぐに土地を売却したり、引っ越したりしても特例を適用できます。

Q.特例を使ったら相続税が0円になりました。申告は必要ですか?

A.はい、必ず必要です。小規模宅地等の特例は、相続税の申告をすることによって初めて適用が認められる制度です。計算上、納税額が0円になったとしても、申告期限内(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)に必ず相続税の申告書を税務署に提出してください。

Q.申告期限までに土地を売却してしまったらどうなりますか?

A.配偶者以外の親族(同居・家なき子ともに)が相続した場合、特例は適用できなくなります。配偶者以外の親族には「申告期限まで土地を保有し続ける」という保有要件が課されているためです。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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