税理士法人プライムパートナーズ

現行定款の再作成、その論拠は?
法令を基に手続きを徹底解説

2025-05-08
目次

会社の「憲法」ともいわれる大切な定款。「設立してから時間が経って、何度も変更を重ねた結果、どれが最新版かわからなくなってしまった…」「そもそも紛失してしまった…」なんてことはありませんか?特に、会社設立から20年以上が経過すると、公証役場での保管期間も過ぎてしまい、設立当初の「原始定款」を入手することさえ難しくなります。そんなときに必要になるのが、現在の会社の実態に合わせて自社で定款を復元する「現行定款」の再作成です。でも、「本当に自分たちで作ってしまって大丈夫なの?」「その法的な根拠はどこにあるの?」と不安に感じますよね。この記事では、現行定款を再作成するという考え方の論拠となる法令や、具体的な手続きについて、誰にでもわかるように優しく解説していきます。

「現行定款」を再作成するってどういうこと?

まず、「現行定款を再作成する」という言葉の意味から整理していきましょう。会社の定款は、一度作ったら終わりではありません。会社の成長や状況の変化に合わせて、事業目的を追加したり、役員の構成を変えたりと、中身を更新していく必要があります。この「今、現在、効力を持っている最新版の定款」こそが現行定款です。もし、この現行定款がどこにあるかわからなくなってしまった場合、会社のルールブックがない状態になってしまいます。そこで、現在の会社の正しい姿を反映させた定款を、改めて作り直す作業が「再作成」や「復元」と呼ばれているのです。

現行定款と原始定款の違い

定款には大きく分けて「原始定款」と「現行定款」の2種類があります。この違いを理解することが、再作成の考え方を理解する第一歩になります。簡単に言うと、原始定款は「生まれたときの姿」、現行定款は「現在の姿」です。

種類 説  明
原始定款 会社を設立したときに一番最初に作成し、公証役場で認証を受けた定款のことです。会社の戸籍謄本のようなイメージですね。
現行定款 原始定款作成後、事業目的の追加や本店の移転などで変更を重ねた、現在効力を持つ最新バージョンの定款のことです。

もし会社設立後、一度も定款を変更していなければ、「原始定款」と「現行定款」は同じものになります。しかし、一度でも変更していれば、両者は異なるものになります。

なぜ「自社で再作成」が認められるの?

「公証役場のお墨付きがないのに、自分たちで作っていいの?」と疑問に思うかもしれませんが、ご安心ください。それは、設立後の定款変更のルールに理由があります。

会社設立時の原始定款は、その内容が法的に正しいものであることを証明してもらうため、公証人の「認証」が必須です(会社法第30条)。しかし、設立後に定款の内容を変更する際には、公証人の認証は必要ありません

会社のルール、つまり定款を変更する権限は、その会社のオーナーである株主にあります。会社法では、定款の変更は株主総会の決議によって行うと定められています(会社法第466条)。

つまり、「紛失してしまったので、現在の会社の実態に合わせて定款の内容を改めてこのように定めます」と株主総会で正式に決議すれば、それが法的に有効な「現行定款」として認められるのです。これが、自社で再作成(復元)できる大きな論拠となっています。

現行定款の再作成(復元)の論拠となる法令

実は、「定款を紛失した場合は、このように再作成しなさい」と直接的に書かれた法律の条文は存在しません。しかし、会社法のいくつかのルールを読み解き、組み合わせることで、「現行定款を再作成することは、法的に正当な行為である」と結論づけることができます。ここでは、その論拠となる主要な法令をご紹介します。

定款の備え置き義務(会社法 第31条)

会社法第31条では、株式会社はその本店と支店に定款を備え置かなければならない、と定められています。これを「定款の備置義務」といいます。もちろん、ここで言う「定款」とは、現在有効な「現行定款」のことです。つまり、定款を紛失してしまっている状態は、この備置義務を果たせていない法令違反の状態にある、ということです。そのため、会社としては速やかに定款を復元し、備え置く義務がある、というのが一つ目の論拠になります。

定款の変更手続き(会社法 第466条)

先ほども少し触れましたが、会社法第466条では、「株式会社は、株主総会の決議によって、定款を変更することができる」と定められています。この条文は、会社の根本規則である定款でさえも、会社の最高意思決定機関である株主総会の意思によって自由に変更できることを示しています。現在の会社の実態を正確に反映させるために定款の内容を改めて整理し、確定させる行為は、この「定款の変更」の一環と考えることができるのです。これが、再作成の正当性を支える中心的な論拠となります。

株主総会の特別決議(会社法 第309条第2項第11号)

定款の変更は、会社の根幹に関わる重要な決定です。そのため、通常の普通決議よりも可決のハードルが高い「特別決議」が必要とされています。特別決議の要件は以下の通りです。

要 件 内   容
定足数 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席すること。
賛成数 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成があること。

※定款でこれより厳しい基準を定めることも可能です。

このように、厳格な手続きである特別決議を経て再作成されるからこそ、その現行定款の正当性が法的に担保される、というわけです。

公的機関の保管と現行定款の関係

「でも、公証役場や法務局に定款があるはずでは?」と思いますよね。確かに保管はされていますが、それには期限があり、必ずしも最新の状態ではない、という点も知っておく必要があります。

公証役場の保管期間(公証人法施行規則 第27条)

公証役場が保管しているのは、あくまで会社設立時の「原始定款」です。そして、その保管期間は公証人法施行規則というルールで原則20年と定められています。設立から20年を過ぎてしまうと、定款の原本は廃棄されている可能性が非常に高くなります。そうなると、原始定款の謄本(写し)を取得できなくなり、自社で現行定款を復元せざるを得ない大きな理由の一つになります。

法務局の保管期間

会社設立の登記や、本店移転・目的変更などの変更登記を申請する際、法務局に定款を提出します。これらの書類は「附属書類」として法務局に保管されます。しかし、この附属書類の保存期間は商業登記規則で定められており、登記簿が閉鎖されてから5年や10年など、永久ではありません。また、定款変更の中には登記申請が不要なものもあるため、法務局に保管されている定款が最新版であるとは限らないのです。このことからも、自社で責任をもって現行定款を管理・復元する必要性がわかります。

実践!現行定款を再作成する具体的なステップ

それでは、実際に現行定款を再作成するための具体的な手順を4つのステップで見ていきましょう。

ステップ1:現状の把握と定款案の作成

まずは、現在の会社の正しい情報を集めることから始めます。手元に残っている古い定款や株主総会議事録、そして最新の「登記事項証明書(登記簿謄本)」を用意してください。登記事項証明書を見ながら、商号、本店所在地、事業目的、発行可能株式総数といった登記されている情報を正確に定款案に落とし込みます。役員の任期や株式の譲渡制限に関する規定など、登記されていない重要なルールも、過去の議事録などから確認して反映させましょう。どうしても不明な点は、現在の会社の実態に合うように、かつ会社法に違反しない内容で条文を作成します。

ステップ2:株主総会の開催と特別決議

定款案が完成したら、株主総会を招集します。招集通知には、「定款を現在の会社の実態に合わせ、全面的に改定(復元)する件」といった議案を記載します。そして、株主総会当日、この議案について会社法第309条第2項に定められた特別決議で承認を得ます。

ステップ3:議事録の作成と保管

無事に特別決議で可決されたら、その内容を記した株主総会議事録を正確に作成します。この議事録と、承認された新しい定款をセットにして大切に保管してください。この2つが、「これが我が社の正式な現行定款です」という何よりの証明になります。

ステップ4:登記事項に変更があれば変更登記を

ステップ1の現状把握の段階で、「登記されている事業目的と、実際に行っている事業が違う」「役員の任期が切れているのに登記手続きを忘れていた」といった、登記情報とのズレが見つかることがあります。その場合は、定款変更の効力が発生した日から2週間以内に、法務局で変更登記の申請を行う必要がありますので注意しましょう(会社法第915条第1項)。

論拠となる法令・省令・文書まとめ

最後に、これまでご説明してきた現行定款再作成の論拠となる法令などを一覧表にまとめました。この法的な裏付けを理解しておくことで、自信をもって手続きを進めることができます。

法令・省令の根拠一覧

根拠法令等 内容の概要 なぜ論拠になるか
会社法 第31条 定款の備置義務 備え置くべき「現行定款」を紛失した場合、復元して備え置く必要があるという義務の根拠になります。
会社法 第466条 定款の変更 会社は株主総会の決議で定款を自由に変更できます。現行定款の再作成(復元)も、この定款変更の一環と解釈できます。
会社法 第309条 株主総会の決議 定款変更には特別決議という厳格な手続きが必要です。この手続きを踏むことで、再作成された定款の正当性が担保されます。
公証人法施行規則 第27条 書類の保存 公証役場での原始定款の保存期間が20年と定められています。期間が過ぎると、自社で復元せざるを得ない状況が生まれます。

まとめ

自社で現行定款を再作成(復元)する、という行為には、「定款を紛失したらこうしなさい」と直接指示する単一の法令はありません。しかし、会社法に定められた「定款の備置義務」や「定款変更の手続き」といった複数のルールを正しく理解し、組み合わせることで、その行為の正当性がはっきりと導き出されます。

最も重要なポイントは、会社の最高意思決定機関である株主総会の特別決議という、正式な手続きをきちんと踏むことです。このプロセスを経ることで、現在の会社の実態に合わせて復元した定款が、法的に何ら問題のない有効な「現行定款」として成立します。

公証役場の保管期間が過ぎて原始定款が手に入らない場合や、度重なる変更で最新版がわからなくなってしまった場合でも、決して慌てる必要はありません。この記事で解説した法令を論拠として、適切な手続きで大切な会社のルールブックを復元しましょう。もし手続きに不安があれば、司法書士などの専門家へ相談することも有効な選択肢ですよ。

参考文献

現行定款の再作成に関するよくある質問まとめ

Q. なぜ「現行定款」を自社で作成する必要があるのですか?

A. 公証役場の定款の保存期間(20年)超過や度重なる変更で、設立時の定款が現状と合わなくなるためです。会社の現在の正しいルールを定めた「現行定款」を作成し、法的な義務を果たすとともに、円滑な会社運営に役立てる必要があります。

Q. 「現行定款」の作成や備置きに関する法的な根拠は何ですか?

A. 会社法第31条第1項が根拠となります。この条文は「株式会社は、本店及び支店に、その定款を備え置かなければならない」と定めています。この「定款」とは、設立時の原始定款ではなく、変更が反映された現在効力のある定款を指すため、現行定款を備え置く義務が生じます。

Q. 定款の備置義務に違反した場合、罰則はありますか?

A. はい、あります。会社法第976条第7号の規定により、定款の備置義務に違反した場合は、会社の代表者などが100万円以下の過料に処せられる可能性があります。

Q. 「現行定款を作成しなさい」という直接的な法令はないのですか?

A. 「現行定款」という言葉やその作成方法を直接定めた法令はありません。しかし、会社法が定める「定款の備置義務」を現実的に満たすための実務的な方法として、過去の変更履歴をすべて反映させた現行定款を作成することが一般的に行われています。

Q. 原始定款を紛失した場合、どうやって現行定款を作成すればよいですか?

A. 過去の株主総会議事録など、定款変更の決議を行った記録をすべて確認・収集します。それらの変更履歴を設立時の定款の内容に時系列で反映させていくことで、現在の効力ある定款を復元・作成することができます。

Q. 作成した「現行定款」に、再度公証役場の認証は必要ですか?

A. いいえ、不要です。公証人の認証が必要なのは、会社設立時に作成する「原始定款」だけです。設立後に株主総会決議で変更・作成された現行定款については、社内で適切に作成・保管すればよく、公証人の認証は必要ありません。

事務所概要
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対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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