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生命保険で相続税は節税できる?非課税枠の仕組みと計算方法を解説

2025-09-02
目次

「生命保険は相続税がかからない」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実は、生命保険の死亡保険金には特別な非課税枠があり、相続税の負担を軽くできる可能性があります。しかし、どんな場合でも非課税になるわけではありません。この記事では、生命保険と相続税の関係について、非課税になる条件や具体的な計算方法を分かりやすく解説します。

生命保険金にかかる税金は3種類!相続税になるケースとは?

生命保険で受け取る死亡保険金には、実は相続税だけでなく、所得税や贈与税がかかるケースもあります。どの税金がかかるかは、保険の「契約者(保険料を払う人)」「被保険者(保険の対象になる人)」「受取人(保険金を受け取る人)」の関係によって決まります。まずは、その違いをしっかり理解しておきましょう。

相続税がかかる場合

死亡保険金に相続税がかかるのは、「契約者」と「被保険者」が同じ人で、受取人が相続人である場合です。例えば、夫が自分で保険料を支払い、自分を被保険者として契約した生命保険の死亡保険金を、妻や子が受け取るケースがこれにあたります。この場合、死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象になります。

所得税がかかる場合

所得税(および住民税)がかかるのは、「契約者」と「受取人」が同じ人である場合です。例えば、夫が妻を被保険者として保険料を支払い、夫自身が死亡保険金を受け取るケースです。この場合、受け取った保険金は一時所得として扱われます。

贈与税がかかる場合

贈与税がかかるのは、「契約者」「被保険者」「受取人」がすべて異なる人である場合です。例えば、夫が保険料を支払い、被保険者が妻、受取人が子であるケースです。この場合、夫から子への贈与とみなされ、贈与税の対象となります。

契約者・被保険者・受取人の関係 かかる税金の種類
契約者(夫)・被保険者(夫)・受取人(妻) 相続税
契約者(夫)・被保険者(妻)・受取人(夫) 所得税・住民税
契約者(夫)・被保険者(妻)・受取人(子) 贈与税

生命保険の相続税には「非課税枠」がある

「生命保険は相続税がかからない」と言われる一番の理由が、この「死亡保険金の非課税枠」です。相続税の対象となる死亡保険金であっても、一定額までは税金がかからない特別な制度が設けられています。これは、残されたご家族の生活を守るという生命保険の役割に配慮されているためです。

非課税枠の計算方法

死亡保険金の非課税限度額は、次の計算式で求められます。
「500万円 × 法定相続人の数」
法定相続人とは、法律で定められた遺産を相続する権利のある人のことです。配偶者は常に法定相続人となり、子、親、兄弟姉妹の順で優先順位が決まっています。

法定相続人の数え方

法定相続人の数を数える際には、いくつか注意点があります。
まず、相続放棄をした人がいても、その人を含めて計算します。例えば、法定相続人が妻と子2人の合計3人で、子の1人が相続放棄をしても、法定相続人の数は3人として計算します。
また、養子がいる場合は、実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までを法定相続人の数に含めることができます。

非課税枠を使える人と使えない人

この非課税枠を使えるのは、死亡保険金を受け取った「相続人」に限られます。相続人以外の人が死亡保険金を受け取った場合(例えば孫など)、この非課税枠は適用されません。また、先ほど説明したように、相続放棄をした人は非課税枠の計算上は法定相続人の数に含まれますが、その人が保険金を受け取った場合は非課税枠の適用を受けることはできません。

相続税の「基礎控除」との違い

相続税には、生命保険の非課税枠とは別に、すべての相続財産に対して適用される「基礎控除」という制度があります。この2つの控除を混同しないようにしましょう。相続税は、すべての財産の合計額からまず生命保険の非課税枠などを差し引き、さらに基礎控除額を引いた金額に対してかかります。

相続税の基礎控除額の計算方法

相続税の基礎控除額は、次の計算式で求められます。
「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」
法定相続人の数え方は、生命保険の非課税枠の場合と同じです。

非課税枠と基礎控除で相続税がかからないケース

例えば、法定相続人が妻と子2人(合計3人)の場合を考えてみましょう。

  • 生命保険の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円
  • 相続税の基礎控除額:3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円

この場合、受け取った死亡保険金が1,500万円以下であれば、保険金に相続税はかかりません。さらに、死亡保険金から非課税枠を引いた後の金額と、その他の相続財産の合計が4,800万円以下であれば、相続税全体がかからないことになります。

【具体例】生命保険金にかかる相続税の計算シミュレーション

それでは、具体的なケースで相続税がどう計算されるのか見ていきましょう。
【前提条件】

  • 被相続人:夫
  • 相続人:妻、子2人(法定相続人は3人)
  • 相続財産:預貯金など8,000万円
  • 死亡保険金:3,000万円(受取人は妻)

STEP1:課税対象となる遺産の総額を計算

まず、死亡保険金から非課税枠を引きます。

  • 非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円
  • 課税対象となる死亡保険金:3,000万円 – 1,500万円 = 1,500万円

次に、他の相続財産と合算して、遺産の総額を計算します。

  • 遺産の総額:預貯金8,000万円 + 課税対象の死亡保険金1,500万円 = 9,500万円

STEP2:課税遺産総額を計算

遺産の総額から基礎控除額を引いて、実際に相続税がかかる金額(課税遺産総額)を計算します。

  • 基礎控除額:3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円
  • 課税遺産総額:9,500万円 – 4,800万円 = 4,700万円

この4,700万円に対して相続税が課税されることになります。

STEP3:相続税の総額を計算

課税遺産総額を法定相続分で分けたと仮定して、各人の税額を計算し、それを合計して相続税の総額を求めます。

  • 妻の法定相続分:4,700万円 × 1/2 = 2,350万円
  • 子1人あたりの法定相続分:4,700万円 × 1/4 = 1,175万円

それぞれの金額に税率をかけて税額を計算します。

法定相続分に応ずる取得金額 税率
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15%
5,000万円以下 20%
1億円以下 30%
  • 妻の税額:2,350万円 × 15% – 50万円 = 302.5万円
  • 子1人あたりの税額:1,175万円 × 15% – 50万円 = 126.25万円
  • 相続税の総額:302.5万円 + 126.25万円 + 126.25万円 = 555万円

この後、実際の遺産分割の割合に応じて各人が納める税額を計算しますが、配偶者には「配偶者の税額軽減」という制度があり、1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い金額までは相続税がかからないため、このケースでは妻の納税額は0円になります。

生命保険を相続税対策で活用するメリット

生命保険は、非課税枠以外にも相続対策として有効なメリットがたくさんあります。賢く活用することで、スムーズな資産承継に役立ちます。

すぐに使える現金を準備できる

亡くなった方の預金口座は、死亡が確認されると凍結されてしまい、遺産分割協議が終わるまでお金を引き出せなくなります。しかし、死亡保険金は受取人固有の財産とみなされるため、比較的早く現金を受け取ることができます。これにより、葬儀費用や当面の生活費、納税資金などをスムーズに準備できます。

遺産分割の対象にならない

死亡保険金は受取人が指定されているため、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。特定の人に確実に財産をのこしたい場合に非常に有効な手段です。例えば、「お世話になった長男に多めにのこしたい」といった想いを実現できます。

代償分割の資金として活用できる

遺産が不動産など分けにくいものばかりの場合、相続人の間で不公平が生まれてトラブルになることがあります。このような場合に、不動産を相続した人が他の相続人に対して現金を支払う「代償分割」という方法があります。生命保険金をこの代償金の支払いに充てることで、円満な遺産分割を助けることができます。

まとめ

「生命保険は相続税がかからない」というのは、正確には「相続人が受け取る死亡保険金には『500万円 × 法定相続人の数』という非課税枠がある」ということです。この非課税枠を上手に活用することで、相続税の負担を軽減できます。また、生命保険は納税資金の確保や円満な遺産分割にも役立つ、非常に有効な相続対策です。ただし、契約形態によっては相続税ではなく所得税や贈与税の対象になることもあるため注意が必要です。ご自身の状況に合わせて、生命保険が最適な相続対策になるか一度検討してみてはいかがでしょうか。

参考文献

国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

公益財団法人 生命保険文化センター 死亡保険金に相続税がかかる場合の具体例は?

生命保険と相続税のよくある質問まとめ

Q.生命保険金は、本当に相続税がかからないのですか?

A.全くかからないわけではありません。死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があり、この金額を超えた部分が相続税の課税対象になります。

Q.生命保険の非課税枠は、いくらまでですか?

A.「500万円 × 法定相続人の数」で計算されます。例えば法定相続人が3人(配偶者と子供2人)の場合、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税です。

Q.誰が死亡保険金を受け取っても非課税枠を使えますか?

A.いいえ、非課税枠の適用は「法定相続人」が保険金を受け取った場合に限られます。法定相続人ではない親族などが受け取った場合、非課税枠は使えません。

Q.相続放棄をしても、死亡保険金は受け取れますか?

A.はい、受け取れます。死亡保険金は受取人固有の財産のため、相続放棄をしても受け取ることが可能です。ただし、その場合は非課税枠が適用されない点に注意が必要です。

Q.契約者と被保険者、受取人の関係によって税金は変わりますか?

A.はい、変わります。例えば、保険料を支払う「契約者」と「被保険者」が異なると、相続税ではなく贈与税や所得税の対象になる場合があります。契約形態は非常に重要です。

Q.死亡保険金を受け取ったら、必ず相続税の申告が必要ですか?

A.いいえ、必ずではありません。非課税枠を差し引いた後の保険金と、その他の相続財産の合計額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えなければ、申告は不要です。

事務所概要
社名
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住所
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電話番号
対応責任者
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